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11話 つかず離れずだったのに3
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11話 つかず離れずだったのに3
「う、うん……。ありがと、ね……」
素直に頷く暖子さん。扉を開けようとして、その足元がガクリと崩れた――
「ーーッ! 暖子さんッ?!」
俺の腕は後ろに倒れそうになる暖子さんの背を再び支えた。
「……ッ、ゆき、とくん、ごめ……」
浅い呼吸を繰り返し目の焦点が合わさらない暖子さんはそのまま倒れるように気を失った。
「ちょッ、暖子さん……ッ!」
暖子さんの身体を支える俺は、素早く彼女の額に手をあてる――先程より若干熱さが増していた。
「……嘘だろ……?」
暖子さんの身体が、只事じゃない事態に陥っている事に俺は信じられなくて焦りを感じた。
――何で気づかなかった?
何で何も言わなかった?
何でこんなんになるまで――?
頭の中で問い詰めるような疑問を繰り返すが、俺は暖子さんをおんぶするように背に担ぎ、彼女を寝かせようと玄関を開ける。
「お邪魔します」
律儀にそう言って、靴をもどかしくも脱ぎつつズカズカと入り込んで簡素なマットレスを敷いた布団に暖子さんを寝かせた。
――暖子さんの住まいは1Kで少し殺風景な印象だったが、今はそれどころじゃない。
多分風邪だとは思うが、長年風邪など引いたことのない俺は何をどうすればいいか分からなかった。
「とりあえず、熱を下げないとな……」
思い立って俺は立ち上がり、
「ちょっと待っててな」
布団で横たわる暖子さんに一言そう告げて部屋から出ていった。
――近くのコンビニで必要最低限の物を買って、俺は再び暖子さんの自宅へと戻った。その際に、午後休と明後日が土曜日だったので一日有給を取るべく仕事先に連絡を入れておいた。
「……お邪魔します」
再び律儀にそう言って、玄関先で靴を脱ぎ――
あれ? 暖子さんって靴脱いだっけ?
そう思いたって慌てて暖子さんの足元を見れば、暖子さんは靴を履いたままだった……。
ごめん、暖子さん。
慌ててたとは言え、家主の靴を脱がす事まで頭が回らなかった俺は心中で謝り、暖子さんの靴を脱がせると玄関に置いた。
買ってきた物のビニール袋を漁り、
「冷えピタ、でいいよな」
一人納得しつつ、それを暖子さんの額にペタリとくっつけた。
「……ん」
急激な冷気を感じたのか、暖子さんは少し声を漏らして眉を顰めつつ朧げに目を開けた。
「……ゆ、雪斗くん……?」
「寝てなって」
状況が分からないようで目を瞬く暖子さんが起き上がろうとしたので俺はそれを軽く制した。
「あり、がと……」
えへへと笑う暖子さん。安堵したのだろうか再び目を瞑り眠りに落ちた。
そんな彼女を見て俺は立ちあがろうとしたが出来なかった。手に何かの引っ掛かりを感じて目を向けると――暖子さんの手が、いつの間にか俺の袖の裾を握り締めていたのだった。
「……暖子さん……」
知らずに彼女の名を呼んでしまう。
俺は軽い溜息を吐いて、しばらくその場にいる事にした。
「う、うん……。ありがと、ね……」
素直に頷く暖子さん。扉を開けようとして、その足元がガクリと崩れた――
「ーーッ! 暖子さんッ?!」
俺の腕は後ろに倒れそうになる暖子さんの背を再び支えた。
「……ッ、ゆき、とくん、ごめ……」
浅い呼吸を繰り返し目の焦点が合わさらない暖子さんはそのまま倒れるように気を失った。
「ちょッ、暖子さん……ッ!」
暖子さんの身体を支える俺は、素早く彼女の額に手をあてる――先程より若干熱さが増していた。
「……嘘だろ……?」
暖子さんの身体が、只事じゃない事態に陥っている事に俺は信じられなくて焦りを感じた。
――何で気づかなかった?
何で何も言わなかった?
何でこんなんになるまで――?
頭の中で問い詰めるような疑問を繰り返すが、俺は暖子さんをおんぶするように背に担ぎ、彼女を寝かせようと玄関を開ける。
「お邪魔します」
律儀にそう言って、靴をもどかしくも脱ぎつつズカズカと入り込んで簡素なマットレスを敷いた布団に暖子さんを寝かせた。
――暖子さんの住まいは1Kで少し殺風景な印象だったが、今はそれどころじゃない。
多分風邪だとは思うが、長年風邪など引いたことのない俺は何をどうすればいいか分からなかった。
「とりあえず、熱を下げないとな……」
思い立って俺は立ち上がり、
「ちょっと待っててな」
布団で横たわる暖子さんに一言そう告げて部屋から出ていった。
――近くのコンビニで必要最低限の物を買って、俺は再び暖子さんの自宅へと戻った。その際に、午後休と明後日が土曜日だったので一日有給を取るべく仕事先に連絡を入れておいた。
「……お邪魔します」
再び律儀にそう言って、玄関先で靴を脱ぎ――
あれ? 暖子さんって靴脱いだっけ?
そう思いたって慌てて暖子さんの足元を見れば、暖子さんは靴を履いたままだった……。
ごめん、暖子さん。
慌ててたとは言え、家主の靴を脱がす事まで頭が回らなかった俺は心中で謝り、暖子さんの靴を脱がせると玄関に置いた。
買ってきた物のビニール袋を漁り、
「冷えピタ、でいいよな」
一人納得しつつ、それを暖子さんの額にペタリとくっつけた。
「……ん」
急激な冷気を感じたのか、暖子さんは少し声を漏らして眉を顰めつつ朧げに目を開けた。
「……ゆ、雪斗くん……?」
「寝てなって」
状況が分からないようで目を瞬く暖子さんが起き上がろうとしたので俺はそれを軽く制した。
「あり、がと……」
えへへと笑う暖子さん。安堵したのだろうか再び目を瞑り眠りに落ちた。
そんな彼女を見て俺は立ちあがろうとしたが出来なかった。手に何かの引っ掛かりを感じて目を向けると――暖子さんの手が、いつの間にか俺の袖の裾を握り締めていたのだった。
「……暖子さん……」
知らずに彼女の名を呼んでしまう。
俺は軽い溜息を吐いて、しばらくその場にいる事にした。
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