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第一章 リリカとウィリアム
4:母ローズ
オーグナー公爵とブルーム伯爵たちが帰ったあと、晩餐の席でもリチャードは機嫌が良かった。
「ローズ、聞いてくれ。2人の娘の嫁ぎ先が決まったぞ!」
リチャードは上機嫌でワインを飲みながら、妻ローズへ言う。
「……どういうことですか?」
ローズは眉を顰めた。
「2人の許嫁が決まったのだ」
ローズはカッとなり、声を荒げた。
「そんな……大事な娘の婚約者を、勝手に決めないで下さい!」
「まあ落ち着きなさい。ローズも納得するさ」
「えっ……、誰なのですか?」
笑顔で自信満々のリチャードに、ローズも期待の気持ちが大きくなったようだ。
ローズは怒りを鎮めて、リチャードに話の続きを促す。
「キャサリンが、オーグナー公爵家の次男スターリンを選んだ。そしてリリカは、ブルーム伯爵家の長男ウィリアムだ」
しかし再び、ローズはすぐに眉を顰める。
「スターリンは確か……」
ローズは一瞬で顔面に笑顔を張り付け、優しい声でキャサリンへ尋ねる。
キャサリンが選んだと聞いて、頭ごなしに否定が出来ないのだ。
「……キャサリン、どうしてスターリンを選んだの?」
「だって、伯爵よりも公爵の方が身分が高いじゃない。でも公爵家は継がないし、領主の仕事もない。けれど公爵家の後ろ盾のある騎士。……お金には困らないでしょう? ゆっくり暮らせそう。それに、スターリン様の方が強そうだったし!」
「キャサリン!〝公爵様“"伯爵様"と呼びなさい!」
「はい、お父様」
咄嗟に父親から注意を受けたキャサリンだが、ニコッと笑顔で返事をしただけで悪びれる様子は一切ない。
そのような父と娘のやり取りには全く関心を持たずに、ローズは目を輝かせていた。
「まあ、さすがキャサリンね。それほどまで考えてのことなのね。そうね、わざわざ大変な道を選ぶ必要はないわよね。あなたはきっと、これからも賢い選択をしながら順風満帆で幸せな人生を送るに違いないわ!」
ローズはとにかく、いつもキャサリンの全てを褒めるのだ。
褒められたことでなかったとしても、どうにか褒める点を探し出して、いつも必ず褒める。
キャサリンはニッコリと、今度はローズへ笑顔を向ける。
キャサリンは10歳にして既に、”自分の笑顔が武器になる”ということを、本能で理解していた。
キャサリンの笑顔に、すっかり咎める気持ちを鎮められたリチャードは、苦笑いで言った。
「スターリンを選んだ理由はそれなのか……。10歳にして、将来に楽をすることしか考えていないだなんて……」
「良いじゃないの! 公爵家の次男で騎士だなんて素敵じゃない! オーグナー公爵なら信頼出来るし。さすがキャサリンね!」
ローズは満面の笑みで続ける。
「それにしてもブルーム伯爵は、キャサリンがスターリンを選んで残念だったでしょうね」
「な……何を言うのだ! ブルーム伯爵もリリカを気に入って下さり、喜んでいたぞ!」
リリカを"チラッ"と見てから、リチャードは慌てて言った。
「そんなの社交辞令でしょう。誰だってキャサリンのほうが良いに決まっているわ」
静かに食事をしながら、家族の会話を黙って聞いていたリリカは、そっとナイフとフォークを置いた。
そして膝の上でギュッと両手を握り、顔を下げてその両手をジッと見る。
(ああ、私の話はしなくて良いのに……)
話が出なければ出ないで、蔑ろにされているようで悲しい。
けれど話題にされることもまた、心穏やかではないのだ。
ローズのいる会話で、決してリリカにとって嬉しい内容が話題に上ることはないと、リリカはわかっている。
リリカは、期待しないことで傷つく気持ちを最小限にしようと、日々努めていた……
「ローズ、聞いてくれ。2人の娘の嫁ぎ先が決まったぞ!」
リチャードは上機嫌でワインを飲みながら、妻ローズへ言う。
「……どういうことですか?」
ローズは眉を顰めた。
「2人の許嫁が決まったのだ」
ローズはカッとなり、声を荒げた。
「そんな……大事な娘の婚約者を、勝手に決めないで下さい!」
「まあ落ち着きなさい。ローズも納得するさ」
「えっ……、誰なのですか?」
笑顔で自信満々のリチャードに、ローズも期待の気持ちが大きくなったようだ。
ローズは怒りを鎮めて、リチャードに話の続きを促す。
「キャサリンが、オーグナー公爵家の次男スターリンを選んだ。そしてリリカは、ブルーム伯爵家の長男ウィリアムだ」
しかし再び、ローズはすぐに眉を顰める。
「スターリンは確か……」
ローズは一瞬で顔面に笑顔を張り付け、優しい声でキャサリンへ尋ねる。
キャサリンが選んだと聞いて、頭ごなしに否定が出来ないのだ。
「……キャサリン、どうしてスターリンを選んだの?」
「だって、伯爵よりも公爵の方が身分が高いじゃない。でも公爵家は継がないし、領主の仕事もない。けれど公爵家の後ろ盾のある騎士。……お金には困らないでしょう? ゆっくり暮らせそう。それに、スターリン様の方が強そうだったし!」
「キャサリン!〝公爵様“"伯爵様"と呼びなさい!」
「はい、お父様」
咄嗟に父親から注意を受けたキャサリンだが、ニコッと笑顔で返事をしただけで悪びれる様子は一切ない。
そのような父と娘のやり取りには全く関心を持たずに、ローズは目を輝かせていた。
「まあ、さすがキャサリンね。それほどまで考えてのことなのね。そうね、わざわざ大変な道を選ぶ必要はないわよね。あなたはきっと、これからも賢い選択をしながら順風満帆で幸せな人生を送るに違いないわ!」
ローズはとにかく、いつもキャサリンの全てを褒めるのだ。
褒められたことでなかったとしても、どうにか褒める点を探し出して、いつも必ず褒める。
キャサリンはニッコリと、今度はローズへ笑顔を向ける。
キャサリンは10歳にして既に、”自分の笑顔が武器になる”ということを、本能で理解していた。
キャサリンの笑顔に、すっかり咎める気持ちを鎮められたリチャードは、苦笑いで言った。
「スターリンを選んだ理由はそれなのか……。10歳にして、将来に楽をすることしか考えていないだなんて……」
「良いじゃないの! 公爵家の次男で騎士だなんて素敵じゃない! オーグナー公爵なら信頼出来るし。さすがキャサリンね!」
ローズは満面の笑みで続ける。
「それにしてもブルーム伯爵は、キャサリンがスターリンを選んで残念だったでしょうね」
「な……何を言うのだ! ブルーム伯爵もリリカを気に入って下さり、喜んでいたぞ!」
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「そんなの社交辞令でしょう。誰だってキャサリンのほうが良いに決まっているわ」
静かに食事をしながら、家族の会話を黙って聞いていたリリカは、そっとナイフとフォークを置いた。
そして膝の上でギュッと両手を握り、顔を下げてその両手をジッと見る。
(ああ、私の話はしなくて良いのに……)
話が出なければ出ないで、蔑ろにされているようで悲しい。
けれど話題にされることもまた、心穏やかではないのだ。
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