俺たちは幽霊屋敷に住んでいる

ふじのはら

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4 同居人以上

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あの話をしてからも時宗の態度は変わらなかった。それまで通り近づき過ぎないように常に気遣って行動してくれたし、俺に対して軽蔑や好奇な目も向けなかった。
どちらかと言えば、あれから変わったのは俺の方だ。
少しずつ時宗に対する警戒心は薄れて普通の適度な距離感でいられる事が増えてきた。変な物音が聞こえるたびに彼を盾にして隠れていたから俺の中に“時宗=安心”という刷り込みがされていた気もする。

ある風の強い夜だった。時宗が4日こちらで生活をし終えた夜。
古い家の窓が強風でガタガタとなって気味が悪く、俺は深い眠りにつけないでいた。

うとうとしていると、すぐ近くで畳を擦るようなズッズッという音が聞こえた気がして俺は覚醒した。

ー何の音だ、、?
金縛りにはなっていなかったが、思いのほか近くで聞こえたその音に恐怖で凍りついたように動けなくなった。

ズッズッ、、ズッズッ、、

ー足音、、俺の部屋を歩いてる音、、

「ふふっ」

女の子の笑い声のようなものがした。

瞬間、俺は一気に全身が粟立って飛び上がるように布団を出た。暗い中を走って階段を駆け上がる。右のドアを勢いよく開けるとベッドに飛び乗る。

「うわっ!覚さん!?びっっっくりした、、」
あまりの勢いに寝ていた時宗が飛び起きる。
「時宗!俺の部屋になんか居る!足音と笑い声した!」
「和室に?珍しいね。」
「絶対戻れねぇ!」
「ええ、、」
時宗は暫くドアの方を見ていたが、この部屋からは何も聞こえない。
眠かったんだろう。彼はあくびをかみ殺すと布団に潜り込む。

「ちょ、時宗!1人にすんな!」
「んー、、眠い、、そこに居て良いよ」

ベッドの上で時宗と壁の間に座っている俺は風で家がミシッとなるの音にまでビビリ散らす。
10分くらいそこで固まっていたがあの部屋に戻って寝ようとはどうしても思えない。
モゾモゾと、寝てる時宗の横に勝手に潜り込んだ。

「え??覚さん、まさか一緒に寝る気?」
「絶対1人無理だし。怖いし。」
「いや、、わかるけど、、俺と寝て怖くないのかよ」
俺に背を向けたままの時宗が言う。
「わからん!でも部屋には戻れない」
「、、まぁ別に良いけど。寝返りうっても殴らないでよ?」
「頑張る」

ほどなくして寝息をたて始めた時宗の背中で、俺は久々に人に長い時間触れていた。暖かかったし、安心できた。誰かと寝るなんていつぶりだろう、、
そんな事を考えているうちにオレは深い眠りに落ちた。

時宗は最初の約束通り1週間のうち週末を含む4日間を俺とこの家で暮らした。仕事もパソコンを持ち込み部屋でやっている。残りの3日は前のアパートに戻り会社に行っているようだ。
時宗が3日間、どこでどういう生活をしているのかよく知らない。よくどころか全然知らない。
彼が俺との距離を取り、お互いに干渉しない生活を送っていたと言っても、同居をスタートしたばかりの頃は家に1人でいる3日間は怖くもあったがどこかホッとしたりもした。

なのに今では1人になるのはただ怖いばかりだ。

この時間が耐えられずに、俺はなるべく家に1人で居ないように町役場でバイトをすることにしたのだ。


「そう言えば小野田くんと住んでる遊佐くんって、昔ここに住んでいた遊佐さんの所の息子さんなんだってね。」
隣のデスクの酒井公子が伝票をチェックしながら言う。

「小野田くんにしても遊佐くんにしても、この地に縁のある若者が戻ってきてくれるなんて嬉しいわ」
「遊佐さん一家の事知ってるんですか?」
「私その頃中学生だったのよ。こんな小さな町だから小さな子どもがいるお宅はわりと町の大人が把握していてね。それに遊佐さんのお宅はお父様が小学校の校長先生をしていて、そのあと中学校の校長も務めてらしたの。」
「へぇ、そうだったんですね。時宗は、、息子の方は小さい頃から佐藤のばぁちゃんちに出入りしていたんですか?」
俺の言葉に公子は手を止めて、上を向くと少し考える。

「どうかしら、、。佐藤さんのお宅には同じくらいの年の子10人くらい、裏山で遊ぶのが好きで、よく祠の周りで隠れんぼとか冒険をする子たちが出入りしていたわ。」

ー裏山に、祠?

「でも、確か事故があって、」

「酒井さん、ちょっといいかい」
話の途中で藤堂さんが公子に声をかける。
何か気になる事を言いかけていたがそこでその話は終わってしまった。

ー祠、、事故、、。その集まっていた子供の中に時宗はいただろうか?もしそうだとしたら祠や事故について何か知っているだろうか?

次の日の夕方、仕事が終わってから町の唯一の居酒屋で、バイトである俺の歓迎会が開かれた。
町役場の人たち15人程で狭い居酒屋の座敷に鮨詰めになって飲んでいた。この役場で働いているのは50代から80代の人達が中心で一番若い公子でさえ30代だ。俺と近い年齢の人はいない。

人と酒を飲むことにも、狭い空間に人と触れ合って座るのも抵抗があったが、名目上は俺の歓迎会だったし家で1人で怯えているよりはマシだろうと思った。
田舎の夜は早くて夕方から始まったその宴会は夜9時にはお開きになった。

「小野田くん、タクシーに皆んな乗って順番に送るから乗って行きなさい」
「はい、お言葉に甘えて」

ここから歩いて帰るのは無理だし、この流れで1人で帰りたいから自分でタクシーを呼ぶとも言えず、ただでさえ何時間も人と密着状態で酒を飲んでて神経を摩耗させた俺はタクシーに押し込まれた。
助手席の女性職員が降り、後部座席にいた年配の男性職員が降り、俺と隣でぐぅぐぅと眠りこけている50代の男性職員だけになる。

ドア側にひとり分のスペースが空いているのに寝ているそのひとのせいで密着したままだ。
寝息と共にあろうことか俺の方へぐらりと傾いて寄りかかってくる。開いた足が俺の足にぶつかっていて、彼の足に置かれている手が俺の太腿にも触れている。

ゾワリと鳥肌が立って、俺は懸命に窓の外の流れる景色に意識を集中させる。
太腿にあたる彼の手がピクリと動く。

ー思い出すな。大丈夫、大丈夫。

体をまさぐる手のゴツゴツとした感触を思い出す。肩のあたりで聞こえる寝息と、いやらしい興奮にハアハアと荒くする男の息遣いが重なる。

息がしにくい。血の気が引いていくのがわかる。冷や汗がじわりと浮かんで、今にも大声を上げそうだ。

ようやく家についた時、俺は車から落ちるように飛び出すと家の中へ駆け込んで、震える手で電話をかける。

呼び出し音がしばらく続いて
「もしもし、どうかした?」
時宗の呑気な声が聞こえた。

「あれ?、、覚さん?もしもーし?」
「、、時宗、、ごめん、ちょっと、、」
「ー覚さん?何かあった?」
呑気な声はスッと気遣う声にかわる。

「あ、えっと、、ちょっと、パニック、、お前の声聞きたかった、だけ。急にごめん」
動悸がゆっくりと治まっていく。

「怖いことあった?何か聞こえた?」
時宗の声が優しい。俺を安心させる為だ。
俺はその声を聞きながら“大丈夫、時宗がいる”そう無意識に心の中で繰り返した。

「さっきまで役場の人達で飲んでた、、ちょっと距離近くて、、フラッシュバック、、」
「、、、そっか、、直ぐに行ってやれないのが悔しい。」
「大丈夫、、ありがと、、落ち着いて来た、、」
「本当に?俺もう家だからこのまま話してられるよ?寝るまで話そうか?」
「、、いや、時宗の声聞いてたら治まった、、ありがと、大丈夫そう。」
「それなら良かったけど、、夜中でも何かあったらかけて。明日、なるべく早く帰る。」

電話を切って、俺はそのままソファへ倒れ込む。顔が熱い、、。

ー何だ?今の会話、、何で顔が熱い、、?
単なる同居人の声を聞くだけでどんだけ安心してんだよ、、
それに、アイツは何であんなふうに優しくする?
、、恋人かよ、まったく、、

誰に見られるでもないのに、顔が熱くて、覆った腕をよけることが出来なかった。

ーはぁ、、俺はきっと時宗が好きだ。

あの経験の影響だとは思いたくない。
でも確かに今の俺にとって時宗は特別な存在だった。

「早く帰ってこいよ、、」


同じ頃電話を置いた時宗が、棚に置かれた拳をぎゅっと握りしめていた。握りしめた拳を怒りに任せて棚に打ち付ける。
「くっそ、、」
その握りしめた手には1枚の名刺がぐしゃぐしゃになっていた。
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