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第一章 リリカとウィリアム
5:初恋
「そのようなことはない! リリカは健康ではないか!」
父親の精一杯のフォローを聞きながら、リリカは両手を膝の上で更にギュッと握った。
そして直接話し掛けられることなく、自分の話題が早く過ぎ去るのをじっと待つ。
「あなた! それではまるで、身体の弱いキャサリンが悪い子みたいではありませんか!」
「そのような意味ではない! それぞれに良いところがあると言っているのだ。それに、リリカは顔も可愛らしいではないか」
リチャードは『なっ?』とリリカを見たが、下を向いたままのリリカと目が合うことはなかった。
「お姉様はそばかすが可愛らしくて、私は羨ましいわ」
キャサリンの言葉に、リリカは更に下を向く。
リリカはそばかすをコンプレックスに感じており、真っ白でそばかす1つない透き通るようなキャサリンの肌を見る度に、羨ましく思っていたのだ。
「キャサリン、そばかすを羨む人は100人に1人いるかいないかだけど、キャサリンの真っ白な陶器のような肌を羨む人は100人中100人よ」
ローズはキャサリンに満面の笑みでそう言うと、リリカを見て言った。
「そうね、確かにリリカの唯一良いところは健康なところね。キャサリンの栄養も奪って自分だけすくすくと育っているのですものね。お腹の中にいた頃からずっと」
病弱だが可愛らしいキャサリンへの両親の溺愛は、どんどん増していっている。
キャサリンは年を重ねるごとに容姿端麗に成長していることもあり、特にローズからの双子の扱いの差は、誰から見ても明らかだった。
「ローズ! 元気に育っている我が子になんてことを言うのだ!」
いつも庇ってくれる父に申し訳なさを感じながら、リリカは奥歯をギュッと噛み締める。
(お父様、私のことは良いから喧嘩しないで……)
まだ10歳リリカは、両親の喧嘩を見たくはなかった。
幼い子供にとって、どのような親でも、両親の不仲はとても辛いことなのだ。
ローズは夫リチャードの発言も、黙り込むリリカのことも全く気には止めず、自分の言いたいことを続ける。
「そうね、リリカも不細工ではないわ。キャサリンが可愛すぎるのよ。だからリリカ、容姿を気にする必要はないですからね。あと、ブルーム伯爵のところにこのまま嫁ぐことが出来るように、せいぜい気に入られることね。あなたには、今後これ以上の縁談はないでしょうから」
「ローズ、もう少しリリカにも優しく言えないのか……」
「あら、何を言うのですあなた! 私はリリカのためを思って言っているのですよ。ブルーム伯爵の社交辞令を真に受けて調子に乗れば、後で辛い想いをするのはリリカですからね。私はそうならないように、母親として真実を伝えて助言をしてあげたのです。ねえリリカ、私の言っている意味がわかるわよね?」
ローズは澄ました笑顔でさらりと言う。
何だかんだ妻に強く言えないリチャードは、テーブルに肘をつき頭を抱える。
リリカは母ローズの視線を感じながら、下を向いたままで答えた。
「……はい、お母様。調子に乗らないように気をつけます。助言をありがとうございます」
(きっとお母様の言う通りだわ。ブルーム伯爵様は社交辞令で、ああ言って下さったのだわ)
物心ついた時からずっと、リリカはキャサリンと差別をされ続けていた。
そのため、ローズにこのような言われ方をするのには、もうすっかり慣れっこだ。
しかし、それでも毎回心は痛むのだった……
成長の差なんて生まれ持った個性であり、決してリリカのせいではない。
しかし、リリカとキャサリンの見事なまでの体格差が、ローズの言うことが全て正しいようにリリカに感じさせるのだった。
狭い世界で生きている子供にとって、親の影響力は絶大だ。
こうして、母親に洗脳され続けて成長したリリカは、自尊心を養うことなく成長してしまったのである。
しかし今日、リリカは温かい感情を知った。
母の愛に飢えているリリカにとって、ウィリアムとの出会いは、一筋の光だった。
(ウィリアム様……私の許婚……)
寝る前に部屋でひとり、昼間に会ったウィリアムの姿を思い出す。
リリカは笑みを我慢できずに"ニマッ"と笑ってしまう。
(ふふっ。次はいつ会えるのかしら?)
リリカは、誰にも邪魔されない楽しみを見つけたのだ。
勿論、"ウィリアムに本当はどう思われているのか"という不安はある。
しかし、それ以上に大きなトキメク気持ちは、珍しくリリカを前向きにさせるのだった……
父親の精一杯のフォローを聞きながら、リリカは両手を膝の上で更にギュッと握った。
そして直接話し掛けられることなく、自分の話題が早く過ぎ去るのをじっと待つ。
「あなた! それではまるで、身体の弱いキャサリンが悪い子みたいではありませんか!」
「そのような意味ではない! それぞれに良いところがあると言っているのだ。それに、リリカは顔も可愛らしいではないか」
リチャードは『なっ?』とリリカを見たが、下を向いたままのリリカと目が合うことはなかった。
「お姉様はそばかすが可愛らしくて、私は羨ましいわ」
キャサリンの言葉に、リリカは更に下を向く。
リリカはそばかすをコンプレックスに感じており、真っ白でそばかす1つない透き通るようなキャサリンの肌を見る度に、羨ましく思っていたのだ。
「キャサリン、そばかすを羨む人は100人に1人いるかいないかだけど、キャサリンの真っ白な陶器のような肌を羨む人は100人中100人よ」
ローズはキャサリンに満面の笑みでそう言うと、リリカを見て言った。
「そうね、確かにリリカの唯一良いところは健康なところね。キャサリンの栄養も奪って自分だけすくすくと育っているのですものね。お腹の中にいた頃からずっと」
病弱だが可愛らしいキャサリンへの両親の溺愛は、どんどん増していっている。
キャサリンは年を重ねるごとに容姿端麗に成長していることもあり、特にローズからの双子の扱いの差は、誰から見ても明らかだった。
「ローズ! 元気に育っている我が子になんてことを言うのだ!」
いつも庇ってくれる父に申し訳なさを感じながら、リリカは奥歯をギュッと噛み締める。
(お父様、私のことは良いから喧嘩しないで……)
まだ10歳リリカは、両親の喧嘩を見たくはなかった。
幼い子供にとって、どのような親でも、両親の不仲はとても辛いことなのだ。
ローズは夫リチャードの発言も、黙り込むリリカのことも全く気には止めず、自分の言いたいことを続ける。
「そうね、リリカも不細工ではないわ。キャサリンが可愛すぎるのよ。だからリリカ、容姿を気にする必要はないですからね。あと、ブルーム伯爵のところにこのまま嫁ぐことが出来るように、せいぜい気に入られることね。あなたには、今後これ以上の縁談はないでしょうから」
「ローズ、もう少しリリカにも優しく言えないのか……」
「あら、何を言うのですあなた! 私はリリカのためを思って言っているのですよ。ブルーム伯爵の社交辞令を真に受けて調子に乗れば、後で辛い想いをするのはリリカですからね。私はそうならないように、母親として真実を伝えて助言をしてあげたのです。ねえリリカ、私の言っている意味がわかるわよね?」
ローズは澄ました笑顔でさらりと言う。
何だかんだ妻に強く言えないリチャードは、テーブルに肘をつき頭を抱える。
リリカは母ローズの視線を感じながら、下を向いたままで答えた。
「……はい、お母様。調子に乗らないように気をつけます。助言をありがとうございます」
(きっとお母様の言う通りだわ。ブルーム伯爵様は社交辞令で、ああ言って下さったのだわ)
物心ついた時からずっと、リリカはキャサリンと差別をされ続けていた。
そのため、ローズにこのような言われ方をするのには、もうすっかり慣れっこだ。
しかし、それでも毎回心は痛むのだった……
成長の差なんて生まれ持った個性であり、決してリリカのせいではない。
しかし、リリカとキャサリンの見事なまでの体格差が、ローズの言うことが全て正しいようにリリカに感じさせるのだった。
狭い世界で生きている子供にとって、親の影響力は絶大だ。
こうして、母親に洗脳され続けて成長したリリカは、自尊心を養うことなく成長してしまったのである。
しかし今日、リリカは温かい感情を知った。
母の愛に飢えているリリカにとって、ウィリアムとの出会いは、一筋の光だった。
(ウィリアム様……私の許婚……)
寝る前に部屋でひとり、昼間に会ったウィリアムの姿を思い出す。
リリカは笑みを我慢できずに"ニマッ"と笑ってしまう。
(ふふっ。次はいつ会えるのかしら?)
リリカは、誰にも邪魔されない楽しみを見つけたのだ。
勿論、"ウィリアムに本当はどう思われているのか"という不安はある。
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