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4 優しい腕
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「小早川ー、安藤ちゃん達とカラオケ行かない?」
居酒屋の制服から私服に着替える更衣室でバイト仲間の清水が声をかけてきた。
朝方までのシフトメンバーと交代して、バイトが終了したのはいつもの通り夜10時すぎ。大学生の清水や安藤ちゃん、フリーターの結愛さん、そして専門学校生の俺の4人は歳が近くシフトの時間帯が同じなので仲が良かった。
バイト終わりにそのまま店で食事したりカラオケに行ったり、それぞれの恋愛話もひと通り知っているような仲間だ。
「わるい、俺今日帰んなきゃなんだわ」
「え、そうなん?もしかして新しい彼女?」
清水が鏡を覗き込んでしきりに髪の毛に指を通している。どうやらキャップを被っていた跡が髪に残っているのを気にしているようだ。
しかも着替えている途中のようで上半身はまだ裸だった。俺は彼の背中から視線をそらせると早々と自分の着替えを終わらせた。
「いや、彼女はしばらくいいや。さすがに殴られて心が折れた」
俺がうんざりだという口ぶりで言うと
「いやいや、そんな女滅多にいないだろ、、」
呆れたように笑う。
清水は大学に彼女がいるのに、彼女の不満をうまくかいくぐって安藤ちゃんや結愛さんと仲良くしている。
見習おうとは思わないが意外と人付き合いに器用だなと感心する。
同じく大学生の安藤ちゃんは最近彼氏と別れたらしく、妙に清水と仲が良い。
密かに2人の仲を怪しんでいる俺だが、恋人がいるのに密かに、、なんて面倒で想像しただけで胸焼けがしそうだ。
それよりも今は、、
帰りの自転車をこぎながら、小さな黒猫とそれをあやす英司さんの顔が思い浮かんだ。今日は俺がバイトの日だから、仕事を終えた英司さんがうちに寄って猫にご飯をあげてくれたはずだ。
猫の事を考えてか、年上の男との妙な生活を思い出してか頬が緩むのを感じながら俺は帰路を急いだ。
「ただいまー」
玄関を開けて最近癖のついた言葉を発したが、いつものように家主の帰りを待ち侘びた仔猫の鳴き声が聞こえない。
それに玄関にスニーカー。
スニーカーがあるということは英司さんが一度自分の家に帰ってからここへ来たということだ。にしてもこんな時間までいるのは珍しい。
「英司さん?、、あれ?おーい、、」
リビングに入って驚いた。
ベッドの横のラグマットでクッションを枕に英司さんが眠っていたのだ。横向きで眠るその腕の中で黒猫がスヤスヤと眠っていた。
いつものスーツ姿ではないラフな格好の彼は新鮮だった。
白いティーシャツの裾からちらりと脇腹がのぞいる。なんだか見てはいけないものを覗き見しているような妙な気分になりながら数秒その姿を見つめてしまった。
綺麗な人だと改めて思う。黒いストレートの前髪の隙間から普段あまり見えないおでこが見えていて、閉じた瞳の長いまつ毛や無防備な唇に目を奪われる。ふとすると冷たくも見えるスッキリとした一重の瞼に小さなほくろがあった。
もしかすると職場では厳しい人かも知れない。何度か仕事の電話をしている場面に居合わせたが愛想良く笑うタイプでは無さそうだった。
だけど今の無防備に眠る姿は、そっと守るように両腕で仔猫を抱くような体勢だ。素の優しさが現れている気がする。
「おーい、、英司さんただいまー」
年上の男性の寝姿に見入っていた事に俺は気が付かないまま、一瞬躊躇ってから彼の肩に僅かに手を触れた。
「ンニャー」
眠そうな目をして伸びをしながら黒猫が腕の中から這い出してくる。その動きに目を覚ました彼が
「ん!?え、もうそんな時間?」
驚いた顔をして起き上がるとキョロキョロしている。素のままの寝起きの彼が見れるのはレアかもしれないと思うと何だか可笑しかった。
「英司さん、いつから寝てたんですか?珍しいですね」
「あ、いやごめん。仕事の後一回帰って8時前に来て、、いつから寝てたんだろ、、?」
「ただいまです」
「おかえり。お疲れ様。」
彼は髪の毛に指を通して寝癖を気にしながら少し微笑んだ。その動作は殆ど清水と変わらないのに何故だかすごく微笑ましく見えた。
居酒屋の制服から私服に着替える更衣室でバイト仲間の清水が声をかけてきた。
朝方までのシフトメンバーと交代して、バイトが終了したのはいつもの通り夜10時すぎ。大学生の清水や安藤ちゃん、フリーターの結愛さん、そして専門学校生の俺の4人は歳が近くシフトの時間帯が同じなので仲が良かった。
バイト終わりにそのまま店で食事したりカラオケに行ったり、それぞれの恋愛話もひと通り知っているような仲間だ。
「わるい、俺今日帰んなきゃなんだわ」
「え、そうなん?もしかして新しい彼女?」
清水が鏡を覗き込んでしきりに髪の毛に指を通している。どうやらキャップを被っていた跡が髪に残っているのを気にしているようだ。
しかも着替えている途中のようで上半身はまだ裸だった。俺は彼の背中から視線をそらせると早々と自分の着替えを終わらせた。
「いや、彼女はしばらくいいや。さすがに殴られて心が折れた」
俺がうんざりだという口ぶりで言うと
「いやいや、そんな女滅多にいないだろ、、」
呆れたように笑う。
清水は大学に彼女がいるのに、彼女の不満をうまくかいくぐって安藤ちゃんや結愛さんと仲良くしている。
見習おうとは思わないが意外と人付き合いに器用だなと感心する。
同じく大学生の安藤ちゃんは最近彼氏と別れたらしく、妙に清水と仲が良い。
密かに2人の仲を怪しんでいる俺だが、恋人がいるのに密かに、、なんて面倒で想像しただけで胸焼けがしそうだ。
それよりも今は、、
帰りの自転車をこぎながら、小さな黒猫とそれをあやす英司さんの顔が思い浮かんだ。今日は俺がバイトの日だから、仕事を終えた英司さんがうちに寄って猫にご飯をあげてくれたはずだ。
猫の事を考えてか、年上の男との妙な生活を思い出してか頬が緩むのを感じながら俺は帰路を急いだ。
「ただいまー」
玄関を開けて最近癖のついた言葉を発したが、いつものように家主の帰りを待ち侘びた仔猫の鳴き声が聞こえない。
それに玄関にスニーカー。
スニーカーがあるということは英司さんが一度自分の家に帰ってからここへ来たということだ。にしてもこんな時間までいるのは珍しい。
「英司さん?、、あれ?おーい、、」
リビングに入って驚いた。
ベッドの横のラグマットでクッションを枕に英司さんが眠っていたのだ。横向きで眠るその腕の中で黒猫がスヤスヤと眠っていた。
いつものスーツ姿ではないラフな格好の彼は新鮮だった。
白いティーシャツの裾からちらりと脇腹がのぞいる。なんだか見てはいけないものを覗き見しているような妙な気分になりながら数秒その姿を見つめてしまった。
綺麗な人だと改めて思う。黒いストレートの前髪の隙間から普段あまり見えないおでこが見えていて、閉じた瞳の長いまつ毛や無防備な唇に目を奪われる。ふとすると冷たくも見えるスッキリとした一重の瞼に小さなほくろがあった。
もしかすると職場では厳しい人かも知れない。何度か仕事の電話をしている場面に居合わせたが愛想良く笑うタイプでは無さそうだった。
だけど今の無防備に眠る姿は、そっと守るように両腕で仔猫を抱くような体勢だ。素の優しさが現れている気がする。
「おーい、、英司さんただいまー」
年上の男性の寝姿に見入っていた事に俺は気が付かないまま、一瞬躊躇ってから彼の肩に僅かに手を触れた。
「ンニャー」
眠そうな目をして伸びをしながら黒猫が腕の中から這い出してくる。その動きに目を覚ました彼が
「ん!?え、もうそんな時間?」
驚いた顔をして起き上がるとキョロキョロしている。素のままの寝起きの彼が見れるのはレアかもしれないと思うと何だか可笑しかった。
「英司さん、いつから寝てたんですか?珍しいですね」
「あ、いやごめん。仕事の後一回帰って8時前に来て、、いつから寝てたんだろ、、?」
「ただいまです」
「おかえり。お疲れ様。」
彼は髪の毛に指を通して寝癖を気にしながら少し微笑んだ。その動作は殆ど清水と変わらないのに何故だかすごく微笑ましく見えた。
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