俺たちは幽霊屋敷に住んでいる

ふじのはら

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10 時宗の正体

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時宗が帰ってくる予定の日になっても帰って来なかった事と全く連絡が取れなくなった事で、ユウから俺に名刺が渡ったことを時宗自身が知ったんだろうと悟った。

それから1週間たっても時宗は帰ってくるどころか音信不通のままで、俺は意を決して会社に電話をして確かめる事にした。

「すみません、同居している小野田と言いますが企画制作部の遊佐時宗さんお願いします」
そう伝えると受付の女性はすぐさま
「遊佐は先月末で退職しておりますが」と答えた。この時点でわりと大きな会社の受付の人間が、社員1人の辞職をそこまで把握していることに違和感を持つべきだったのに、俺は本当に時宗が同じ会社にいたことにまだ動揺していて気がつくことが出来なかった。

「、、そうですか、、ではデザイン部の服部ハットリさんに繋いで頂けませんか?私以前そちらに勤めていた小野田覚と言います。」

服部は中途採用で入社した俺のたった1人の同期で、会社帰りに飲みに行くくらいに仲がよかった。
でも俺は会社を突然辞めて服部からの連絡も拒んだので今更話すのは気まずい。だけど時宗を探すには服部のツテを頼らざるを得ない。


「小野田ぁ、久しぶりー!心配してたんだよ」
久しぶりに居酒屋で会った服部は少し気まずそうにしながらも俺に笑顔を見せた。
「ごめんな、服部。お前にも連絡とらずに、、」
「いいって。事情あんだろ?えっと、企画制作の、、遊佐と1番親しかったヤツ見つけたからさ、もうすぐ来ると思うわ。俺は仕事残ってるから、そいつ来たら戻るけど大丈夫か?」
遊佐という名前を出す一瞬の躊躇に違和感を覚えた。
「服部は遊佐のこと知ってる?」
「あ、いやいや、フロアも違うし全く知らないんだけど名前だけな。」
そう顔の前で手をふる服部にやっぱり違和感があったがそれを聞く前に、時宗と1番親しかったというヤツが到着して、服部は「連絡しろよ」と俺に告げると店を出て行った。

「企画制作部のカジです。」
名刺を受け取りながら俺も名乗ると梶は少し笑って「知ってます」と言う。
「いつか俺の所にあなたが来るんじゃないかと思ってましたよ。遊佐、いなくなったんでしょ?」
「、、何で、、」
「その前に、、あなたと遊佐の関係教えて下さい。ただの同居人?それとも同居人以上でしたか?」
梶はネクタイを少し緩めておしぼりで手を拭きながらチラリと俺を見る。
「は?何でそんなこと、、」
俺がムッとして少し睨むのを苦笑して、
「あなたと遊佐の関係によって、俺から話せる事が変わるんですよ」と最もらしいことを口にする。

「本当に、今梶さんしかツテないんで言いますけど、、時宗はどうか知りませんけど、少なくとも俺は、、」
「あぁ、そっか、うん、もうわかったから良いですよ。」
梶はニコリと笑ってビールを飲む。

「えっと、、遊佐が今どこにいるのかは俺も知らないんです、、でも実は俺あなたのことは結構知ってる」
「え、なんで、、?」
「小野田さんと遊佐って、子どもの時に友だちだったっんでしょ?ある時社員名簿か何かで小野田さんの名前見つけて、遊佐はあなたに会いに行った。ーでも名乗りそびれたんです。ただ、あなたの事を好きになって戻ってきた」
「ん?え?」
梶は楽しそうにクスクスと笑う。
「好きだって言ってませんでしたか?」
「、、いや、別に。ーじゃあ時宗は俺が同じ会社の人間だと知っていたんだ、、」

「1年くらいは好きだったと思いますよ。ただ、、気を悪くしないで下さいね。小野田さんが辞めた時のこと、、えっと取引先の人との噂、遊佐も聞いたんです。」
「あぁ、、、」

俺はショックを受けた。
俺がトラウマを告白した時、既にアイツはだいたいの事を知っていたんだ。
いろんな感情がごちゃ混ぜで、いったいどんな顔をして話を聞いたら良いのかわからなくなる。

「その噂と小野田さんが急に辞めたことで、アイツすごいショック受けて、、だいぶ荒れてましたね。」

ーあぁ、ユウが言っていたのはこの時の事かも知れない。
時宗は消えた俺を探して、あの台風の日にうちに辿り着いたのか、、

「遊佐、結構本気で好きだったみたいで、ハタから見てて心配になるくらいだったんです。」
「時宗は何でそれを隠して俺と同居を、、?」

梶は少し困った顔をしてポリポリと頬を掻く。
「、、まぁ、あなたが忘れたい事を知ってる会社の元同僚なんて会いたくなかったでしょう?」

ー、確かに。そんな事言われたら忘れたい事も忘れられないと拒絶しただろう、、

「遊佐は単純に小野田さんが心配で、必死に探して近づいたんです。心配で自分の事隠してたんです。恨まないでやって下さい。」

そう頭を下げる梶を少し羨ましく思う。この梶という男は時宗の本当の姿を知っているのだ。
「あ、そんな顔をしないで下さい。俺は遊佐と仲良いですけど、遊佐はあなた一筋ですからね。」
からかうように笑う梶を見て、時宗と似たタイプだなと思った。いかにもアイツと気が合いそうだ。

「時宗が会社辞めたのは、、俺と暮らす為?」
その俺の言葉に梶の顔から笑顔が消えた。ジョッキに残ったビールをグイッと飲み干す。

「会社を辞めた理由には関係してますけど、、もう少し複雑な問題です。これはちょっと俺の口から軽々しく言えないです。」

きっぱりと首を横にふる。

「じゃあ、今になって俺の前からいなくなった理由は?同僚だったと俺にバレたからか?」
「うーん、、これも言いにくい事なんですけど、、遊佐はとにかくあなたの事を心配していて、、自分が更に傷付けてしまう事をもっとも恐れてたんですよ。」
「、、、?」
「あー、もう!ごめんなさい、言っちゃいます!俺あなたと遊佐の際どい関係のこと、アイツが酔ってる時に聞き出しちゃって、、遊佐はこれ以上関係を進めることで、小野田さんのトラウマを引き出しちゃうことをかなり悩んでました」

ーそうか、、その両極に揺れていたから時宗はいつも優しかったし触れたいと言った、なのに仲が深まるのを恐れて距離を作り始めたんだ、、

バカだな、アイツ、、
俺のためなんかに1人で悩んで、、

何も言わない俺を梶はじっと見ていた。

「なんだ、小野田さんも、ちゃんと遊佐のこと想ってんですね。なんか微妙な関係って聞いていたけど、、その辺、お互い話したりしなかったんですか?」
「、、あぁ。なんとなくお互い態度でわかっている感じで、、でも、こんな事になるならちゃんと言えば良かったな、、」

「小野田さん、遊佐に今すぐ会いたいですか?放っておいてもいつかは小野田さんと暮らす家に帰るかもしれないけど、、今すぐ会いたいなら引きずり出すことたぶん出来ますよ?」
「どうやって?」
俺が驚いて梶を見ると、梶はニコニコ笑いながら携帯をふって見せる。

「あなたの写真を送れば。今から俺の家に持って帰っちゃうよって言えば、飛んでくるんじゃないです?」
楽しげに笑う梶に苦笑がもれる。
時宗の淡い恋心を梶がネタにして、仲良くじゃれ合う姿が簡単に想像できた。

「いえ、今は時宗にも時間が必要なのかも知れないから、、俺は大人しく家で待ちます。、、梶さん、念の為あなたの連絡先を聞いても?」
梶は手に持った携帯に自分の番号を表示させると、俺に手渡す。

「でも、忘れないで下さい。俺は遊佐の友だちなんで、遊佐の考えを尊重しますから」
「わかった。」


居酒屋をあとにして俺はその日はビジネスホテルに泊まった。この前のユウの話にしろ今日の梶の話にしろ、俺の知らなかった時宗の姿はたぶん全て本当で、、時宗が会社に居た頃から俺に好意を持っていた事も、好意をもっているヤツが取引先のオヤジにやられたかもしれないということも、、時宗に何が起きたのかだいたいはわかった。

ため息が出る。
ー本当にバカだろ、時宗。
男の俺なんかを傷つけないようにあんなに気遣って、、

俺は次の日には家に戻ることにしていた。
時宗がいつ現れるか、検討がついていたからだ。

恐らく、今月の末頃には、、

窓から懐かしい賑やかな街の光を見ながら俺は確信に近いものを持っていた。
街にはまだ少し早すぎる雪がチラチラと舞い降りていた。
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