【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣

文字の大きさ
4 / 63
第一章 リリカとウィリアム

4:母ローズ

オーグナー公爵とブルーム伯爵たちが帰ったあと、晩餐の席でもリチャードは機嫌が良かった。

「ローズ、聞いてくれ。2人の娘の嫁ぎ先が決まったぞ!」

リチャードは上機嫌でワインを飲みながら、妻ローズへ言う。

「……どういうことですか?」

ローズは眉を顰めた。

「2人の許嫁が決まったのだ」

ローズはカッとなり、声を荒げた。

「そんな……大事な娘の婚約者を、勝手に決めないで下さい!」

「まあ落ち着きなさい。ローズも納得するさ」

「えっ……、誰なのですか?」

笑顔で自信満々のリチャードに、ローズも期待の気持ちが大きくなったようだ。
ローズは怒りを鎮めて、リチャードに話の続きを促す。

「キャサリンが、オーグナー公爵家の次男スターリンを選んだ。そしてリリカは、ブルーム伯爵家の長男ウィリアムだ」

しかし再び、ローズはすぐに眉を顰める。

「スターリンは確か……」

ローズは一瞬で顔面に笑顔を張り付け、優しい声でキャサリンへ尋ねる。
キャサリンが選んだと聞いて、頭ごなしに否定が出来ないのだ。

「……キャサリン、どうしてスターリンを選んだの?」

「だって、伯爵よりも公爵の方が身分が高いじゃない。でも公爵家は継がないし、領主の仕事もない。けれど公爵家の後ろ盾のある騎士。……お金には困らないでしょう? ゆっくり暮らせそう。それに、スターリン様の方が強そうだったし!」

「キャサリン!〝公爵様“"伯爵様"と呼びなさい!」

「はい、お父様」

咄嗟に父親から注意を受けたキャサリンだが、ニコッと笑顔で返事をしただけで悪びれる様子は一切ない。
そのような父と娘のやり取りには全く関心を持たずに、ローズは目を輝かせていた。

「まあ、さすがキャサリンね。それほどまで考えてのことなのね。そうね、わざわざ大変な道を選ぶ必要はないわよね。あなたはきっと、これからも賢い選択をしながら順風満帆で幸せな人生を送るに違いないわ!」

ローズはとにかく、いつもキャサリンの全てを褒めるのだ。
褒められたことでなかったとしても、どうにか褒める点を探し出して、いつも必ず褒める。

キャサリンはニッコリと、今度はローズへ笑顔を向ける。
キャサリンは10歳にして既に、”自分の笑顔が武器になる”ということを、本能で理解していた。

キャサリンの笑顔に、すっかり咎める気持ちを鎮められたリチャードは、苦笑いで言った。

「スターリンを選んだ理由はそれなのか……。10歳にして、将来に楽をすることしか考えていないだなんて……」

「良いじゃないの! 公爵家の次男で騎士だなんて素敵じゃない! オーグナー公爵なら信頼出来るし。さすがキャサリンね!」

ローズは満面の笑みで続ける。

「それにしてもブルーム伯爵は、キャサリンがスターリンを選んで残念だったでしょうね」

「な……何を言うのだ! ブルーム伯爵もリリカを気に入って下さり、喜んでいたぞ!」

リリカを"チラッ"と見てから、リチャードは慌てて言った。

「そんなの社交辞令でしょう。誰だってキャサリンのほうが良いに決まっているわ」

静かに食事をしながら、家族の会話を黙って聞いていたリリカは、そっとナイフとフォークを置いた。
そして膝の上でギュッと両手を握り、顔を下げてその両手をジッと見る。

(ああ、私の話はしなくて良いのに……)

話が出なければ出ないで、蔑ろにされているようで悲しい。
けれど話題にされることもまた、心穏やかではないのだ。
ローズのいる会話で、決してリリカにとって嬉しい内容が話題に上ることはないと、リリカはわかっている。

リリカは、期待しないことで傷つく気持ちを最小限にしようと、日々努めていた……


感想 7

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria
恋愛
「私、アマンド様と愛し合っているの。レイリア、本当にごめんなさい。罪深いことだとわかってる。でも、レイリアは彼を愛していないでしょう?どうかお願い。婚約者の座を私に譲ってほしいの」 親友のメイベルから涙ながらにそう告げられて、私が一番最初に思ったのは、「ああ、やっぱり」。 婚約者のアマンド様とは、ここ1年ほど余所余所しい関係が続いていたから。 2人が想い合っているのなら、お邪魔虫になんてなりたくない。 心が別の人にあるのなら、結婚なんてしたくない。 そんなわけで、穏便に婚約解消してもらうために、我儘になってナチュラルに嫌われようと思います! でも本当は… これは、彼の仕事の邪魔にならないように、自分を抑えてきたヒロインが、我儘に振る舞ううちに溺愛されてしまう物語。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。

佐藤 美奈
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。 「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」 もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。 先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。 結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。 するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。 ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。