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部屋の窓は開いているのに入ってくるのは蝉の鳴き声だけで、扇風機から送られてくる風も温風と言っていいくらいだ。外を見ればジリジリとした陽が照っていて夏休みのはずの小学生の声すら聞こえてこない。
なるべく温度の事を考えないように漫画を読み耽っていたところを、現実に引き戻したのは携帯の通知だった。
「暑い」
たったそれだけの椎木くんのLINE
「こんな時間に珍しいね」
「そうだっけ」
自分から連絡くれた割には無愛想な文面にクスッと笑える。
「楠木今家?誰かといる?」
「家で1人で漫画読んでた。椎木くんは?」
「家にトモの友だちが集まってて避難したくて出たとこ。楠木んち行きたいっつったら無理?」
「今1人だから大丈夫だけどいつ晴人帰ってくるかわかんないよ?」
晴人は2歳下の弟で椎木くんとも面識がある上、椎木くんが一番仲が良い瀬戸くんとも面識があったから、僕らは椎木くんの家で過ごした事は何回かあっても、僕のうちで遊んだことがない。
掃除機をかけてシャワーで汗を流すのに何分かかるか考えながら「とりあえず行かして」という返信にオッケーを出す。
「あー楠木の家来て良かった。」
連絡から30分程して隣駅から電車で来た椎木くんは涼しい顔をしてソファに座っていた。
「涼しいのここだけね。僕の部屋灼熱だからね。」
家に誰も居ないので椎木くんが持って来てくれたジュースを飲みながらリビングのエアコンをつけてくつろいでいる。
「トモくん元気だね。友だちと遊んでるんだ?」
「あー、家あっついし、あいつら煩いしガチギレしそうになったわ。」
そりゃね、小学生何人も集まってたらうるさいだろうね。イラついてる椎木くんが簡単に想像出来て笑っていたらゴロンと椎木くんが僕の膝を枕に寝っ転がる。
「わ!なに!?椎木くんがデレた!」
いつもは目にかかっている前髪が横に流れていて「デレてねえ。」と睨む彼のことを可愛いなと思う。
自分が見下ろすような体勢の時はいつも思う。背は椎木くんの方が高いけど並んだ時に見上げるという程違うわけじゃない。それなのにどうしてか、彼を見下ろした時は妙に可愛く見えて無性に触れたくなるんだ。
男の本能的なものだろうか?
「そんなとこに居たらキスしちゃうよ?」
「、、、」
なんで無言なんだよ。え、ひいてんのこれ?すごい無表情なんだけど。
膝枕しておいてそれはひどいだろ。
あまりの無反応さにムゥと不貞腐れていく僕の顔を見上げたまま「やっべ天国過ぎて時止まった」と言いながら目を瞑る彼。
目を瞑って「どうぞ」とか言うから、相変わらず余裕のあるその態度に少し悔しい気持ちになる。
「あんね、実際しようとしたらわかるけどこの体勢って出来んくない?」
少しだけ癪なのと恥ずかしいのとで不満をのべる僕の言葉に、彼は目を開けて一瞬考えると少しだけ頭を上げて僕をぐっと引き寄せる。
唇が重なってすぐに離れる。
何故なら玄関のドアが開いた音がしてパッと2人は座り直したからだ。
「あ、やば晴人だわ。」
「あー、マジか。」
晴人には出来れば遭遇したくはなかったけど、まぁ仕方がない。意外と親しかったんだなと思ってもらうしかない。
女の子を連れ込むよりもハードルは低いと思われた。
顔を見合わせて小さく頷き合った僕らだったけど、「おじゃましーす。」という女の子の声でもう一度顔を見合わせた。
え、朱莉ちゃんもいるし!これはちょっとマズいような気もする。
晴人の彼女の朱莉ちゃんは、椎木くんの友達の瀬戸くんの妹である。椎木くんとはかなり面識がある。
「わ、ビックリした。え、椎木さん?なんで?」
「あれ!?椎木さんだー!昨日ぶりです!」
リビングに入って来た途端、2人の想像通りの反応である。
「エアコン求めてお邪魔してるとこー。朱莉は昨日ぶりー」
当たり前と言わんばかりに対応して、昨日瀬戸くんの家で朱莉ちゃんに会ったことを僕に説明してくれる。
「兄ちゃんと椎木さんて仲よかったんだ!?」
「え!?そ、そうだね!仲は良いよ!」
うわぁ、嘘くさいのが自分でもわかる。何となく晴人に不審な目を向けられて、助けを求めるように椎木くんを見る僕を椎木くんがジロリと睨む。
かくして僕たちは2人をジュースとリビングのエアコンで買収して口止めすることになった。
別に付き合ってる事がバレたわけでも無いし、バラすつもりもないけれど、椎木くんは瀬戸くんの家で朱莉ちゃんに会うのは日常茶飯事なので、瀬戸くんや他の友だちに今日ここで会った事を言わないで欲しいと頼み込んだ。
2人はキョトンとしていたけど、まぁあの瀬戸くんの性格だから面倒なことがきっとあるんだなって事で無理やり納得したようだ。
その夏は例年より少しだけ涼しいらしかった。
お盆の頃は特に涼しくなっていてニュースで見る気温の高い地域なんてどこか遠い外国の話を聞いているようだった。
学祭で約束した通り、瀬戸くんの家に集まっていたその日も少し暑さのやわらいでいる日だった。
「でね、椎木くん誘ってみたら来てくれて、ちょっとした同窓会みたいになったの」
「えーマイちゃん椎木っちと元カノ再会させたの?裏切り者~」
春川さんがマイちゃんの腕を掴んでぶんぶん振り回しながら抗議するのを、「んで?元カノと何が?」と続きを聞きたい瀬戸くんに阻止される。
「普通に7人で遊んでたんだけどね、夜になってカラオケ出てふと気がついたら2人消えてたの!!」
キャーと春川さんが悲しみの悲鳴をあげて瀬戸くんに抱きつく。ヨシヨシと形だけ春川さんを慰めながら瀬戸くんが更に話を促したところでー
「マイ、ベラベラ人の事話しすぎ」
うちわを片手に弄びながら1人漫画を読んでいた椎木くんが隣のマイちゃんの頭をうちわでペシと叩く。
「おい、椎木良いところなんだから邪魔すんな。お前はソレ読んでろ」
「はぁ?良いところって、その話ラストまで知ってんの俺しかいねーべ。」
「うーわ、ガチだわ。よし聞かせろ」
瀬戸くんが話の続きを聞き出そうとターゲットを変えて椎木くんに絡み出すけど、「うるせーわ、こっちが良いところなんだよ」と漫画に戻ろうとする。
そんな彼らのわちゃわちゃを聴きながらゲームをしている僕と晴人と朱莉ちゃんだったが、瀬戸くんよりも話の続きが気になっている僕はゲームどころではない。
ー中学時代の椎木くん、、元カノ、、2人きり、、?
誰と何処で遊んだかなんていちいち報告し合わないし、僕が青山と佐川の家に行ったのだって椎木くんは知らない。
ただの友だちだったら一々聞かない。恋人だったら?どこまで踏み込んで良い?少なくとも僕が誰と何処で遊んだかを聞かれたとしても全くイヤじゃないけれどそれは僕の場合であって、椎木くんはどうかわからない。
気にならないワケじゃない。ーいや、元カノと2人で消えたなんて聞けば正直気になるどころかモヤモヤする。イライラする。
「瀬戸っちはところでどーなの?彼女出来たってずっと前言ってなかった?」
「ミナミさん、それ聞いちゃうー?」
「いや、相変わらずコイツいろんな女の子と遊んでんだろ」
「えー、妹いるとこでそれ辞めてー。」
「瀬戸っちこないだケンカしたーって荒れてたよね?」
「マイ俺の事まで暴露すんな!裏切り者」瀬戸くんがマイちゃんを羽交締めにして口を塞ぐ
「うそ!?瀬戸っちのくせにまだ続いてたの?」
「おまえ彼女大切にしない男とか俺に言ってなかったっけ」
「いやーそっすね。反省中。振られました、はい。」
「おぉ!マジか!瀬戸が振られるとかうける」
「やめて、俺こう見えてメンブレの沼から抜け出せてないから」
「確かに最近瀬戸っち元気なかったかも」
この人たちホント仲良いな。。学校でも別の場所でも。僕のついていけない話題、僕の知らない椎木くん、、僕何でここに居るんだっけ、、
晴人と朱莉ちゃんは恋人同士で、ここにいる全員が知っていて、隣に座るのが当たり前。
でも僕は、椎木くんとの事は秘密で、そもそもそんなに仲良い友だちという認識も皆の中にはなくて、、
僕よりこの人たちの方が椎木くんのことを知っている、、
ねぇ、元カノに会ってどうしたの?
2人でどうしていなくなったの?
やっぱり女の子が良いって思った?僕は女の子にはどうしたってかなわない。
あぁ帰りたい。何も気にせずゲームを楽しんでいるフリをするのが辛い。。
「ごめん瀬戸くん、お手洗いかしてくれる?」
「おん、飲み物とりに俺も下行くわ」
小さくため息を付きながら2階へ戻ろうとしたとき、開きっぱなしのリビングの扉からキッチンにいる瀬戸くんが見えた。
「ー?」
いつも賑やかにふざけて笑っている瀬戸くんが、まるで僕と同じように辛そうな悲しそうな顔をして1人立っていて「瀬戸くん?」と声をかけるとパッと顔をあげた。
「あ、クッキー、これ持って行くの手伝ってくんない?」
ニコッと笑ってペットボトルを指差す。
「うん、もちろん。ーあの、大丈夫?」
「んー?」
「さっき、しんどそうな顔してたから、、」
瀬戸くんから渡されるペットボトルを何本か受け取りながら彼の様子を伺う。
「はは、俺そんな顔してた?」
「してた。泣きそうな顔。ー彼女の事で瀬戸くんでもそんな悩んだりするんだね。」
「、、、彼女、、ね。まぁ、いろいろあっちの方がしんどかったと思うし、、」
瀬戸くんが5本目のペットボトルを僕に渡しながら、初めて聞く寂しげな声で呟いて、ふと僕の肩を掴んで引き寄せる。
「うわ!落ち、、え、、」
「ちょっと身代わり」
え?え?どういう状態!?
僕の肩に、瀬戸くんが俯くようにおでこをのせる。抱えたペットボトルのせいで密着こそしていないけど片手は抱きしめるように背中へ回されている。
「ちょっと、瀬戸くん!?離して」
「彼女、じゃなくて、、男なんだよね。内緒ね」
ー!?男、、!?
え、まって、瀬戸くん何でそんな事僕にカミングアウトするの!?もしかして僕も同性を好きだって事知ってる!?
耳元で呟いた彼の告白に驚いて固まっている間、瀬戸くんは僕の肩に顔を埋めてじっとしていたけど、少ししてパッと解放された。
「はは、ごめん。やっぱ身代わりにはならんや。」
少し照れたように笑って、自分もペットボトルを何本か抱えた。「上に戻るべ」ともう何事も無かったようにいつもの顔で言う。
ーいったいどっちの瀬戸くんが素顔なんだろう。さっきの行動にはさすがに驚いたけど、僕を身代わりにしてみたくなるほどきっとしんどい思いを抱えているんだ。
いつもの瀬戸くんの明るい顔をみてぼんやりしている僕を置いて彼はリビングから出ようとしていて僕は慌てて彼の後に続いた。
「わ!痛って!」
突然止まった瀬戸くんの背中にぶつかった拍子にペットボトルが一本腕からスルリと落ちてしまって、僕はそれを拾う為に屈んだ
「あー、もしかして今の、」
瀬戸くんが言い掛けた時
「わり、用事出来た。俺帰るわ」
感情の籠らない椎木くんの声がしてハッと顔をあげる。
無表情で僕の方も見ない椎木くんが、瀬戸くんが呼び止めるのも全く聞かずに靴を履くと出て行ってしまった。
「なに、あいつ。さっきの聞いてたんかな?」
瀬戸くんが呆気にとられて玄関を見つめたまま呟く横で、心臓がバクバクと音を立てている僕は勘違いであってほしいと願う。
ー聞いていたんじゃなくて、見ていたんじゃないのか、、、
椎木悠也は無表情のまま駅に向かって歩いていた。
財布を瀬戸の部屋に置いてきてしまったが携帯があればどうにかなる。戻る気は無い。
感情を殺してただ歩く。そういう作業は苦手じゃない。
苦手じゃないのに、すぐにさっきの情景が脳裏を掠める。
「くっそ」
駅の裏のベンチまでどうにか歩いて来て、八つ当たりするようにどかっと腰掛ける。
あいつなんなんだ!?
何で瀬戸に抱きすくめられてじっとしてた!?
バカかよ受け入れてんじゃねーよ。
普通拒否るだろ?
あの時の瀬戸はいつもの悪ふざけには見えなかった。悪ふざけならまだしも、あれはどう考えてもおかしいだろ!?
俯いたまま収めようのない怒りで拳に力が入る。
楠木蓮が自分に好意を持っている事は分かっている。あいつは嘘が付けないから、俺のどうでもいい言葉に怒ったり喜んだりするから。感情を出すのが得意じゃない俺にとって、あいつの笑ったり困ったりする素直な顔は何とも可愛かった。安心だった。
相変わらず俺は楠木に執着している。恋人だという確証が欲しくて手を出そうとして、あいつの顔を見てまだ無理だと知った。
あんな風に瀬戸を受け入れる楠木にとって、俺と瀬戸の違いなんてどのくらいある?
あいつにキスされたって拒まないんじゃねえの、、、?
強く握った拳を開く。手のひらに自分の爪の跡がくっきりついているのを見て、ふっと笑えた。
携帯が鳴っていたが出る気にはならなかった。瀬戸からだとしても楠木からだとしても、今関わるのは無理だ。
「くそめんどくせ」
人と深く関わるのは面倒くさい。
自分の感情が面倒くさい。
いっそ手放してしまいたい。
なるべく温度の事を考えないように漫画を読み耽っていたところを、現実に引き戻したのは携帯の通知だった。
「暑い」
たったそれだけの椎木くんのLINE
「こんな時間に珍しいね」
「そうだっけ」
自分から連絡くれた割には無愛想な文面にクスッと笑える。
「楠木今家?誰かといる?」
「家で1人で漫画読んでた。椎木くんは?」
「家にトモの友だちが集まってて避難したくて出たとこ。楠木んち行きたいっつったら無理?」
「今1人だから大丈夫だけどいつ晴人帰ってくるかわかんないよ?」
晴人は2歳下の弟で椎木くんとも面識がある上、椎木くんが一番仲が良い瀬戸くんとも面識があったから、僕らは椎木くんの家で過ごした事は何回かあっても、僕のうちで遊んだことがない。
掃除機をかけてシャワーで汗を流すのに何分かかるか考えながら「とりあえず行かして」という返信にオッケーを出す。
「あー楠木の家来て良かった。」
連絡から30分程して隣駅から電車で来た椎木くんは涼しい顔をしてソファに座っていた。
「涼しいのここだけね。僕の部屋灼熱だからね。」
家に誰も居ないので椎木くんが持って来てくれたジュースを飲みながらリビングのエアコンをつけてくつろいでいる。
「トモくん元気だね。友だちと遊んでるんだ?」
「あー、家あっついし、あいつら煩いしガチギレしそうになったわ。」
そりゃね、小学生何人も集まってたらうるさいだろうね。イラついてる椎木くんが簡単に想像出来て笑っていたらゴロンと椎木くんが僕の膝を枕に寝っ転がる。
「わ!なに!?椎木くんがデレた!」
いつもは目にかかっている前髪が横に流れていて「デレてねえ。」と睨む彼のことを可愛いなと思う。
自分が見下ろすような体勢の時はいつも思う。背は椎木くんの方が高いけど並んだ時に見上げるという程違うわけじゃない。それなのにどうしてか、彼を見下ろした時は妙に可愛く見えて無性に触れたくなるんだ。
男の本能的なものだろうか?
「そんなとこに居たらキスしちゃうよ?」
「、、、」
なんで無言なんだよ。え、ひいてんのこれ?すごい無表情なんだけど。
膝枕しておいてそれはひどいだろ。
あまりの無反応さにムゥと不貞腐れていく僕の顔を見上げたまま「やっべ天国過ぎて時止まった」と言いながら目を瞑る彼。
目を瞑って「どうぞ」とか言うから、相変わらず余裕のあるその態度に少し悔しい気持ちになる。
「あんね、実際しようとしたらわかるけどこの体勢って出来んくない?」
少しだけ癪なのと恥ずかしいのとで不満をのべる僕の言葉に、彼は目を開けて一瞬考えると少しだけ頭を上げて僕をぐっと引き寄せる。
唇が重なってすぐに離れる。
何故なら玄関のドアが開いた音がしてパッと2人は座り直したからだ。
「あ、やば晴人だわ。」
「あー、マジか。」
晴人には出来れば遭遇したくはなかったけど、まぁ仕方がない。意外と親しかったんだなと思ってもらうしかない。
女の子を連れ込むよりもハードルは低いと思われた。
顔を見合わせて小さく頷き合った僕らだったけど、「おじゃましーす。」という女の子の声でもう一度顔を見合わせた。
え、朱莉ちゃんもいるし!これはちょっとマズいような気もする。
晴人の彼女の朱莉ちゃんは、椎木くんの友達の瀬戸くんの妹である。椎木くんとはかなり面識がある。
「わ、ビックリした。え、椎木さん?なんで?」
「あれ!?椎木さんだー!昨日ぶりです!」
リビングに入って来た途端、2人の想像通りの反応である。
「エアコン求めてお邪魔してるとこー。朱莉は昨日ぶりー」
当たり前と言わんばかりに対応して、昨日瀬戸くんの家で朱莉ちゃんに会ったことを僕に説明してくれる。
「兄ちゃんと椎木さんて仲よかったんだ!?」
「え!?そ、そうだね!仲は良いよ!」
うわぁ、嘘くさいのが自分でもわかる。何となく晴人に不審な目を向けられて、助けを求めるように椎木くんを見る僕を椎木くんがジロリと睨む。
かくして僕たちは2人をジュースとリビングのエアコンで買収して口止めすることになった。
別に付き合ってる事がバレたわけでも無いし、バラすつもりもないけれど、椎木くんは瀬戸くんの家で朱莉ちゃんに会うのは日常茶飯事なので、瀬戸くんや他の友だちに今日ここで会った事を言わないで欲しいと頼み込んだ。
2人はキョトンとしていたけど、まぁあの瀬戸くんの性格だから面倒なことがきっとあるんだなって事で無理やり納得したようだ。
その夏は例年より少しだけ涼しいらしかった。
お盆の頃は特に涼しくなっていてニュースで見る気温の高い地域なんてどこか遠い外国の話を聞いているようだった。
学祭で約束した通り、瀬戸くんの家に集まっていたその日も少し暑さのやわらいでいる日だった。
「でね、椎木くん誘ってみたら来てくれて、ちょっとした同窓会みたいになったの」
「えーマイちゃん椎木っちと元カノ再会させたの?裏切り者~」
春川さんがマイちゃんの腕を掴んでぶんぶん振り回しながら抗議するのを、「んで?元カノと何が?」と続きを聞きたい瀬戸くんに阻止される。
「普通に7人で遊んでたんだけどね、夜になってカラオケ出てふと気がついたら2人消えてたの!!」
キャーと春川さんが悲しみの悲鳴をあげて瀬戸くんに抱きつく。ヨシヨシと形だけ春川さんを慰めながら瀬戸くんが更に話を促したところでー
「マイ、ベラベラ人の事話しすぎ」
うちわを片手に弄びながら1人漫画を読んでいた椎木くんが隣のマイちゃんの頭をうちわでペシと叩く。
「おい、椎木良いところなんだから邪魔すんな。お前はソレ読んでろ」
「はぁ?良いところって、その話ラストまで知ってんの俺しかいねーべ。」
「うーわ、ガチだわ。よし聞かせろ」
瀬戸くんが話の続きを聞き出そうとターゲットを変えて椎木くんに絡み出すけど、「うるせーわ、こっちが良いところなんだよ」と漫画に戻ろうとする。
そんな彼らのわちゃわちゃを聴きながらゲームをしている僕と晴人と朱莉ちゃんだったが、瀬戸くんよりも話の続きが気になっている僕はゲームどころではない。
ー中学時代の椎木くん、、元カノ、、2人きり、、?
誰と何処で遊んだかなんていちいち報告し合わないし、僕が青山と佐川の家に行ったのだって椎木くんは知らない。
ただの友だちだったら一々聞かない。恋人だったら?どこまで踏み込んで良い?少なくとも僕が誰と何処で遊んだかを聞かれたとしても全くイヤじゃないけれどそれは僕の場合であって、椎木くんはどうかわからない。
気にならないワケじゃない。ーいや、元カノと2人で消えたなんて聞けば正直気になるどころかモヤモヤする。イライラする。
「瀬戸っちはところでどーなの?彼女出来たってずっと前言ってなかった?」
「ミナミさん、それ聞いちゃうー?」
「いや、相変わらずコイツいろんな女の子と遊んでんだろ」
「えー、妹いるとこでそれ辞めてー。」
「瀬戸っちこないだケンカしたーって荒れてたよね?」
「マイ俺の事まで暴露すんな!裏切り者」瀬戸くんがマイちゃんを羽交締めにして口を塞ぐ
「うそ!?瀬戸っちのくせにまだ続いてたの?」
「おまえ彼女大切にしない男とか俺に言ってなかったっけ」
「いやーそっすね。反省中。振られました、はい。」
「おぉ!マジか!瀬戸が振られるとかうける」
「やめて、俺こう見えてメンブレの沼から抜け出せてないから」
「確かに最近瀬戸っち元気なかったかも」
この人たちホント仲良いな。。学校でも別の場所でも。僕のついていけない話題、僕の知らない椎木くん、、僕何でここに居るんだっけ、、
晴人と朱莉ちゃんは恋人同士で、ここにいる全員が知っていて、隣に座るのが当たり前。
でも僕は、椎木くんとの事は秘密で、そもそもそんなに仲良い友だちという認識も皆の中にはなくて、、
僕よりこの人たちの方が椎木くんのことを知っている、、
ねぇ、元カノに会ってどうしたの?
2人でどうしていなくなったの?
やっぱり女の子が良いって思った?僕は女の子にはどうしたってかなわない。
あぁ帰りたい。何も気にせずゲームを楽しんでいるフリをするのが辛い。。
「ごめん瀬戸くん、お手洗いかしてくれる?」
「おん、飲み物とりに俺も下行くわ」
小さくため息を付きながら2階へ戻ろうとしたとき、開きっぱなしのリビングの扉からキッチンにいる瀬戸くんが見えた。
「ー?」
いつも賑やかにふざけて笑っている瀬戸くんが、まるで僕と同じように辛そうな悲しそうな顔をして1人立っていて「瀬戸くん?」と声をかけるとパッと顔をあげた。
「あ、クッキー、これ持って行くの手伝ってくんない?」
ニコッと笑ってペットボトルを指差す。
「うん、もちろん。ーあの、大丈夫?」
「んー?」
「さっき、しんどそうな顔してたから、、」
瀬戸くんから渡されるペットボトルを何本か受け取りながら彼の様子を伺う。
「はは、俺そんな顔してた?」
「してた。泣きそうな顔。ー彼女の事で瀬戸くんでもそんな悩んだりするんだね。」
「、、、彼女、、ね。まぁ、いろいろあっちの方がしんどかったと思うし、、」
瀬戸くんが5本目のペットボトルを僕に渡しながら、初めて聞く寂しげな声で呟いて、ふと僕の肩を掴んで引き寄せる。
「うわ!落ち、、え、、」
「ちょっと身代わり」
え?え?どういう状態!?
僕の肩に、瀬戸くんが俯くようにおでこをのせる。抱えたペットボトルのせいで密着こそしていないけど片手は抱きしめるように背中へ回されている。
「ちょっと、瀬戸くん!?離して」
「彼女、じゃなくて、、男なんだよね。内緒ね」
ー!?男、、!?
え、まって、瀬戸くん何でそんな事僕にカミングアウトするの!?もしかして僕も同性を好きだって事知ってる!?
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「はは、ごめん。やっぱ身代わりにはならんや。」
少し照れたように笑って、自分もペットボトルを何本か抱えた。「上に戻るべ」ともう何事も無かったようにいつもの顔で言う。
ーいったいどっちの瀬戸くんが素顔なんだろう。さっきの行動にはさすがに驚いたけど、僕を身代わりにしてみたくなるほどきっとしんどい思いを抱えているんだ。
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「わ!痛って!」
突然止まった瀬戸くんの背中にぶつかった拍子にペットボトルが一本腕からスルリと落ちてしまって、僕はそれを拾う為に屈んだ
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感情の籠らない椎木くんの声がしてハッと顔をあげる。
無表情で僕の方も見ない椎木くんが、瀬戸くんが呼び止めるのも全く聞かずに靴を履くと出て行ってしまった。
「なに、あいつ。さっきの聞いてたんかな?」
瀬戸くんが呆気にとられて玄関を見つめたまま呟く横で、心臓がバクバクと音を立てている僕は勘違いであってほしいと願う。
ー聞いていたんじゃなくて、見ていたんじゃないのか、、、
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苦手じゃないのに、すぐにさっきの情景が脳裏を掠める。
「くっそ」
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あいつなんなんだ!?
何で瀬戸に抱きすくめられてじっとしてた!?
バカかよ受け入れてんじゃねーよ。
普通拒否るだろ?
あの時の瀬戸はいつもの悪ふざけには見えなかった。悪ふざけならまだしも、あれはどう考えてもおかしいだろ!?
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相変わらず俺は楠木に執着している。恋人だという確証が欲しくて手を出そうとして、あいつの顔を見てまだ無理だと知った。
あんな風に瀬戸を受け入れる楠木にとって、俺と瀬戸の違いなんてどのくらいある?
あいつにキスされたって拒まないんじゃねえの、、、?
強く握った拳を開く。手のひらに自分の爪の跡がくっきりついているのを見て、ふっと笑えた。
携帯が鳴っていたが出る気にはならなかった。瀬戸からだとしても楠木からだとしても、今関わるのは無理だ。
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漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
幼馴染みとアオハル恋事情
有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。
「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。
明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!?
思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。
アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ!
【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています
※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定
※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
https://privatter.net/p/9716586
□イラスト&漫画
https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/
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