好きな人は、3人

秋風いろは

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1.水中観覧席

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 ゆらゆらと、さざなみのように光が揺れる。

 目の前はどこまでも水色で、帯びれを揺らして泳ぐイルカが姿を見せては、余韻を残して刹那に去っていく。
 水面から時折生み出される泡沫が幻のように儚く消え、自分の存在が薄くなっていく。


 ここは水族館の水中観覧席だ。
 僅かな段差の階段に腰掛け、現実を忘れて水の中の幻想世界に浸るのが私、古城里見こじょうさとみの趣味だ。
 水上のイルカショーや、ペンギンなど他のゾーンへ行く時もあるけれど、最近はここでぼんやりとして、そのまま帰ることが多い。

 夏休みは特にそんな過ごし方が多かった。誰にも邪魔されたくなくて、友達とも好きな人とも来たことがない。


 誰かに、愛されたいな。


 ぼんやりと、水色の世界を見ながら、思う。

 誰も愛してはいないのに、愛してほしいなんて、ただのわがままなのかもしれない。
 でも、愛してくれない人を愛すのは、怖い。好きな人の中で、愛してくれた人を自分も愛したい。

 その程度の気持ちだ。

 そんな現実のあれこれを忘れたい時に、ここに来る。
 この淡い水色の世界に比べれば、全てが些末な問題だと思える。

 現実逃避が、私の趣味の目的だ。

 いくつかの自分を使い分けるエネルギーをここで蓄えて、現実に戻る。
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