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2話 試すキスとは
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4月の終わり頃、音楽室で何だかわからないクラッシックを聞かされて深い眠りに落ちていた俺は肩を揺すって起こされた。
「瀬戸、次体育。」
「んーー。だる。」
椎木が「先戻るわ」とニコリともしないで音楽室から出て行って、ポツンと1人取り残されてしまった。
クラスメートのいなくなった音楽室でもう少し寝るのも良いな、、そう思って瞼を閉じた時ガチャッと扉の開く音がして俺は顔を上げた。
「あ、もしかして次使う?」
1年だ。次は1年が教室を使うんだと思って仕方がなく立ち上がったのに、そいつは俺の方へ少し近づいたきり無言。
「ー?」
改めてそいつを見る。
お、可愛い顔。男にしておくのがもったいない。目が大きくてまつ毛バサバサ。女に見えはしないけど華奢な体つき。少し長めの癖のある髪の毛も柔らかそうだ。
何も言わないそいつをしばらく観察していたら
「瀬戸先輩、僕中学先輩と同じでした」
唐突に言われて面食らった。
「は?へぇ、そうなんだ?」
「中学の時から先輩のこと好きでした」
ーん?んん??
「あんたが?俺を?冗談のやつ?」
俺の言葉にそいつはキッと睨むようにこちらを見返してくる。
はいはい、ガチのやつね。
えー、すごい可愛い顔なんだけど、、
「えーっと、俺今彼女いるよ?」
「わかってます、、」
「女の子から奪う自信があるってこと?」
「違います!」
キッと強い視線で、まるで文句を言いに来た人であるかのような口調で否定したかと思うと、少し小さな声で
「いつまでも伝えられないのは嫌だったので、、」
しおらしく俯く。
「ふぅん。ー俺って男イケそうに見えたんだ?」
弾かれたように真っ赤になった顔を上げてまたこちらを睨むように見た彼の大きな瞳がみるみる涙をためていく。
「ダメなのはわかってます!!」
何で俺さっきから若干怒られてんの?情緒不安定かよ、コイツ。
俺は少しだけイラついた。意地悪をしたくなった。
「ダメ?わかんないな。ダメかどうか試させてよ」
俺が赤い顔で涙をためるそいつに近寄ると、そいつは後退りした。
「た、試すって何ですか、、、」
「だから、俺が男も大丈夫かどうか、俺もわかんないもん。」
じりじりと壁際に追い詰めた俺は逃げようとするそいつの両腕を捕まえて壁に捉えると顔を覗き込む。怯えている顔を見て、ちょっと怖がらせすぎたかなとほんの一瞬だけ反省。
「あんた、名前は?」
「吾妻拓実、、」
「拓実くん、目つぶってくんない?」
退路の無い彼に至近距離で言うと、彼は長いまつ毛を震るわせてぎゅっと目を瞑った。目を瞑った拍子に大きな瞳にためていた涙がツーと流れ落ちる。
その溢れた涙が彼の唇を濡らした。それを間近でみた俺の心にゾクと何かが湧き上がるのを感じる。
あ、俺コイツに欲情してる?
ちょっと意地悪しようと追い詰めたつもりが強く目を瞑った顔を見ているうちに、本当にキスしたくなってしまった。
涙で濡れた唇にキスをする。
目を閉じるそいつの体にグッと力が入るのがわかった。怖がっている。
だけど、女の子とはどこか違うその唇の、涙の味がした瞬間に俺は閉じた唇をこじ開けるように舌を押し入れた。
「んんっ」
わずかな抵抗。でも構わず彼の舌に自分の舌を這わせる。軽く吸い上げる。逃げようとするのを舌を絡ませる。
うん、これといって自分に嫌悪感みたいな物はない。そもそもそんな感情を自分が持ち合わせてるかどうかも疑問だけど。
「んー、んん、」
少し抵抗が激しくなったのでパッと離してやった。
息が苦しかったのか、はぁはぁと大きく息をしている彼が明らかに怒った顔でこちらを睨んできた。
暴言を浴びる覚悟をする俺。
自分でも最低だったなとは思う。普段はやがること女の子にはしない主義だし、苛めて愉しむ趣味もない。
そもそも俺にそうして欲しいと思っている女の子としかキスもセックスもしない。
無理やり押さえつけてキスをしたことなんてなかったし、男だからってたぶんやっちゃいけなかった。
流石にやり過ぎた自分を内心反省した。
だけど溢れた涙をゴシと腕で拭いてめちゃくちゃ睨んでくるソイツの言葉に俺は驚いた。
「ーで、どうでしたか!?」
「ーは、、?」
「は?じゃないです!男でもイケそうかわかりましたか!?」
追い詰められた小動物みたいな体勢で、顔を赤くして涙をためた目で、こちらをキッと睨んだままのそいつから発せられた言葉に、俺は一瞬ポカンとして、次の瞬間笑った。
「ふっは、拓実くん面白いね。拓実くんならイケるかもね。」
「ー!」
「でもさ俺彼女いるからさ、いなくなったら考えるね」
そう言って後ろ手に軽く手をあげると、俺はそのまま音楽室を後にした。
もう体育の授業が始まっている頃だ。
ちょっと刺激的な経験だった。
女の子のように可愛い顔をしているのに中身は別に弱々しい女の子なんかじゃない。意地もプライドも感じさせる、ちゃんと男だった。
面白い。もう少し関わってみたい。
授業が始まっているはずの体育館に続く廊下でジャージにも着替えていない椎木に追い付く。
「ちょっとちょっと椎木聞いて」
俺は今あった刺激的な体験を早速話そうと椎木の肩に腕を回して声のトーンを落とす。
「俺男の子もイケるかもわからん。」
「はぁ?」
ギョッとして声をあげる椎木に、男から告白された事を話したが彼はあまり深入りしてくるタイプでは無いのでイマイチ楽しさは共有出来ない。
キスをしたと言ったらさすがに驚くだろうな、と思った。ーでもふと、吾妻拓実の涙をためた目で睨みつける顔を思い出して、俺はそれを言うのをやめたのだった。
「瀬戸、次体育。」
「んーー。だる。」
椎木が「先戻るわ」とニコリともしないで音楽室から出て行って、ポツンと1人取り残されてしまった。
クラスメートのいなくなった音楽室でもう少し寝るのも良いな、、そう思って瞼を閉じた時ガチャッと扉の開く音がして俺は顔を上げた。
「あ、もしかして次使う?」
1年だ。次は1年が教室を使うんだと思って仕方がなく立ち上がったのに、そいつは俺の方へ少し近づいたきり無言。
「ー?」
改めてそいつを見る。
お、可愛い顔。男にしておくのがもったいない。目が大きくてまつ毛バサバサ。女に見えはしないけど華奢な体つき。少し長めの癖のある髪の毛も柔らかそうだ。
何も言わないそいつをしばらく観察していたら
「瀬戸先輩、僕中学先輩と同じでした」
唐突に言われて面食らった。
「は?へぇ、そうなんだ?」
「中学の時から先輩のこと好きでした」
ーん?んん??
「あんたが?俺を?冗談のやつ?」
俺の言葉にそいつはキッと睨むようにこちらを見返してくる。
はいはい、ガチのやつね。
えー、すごい可愛い顔なんだけど、、
「えーっと、俺今彼女いるよ?」
「わかってます、、」
「女の子から奪う自信があるってこと?」
「違います!」
キッと強い視線で、まるで文句を言いに来た人であるかのような口調で否定したかと思うと、少し小さな声で
「いつまでも伝えられないのは嫌だったので、、」
しおらしく俯く。
「ふぅん。ー俺って男イケそうに見えたんだ?」
弾かれたように真っ赤になった顔を上げてまたこちらを睨むように見た彼の大きな瞳がみるみる涙をためていく。
「ダメなのはわかってます!!」
何で俺さっきから若干怒られてんの?情緒不安定かよ、コイツ。
俺は少しだけイラついた。意地悪をしたくなった。
「ダメ?わかんないな。ダメかどうか試させてよ」
俺が赤い顔で涙をためるそいつに近寄ると、そいつは後退りした。
「た、試すって何ですか、、、」
「だから、俺が男も大丈夫かどうか、俺もわかんないもん。」
じりじりと壁際に追い詰めた俺は逃げようとするそいつの両腕を捕まえて壁に捉えると顔を覗き込む。怯えている顔を見て、ちょっと怖がらせすぎたかなとほんの一瞬だけ反省。
「あんた、名前は?」
「吾妻拓実、、」
「拓実くん、目つぶってくんない?」
退路の無い彼に至近距離で言うと、彼は長いまつ毛を震るわせてぎゅっと目を瞑った。目を瞑った拍子に大きな瞳にためていた涙がツーと流れ落ちる。
その溢れた涙が彼の唇を濡らした。それを間近でみた俺の心にゾクと何かが湧き上がるのを感じる。
あ、俺コイツに欲情してる?
ちょっと意地悪しようと追い詰めたつもりが強く目を瞑った顔を見ているうちに、本当にキスしたくなってしまった。
涙で濡れた唇にキスをする。
目を閉じるそいつの体にグッと力が入るのがわかった。怖がっている。
だけど、女の子とはどこか違うその唇の、涙の味がした瞬間に俺は閉じた唇をこじ開けるように舌を押し入れた。
「んんっ」
わずかな抵抗。でも構わず彼の舌に自分の舌を這わせる。軽く吸い上げる。逃げようとするのを舌を絡ませる。
うん、これといって自分に嫌悪感みたいな物はない。そもそもそんな感情を自分が持ち合わせてるかどうかも疑問だけど。
「んー、んん、」
少し抵抗が激しくなったのでパッと離してやった。
息が苦しかったのか、はぁはぁと大きく息をしている彼が明らかに怒った顔でこちらを睨んできた。
暴言を浴びる覚悟をする俺。
自分でも最低だったなとは思う。普段はやがること女の子にはしない主義だし、苛めて愉しむ趣味もない。
そもそも俺にそうして欲しいと思っている女の子としかキスもセックスもしない。
無理やり押さえつけてキスをしたことなんてなかったし、男だからってたぶんやっちゃいけなかった。
流石にやり過ぎた自分を内心反省した。
だけど溢れた涙をゴシと腕で拭いてめちゃくちゃ睨んでくるソイツの言葉に俺は驚いた。
「ーで、どうでしたか!?」
「ーは、、?」
「は?じゃないです!男でもイケそうかわかりましたか!?」
追い詰められた小動物みたいな体勢で、顔を赤くして涙をためた目で、こちらをキッと睨んだままのそいつから発せられた言葉に、俺は一瞬ポカンとして、次の瞬間笑った。
「ふっは、拓実くん面白いね。拓実くんならイケるかもね。」
「ー!」
「でもさ俺彼女いるからさ、いなくなったら考えるね」
そう言って後ろ手に軽く手をあげると、俺はそのまま音楽室を後にした。
もう体育の授業が始まっている頃だ。
ちょっと刺激的な経験だった。
女の子のように可愛い顔をしているのに中身は別に弱々しい女の子なんかじゃない。意地もプライドも感じさせる、ちゃんと男だった。
面白い。もう少し関わってみたい。
授業が始まっているはずの体育館に続く廊下でジャージにも着替えていない椎木に追い付く。
「ちょっとちょっと椎木聞いて」
俺は今あった刺激的な体験を早速話そうと椎木の肩に腕を回して声のトーンを落とす。
「俺男の子もイケるかもわからん。」
「はぁ?」
ギョッとして声をあげる椎木に、男から告白された事を話したが彼はあまり深入りしてくるタイプでは無いのでイマイチ楽しさは共有出来ない。
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