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第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染
⑭あなたが本当に知りたいことは何ですか?
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「そうだったのか……。だから、いままで黙っていたのか……」
少し考え込んだ後、ローイは顔を上げた。
「俺もまだまだだな」
「えっ?」
意外な返答に、カトリーヌはキョトンとしてしまう。
「カトリーヌは今までそのことを打ち明けられなかった。俺のことを信用しきれていなかったってことだ」
「それは……。信用しきれていなかったというより、嫌われたくなくて……あっ!」
思わず口にしてしまった本音に、カトリーヌは(しまった)と口に手をやる。
「はっ? やっぱり信用していないんじゃないか! 俺がカトリーヌのことを嫌いになる訳ないだろ! お前が人を殺したとしても、俺はお前を信じ続けるし嫌いになんてならない!!!」
「……絶対に?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
「私が何を言っても、ローイが何を知っても、ずっと幼馴染でいてくれる?」
「ああ!!!」
ローイのその言葉に、ずっとつっかえていた物が取れる感覚がした。
魔女のことをずっとローイに隠していることに、罪悪感を抱いていた。
ローイがカトリーヌのことを、思っていた以上に幼馴染として大切に想っていてくれていることがわかり、胸が一杯で泣きそうになる。
カトリーヌは流れに身を任せることにした。
自分の気持ちに素直になることにした。
「ローイ、私、もう一つ聞いて欲しいことがあるの。聞いてくれるだけで良いの。明日には忘れて欲しいの。お願いできる?」
「ああ、吐き出したいことは吐き出せ。忘れて欲しいなら、忘れるから。聞き役に徹してやるから。だから、そんな顔するなよ……」
ローイの心配そうな表情に、カトリーヌはもう我慢が出来なかった。
思いが溢れそうになる。
でも、どう伝えていいかわからない。
喉に言葉がひっかかって出て来ない……
カトリーヌは鞄の中から巾着を取り出し、握り締めた。
席を立つと、紙とペンを持って席へ戻った。
「カトリーヌ?」
ローイが訝しがっているのにおかまいなしで、カトリーヌは紙に文字を書く。
そして巾着袋から小瓶を取り出すと、蓋を開けて一滴ミルクの中へ落とす。
(一度だけ、伝えさせて? そして忘れて、ただの幼馴染にまた戻るのよ)
そう思いながら……
「おい、今何を入れたんだ?」
「ローイ、黙って」
真面目な顔のカトリーヌに、ローイは黙る。
カトリーヌは微笑んで、裏返しの紙をローイの前に差し出した。
紙の上に手を載せたまま、言う。
「今から私がこのミルクを飲み終わったら、ローイはこの紙に書いてあることを私に訊ねて。それ以外は何も言わないで」
「なっ……」
何かを言い掛けたローイを、カトリーヌは口の前に指を一本立てて制した。
紙の上に載せていた手をどけ、カップを手に取ると、一気にミルクを飲み干す。
そしてカトリーヌは、真っ直ぐローイを見つめる。
ローイはカトリーヌの真剣さに圧倒され、ごくっと唾を飲み込むと、目の前にある紙を手に取りひっくり返した。
「……!?」
ローイは目を見開き、カトリーヌを見る。
そして恐る恐る口を開き、カトリーヌが書いたままを読んだ。
「”カトリーヌはローイのことをどう思っている?”」
ローイの喉仏が大きく上下したのを見ながら、カトリーヌの口は勝手に開く。
「大好きよ。幼馴染としてではなく恋愛対象として。一人の男性として」
スラスラと口が勝手に紡いだ言葉は、紛れもない真実だった。
少し考え込んだ後、ローイは顔を上げた。
「俺もまだまだだな」
「えっ?」
意外な返答に、カトリーヌはキョトンとしてしまう。
「カトリーヌは今までそのことを打ち明けられなかった。俺のことを信用しきれていなかったってことだ」
「それは……。信用しきれていなかったというより、嫌われたくなくて……あっ!」
思わず口にしてしまった本音に、カトリーヌは(しまった)と口に手をやる。
「はっ? やっぱり信用していないんじゃないか! 俺がカトリーヌのことを嫌いになる訳ないだろ! お前が人を殺したとしても、俺はお前を信じ続けるし嫌いになんてならない!!!」
「……絶対に?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
「私が何を言っても、ローイが何を知っても、ずっと幼馴染でいてくれる?」
「ああ!!!」
ローイのその言葉に、ずっとつっかえていた物が取れる感覚がした。
魔女のことをずっとローイに隠していることに、罪悪感を抱いていた。
ローイがカトリーヌのことを、思っていた以上に幼馴染として大切に想っていてくれていることがわかり、胸が一杯で泣きそうになる。
カトリーヌは流れに身を任せることにした。
自分の気持ちに素直になることにした。
「ローイ、私、もう一つ聞いて欲しいことがあるの。聞いてくれるだけで良いの。明日には忘れて欲しいの。お願いできる?」
「ああ、吐き出したいことは吐き出せ。忘れて欲しいなら、忘れるから。聞き役に徹してやるから。だから、そんな顔するなよ……」
ローイの心配そうな表情に、カトリーヌはもう我慢が出来なかった。
思いが溢れそうになる。
でも、どう伝えていいかわからない。
喉に言葉がひっかかって出て来ない……
カトリーヌは鞄の中から巾着を取り出し、握り締めた。
席を立つと、紙とペンを持って席へ戻った。
「カトリーヌ?」
ローイが訝しがっているのにおかまいなしで、カトリーヌは紙に文字を書く。
そして巾着袋から小瓶を取り出すと、蓋を開けて一滴ミルクの中へ落とす。
(一度だけ、伝えさせて? そして忘れて、ただの幼馴染にまた戻るのよ)
そう思いながら……
「おい、今何を入れたんだ?」
「ローイ、黙って」
真面目な顔のカトリーヌに、ローイは黙る。
カトリーヌは微笑んで、裏返しの紙をローイの前に差し出した。
紙の上に手を載せたまま、言う。
「今から私がこのミルクを飲み終わったら、ローイはこの紙に書いてあることを私に訊ねて。それ以外は何も言わないで」
「なっ……」
何かを言い掛けたローイを、カトリーヌは口の前に指を一本立てて制した。
紙の上に載せていた手をどけ、カップを手に取ると、一気にミルクを飲み干す。
そしてカトリーヌは、真っ直ぐローイを見つめる。
ローイはカトリーヌの真剣さに圧倒され、ごくっと唾を飲み込むと、目の前にある紙を手に取りひっくり返した。
「……!?」
ローイは目を見開き、カトリーヌを見る。
そして恐る恐る口を開き、カトリーヌが書いたままを読んだ。
「”カトリーヌはローイのことをどう思っている?”」
ローイの喉仏が大きく上下したのを見ながら、カトリーヌの口は勝手に開く。
「大好きよ。幼馴染としてではなく恋愛対象として。一人の男性として」
スラスラと口が勝手に紡いだ言葉は、紛れもない真実だった。
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