真夜中に会いに行っても良いですか?

ふじのはら

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6 2人の悩み

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「何食べる?簡単なものね」
「えーっと、、鍋!、、は肝心な鍋がうちにないか、、」
「あー、俺の家にあるから出来るよ。持ってくる。」
「ホントですか!?やった!」
「じゃあ俺一回帰るね。夕方鍋持ってくるから、その間アオのこと頼む。」
「了解です!」

土曜日の夕飯に、英司えいじさんがご飯を作ってくれる事になった。
俺は一人暮らし歴が短いし、面倒くさいのでほぼ自炊はしない。
一応の調味料は持ってるものの、冷蔵庫に入っている食材はソーセージやうどんの麺や、あとは飲み物ばかりで英司さんを呆れさせている。
一方の英司さんは週の半分以上は自炊だというし、明らかに俺よりも毎日の生活が整っている。
これが学生と社会人の差なんだろうか。


「あれ?でもあきらくん、彼女と家で食べたりしたんじゃないの?あの殴ってた彼女」
「それ言わないで下さいよ!」
「あはは、ごめんごめん」
「まぁ、、家にはあんまり呼んでないんですよね。もっぱら外で会ってたんで。」
「ふぅん。あんまり人が入るの好きじゃない?としたら、俺だいぶ迷惑だよね」
「ああ、そういうのじゃ無いんで。全然大丈夫です。むしろ英司さんはこうやって俺に美味しいもの食べさせてくれるんでありがたいです」

それは本音だ。
最初はネコの世話によく知らない年上の男が家に出入りすることに緊張していたものの、すぐに打ち解けたし、英司さんはなんだかんだ面倒見が良い。
今も並んで立つ狭いキッチンで、一緒に買ってきた野菜を慣れた手つきで切っている。

「家で2人になると、なんかそう言う事しないと変に思われそうでプレッシャー感じちゃって。泊まるとなるともう逃げ場ないじゃないですか、、」
「あぁなるほどね。そんなに避けたいくらい嫌なんだ?」
「、、嫌というか。まぁ、出来るんですよ。その、、ちゃんと勃つし、、けど、どっか頑張ってる感って言うか、俯瞰ふかんして見てる自分がいて、意識しちゃうと冷めると言うか、、。」

友だちの話を聞いてても、やりたいとか気持ちいいとか、そんな事に夢中になっていたり、恋人同士だったらそれは愛を確かめ合う行為だったり、、。

でも俺は全然ピンと来てなくて、、

「彼女に悟られないように無理するのもしんどいんです。だからあまり二人きりにはならないようにしてました。、、あー、俺やっぱり変なのかな。」

笑う俺の顔を英司さんはチラリと見ただけで、彼は否定も肯定もしなかった。

「英司さんはどうですか?女の子、、彼女とか家によく呼びますか?」
「んー、、。」
どちらともつかない返事が返ってきて、そのまま英司さんは黙った。

ー?この話したくないだろうか?

曖昧な返答をされたのは気にはなったけれど、俺はもう少し話をしたかった。

「初めて会った時、同類かもって、、恋愛感情持てないって言ってましたよね?あれってどういう、、?」
「、、あきらくんて、彼女の事はちゃんと好きだった?」
「え?うーん、、好きなつもりでしたけど、、どうだろう、、誰かと一緒に居たかっただけかもって思うこともあるんですよね。独りで居るの苦手だし。ってそんな理由で付きあってたら失礼な話ですけど。あ、今思えばって事ですよ。」

「うん。、、俺の場合はさ、、最低な発言になるから人に言うのもけっこう躊躇うんだけど、、わりと気軽に寝てた時期があって、、」
「寝、、?」
「セックス、、」
思わず横に立つ彼の顔を見る。
その横顔はただ淡々と野菜を切っているだけで感情は読み取れなかった。
ただテレビの向こうから抜け出したようなその見た目を考えると女性を抱く事に不自由はまずしないだろうと思った。

あきらくんと真逆と言えば真逆なんだけど、、何の意味もなく、なんの感情もなく抱けるんだ。俺は別にそういうふうに女遊びをして楽しんだとかではなくて。ただの行為だと思ってた。それが普通だって。」
彼は言葉を切って説明する言葉を探しているようだった。
男の中には感情なんか無くたって、好みの女の子とやれればオッケーなんてヤツいっぱいいるだろう。
そういう男だと自分が誤解されかねないことをわかった上で、どうにか上手く説明しようとしているみたいだ。

「おかしいなってふと思ったんだ。その関係の中に相手が愛おしいとか、幸せだとか、もちろん恋愛感情も全く感じなくて、、誰かと恋人になっても、その人とのセックスにさえ特別な感情を持てなかった、、。自分がそういう最低な男だって気がついて、もう見放してしまったんだ」

彼は少し棘のある言い方をして小さく笑った。

「そんなことも、あるんですね。」
「ね。」
「じゃあ今彼女はいないんですか?彼女じゃなくてもそういう相手、、」
「いないいない。もう二年近くそういう相手は作ってない」
「そうなんですね。」
「だから、恋愛感情とかそれに付随した体の欲求とか、何か欠落してるって意味では俺とあきらくんは同類かなって思ってる。」

彼は切った野菜やキノコを、出汁の入った鍋に入れながら、俺を見て少し微笑んだ。

「実は俺今のこの生活でけっこう満たされてるんだよね。アオの世話してあきらくんと喋ったりご飯食べて」
「わ、偶然。俺もこの生活になってから、彼女別に作らなくて良いやって思っちゃってます。英司さんとアオといる方が楽しいし悩まなくて良いし。」

「だよね。友だちとはちょっと違うかも知れないけど、一緒に居て無理なく過ごせるからこれで良くない?」
俺と英司さんは、お互いに同じ思いでいる事に少し照れて笑い合った。
そしてこれからは同類として気兼ねなく一緒に過ごせるという気もして俺はどこか嬉しく感じていた。


こうして俺たちはアオの世話に明け暮れながらどんどん一緒にいることが多くなっていった。

、、でも、いつまでも続かない事も分かってはいた。
仔猫のアオがいるから2人で面倒見ているだけで、あと数ヶ月もして里親に引き渡してしまえば、俺と英司さんが一緒に居る意味も必要もなくなってしまう。

そんな事が常に脳裏にちらついていたけれど俺はその事を口に出しはしなかった。
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