35 / 60
第四章 嘘が誠となる時
4:逃走
しおりを挟むアシュリーは痛めている右手と右足の痛みも忘れて、ひたすら走った。
そして三十分ほど走った所でつまづいてこけた。
そこは落ち葉が積もって絨毯のようになっている。
すると馬の足音が聞こえて来たため、アシュリーはそのまま自分の身体に落ち葉をかけて身を隠した。
「たまにある足跡から、こっち方面に逃げたことは間違いない! 意地でも見つけろ! でなきゃ俺らがリーダーにやられるぞ!」
「ああ! 手分けしよう!」
アシュリーが息を潜めていると、ポツポツと雨が降り始めた。
(足跡を消してくれるし、野生の動物にも遭遇しにくくなる。水分補給にもなるし、恵の雨だわ……)
アシュリーは少しホッとし、そのまま暫く動かなかった。
三十分ほど経っただろうか?
雨はすっかりザーザー降りになっている。
アシュリーは身体を起こし、雨で身体の泥を出来る限り流した。
そして上を向いて口を開ける。
「ああ、生き返るわ……」
ボソッとそう言うと、歩き始めた。
(少しでも遠くへ行かないと……どうか、町に辿り着けますように……!)
アシュリーは祈りながら、衣服が雨に濡れて重たく、足場も悪くなった山道を少しずつ進んで行った。
「クシュッ……クシュンッ……」
(何時間歩いたかしら……?)
夜中になり気温が下がり、濡れた衣類が体に張り付き身体が冷えて来た。
歩いて身体は暖かいはずだが、それを上回る冷えに、思わずクシャミを連発してしまう。
(休みたいけど、止まったら更に身体が冷えるわね……)
そう思い、アシュリーは無心で歩き続けた。
すると茂みを抜け、開けた草原に出る。
(森を抜けたわ……でも、草が短いし見晴らしが良い……身を隠せないわ……)
アシュリーは一瞬躊躇う。
(身を隠せないからこそ、暗いうちに進まなきゃ……)
アシュリーは草原に足を踏み入れる前に、少しだけ休憩をすることにした。
(陛下……私がいなくなったからと、酷い扱いを受けていないと良いけれど……)
「痛っ!」
ふと濡れた顔を擦ると、左頬に手が触れて激痛が走った。
(傷を見ていないからわからないけれど、きっと手当をした方が良いのでしょうね……雨も染みるし、もう一週間以上経つのに腫れて熱も持っているようだわ)
アシュリーは思わずため息をつく。
左頬の痛みを自覚すると、右腕と右脚も痛むことを思い出した。
(はあ……これ以上休んだら動けなくなりそうだわ。進みましょう)
アシュリーは疲労困憊の身体に鞭打ち、気力を振り絞って立ち上がる。
「私は生きる。任務を遂行して陛下を助け出す」
アシュリーは呟く。
そして少しの間を開けて、もう一つ口にする。
「……ヴィクター殿下にもう一度会う」
アシュリーは(よしっ!)と自分に喝を入れ、草原に足を踏み入れた。
時刻は恐らく夜中の2~3時だろうか。
アシュリーが草原を歩き出して1時間ほどした頃、アシュリーの目は灯りを捉えた。
「ひょっとして……」
更に足を進めると、小さな火の光がふたつ見える。
どうやら小さい村のようで、村の入り口にたいまつが焚かれているようだ。
「……村……」
(きっと探しに来るだろうから長居は出来ないわ。馬車か馬を出して貰えないか頼もう……)
ホッとしたのも束の間、アシュリーはすぐに気を引き締めた。
歩くスピードを速め、村へ急ぐ。
身を隠せない草原は恐怖以外の何者でもないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる