真夜中に会いに行っても良いですか?

ふじのはら

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5 土曜日の2人と1匹

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「えーくん、、キス、しよ」

誰かがやけに親しげに袖を引く。
俺は言われるがままによく顔の見えない相手と軽くキスをした。顔を引くと相手はまだだと言うようにまた袖を引いた。
もう一度唇を重ねてみる。だけどやっぱり相手の顔はよく見えない。まるで逆光になっているように、、

「えーくんのここ、もう硬くなってるよ?」
笑いを含んだからかうような声で、その手は俺の中心をなぞりながら言う。
「え??いや、ちょっと触んないで」
「何言ってんの早く脱いで」
「はぁっ!?いや、脱がせないでって」
口では抵抗してみたけれど、呆気なくするりするりと脱がされて、考える間も無く少し冷たい手で俺のものが握られた。
「っちょ、、ぅわ、、」
硬く勃っているのをゆるゆると大きな手でしごかれる。

大きな手、、?え?男の手?

そう気が付いた時、パッと相手の顔が見えた。
「え!?英司えいじさん!?何で!?」
「えーくん、俺のも触って」
「ちょ、ちょっと待って、待って」
英司さんは俺の言葉を無視して、俺の手を自分の股間に導く。もちろん下着の中だ。

あぁ、本当だガチガチに硬い。
そう思ったら顔が熱くなった。何でこんな事を?という疑問が浮かんでは何故かスッと消えていく。
そうして雰囲気に流されるまま、同じように彼のを握ってそっと先を指の腹で撫でた。

「っ」

眉間を寄せた英司さんの姿に、一瞬理性を失いそうになる。
「英司さん、ちょっと、ヤバいですって」
「ん、何が、、」
「も、やめっ、、俺これ以上は、」
これ以上は途中で止まれなくなりそうで少し怖かった。けれど英司さんはそのことばが聞こえていないのかと思うほど完全に無視をして俺の耳に口元を寄せた。

「ねぇ、、挿れていい?」
「は、えっ!!??」
「お願い」

高揚した目で英司さんは俺の腕を掴んでそのまま押し倒す。

ーその瞬間

ゴンッ!

「ってぇ!」俺は叫んで後頭部を抱えた。痛みで急激に視界が開けた。いつもの見慣れた景色が目の前にあってカーテンの隙間からは朝陽がさしていた。

ーいや、わかってた。当たり前に夢だってわかってたよ。
俺と英司さんがエロいことをしているのも意味わかんないし、第一現実の英司さんは俺のことを「えーくん」なんて呼ばない。
しかもなんかキャラ違うし、、

「あー、びっくりした、、」
ムクリと起き上がって後頭部をさする。
何故かベッドの足側に頭を向けて寝ていたようで、たぶんベッドフレームに頭をぶつけたのだ。

ーにしてもヤバい夢だった、、あんな英司さん見たの初めてだし、、いやいや、見てないんだけども。

黒猫を保護してから学校やバイトが終われば早々に家に帰ってくる毎日で当然女の子と遊ぶ時間なんて無く。
そして家には度々英司さんが出入りしているので迂闊にAVだって見れない。
そんな生活を送っていたから、いくら性欲が少ない自分でも欲求不満になっているのかも知れない。


その日は土曜日で学校もバイトも休みだった。

朝起きたら今日の在宅時間を英司さんに連絡するのが最近の日課だ。
平日ならほぼ毎日英司さんが仕事終わりに寄ってくれるし、俺が夕方帰ってきていたら一緒に夕飯を食べる事だってあった。
俺がバイトの日は尚更、猫のトイレやご飯の世話だけではなく、遊んだりただ一緒に過ごしたりしていた。
本当はもっとずっと猫と過ごしたいんだろう。

「おじゃまします」
「どうぞー。」

手に買い物袋を下げてカジュアルな格好の英司さんがリビングに入ってくる。
黒縁の眼鏡をかけて、緑のシャツに黒いカーディガンを羽織って焦茶色のパンツを合わせている。背が高くてすらっと細身で、黒髪のかかる顔や首元は色白だ。

休日になるとスウェットにTシャツが定番の自分が恥ずかしくなるほど、完成?した姿の英司さんに毎回見惚れてしまう。

「猫の名前、やっぱりつけた方が良いですよね?」
まっすぐに黒猫の前に行き頭を撫でてやっている彼は俺の言葉に「うーん、、」と気の乗らない返事をして、
「そうなんだけどね、名前つけても里親さんの所で新しい名前で呼ばれる事を考えるとね、、」
とため息混じりに言う。

のり気じゃないのは情がうつると思っているからだろう。
今はまだ人に譲るには小さすぎるし、放置されていたせいか体調も万全ではない。動物病院で目薬やら飲み薬を貰ってきていて、今はご飯をたくさん食べて、清潔な環境で少し成長するのを見守る必要がある。
けどその後は里親を探さなければならない。
英司さんもそれはわかっていて、心の中でブレーキをかけているのがわかる。、、それでも毎日世話に来ているし、はたから見ても可愛くて仕方がないという感じだから未来を考えると少し胸が痛む。

「病院で、先生に“ネコちゃん”て呼ばれてるし、、それも可哀想だよね。あきらくんなんか名前つけてあげてよ」
「え、俺ですか!?えー、、、と」
俺はうーんと目を泳がせて、ふと仔猫の病院の薬袋が目に留まった。名前には

と書いてある。
青野は英司さんの苗字だ。

「青野、、アオはどうです?」
「アオ、、良いよ。決まりね。」
少し嬉しそうに早速仔猫に「お前の名前はアオだよ」と話しかけている。
仔猫を胸に抱いて優しく微笑む彼を、俺はコーヒーを淹れながら眺めた。指の細い綺麗な手に撫でられて、仔猫も、、アオも幸せそうにミャオと鳴いた。

なんて綺麗な1人と1匹だろう、、

同じ男と思えない彼を知らず知らずのうちに見つめていたようで、ふと英司さんがこちらを見た。

「なに?すごい見てる」
「え!?あ、ごめんなさい。そんな見てました!?あはは、あの変な夢のせい、、ー」
「夢?」
首を傾げて、アオに頬を寄せたまま不思議そうな顔をしている。
「いや!なんでも!こっちの話です!」
「?」

自分の頬や耳が熱い。あんな夢の話をしたら英司さんどんな顔するだろうか、怒る?呆れる?照れる?、、ちょっと見てはみたいけど、ここに来てくれなくなるのは困るので俺は固く口を閉ざしたのだった。
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