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22:久しぶりの時間
しおりを挟む(こうしてフリージアと一緒にテーブルを囲むのは久しぶりね……。以前は毎日のことだったのに……)
フリージアと一緒にテーブルを囲んで何かを口にするのは、侍女となってから初めての事であった。
普段は考えないようにしているが、ふとした瞬間に過去を思い出し、胸が苦しくなる。
「まりー、おいちー」
「いちご、おいちー」
2語文が上手になって来たフリージアは、最近よく喋りたがる。
楽しくお喋りをしながら、口の周りに生クリームを付けながらニコニコとケーキを食べているフリージアが、マリーは可愛くて仕方がなかった。
(やっぱり良いわね……)
マリーはもう来ないかもしれないこの時間を、マストの言葉に甘えて、ゆっくりと味わいながら過ごしたのだった。
ティーセットを下げに来てくれたアリスが、モジモジと何やら言いたそうにしている。
「アリスさん、どうかされたのですか?」
アリスはマリーを見て、言いにくそうにしている。
「……マリー、旦那様に婚約の話があるそうよ。今回もローレル様が見つけていらっしゃったみたい。一週間後に屋敷へ来る予定だそうよ」
明らかに同情を浮かべながら眉を顰めて言うアリスに、マリーは苦笑いで誤魔化すしかなかった。
(ついにこの時が来た)
マリーはそう思った。
男がタングール伯爵の地位を継ぐ事に拘っているローレルは、すぐに次の結婚相手を探すであろうとは思っていた。
今回はいきなり結婚ではなく"婚約"という形をとるのは、流石に3回目の離婚は避けたいために慎重になっているのかもしれない。
(旦那様が誰と結婚しようと私は変わらないわ。ずっと侍女としてこの子達の側にいる事が出来ればそれで十分よ……)
しかしただ一つ、マリーには心配な事があった。
(新しい奥様が、フリージアとリリーの事も大切にして下さる心優しい方でありますように……)
その日から毎日、マリーはそう強く願い続けたのだった。
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