好きな人は、3人

秋風いろは

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13.約束

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「今年は獅子座流星群が三十三年ぶりに大出現するということで、こちらの天文台では、観望会の準備が着々と進められています」

 文化祭用のイラストをパソコンで描きながら、自室の小型テレビを何とはなしにつけると、レポーターの元気のいい声が聞こえてきた。

 もう夜なので慌てて音量を下げ、パソコンでの作業に戻る。取り込んだ線画を補正して、ひたすら不要なゴミを消しゴムツールで消していく。

 人物を描くのは苦手なので、薄暗い道路に立つのは後ろ姿の女の子だ。

 目の前には、異世界への扉が開かれている。

 扉の中では淡い虹色のドラゴンが遠くの空を滑空し、花が咲き乱れる丘と散歩道を手前に描いた。

「当日の夜、11時からは職員の方から説明会があるそうです。そして、0時から5時頃まで天気がよければ、ここから、たくさんの流れ星が見られるんですね」

 最近のテレビは、この話ばかりだ。
 何でも三十三年に一度しかない大出現で、街中でも流星群が見られるらしい。

 聞いているうちに、イラストの背景の薄暗い道路を、流星群の降る闇夜の道路に変えることにした。

「流れ星の奇跡で異世界への扉が開く、我ながら素晴らしいアイデア」

 独り言を言いながら、背景を暗く塗り、いくつか新規レイヤーを作って、様々なサイズの星を描いていく。
 白の星を複製し、ぼかして重ねて発光させる。
 線も引いて、たくさんの流れ星を作り、背景にも他の色を乗せて、深みのある夜空にする。

 自分の描く満天の星を見ていると、だんだんと本物が見たくなってきた。

 小さな光がちょっと動くのを見るために夜中に出かけるのは億劫だと思うものの、次のチャンスにはもう五十歳を過ぎている。

 その時に天候が悪ければ、その次はもう寿命を全うしている可能性もある。

 いつもの夜空が別世界に感じる最後のチャンスかもしれないと思うと、突然いてもたってもいられなくなった。

 私はスマホを片手に、誰を誘うか考えた。
 流星群が見える日は休日で、満琉とは会えない。せっかく星を見るのなら恋人気分がいいと思い、岩石にメッセージを出した。

『流星群の日、うちの裏手の堤防で夜中1時くらいに会えない?』

 書いてすぐに返事がきた。

『行くのも帰るのも、面倒』

 往復で約2時間かけて夜中に会うほどの好意は、なかったようだ。意気消沈しながら、今度は椿桔にもう一度メッセージを送る。

『流星群の日、うちの裏手の堤防で夜中1時くらいに一緒に見れないかな。原付で往復40分くらいだと思うんだけど。0時でもいいけど、1時くらいから、多くなるらしくて。遅いし無理かな』

 椿桔を想像しながら書くと、丁寧になる。
 先輩だからなのか、体の関係がないからなのか、猫をかぶりたいと思っているからなのか、ちょっとしたことで嫌われるかもしれないと怖れているのか、自分でもよく分からない。

 こちらが誘う側だから、当然だろうか。それなら、どうして岩石には文を飾らないのだろうと考えていると、返信がきた。

『いいよ。住所送って』

 意外にも、来てくれるらしい。
 椿桔の自宅以外で会うのは、初めてだ。
 さっきまで落ち込んでいた気分が、一気に高揚する。

 住所と、自宅の場所にマークをつけた地図を急いで送った。

 岩石が後から来る気になるといけないので、そちらにも断りを入れておく。

『カフェサーの例の先輩と、見ることになった』

 そう打ち込んで、送る。
 岩石には満琉のことだけではなく、椿桔のことも包み隠さずに話している。名前を書かないのは、満琉同様、毎回誰だっけと聞かれるからだ。

『それはよかった』

 短い返事が届く。
 よかったんだ、と複雑な心境になった。

 ガラ、と自室の窓を開けて空を眺める。

 暗い夜の闇に、三つの星が見えた。
 まだないかと目を凝らすと、光の小さな星も二つ見つけた。

 星座には興味がない。完成するほどの星はこの町では見えないからだ。

 一部しか見えない星座は、覚えても寂しすぎる。
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