12 / 51
12:4人家族の始まり
しおりを挟む「マリー、ご苦労だった」
呆然としているマリーは、声を掛けられて我に返った。
声の方を見ると、そこにはフリージアを連れたマストがいる。
今回も前回と同じ言葉を言うとすぐに、フリージアを連れて立ち去ろうとした。
しかし今回は前回と違い、フリージアがもっとマリーと一緒にいたいとごねたのだ。
「いやー! ママー!!!」
「フリージア、ママは今赤ちゃんを産んだばかりで疲れているのだ。ママと赤ちゃんが元気な様子を見れたから安心しただろう? 今日はゆっくりママを休ませてあげよう。子ども部屋でパパと遊ぼう」
マストはそう言ってフリージアをなだめた。
マリーは驚いた。
出産を終えてすぐの妻に、一言だけ掛けてすぐにその場を去る理由を知ったからだ。
(私を労っての行動だったと言うの!?)
気分が落ちていたマリーは、マストの間接的ではあるが貴重な優しい言葉に、思わず涙が込み上げて来たのだった。
「ママー?」
「フリージアも、産まれて来たこの子も、元気で嬉しいなと思って……。フリージア、仲良くしてあげてね」
泣いているマリーを不思議がって近寄って来たフリージアを、マリーはそっと抱き寄せて言う。
まだ2歳にもならないフリージアは、ポカンと口を開けてマリーを見ている。
(ふふっ。まだ分からないわよね。可愛いわね)
フリージアを見つめながら微笑んでいるマリーを、マストはそっと見つめていた。
「……リリーという名はどうだろうか?」
ふとマストにそう言われ、マリーは驚いた。
マストから何かを提案される事は、初めての事だったのだ。
(いつも決定事項を伝えられるだけなのに……。自分から名前を付けるという事は、二人目も女の子でガッカリしたりはしていないという事かしら……?)
マリーはそう疑問に思ったが、怖くて尋ねる事は出来なかった。
マリーは寡黙なマストとの結婚生活の中で、自分が傷付きたくないが為に、前以てその芽を摘む癖がついてしまっていた。
マストと言い争っても勝ち目はないのだ。
いつも論破され、マリーの感情に訴えた部分はスルーされる。
その様な事を繰り返しているうちに、最初は怒りを抱いていたが、今では悲しい感情を抱く様になっていた……
理解されたい人に理解されない、理解しようともされずに否定される悲しさ。
そして次第に、自己防衛が働く様になる。
そうしてマリーは、何も自分の意見を言わなくなり、更に微妙な内容は尋ねることはせずに答えを明らかにしようとはしなくなった。
「……とても良い名前ですね」
もし気に入らない名前であってもマリーはそう言ったであろうが、今回は本心だった。
マストは、マリーの返答に満足そうに微笑んだ。
「パパー、あそぶー」
マリーの妊娠中は主にマストがフリージアと身体を使った遊びをしていた為、フリージアはすっかりパパっ子になっていた。
マリーは生まれたばかりの我が子リリーを見た後、マストに抱きつくフリージアとマストを見て心の中で思う。
(家族四人で幸せになれますように……)
13
あなたにおすすめの小説
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
*加筆修正中です
王太子様お願いです。今はただの毒草オタク、過去の私は忘れて下さい
シンさん
恋愛
ミリオン侯爵の娘エリザベスには秘密がある。それは本当の侯爵令嬢ではないという事。
お花や薬草を売って生活していた、貧困階級の私を子供のいない侯爵が養子に迎えてくれた。
ずっと毒草と共に目立たず生きていくはずが、王太子の婚約者候補に…。
雑草メンタルの毒草オタク侯爵令嬢と
王太子の恋愛ストーリー
☆ストーリーに必要な部分で、残酷に感じる方もいるかと思います。ご注意下さい。
☆毒草名は作者が勝手につけたものです。
表紙 Bee様に描いていただきました
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】御令嬢、あなたが私の本命です!
やまぐちこはる
恋愛
アルストロ王国では成人とともに結婚することが慣例、そして王太子に選ばれるための最低の条件だが、三人いる王子のうち最有力候補の第一王子エルロールはじきに19歳になるのに、まったく女性に興味がない。
焦る側近や王妃。
そんな中、視察先で一目惚れしたのは王族に迎えることはできない身分の男爵令嬢で。
優秀なのに奥手の拗らせ王子の恋を叶えようと、王子とその側近が奮闘する。
=========================
※完結にあたり、外伝にまとめていた
リリアンジェラ編を分離しました。
お立ち寄りありがとうございます。
くすりと笑いながら軽く読める作品・・
のつもりです。
どうぞよろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる