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第四章 嘘が誠となる時
10:城にて
しおりを挟む「アダム殿下、無理をなさってはお身体にさわります。どうか、お休み下さい」
「全然大丈夫だよ」
「ですが……」
執事長にそう言われ、アダムは苦笑いをする。
(身体が弱いため、余計な心配をされるな……)
エリザベス誘拐後はアダムが全指揮を取っている。
指示は的確でスムーズだ。
「兄上ー!」
「やあオーウェン、我が家の探偵さん。また何か情報を得たのかい?」
「うん、そうだよ!」
オーウェンは自分で貴族たちに話題の種を蒔き、その話題から派生する噂話を盗み聞きするのが得意だった。
「母上の物忘れの病は嘘だと国中に知らせたにも関わらず一向に噂が終息しないのは、真実だという噂を流し続けている人がいるからみたい」
得意気な顔で報告するオーウェンを横目に、アダムは表情を変えずに椅子に腰掛ける。
「それで?」
「噂の根っこの根っこは、グリーフ騎士団統括代理だよ」
「それはイーサンの告白でわかっているよ」
「今も噂が消えないように、表立ってではなく、部下たちに食堂や家などでわざと噂話をするように指示しているんだよ」
「何のために?」
アダムの問いにオーウェンはいよいよ得意な顔になる。
「グリーフ騎士団統括代理を次の騎士団統括だと噂する人が多かった。どうやら、誰かと組んでいるようなんだ」
「今回の誘拐事件にグリーフ騎士団統括代理も関与しているのか?」
「直接関与しているかはわからないけど、知っているのは間違いないよ。今回隠密に捜索させているのはアダム兄上側の騎士たちでしょ? 騎士団統括代理は誘拐される前から"もうすぐ国が変わる"そんなことを言っていたらしいんだ。知らなきゃ、今も何も言って来ないなんて変じゃない? 騎士団統括代理がこの騎士たちの動きに気付いてない訳がないよ」
「……確かにそうだね」
アダムは一瞬考えた後、オーウェンを見て言った。
「やはり私は未熟だな。オーウェンの言う通りだ。グリーフ騎士団統括代理を捕えよう。陛下の不名誉な噂を流しただけで罪に問われる行為だ」
オーウェンが満足な顔をしていると、今度はエイダンがやって来る。
「ああ、エイダン。まとめてくれたか?」
「……はい……」
エイダンは明らかにうんざりした顔で、三枚の紙をアダムに差し出した。
その紙には何かが箇条書きにしてあるようだ。
「なるほど、今まで開発したが失敗した物と成功した物、現在開発中の物で分類をしてくれたのだな。ありがとう」
「じゃ……」
「この場で一通り目を通すから待っていなさい。オーウェン、執事長を呼んでくれるかい?」
「はーい」
いやいやその場に留まるエイダンにウィンクをして、オーウェンは部屋を出て行った。
「この"視界遮る"が、アシュリーに渡した物かな?」
チラッとエイダンを見たアダムの問いに、エイダンは下を向いたまま頷く。
「今の在庫は?」
「……視界遮るが5個、30秒後に爆発する爆弾が2個、足の裏がくっつくのが10個、目が痛くなる唐辛子スプレーが3個、クシャミが止まらなくなるスプレーが3個、笑いが止まらなくなるスプレーが3個……かな」
「ははっ。自己防衛に良さそうなのが殆どだね。爆弾は物騒だ」
メモを取っていたアダムは、そこで顔を上げて笑顔でエイダンを見る。
エイダンは下を向いてモジモジしている。
「エイダン、いつでもすぐに使えるように準備をしておいてくれ。城も攻め入られる可能性があるからね」
アダムが真面目な顔でそう言うと、エイダンは黙って頷いた。
その時、ドアのノック音が部屋中に響き渡る。
「殿下! 速馬が来ました! ヴィクター殿下のつかいです!」
「応接間に通せ」
アダムはすぐに応接間へ向かった。
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