復讐輪舞1巻【学級崩壊編】

伊上申

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チャプター1【復讐しどう】

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チャプター1【復讐しどう】


 高校二年の初春。その人は、代替えとしてこの学校に入って来た。


「ーースクールカウンセラーの代わりとして勤めさせて頂く御堂筋シンと申します」

 挨拶する声は聞き覚えがあったが、服装が違う事と眼鏡を掛けている姿はカモフラージュか何かなのだろうか。俺が、復讐代行を依頼したシンさん本人だった。



 ――シンの突然の登場に驚きつつも正継は教室に戻る。扉を開けると廊下まで聞こえていた賑やかな喋り声がピタリと止んだ。

「…え……」

 静まる教室内。そこの生徒たちは、嘲笑と憐れみの視線を正継に向けていた。

 ――黒板に貼られた何かの写真。その内容は正継が中学の時に虐められていた瞬間を撮ったものだった。
 制服のズボンが脱がされ下着姿を露わにしている。殴られていたのか頬は腫れて口端から赤い体液が流れていた。恐怖の為に失禁したのか下着の前部分は濡れた染みがついている。


「今日は『お漏らし』してないですかぁ~?」

 写真を貼り付けたのは、長年に渡り正継を虐めている早川克(はやかわすぐる)。克は誰かの机に座りつつにやにやしながら正継に聞いてきた。

「……」

 正継はその場で固まってしまう。今までの虐めがフラッシュバックのように蘇り、恐怖で立ちすくみ身体が思うように動かせなかった。

 既に座っている他の生徒たちは微かな笑い声やひそひそとし、正継を『腫れ物』のように遠回しで見ていた。


「ちょっとォ! やめなさいよ!」

 そんな空気をかき消すように、正継の背後から突如聞こえる声。

 正継がびくりと肩を震わして振り返るとそこには眉尻をあげた井川遥(いがわはるか)がいた。

 彼女は正継の前を通り過ぎると黒板に貼り付けてあった写真を乱暴に取り、それを正継の前まで持ってくると、
「新宮司くんもちょっとは怒りなさいよ!」
 と、写真ごと正継の胸にバンッと手を押し当てた。


「…あ…うん。ご、ごめん……」

 突然の事で呆気に取られた正継は呆然としながら頷いた。


「…相っ変わらず情けねぇやつ!」

 予鈴が鳴り、克は立ち上がるとすれ違いざまに正継に嫌悪感露わに吐き出し自分の席へと戻った。



「おおーい。早く席に着けぇ」

 担任の七瀬友蔵(ななせともぞう)の声が背後から聞こえて正継も慌てて自分の席に着こうとした途端、足が何かに躓(つまづ)きバランスを崩しコケて床に膝を打ちつけてしまった。瞬間に教室内から湧き上がる笑い声。

 正継は膝に痛さに耐えつつすぐに自身の後ろに目を向けると、加藤憲久(かとうのりひさ)が爪先を出していて正継を転ばしたようだった。


「何やってんだぁ? 新宮司、お前は本当にトロいなぁ」

 一年から担任である七瀬は呆れたように正継を見やる。この担任は、正継が虐めに遭ってるにも関わらずそれを見て見ぬふりをするような教師だった。


「そんな事言うべきじゃないですよ、七瀬先生」

 七瀬の背後からスッと現れたのは副担任である長谷部香子(はせべきょうこ)。

「大丈夫? 新宮司くん」

 長谷部は少し前屈みになって正継に手を差し伸べる。

「…長谷部先生は優しいからなぁ」
 苦笑いする七瀬。しかし目は嫉妬心むき出しのようでその視線は正継へと突き刺さる。
「ちゃんとお礼を言うんだぞ、新宮司」


「は、はい…。すみません、ありがとうございます」

 正継はか細く言いつつ長谷部の手を掴み立ち上がる。悔しさと恥ずかしさから長谷部の顔を見れずに俯いたまま自分の席に着く。その後は何事もなく帰りまで時間は過ぎた。

 教室内の生徒が帰り支度をする最中、正継は早速シンの元へと足を運ばせた。


 ――正継が通う学校は、呈党(ていとう)学園と言う小中高一貫のマンモス校だった。一階に降り職員室と小会議室の間の【相談室】が、スクールカウンセラーの人が常勤している部屋だ。

 相談室の扉の前に立ち緊張した面持ちで一応の礼儀として扉をノックした。『どうぞ』と、聞き覚えのある声に少し安堵し、正継は中へと入った。


「ーー早速、誰かに復讐でも?」

 簡素な執務机の椅子に座るのは、正継が復讐代行を依頼したシン本人だった。

 シンは立ち上がり正継を応接用のソファに座るよう促してから、執務机の右奥にある給仕室に行き再び戻ってくると正継の前にあるローテーブルに紅茶の入ったティーカップを置いた。


「…あッ! す、すみません!」

 シンのさりげない心遣いに正継は恐縮して身を強張らせる。テーブルを挟んで向かいのソファに座るシンを目で追って、
「…あの…どうしてここに…?」
 紅茶を一口してそう切り出した。


「敵情視察ってところだな」

 薄い笑いと共にシンもまた自ら淹れたであろう紅茶に口をつけた。

「…『敵情視察』……」

 シンの言葉を噛み締めるようおうむ返しする正継。


「お前のクラスには癖のある奴等が多いな」

 口角を上げて正継を一瞥するシン。

「ーーさて。最初のターゲットは誰にしようか?」

 シンの、漆黒に煌めく瞳に正継は自然と魅入られてある人物の名を告げたのだった。





*****
チャプター1あとがき

復讐しどうの【しどう】は、意図があって平仮名にしています。【始動】と言う開始の意味合いと、【指導】と言う教え導く意味合いがあり、どちらも取れるようにしてあります。


*****

キャスト

二年四組名簿

担任
七瀬友蔵(ななせともぞう)
副担任
長谷部香子(はせべきょうこ)

男子
1、浅井彰人(あさいあきと)
2、加藤憲久(かとうのりひさ)
3、近藤大志(こんどうたいし)
4、佐藤清史(さとうきよし)
5、新宮司正継(しんぐうじまさつぐ)【主人公】
6、周防誠(すおうまこと)
7、瀬田総二郎(せたそうじろう)
8、東堂鉄也(とうどうてつや)
9、新田悠(にったゆう)
10、早川克(はやかわすぐる)
11、堀川稔(ほりかわみのる)
12、峰田将之(みねたまさゆき)
13、守下翔(もりしたしょう)
14、矢下吾郎(やしたごろう)
15、綿貫慎之介(わたぬきしんのすけ)
16、渡部則道(わたべのりみち)

女子
17、浅山千夏(あさやまちなつ)
18、井川遥(いがわはるか)
19、臼井瑠璃(うすいるり)
20、木下結衣(きのしたゆい)
21、五島爽佳(ごとうそうか)
22、斉藤菜々美(さいとうななみ)
23、佐野郁美(さのいくみ)
24、宍戸綾(ししどあや)
25、仙堂愛子(せんどうあいこ)
26、常田叶恵(ときたかなえ)
27、内藤友里江(ないとうゆりえ)
28、武藤楓(むとうかえで)
29、欄間晶子(らんましょうこ)
30、渡瀬千鶴(わたせちづる)

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