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チャプター7【断罪2】
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チャプター7【断罪2】
「…憲久は容赦なかったからな」
いつのまにか歌い終わったのか、近藤大志(こんどうたいし)は嫌悪した面持ちで呟いた。
「まあ、家柄ってのもあるけど…あいつは……」
そこまで言って大志は言葉を濁す。
「……」一瞬だけ口籠もり意を決したように少し俯かせた顔をあげ、「…あいつは死んで良かったと、俺は思う」
「…っ、お前…っ!」
克は立ち上がり大志の胸ぐらを掴み上げた。
「あいつはっ! 憲久は俺の…っ!」
「知ってるよ!」
少し声を荒げて大志は克の手を払い除けた。
「お前があいつと幼馴染って事はっ!」
乱れた服を整えて恨みがましい視線を克に向ける。
「だけどっ、憲久の身勝手さで俺等がどれだけ散々な目に合ったかお前も知ってるだろっ!」
「ー…それはっ」
大志と克は、今でも掴みかからん勢いで互いを睨みつける。
「…っ、克…っ。ごめん…。私が…、私が余計な事言ったから……っ」
爽佳も立ち上がり克の腕にしがみつく様に自身の腕を絡ませた。
「…ねぇ」
それまで黙って爽佳の向かいのソファに腰掛けていたもう一人の女子――渡瀬千鶴(わたせちづる)が静かに口を開いた。大志と克、爽佳が彼女に視線を向けると、
「あの二人って、もしかして……」
千鶴は勿体ぶるようにゆっくりと言い、
「……何だよ?」
大志が訝しがって続きを促す。
「憲久と遙は……『復讐』、されたかも……」
「ハァ?!」
千鶴の少し不安げな呟きに素っ頓狂な声をあげる大志。
「復讐って、誰にだよ?」
「それは分かんないけど。でもさ……」
言いかけて再び言葉を切る千鶴。他の三人は黙って続きを待った。千鶴はスカートのポケットからスマートフォンを取り出して何やら検索し始め、
「……これ」
三人に見えるようにスマートフォンの画面を見せる。
――画面は、とある検索サイトの検索順位一位になっている【復讐代行】の文字。
「ー…復讐代行……」
その文字を、克は呟くように読んだ。
「え? ちょっと待てよ。それって『都市伝説』じゃねーのか?」
大袈裟なと言わんばかりに乾いた笑いを浮かべる大志。
「でも待って」
それに意を唱えるように割り込んできたのは爽佳。
「ーー数年前にさ。どっかのヤクザの組の人達が全員焼死体で発見されたの知ってる?」
大志と克。千鶴の顔を順に見回しながら爽佳は続ける。
「でもあれって、対立する組織の仕業じゃなかったか? 確か、部屋中にガソリン撒かれて火をつけられたって……」
克が思い出したように言えば、
「『表向き』、はね」
含みあるように頷く爽佳。
「どう言う事だよ?」
再び大志が眉を顰めて訝しがる。
「私の叔父にあたる人が警察関連で働いてるって知ってるよね?」
爽佳が三人に同意を求めるように言えば、三人は三者三様で頷く。
「ーーその叔父さんがさ、ちょっと教えてくれたんだけど。実は『若頭』って人が生存者だったんだけど、その人の供述によると『復讐を頼んだあいつがやったんだ』って言ってたらしいけど、ガソリンの匂いとか、組以外の人物が何人かいたみたいで対立組織による報復っていう事になったんだって」
「……マジなのか」
爽佳が一気に話し終えると三人は驚きの表情を隠しきれず、克が小さく呟いた。
「うん……」
克の呟きに同意する様に頷く爽佳。
「い、いやでも。『報復』って事で片付けられたんだろ?」
「それはそうなんだけど」
何故か慌てる素振りを見せる大志をちらりと見る爽佳。
「だから『復讐代行』なんて……」
「悪(わり)ぃけど俺、用事あるから先帰るわ」
克はいきなり何かを思い立った様に大志の言葉尻を遮って、急ぎ帰ってしまった。
「……な、何だよあいつ突然」
克の背中を呆然と見送った大志は、不満げに呟いたのだった。
――そして。
早川克(はやかわすぐる)はその日を最後に消息を絶った。
「…憲久は容赦なかったからな」
いつのまにか歌い終わったのか、近藤大志(こんどうたいし)は嫌悪した面持ちで呟いた。
「まあ、家柄ってのもあるけど…あいつは……」
そこまで言って大志は言葉を濁す。
「……」一瞬だけ口籠もり意を決したように少し俯かせた顔をあげ、「…あいつは死んで良かったと、俺は思う」
「…っ、お前…っ!」
克は立ち上がり大志の胸ぐらを掴み上げた。
「あいつはっ! 憲久は俺の…っ!」
「知ってるよ!」
少し声を荒げて大志は克の手を払い除けた。
「お前があいつと幼馴染って事はっ!」
乱れた服を整えて恨みがましい視線を克に向ける。
「だけどっ、憲久の身勝手さで俺等がどれだけ散々な目に合ったかお前も知ってるだろっ!」
「ー…それはっ」
大志と克は、今でも掴みかからん勢いで互いを睨みつける。
「…っ、克…っ。ごめん…。私が…、私が余計な事言ったから……っ」
爽佳も立ち上がり克の腕にしがみつく様に自身の腕を絡ませた。
「…ねぇ」
それまで黙って爽佳の向かいのソファに腰掛けていたもう一人の女子――渡瀬千鶴(わたせちづる)が静かに口を開いた。大志と克、爽佳が彼女に視線を向けると、
「あの二人って、もしかして……」
千鶴は勿体ぶるようにゆっくりと言い、
「……何だよ?」
大志が訝しがって続きを促す。
「憲久と遙は……『復讐』、されたかも……」
「ハァ?!」
千鶴の少し不安げな呟きに素っ頓狂な声をあげる大志。
「復讐って、誰にだよ?」
「それは分かんないけど。でもさ……」
言いかけて再び言葉を切る千鶴。他の三人は黙って続きを待った。千鶴はスカートのポケットからスマートフォンを取り出して何やら検索し始め、
「……これ」
三人に見えるようにスマートフォンの画面を見せる。
――画面は、とある検索サイトの検索順位一位になっている【復讐代行】の文字。
「ー…復讐代行……」
その文字を、克は呟くように読んだ。
「え? ちょっと待てよ。それって『都市伝説』じゃねーのか?」
大袈裟なと言わんばかりに乾いた笑いを浮かべる大志。
「でも待って」
それに意を唱えるように割り込んできたのは爽佳。
「ーー数年前にさ。どっかのヤクザの組の人達が全員焼死体で発見されたの知ってる?」
大志と克。千鶴の顔を順に見回しながら爽佳は続ける。
「でもあれって、対立する組織の仕業じゃなかったか? 確か、部屋中にガソリン撒かれて火をつけられたって……」
克が思い出したように言えば、
「『表向き』、はね」
含みあるように頷く爽佳。
「どう言う事だよ?」
再び大志が眉を顰めて訝しがる。
「私の叔父にあたる人が警察関連で働いてるって知ってるよね?」
爽佳が三人に同意を求めるように言えば、三人は三者三様で頷く。
「ーーその叔父さんがさ、ちょっと教えてくれたんだけど。実は『若頭』って人が生存者だったんだけど、その人の供述によると『復讐を頼んだあいつがやったんだ』って言ってたらしいけど、ガソリンの匂いとか、組以外の人物が何人かいたみたいで対立組織による報復っていう事になったんだって」
「……マジなのか」
爽佳が一気に話し終えると三人は驚きの表情を隠しきれず、克が小さく呟いた。
「うん……」
克の呟きに同意する様に頷く爽佳。
「い、いやでも。『報復』って事で片付けられたんだろ?」
「それはそうなんだけど」
何故か慌てる素振りを見せる大志をちらりと見る爽佳。
「だから『復讐代行』なんて……」
「悪(わり)ぃけど俺、用事あるから先帰るわ」
克はいきなり何かを思い立った様に大志の言葉尻を遮って、急ぎ帰ってしまった。
「……な、何だよあいつ突然」
克の背中を呆然と見送った大志は、不満げに呟いたのだった。
――そして。
早川克(はやかわすぐる)はその日を最後に消息を絶った。
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