中年おばちゃんにガチ恋しました!

伊上申

文字の大きさ
14 / 19

13話 この感情をなんと言うのか2

しおりを挟む
13話 この感情をなんと言うのか2


 ローテーブルの前に胡座で座る俺は、差し出されたお茶を呆然と見つめていたようで、暖子(はるこ)さんから訝しげに掛かる声で意識を取り戻した。


「……雪斗(ゆきと)くん、もしかして私の風邪がうつっちゃった?」

 少し申し訳なさそうに眉をひそめ俺の顔を覗き込んでくる暖子さん。


「あ~違う違う」
 俺は情けなく笑い首を横に振るう。
「暖子さんが体調良くなってよかったなぁって」

 別にやましい事はないのだが、(そもそも暖子さんに恋愛対象など抱いてはいなくて本当にただの気の合う友人のような感覚)、俺はなぜか言葉を濁してしまった。


「……う。あの時は本当にごめんなさい。でもありがとうね」

 暖子さん独特の柔らかい微笑み――その笑みはどうしてだろうか、見る度に俺の心臓を跳ね上がらせる。


 とうに枯れ果てたはずの得体の知れない感情が湧き水の如く溢れ出てきそうで、本能なのか、俺はその溢れ出そうな潤いに固く堅く栓をした。


(やめてくれ。俺はもう同じような過ちを繰り返したくはない)


 警鐘にも似た自主的防衛。


 暖子さんとは、『ただの友人』でいたい。

 俺の気持ち悪い性癖なんて、暖子さんは知らなくていい。知らないままでいて欲しい。この関係を崩したくはないから。

 そう思うと同時に、もっと近づきたいと言う相反した衝動にも駆られてしまう。

『もっと彼女の事を知りたい。もっと俺の事を知って欲しい』

 なんて実に手前勝手な自分も、舌舐めずりして内側から這い出てこようとしている。


 色んな感情が入り乱れて俺は気付かずうちに深い溜息を吐いてしまったようで、


「……雪斗くん、大丈夫?」

 心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる暖子さん。


「まあ、疲れたってのはあるけど……」

 当たり障りない会話をし、暖子さんの視線から不自然ではない程度に顔を逸らした。


「そうだっ、暖子さん!」

 彼女との、このまま友人としての状態を何とかと持ちたかった俺は『ある提案』を暖子さんに投げかけた。

「ライン、交換しない?」


「……『ライン』?」

 俺の向かいに座った暖子さんの表情が少し曇る。

 もしかしてこれって迷惑だったのだろうか。


「あ、嫌なら別にいいんだけど……」

「ううん、違うの。えっとね」
 慌てて首を横に振るう暖子さん。少し考え込むように顎に手を添え、
「私、ラインあるけどあまり使ってなくて……」
 ちょっとすまなさそうな表情で上目遣いで俺を見てきた。


「何だそんな事」

 俺は、本当は嫌なんじゃないかと身構えていたから拍子抜けしてしまった。半ば呆れ笑いになりながらも、

『またなんかあった時に連絡しやすいでしょ?』

 最もらしい理由をつけてどうにか暖子さんとラインの交換をした。

 暖子さんが手慣れた手つきでスマートフォンを操作しているのを何気なく見ていると俺のスマートフォンが、ピロリンッと着信音を響かせた。画面を見ると、今人気のアニメのスタンプで『お礼』のメッセージが暖子さんから送られてきた。


「暖子さんもこのアニメ好きなの?」

「えへへ」

 俺がそう聞くと暖子さんは少し照れたように笑い小さく頷いた。


 まるで、いたずらっ子のような普段とのギャップが相まって俺の心臓は再びトクントクンと高鳴り始めた。

 これ以上の深入りはいけないと思いつつも、しばしその心地よく懐かしい感覚に少しだけ身を委ねたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...