好きな人は、3人

秋風いろは

文字の大きさ
11 / 26

11.岩石との出会い

しおりを挟む
 小岩井岩石との出会いは、漫研の新入生歓迎コンパだ。

 見た目が若い相撲取りのような風貌で威圧感があり、てっきり卒業したOBの先輩が遊びに来たのだと勘違いをした。

 仲を深めても意味がないと思い、人数が多かったので近づくこともなく、その時は一言も話さなかった。

 初めて会話をしたのは、二限の授業前に寄った部室で会った時だ。朝だからか、他に人はいなかった。

「新歓コンパで会いましたよね。会話はしていませんが」

 奥に座っている彼の隣に座り、話しかけた。初めて近くで顔を見ると、ガタイがいい割に、色素の薄い瞳の色をしていた。

 机の上の紙には、なぜか鉛筆で筋肉ばかりが描かれている。筋肉を描くのが趣味なのかもしれない。

「えーと。覚えてませんね。誰でしょう」
「古城里美です。一年生です」
「名前や顔覚えるの、苦手なんですよ。俺は、小岩井岩石です」
「岩石! 岩の石ですか? 強そうですね」
「よく言われますよ」
「岩が二つもあるじゃないですか。だからそんなに体も大きいんですね」
「関係ないかと」

 あまり愛想がいいタイプではないらしく、話していても壁を感じた。

「何年生ですか? 先輩ですよね」
「いえいえ、一年生ですよ」

 つい、顔をしかめた。

「早く言ってよ。ずっと敬語で話してたじゃん」
「そっちが敬語だったから」
「先輩だと思ったからに決まってるでしょ。一年生だって私が言った時点で、俺も俺もーって敬語取ってよ。タメ相手に頑張って丁寧語使っちゃったよ」
「無駄骨だったな」
「無駄骨にさせたんでしょ」
「いきなり丁寧語外せるほど、人付き合い慣れてないんで。お疲れさん」
「何それ。とりあえずタメなら、連絡先教えて」
「いきなり?」
「今後幽霊部員になる予定だから、情報源が必要なの。もうすぐ授業だし早くして」
「いきなり幽霊宣言ですか。早すぎでしょ、いくらなんでも」

 ごちゃごちゃ言いながら、しぶしぶといった様子の岩石と、連絡先を交換した。

「話、合わないもん。ちょっとジャンルが皆とズレてる気がする。ボーイズラブや萌え系よりも、異世界ものや感動系が好きなんだよね、私。新歓コンパの時点で、話が合わなさすぎて諦めた」
「見切り早すぎるな」
「とりあえず、呼び方は岩ちゃんでいい? それから、私の名前、覚えてる?」
「あー。えっと」
「里美ね、よろしく。じゃ、もう授業行くから」
「はいはい」

 はー、とため息混じりに送り出された。

 これが、小岩井岩石との出会いだった。

 一年生の時は、部室には昼休憩以外の時間によく行っていた。人数が少なく、話しやすかったからだ。授業前のわずかな時間だけというのも、気楽だった。

 岩石に対しては、なぜか今まで、一度も嘘をついたことがない。不思議と何を言っても許されるような、受け入れてもらえるような気安さがあった。

 見た目に反してスイーツが好きで、休日は二人でたまに食べに行く。

 平日夜に満琉と会うと、翌日は童心に戻って椿桔の家に行きたくなり、そんな自分に嫌気がさすと、嘘をつかずに自分を出せる岩石に会いたくなる。

 その繰り返しだ。

 私は昼休憩が終わって苦痛だった部室を後にすると、岩石にメッセージを送った。

『学祭は一日目の十五時からラストまでに、入れといた。昼は残念ながら、埋まってた。ところで今日、一緒に帰れる? 五限の終わりに図書館入ってすぐの椅子で待ってる』

 今日は三限から五限まで、ぎっちり授業が入っている。授業を受けながら、のんびり返事を待とう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】結婚式の隣の席

山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。 ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。 「幸せになってやろう」 過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

君までの距離

高遠 加奈
恋愛
普通のOLが出会った、特別な恋。 マンホールにはまったパンプスのヒールを外して、はかせてくれた彼は特別な人でした。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

処理中です...