俺たちは幽霊屋敷に住んでいる

ふじのはら

文字の大きさ
12 / 18

11 もう良いだろ

しおりを挟む
11月28日。
その日は夜中のうちに降った雪がうっすらと積もり1日中寒くなるという予報だった。
俺は朝に1度花を手向に家を出たきり、仕事の休みをとってずっと庭に面した窓辺で外を見ていた。

少し離れた所に猫が座って、同じく外を眺めていたが、鳥や虫もおらず何も変化のない外の景色にやがて飽きて丸くなって眠り出す。

この猫はずっと庭に棲みついていたのが、寒くなって玄関から勝手に入り込んだ猫で、この2週間ばかり俺の同居人だった。

外を眺め続けて数時間も経った頃、ようやく人影が現れて、俺はダウンを着ると外へ出た。
裏庭に周り、足跡を辿るように山の方へあがる。

「時宗」

通気洞の前に花を手向け、手を合わせている男に声をかけると、驚きもしないで立ち上がってこちらを振り返った。

「やっぱり来るってわかってたんだ」
「えりなの命日だろ」

ほんの少しの間無言で見つめ合う。

「家に、上がっても良い?」
「、、お前の家だよ」
俺の言葉にふっと笑った時宗の吐く息が白くて、一瞬だけ霞がかって見えた彼の白い顔がなんだか儚げに見えた。

「ユウにも、梶にも会ったんだってね。」
「会ったよ。、、ごめん、いろいろ話聞いた。」
「うん、良いよ。俺も限界感じてたし、、」
リビングで俺の淹れたコーヒーを飲む。
伏し目がちな目元は笑っておらずどこかよそよそしさを感じる。

俺はどんな顔をしていたんだろうか?怒っていたのか、嬉しかったのか、自分でもよくわからなかった。

その時、リビングの片隅で寝ていた猫があくびをしながら時宗を見た。
「え、猫、、」
「庭にいたやつ。勝手に入ってきて我が物顔で生活してんだ。」
「あぁ、あいつね。、、そっか、もう新しい同居人いたんだ」
その言葉に俺は、思わず時宗の胸ぐらを掴んで強く引く。
時宗が、顔を背けてぎゅっと目を閉じた。
その顔を見て殴ろうとした俺の拳は、そのままゆっくりと下された。

「おまえ、バカじゃないの」

「、、、」

「なんで、、何で、何も言わなかった?、、俺ごときのために、、」

掴んだ手を離して、言おうと決めていた文句をぶつけようとして、うまく言葉が出て来ない。
「梶からその理由も聞いたでしょ。」

「何で会社まで辞めた?それだけはあの人教えてくれなかった。」

「、、、それを話す覚悟で来たんだ。」

彼が隠してきた事を、仲の良い同僚でさえ自分の口からは言えないと言い切った事を、遂に聞くのだ。

「でも覚さん、その話を聞いても、今日は追い出さないで。」
「、、話せよ。」

「、、、この名前、あんたの前で出したくないんだけど、、古賀部長のこと、、」
その名前に俺の心臓が跳ねる。
古賀部長というのは取引のある会社の部長、、そう、あの時俺に薬を飲ませて、、

「覚さん、、?大丈夫?聞けそう?」
心配そうに顔を覗き込む時宗にうなずく。

聞かなければいけないから、、。

「あの人もともとそういう噂あったんだって。使って貰いたかったら体を差し出せば良い的な。、、覚さんのデザインが採用された瞬間に覚さんが会社を突然辞めたことで、あのひとのしている事が信憑性を持った噂になった。
梶に聞いたと思うんだけど俺は覚さんが心配になって、探し回ってここまで来たんだ。ただ心配で何か助けになりたかった。
でも、部長との間にあったこと覚さんに聞いた時、正直言って噂以上だった。」

思い出して悔しそうな顔をする。

ー会社の噂ではきっと関係を迫られた俺が応じたくらいの話だったんだろう。
でも実際には薬を飲まされて意識朦朧となった俺はたぶんレイプ被害に遭っている。

「あの日、、俺が出社でここに居なかった日、覚さんは役場の人と飲みに行って、パニックをおこして俺に電話したでしょ。、、あの時の覚さんの震えた声を聞いた時、、俺もう我慢の限界だった、、」

「、、、」

「俺は古賀のやってる事を明るみに出そうと思って自分から近付いた、、案の定、取り引きの条件は体の関係」

「、、え、、時宗?、、おまえもしかして、、」

嫌な予感がして血の気が引く。顔面蒼白になった俺に、時宗は手を伸ばし「大丈夫?」と、背中をさする。

「覚さん、俺ゲイなんだ。男と関係を持った事がある。だから古賀にされた事だって体は傷ついても心はたいして傷つかない。、、それにそうなる事をわかっていて近づいたんだし。」

「ま、待て、傷、、って、、」

時宗は大した事じゃないと言うように肩をすぼめて小さく笑う。
「俺はゲイだけど、受け入れる側じゃない。でも古賀は無理矢理、俺に挿れやがった。」

言葉が出ない俺の前で時宗は笑う。
「流石に叫んだよね。最悪だった。」

そして、笑うのを辞めた時、彼の目には憎しみだけが残っていた。

「もしも覚さんが同じ思いをしてたらと思ったら、殺してやりたくなったよ。、、まぁ、俺がしたのはそういう類の事じゃない。ー俺は、自分に起きた事を、、全部録音してたんだ。」

ーあ、まさか、、時宗が会社を辞めたのって、、

「録音したものを、古賀の会社の人事に公にした。それはうちの会社でも公になって、古賀は辞職したよ。ただ俺も流石に会社に居づらくなったってわけ、、。最初からそういうつもりだったんだけど。」

「おまえ、俺のされたことへの、復讐をしたのか?」
喉がカラカラになって掠れる。

「復讐なんて、そんなカッコいい事じゃないって。俺は古賀が許せなかった。たぶん、覚さんの他にも同じような目にあった人が何人もいたと思うよ。」

「、、俺のせいだろ!俺に、、会わなきゃ、、時宗がそんな思いまでして、、」

「違うって。古賀のせいだろ?ーでも、たぶん覚さんはそう言うと思ってた。だからこの話もしないで、消えるつもりだったんだ、、」

悲しそうに俺を見る時宗が、もう俺の前から消える覚悟をしていたと思ったら異様な孤独感が俺を襲った。
時宗の隠したかったことが、俺のせいであって、俺のためであって、息がしにくいほどの罪悪感。

「時宗、、何で俺の前から居なくなろうとしたの?」
「、、、俺が、覚さんを抱きたいと思っちゃったからだよ。言ったじゃん、あんたに手を出しそうで怖いって。」

「俺、お前が帰って来なくなって、お前のこといろいろ聞いて、すげー後悔したよ。ちゃんと好きだって言わなかった事、、」

俺が初めて口にした本心に時宗は驚いて俺を見て、そして困った顔をして手のひらで顔を覆う。それに構わず俺は続けた。

「俺たち本当はわかっていたけど、どっちも言葉でハッキリさせなかった。それって、ハッキリさせちゃえば今まで以上の関係になるってわかってたからだよな?」

「そうだね。、、もし覚さんの気持ちが俺にあったら、、友情とか信頼とかそれ以上のものだったら、俺は今まで以上のものを望んだと思う」

俺は、まだ手のひらで顔を覆っている時宗の腕を掴む。腕を引かれて顔を覆う手を離した時宗の狼狽する瞳がこちらを見て目があった。

「俺は、時宗が好きだ。」

「、、、」

「時宗、もういいだろ」

時宗は何だか泣きそうな顔をしてその口を引きむすんだまま俺を見る。

「俺はちゃんと聞きたい」

「、、、」

「もう、ハッキリさせたいんだよ!だから、、だからちゃんと言えよ!!」

「、、、俺は!、、、俺も、、覚さんが好きだ、、」

時宗が泣きそうな顔のままようやく口にした。

ホッとして俺が頷くのを見て時宗は、俺をぐっと引き寄せると両手をまわして抱きしめながら堰を切ったように「好きだ」「好きだ」と繰り返す。
俺は久しぶりに時宗の体温を感じながら抱きしめ返す。

そして覚悟の言葉を吐いた。

「時宗、俺を抱きたいなら抱けよ。覚悟出来てる。、、俺がパニックになったらお前が引きずり戻してくれんだろ?」

「、、覚さん、、本気で言ってる、、?」

「本気だよ」

ー幸い俺はあの時薬で朦朧としていたから挿れられていたとしても記憶にはない。
ただパニックにならないとは言い切れない。時宗の手でイッた時だってなりかけたくらいだ。
、、でも、相手が時宗なら、、コイツの声が聞こえれば、、戻って来られる気がする。

俺は時宗が好きだから、、時宗があの男に復讐めいたことをしたほど俺を想ってくれているから、、

俺は時宗とあのことを乗り越えたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...