リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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一章【憧れ】

7 チームみたいなもん

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お酒のせいで目の下を少し赤くした宮城ミヤシロさんがテーブルに頬杖をついたままこちらをじっとみていて、その横で面白そうにニヤニヤしている酒に酔ったハヤトさん。
2人の視線の前に俺は固まっていた。

モデル、、?え?モデル?
ハヤトさんと同じヌードのモデル?

「モデルでもやりたい?雑用もあるかもだけど、モデルやってくれるなら給料払うよ。」
「や、え?モデルって、、裸の、、?」
「はっきり言って信用のおける人しかやってもらえ無いんだよね。ハヤトとやってくれてた人さ、あ、ハヤトの恋人ね。その彼が辞めたがってて。」
宮城さんが小さくため息をつく。
「いや~、蒼くんちょうど良いなって思ってたんだけど、未成年だし訴えられたら困るから無理は言えないんだけど、どうさ?」
ハヤトさんが首を少し傾げてニッコリと微笑む。
「別にとって食ったりしないって。ちゃんと仕事だから。ただまぁ普段は人前でしないような姿を晒すだけだ。」

“だけ”って、そこが一番ひっかかるんだよ。別に上半身裸くらいなら1秒だって躊躇うもんか。
「や、やっぱそれは、、」

「だよな、うん。蒼くんやっぱ忘れて良いよ。ハヤト別のヤツ探そ。蒼くん未成年だし、内容が内容なだけにちょっと厳しいでしょ。なんか犯罪に抵触しそう」
パッと俺から視線を外すとアッサリと宮城さんは引き下がりハヤトさんはしぶしぶ頷く。
「仕方ねーな。他が決まるまで俺がイトを支えてやるか」

俺はこの時とてつもなく焦っていた。もしも一口でもお酒を飲んでいたらお酒のせいにしただろう。
この人たちと仲間になれるなら、、九条キュウジョウゆいとしての宮城さんの一面を見られるなら、、なにより宮城さんともっと親しくなれるなら、、
そんなチャンスを他の誰かに譲るのは悔しすぎる。

「やります。」

「ん?」「お?」

「やります!モデル!」

「ーだって。どうする?イト。」

「本気で良いの?一応契約書を交わしてお互い内容は秘密厳守なんだけど、、まぁキミは高校生だから絶対に無理と言う事は強制しないけど、主に絡みのシーンに関する素材ではあるよ?」

もうやると言ってしまったからには引き下がれない。男に裸を見られるくらい大丈夫。
ハヤトさんは前に「イトの前でアソコ勃てるなんて普通の事」とか言っていたのを考えると、自分もそういう姿を晒す事になるんだろうけど、同じものがついた男同士だ。きっと慣れるし、宮城さんに今より同等に見てもらえるかもしれないんだ。

「やります。」

俺は遂に、自分の性癖や性対象を揺るがす道へと踏み行ってしまった。

そこからは早かった。酔っ払いのハヤトさんは楽しそうにニコニコしていたけど、宮城さんはすぐに契約書を持って来て俺にしっかり目を通すように言った。

・甲は乙に作画資料としてのポージングのみ依頼することとし、乙は可能な限り答えるものとする。
・乙が複数のポージングを拒否するなどして甲が資料として不足と判断した場合には契約を解除することがある
・乙はデッサンしたものが不要になった場合には速やかに処分し、決して外部に持ち出したり関係者以外の目に触れさせない
・乙はポージングを初めとする甲の職業にまつわる全ての内容を関係者以外に口外しない

そこから給料の事や拘束時間の事などが記されていて、両者のサインを必要とするきちんとしたものだった。
そのサインを書き終えると、宮城さんは自分とハヤトさんのグラスにビールを、俺のグラスにジンジャーエールを注いでくれて新しい仲間として俺を向かい入れて乾杯をしたのだ。

「はい、鍵」
帰り際に宮城さんが鍵をくれた。
「俺の仕事のモデル兼、雑用兼、アシスタントってことで、自由に出入りして良いよ。」
「わ!マジっすか!?」
「ただし友だちや彼女を連れてくるのは厳禁だし、他の人に部屋も知られたく無いから教えないで。あと部屋を散らかさないように。」
「はい!」
俺の小学生の様な良い返事に2人は苦笑する。
「仕事は来週の土曜の蒼くんのバイトの後からで良い?あー、あと、オレとハヤトには敬語もいらない。チームみたいなもんだし。」


俺が帰り道どんなに浮かれていたか、九条ゆいの作品作りのほんの少しだけでも携われることが、、宮城さんが他の人には見せない面を見られることがどんなに嬉しかったか。

ひどい話だけど音羽の事で悩んでいた事も俺はすっかり忘れてしまった。

その日からの1週間、俺は腕立て伏せやら腹筋背筋やらの筋トレに人知れず励んだ。
宮城さんやハヤトさんに情けない体は見られたくなかったからだ。いや、そもそも運動が人より得意で活発な高校生男子が情けない体をしている筈もなく、腹筋だって綺麗に割れていたし二の腕や肩甲骨の辺りだって細いなりによく引き締まっているけれど。
それでも異性の前で裸体を晒すよりももしかすると同性に見られる方が見栄をはりたくなるものかも知れない。
被写体として少しでも魅力的でありたいと思っていた。



「まさか蒼くんがモデル引き受けるとはね。」
ハヤトが皿を片付ける横で宮城はコーヒーをいれている。
「ホントに大丈夫だと思うか?」
「まぁ最初は戸惑うんじゃないの。俺だってそうだったじゃん。」
高校生の時、初めて宮城がハヤトにヌードを描かせてもらったときの、あの気まずい空気を2人は今でも忘れない。
当時既に同性が好きだという自覚のあったハヤトと、慣れないBLを描き始めた宮城の気まずくて悩みの多かった高校時代だ。
漫画のように、幼馴染の2人に恋愛感情が芽生える展開はなかったものの、思春期の2人にはそれは刺激的な時間だった。

でも宮城が描く漫画がSNSで人気になりコミックが出版されて、やがて重版を重ね仕事としての側面が大きくなるにつれて、それぞれ自分との折り合いをつけて成長してきたのだ。
その頃はハヤトはたまにモデルをするくらいで仕事の手伝いはしていなかったし、そのモデルだってヌードはごく稀で殆どは普通の着衣のポーズだった。

「でもロンくん怒るかもね」
「、、怒るだろうね。」
ハヤトが「やれやれ」と肩をすくめる。
“ロンくん”こと新田諭ニッタ サトシは20歳の大学生でハヤトの恋人だ。
「蒼くんみたいな子と裸で抱き合って欲しくはないだろーね。」
「あいつがモデル辞めるって言った時点でこの展開は読めてたと思うけど」

そもそもハヤトと絡めるモデルを探していた時にハヤトが連れてきたのが“ロンくん”で、実際いかがわしいポーズも本物の恋人なので普通にこなしてくれていた。
ただ問題だったのは恋人であるハヤトが美形の宮城といつも一緒に居て、2人きりの時も彼の前で裸になっている事なのだ。
宮城の美形を幼児の時から見ているハヤトにとっては見慣れて何も思わないけれど、恋人からしたら全く良い気がしなかった。

「さすがに高校生と裸で抱き合うとなるとロンくんも黙ってないだろ」
その美形をしかめて宮城が面倒臭そうな声をあげる。
「イトは平気?」
「は?俺?なにが?」
「もしかしたら蒼くんのこと気に入ってるのかと思って。」
ハヤトが冗談めかして言うと宮城は更に顔をしかめて
「はぁ?何でそうなるんだよ。蒼くん高校生だぞ?カワイイ弟みたいなもんだろ。」
「高3は子供じゃねーよ。」
笑いながらハヤトは反論したが、“カワイイ”と言った宮城の言葉に内心苦笑していた。

恋愛漫画を描くのに全神経を使い切っているのか恋愛に全く興味を示さない宮城が、同性と異性のどちらに興味があるのかは知らない。ただ、そういう物語を創り出す人だ。同性を性対象として見たとしても何の不思議もない。
人と距離をとって、大学では漫画家の一面を全く見せない掴みどころのない宮城が、誰かに恋焦がれて喜んだり悲しんだりする姿を見てみたいと幼馴染のハヤトは思っていた。

だから蒼と出会ってから、宮城が自分から人と親しくなろうとする姿をハヤトはもの珍しく思っていたのだった。
それがモデルに丁度いい人材だと思ったことが理由だとしても。
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