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第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染
⑮最終回
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(伝えることが出来た……)
カトリーヌは自然と微笑んでいた。
心の重荷をやっと下ろせたのだ。
一旦は封印しようと思った気持ちは、伝えてしまうととても嬉しいものだった。
(伝えることが出来て良かった。私の気持ちを解放してあげられた良かった。大切な大切な私の気持ち。私の初恋……)
カトリーヌは心の底から”ホッ”とし、こんなに素敵な感情をくれたローイに感謝の念が生まれる。
すると自然に、心の底からの笑顔をローイに向けていた……
「……」
目と口を真ん丸に開けて言葉を失っているローイに、カトリーヌは苦笑いする。
「何を聞いても、ずっと変わらず幼馴染でいてくれる約束よ? それに、明日には忘れていてね? いえ、今すぐ忘れてくれて構わないわ」
カトリーヌは、昔のように自然にローイに話し掛けることができている。
本当にスッキリしていた。
(魔女様、背中を押して下さってありがとうございます)
カトリーヌは心の中で魔女へ礼を言う。
「えっ……あっ……」
我に返ったローイが発言する前に、カトリーヌが口を開く。
「それで、あの女性とはいつから交際しているの? 全く隅に置けないんだから! あんな美人とどこで知り合ったのよ?」
「ちょっと待て! あの人は野菜や果物を作っている農家のお譲さんだ!」
「あー、仕入れで知り合ったの?」
冷静なカトリーヌを見ながら、ローイはどんどん狼狽していく。
次第に顔を赤らめ混乱の色を強くしていくローイが、カトリーヌは心配になる。
「大丈夫? 酔いが中々醒めないのね。もう家に帰って休んだ方が良いわ」
カトリーヌは席を立ち、ローイに帰宅を促した。
するとローイは勢いよく立ち上がり、カトリーヌの腕を掴む。
「そうだ彼女とは、仕入れ先を調べていて知り合ったんだ」
「……そう」
"チクン"
スッキリしたとは言え、カトリーヌの胸は少し痛んでしまう。
(でももう大丈夫よ。これからは、ローイの恋を精一杯応援しよう。大切な幼馴染が幸せになれるように)
勿論、無理をしていることは否めない。しかし自分の気持ちをローイに知ってもらえたことで、ローイの幸せを心から願おうという想いを持つことができるようになったのだ。
心の底からの本心で。
「ローイが幸せそうで嬉しいわ。応援するわね!」
最近ずっと見ることの出来なかったカトリーヌの満面の笑みに、ローイは更に顔を赤くして狼狽してしまう。
「……ああ、カトリーヌ、誤解している。ああ、なんて言えば……」
「大丈夫? 早く家に帰って休んで?」
これほど狼狽えているローイは初めて見るため、カトリーヌは心配になる。
ローイに捕まれている腕を引っぱり、ローイに立つよう促す。
立ち上がったローイは、カトリーヌの腕を掴んだまま困った顔をしている。
「ああ、なんて言えば。……あの女性とは何でもないんだ。あの親子と親しくなろうと、最近は隣町へよく通っていた。それで今晩彼女……娘さんと酒の飲み比べをして俺が勝ったら、美味しくて人気だが生産数の少ない野菜を俺の所に優先的に卸してくれるという契約をしてくれる約束だったんだ。あの後、親父さんも来る予定だった」
ローイの言葉にカトリーヌはキョトンとしてしまう。
(恋愛ではなく、仕事だった……)
カトリーヌはローイを見上げる。
(ローイに想い人はいない?)
カトリーヌは一瞬喜びかけてすぐに冷静になる。
「そうだったの。仕事の邪魔をしてしまってごめんなさい……」
「それは、また話に行くから良い」
カトリーヌは誤解からローイの仕事の足を引っ張ってしまったことを知り、気が沈んでしまう。
(良い訳ないわ。次のチャンスがあるとは限らない。ローイの野菜屋もうちと同じで売り上げが落ちていたのね……。はぁ……仕事の邪魔をしておいて告白するなんて……)
カトリーヌは自分の勝手さに落ち込みながら、入口の方へローイを見送りに行こうとするが、ローイはびくとも動かない。
「ローイ? 怒っているの? 本当に悪かったと思っているわ……」
「だから、つまり……カトリーヌ、俺と結婚しないか!?」
一瞬時が止まった。
カトリーヌは固まって目を真ん丸に見開いている。
目の前のさっきまでゆでだこのようだったローイは、相変わらず真っ赤だ。しかし、真っ直ぐにカトリーヌの瞳を見つめている。
その瞳は"本気だ"と訴えているようだった……
「カトリーヌ、結婚しよう」
「……あっあの、私の言ったことなら気にしないで? 明日からは、またただの幼馴染に戻るから。ローイも忘れてくれて良いから……」
カトリーヌは優しいローイに気を遣わせてしまったと、慌てる。
「違うんだ! 俺もずっと好きだったんだ。大好きなんだ。最近カトリーヌの様子が変でずっと焦ってた。一生一緒にいたいんだ。そのために仕事をなんとかしないとと思って……。収入を増やして安定させて、プロポーズするつもりだったんだ。だって、じゃないとおばさんも安心して嫁に出せないと思って……」
一気に捲し立てるローイに、カトリーヌは戸惑うしかできない。
「えっ、でもっ……」
「カトリーヌ、愛している。結婚して下さい」
真っ直ぐにカトリーヌを見て、再びローイは愛の言葉を口にする。
ローイはいつも誠実だ。
ローイがこんな嘘をつくはずはない。
気付くとカトリーヌの瞳からはハラハラと涙が溢れ出ていた。
「……はい」
カトリーヌは次の瞬間、ローイの胸の中にいた……
後日二人で隣町の農家親子へ謝罪と結婚報告へ行った。
酒の飲み比べは「あのまま行けばローイが勝っていたことは明らかだ」と娘が言ってくれ、二人の結婚も祝福してくれた。
「隣町の酒場に女一人で乗り込むなんて、良い根性しているわね!」
と何やらカトリーヌを気に入ってくれたのもあるようだ。
貴重な野菜の優先卸契約書を作成してくれたのだった。
「言ってくれたらよかったのに……」
「結果を出せるか不確かだったから……。はっきり成果を出してから報告して、プロポーズしたかったんだよ」
不器用な二人。
しかし、これからの二人はきっともう大丈夫……ーーー
ー完ー
カトリーヌは自然と微笑んでいた。
心の重荷をやっと下ろせたのだ。
一旦は封印しようと思った気持ちは、伝えてしまうととても嬉しいものだった。
(伝えることが出来て良かった。私の気持ちを解放してあげられた良かった。大切な大切な私の気持ち。私の初恋……)
カトリーヌは心の底から”ホッ”とし、こんなに素敵な感情をくれたローイに感謝の念が生まれる。
すると自然に、心の底からの笑顔をローイに向けていた……
「……」
目と口を真ん丸に開けて言葉を失っているローイに、カトリーヌは苦笑いする。
「何を聞いても、ずっと変わらず幼馴染でいてくれる約束よ? それに、明日には忘れていてね? いえ、今すぐ忘れてくれて構わないわ」
カトリーヌは、昔のように自然にローイに話し掛けることができている。
本当にスッキリしていた。
(魔女様、背中を押して下さってありがとうございます)
カトリーヌは心の中で魔女へ礼を言う。
「えっ……あっ……」
我に返ったローイが発言する前に、カトリーヌが口を開く。
「それで、あの女性とはいつから交際しているの? 全く隅に置けないんだから! あんな美人とどこで知り合ったのよ?」
「ちょっと待て! あの人は野菜や果物を作っている農家のお譲さんだ!」
「あー、仕入れで知り合ったの?」
冷静なカトリーヌを見ながら、ローイはどんどん狼狽していく。
次第に顔を赤らめ混乱の色を強くしていくローイが、カトリーヌは心配になる。
「大丈夫? 酔いが中々醒めないのね。もう家に帰って休んだ方が良いわ」
カトリーヌは席を立ち、ローイに帰宅を促した。
するとローイは勢いよく立ち上がり、カトリーヌの腕を掴む。
「そうだ彼女とは、仕入れ先を調べていて知り合ったんだ」
「……そう」
"チクン"
スッキリしたとは言え、カトリーヌの胸は少し痛んでしまう。
(でももう大丈夫よ。これからは、ローイの恋を精一杯応援しよう。大切な幼馴染が幸せになれるように)
勿論、無理をしていることは否めない。しかし自分の気持ちをローイに知ってもらえたことで、ローイの幸せを心から願おうという想いを持つことができるようになったのだ。
心の底からの本心で。
「ローイが幸せそうで嬉しいわ。応援するわね!」
最近ずっと見ることの出来なかったカトリーヌの満面の笑みに、ローイは更に顔を赤くして狼狽してしまう。
「……ああ、カトリーヌ、誤解している。ああ、なんて言えば……」
「大丈夫? 早く家に帰って休んで?」
これほど狼狽えているローイは初めて見るため、カトリーヌは心配になる。
ローイに捕まれている腕を引っぱり、ローイに立つよう促す。
立ち上がったローイは、カトリーヌの腕を掴んだまま困った顔をしている。
「ああ、なんて言えば。……あの女性とは何でもないんだ。あの親子と親しくなろうと、最近は隣町へよく通っていた。それで今晩彼女……娘さんと酒の飲み比べをして俺が勝ったら、美味しくて人気だが生産数の少ない野菜を俺の所に優先的に卸してくれるという契約をしてくれる約束だったんだ。あの後、親父さんも来る予定だった」
ローイの言葉にカトリーヌはキョトンとしてしまう。
(恋愛ではなく、仕事だった……)
カトリーヌはローイを見上げる。
(ローイに想い人はいない?)
カトリーヌは一瞬喜びかけてすぐに冷静になる。
「そうだったの。仕事の邪魔をしてしまってごめんなさい……」
「それは、また話に行くから良い」
カトリーヌは誤解からローイの仕事の足を引っ張ってしまったことを知り、気が沈んでしまう。
(良い訳ないわ。次のチャンスがあるとは限らない。ローイの野菜屋もうちと同じで売り上げが落ちていたのね……。はぁ……仕事の邪魔をしておいて告白するなんて……)
カトリーヌは自分の勝手さに落ち込みながら、入口の方へローイを見送りに行こうとするが、ローイはびくとも動かない。
「ローイ? 怒っているの? 本当に悪かったと思っているわ……」
「だから、つまり……カトリーヌ、俺と結婚しないか!?」
一瞬時が止まった。
カトリーヌは固まって目を真ん丸に見開いている。
目の前のさっきまでゆでだこのようだったローイは、相変わらず真っ赤だ。しかし、真っ直ぐにカトリーヌの瞳を見つめている。
その瞳は"本気だ"と訴えているようだった……
「カトリーヌ、結婚しよう」
「……あっあの、私の言ったことなら気にしないで? 明日からは、またただの幼馴染に戻るから。ローイも忘れてくれて良いから……」
カトリーヌは優しいローイに気を遣わせてしまったと、慌てる。
「違うんだ! 俺もずっと好きだったんだ。大好きなんだ。最近カトリーヌの様子が変でずっと焦ってた。一生一緒にいたいんだ。そのために仕事をなんとかしないとと思って……。収入を増やして安定させて、プロポーズするつもりだったんだ。だって、じゃないとおばさんも安心して嫁に出せないと思って……」
一気に捲し立てるローイに、カトリーヌは戸惑うしかできない。
「えっ、でもっ……」
「カトリーヌ、愛している。結婚して下さい」
真っ直ぐにカトリーヌを見て、再びローイは愛の言葉を口にする。
ローイはいつも誠実だ。
ローイがこんな嘘をつくはずはない。
気付くとカトリーヌの瞳からはハラハラと涙が溢れ出ていた。
「……はい」
カトリーヌは次の瞬間、ローイの胸の中にいた……
後日二人で隣町の農家親子へ謝罪と結婚報告へ行った。
酒の飲み比べは「あのまま行けばローイが勝っていたことは明らかだ」と娘が言ってくれ、二人の結婚も祝福してくれた。
「隣町の酒場に女一人で乗り込むなんて、良い根性しているわね!」
と何やらカトリーヌを気に入ってくれたのもあるようだ。
貴重な野菜の優先卸契約書を作成してくれたのだった。
「言ってくれたらよかったのに……」
「結果を出せるか不確かだったから……。はっきり成果を出してから報告して、プロポーズしたかったんだよ」
不器用な二人。
しかし、これからの二人はきっともう大丈夫……ーーー
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