プロクラトル

たくち

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砂の世界

新たな武器

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 シンの忠告を無視し突き進むユナはとうとうドーム状の結界のようなものまで辿り着いてしまった、すると何もなかったかのように突然ドーム状の結界のようなものは消えて無くなってしまう。

「何よ?これ」

 もうユナの説得は諦めたシンは覚悟をしユナに追いつく。
 祭壇のような物の上には真紅の刀が突き刺さっており、光を反射し怪しげに輝いている。

「どうする?抜いてみるか?」

 ここまできたらさすがにこの刀が気になる。
ユナに提案すると肯定の返事が返ってきたので刀に近づく。

「ん?何か書いてあるな」

 そうして注目するとユナも近づいてくる。
祭壇には文字が刻まれている、この刀の事だろうか。

「読めないわ、シンは読めない?」

 生憎だがシンにも読めない、おそらく創世期の文字だろう。
ノアなら読めるはずだが相変わらず呼んでも出て来ない。

「読めないならいいわ、早く抜いてよ!」

 明らかに最高級の一品であろう刀を前にユナは心を躍らせる。なんだかんだでシンもワクワクしていた。

「待ってろ、ヨッ!あれ?」

 抜けない。まあ軽い感じだったし思ったより刺さってるんだろ、そう結論付けさらに力を込める。

「ふぎぎぎぎぎ!」

 変な声を出してしまったが渾身の力を込めても刀はビクともしない。

「何だこれ、メチャクチャ重いぞ!」

 何度か角度を変えてみたりしたが刀は抜けなかった。

「何やってんのよ、情けないわね!」

 見かねたユナが、「こーたいこーたい」と言いながらシンと入れ替わる。

 シンの様子を見ていた為、両手で柄を握り刀を抜きにかかる。

「何だ、抜けるじゃない」

 そんな馬鹿な、とシンが言っていたが本当にユナは刀を抜いていた。
その刀身は身の丈ほどあり峰は赤黒く、刃は赤く輝いている。

「アンタ意外と力ないのね」

 なんて言いながら刀を振り回すユナ、危ない。

「何か異変はないか?」

 あんな封印みたいな事をされてる刀を持ってるユナが心配で声をかける。

「何ともないわ、でもこの刀良いわね、赤いし!」

 赤が好きなのだろう、嬉しそうに素振りをしている。
問題ないならユナの物にしよう。

「なかなか似合ってるじゃないか、良かったなユナ」

「うん!」

 うむ、気に入ったのなら良かろう、と偉そうに頷くシン。
だが現実はやはり甘くはなかった。

 完全に油断していた、瞬間世界が止まる。
 視界はなぜか赤くなり、時間が止まる。もちろんシンも動かない。

「ちょっとどうしたの⁉︎」

 刀を持つユナのみが止まった世界で動いている。
突然動きを止めたシンの肩を掴み揺らす、しかし動かない。

『あまり動かさない方が良い』

 突然、止まった世界に声が響く、幼いがどこか老獪さを感じる声だ。

「誰⁉︎」

 辺りを見渡すユナに見えたのは1人の薄い赤い肌をした少女の姿。

『君が器じゃな、ワシは”契”この刀の分身じゃ』

 契、そう答えた少女の手にはいつの間にか真紅の刀が握られている。

(いつの間に)

 唐突に奪われた刀に驚いたがすぐに冷静になる。

「その刀が何の用?残念だけどその刀は私が使うの、返してよ!」

 ユナの中ではあの刀はもう自分の物になっていた。
 早く返せと手を伸ばすが刀ではなく言葉が返ってくる。

『それは出来ん、契約によりおぬしの体はワシの物となる。渡すのはおぬしの方じゃ』

「そんな事出来ないわ、刀をよこしなさい」

 当然ユナは否定する、誰が好きで訳の分からない奴に自分の体を渡すものか。

『仕方ないの、そこまで欲しければ奪ってみるがよい。ワシから奪えーーー話は最後まで聞かんか!』

 少女だが年寄りだかわからない奴がそう言った瞬間、ユナは刀を掴みにかかる。
しかし突然の事にも少女は落ち着いて対応する。

「うるさいわね!とっとと渡しなさい!」

 再度少女に向け突撃するユナだったが、その刀に触れる事は出来なかった。

「このっ!チョロチョロと!」

 何度もかわされムキになるユナ、だがそんな事では刀は奪えない。

『ではこちらから行くとしよう』

 そう言った少女の姿が消える。
身構えるユナだったが少女の狙いはそこではなかった。

「やめて!」

 急いで動くユナの先には固まったシンの場所だ。そう少女はシンを狙ったのだ。

『ふむ、防がれたか』

 追い付いたユナはシンを攻撃しようとする少女の刀を剣でガードする。

(押される!)

 だが普通の剣では真紅の刀を防ぐ事が出来ないようだ。
徐々に刀が剣を傷つけ斬り裂こうとする。

「やっ!」

 このままではまずいと感じたユナは少女を蹴り飛ばす、その小さな体は軽く蹴りの威力で吹き飛ぶ。

『なかなかやるの、じゃがまだ甘い』

 少女を蹴る事を躊躇ったユナはそれほど力を込めなかった。
だがシンが狙われた以上この少女は倒さなくてはならない。

(打ち合ってはこっちの剣が持たない、一撃で終わらせないと)

 剣を握る手に力を込める。
これまでのやり取りから少女の身体能力はユナより低い、確実に仕留める為一撃に全てをかける。

『良い集中じゃ、ワシも覚悟をするかの?』

 楽しそうに笑いながら言う少女の言葉はユナには聞こえない。
斬る、その為にユナの集中は極限まで高まっている。

「っシッ!」

 ユナが一瞬で少女のもとに現れ一閃、横薙ぎに振られた剣は唸りを上げ少女を斬り裂く。
ユナの想像通り少女はユナのスピードについて行けず遅れる。
だが横腹に食い込んだ剣を目掛け真紅の刀を振る、交錯した刃は性能の違いからやはりユナの剣が斬られ少女の体を斬り裂くには至らない。

 だがユナの攻撃は止まらない、剣を話すと少女に足払いをし押し倒す。
そして馬乗りになり剛力が込められた拳を振りかざす、何度も何度も。

『やっやめ』
ゴズッ
『もっ、こう』
ドゴッ

 途中なにやら少女が言っていた気がするがひたすら殴り続ける。

『やっやめんか!も、もう降参じゃ!』

 そこまで言われてユナは殴るのをやめる。少女の顔は元の形がわからないほど腫れ上がっている。

『遠慮なしに殴りおって!何度も降参と言っておったろうが!』

『ちょっとした余興のつもりだったのじゃ!何百年も封じられてたからちょっと楽しもうとしただけなんじゃ』

「余興?」

 今だ馬乗りのままユナが聞き返す。

『そうじゃ、ホントは刀は渡すつもりだったのじゃ、じゃが久しぶりで嬉しくてのう』

「だっだらとっとと渡しなさいよ!」

 またもや拳を掲げるユナに刀を渡す、その少女の姿はひどく怯えていた。

『久しぶりの使い手がこんなじゃじゃ馬とはの、はぁ手加減なしに殴りおって』

 それを聞きまたも拳を掲げるユナに『ヒィっ』と怯えながら言う。

『稀代の名匠オーガスが創りし14の業物の一振り、皇龍刀”契”その名の通りおぬしと契約を交わそう、おぬし名は何という?』

「ユナよ、ユナ・アーネス」

 刀を受け取りユナは答える。

『ユナ・アーネスよ皇龍刀に宿りし最後の龍人、契がおぬしの力となろう』

 そう言って姿の消えゆく契。

「最初からそうすれば良いのよ」

 ユナの言葉に苦笑いを浮かべ消える、するとユナに変化が起こる。

「な、何これ?」

 ユナの力はもう満たされたはず、だがその満たされたはずのユナの器は大きくなっていく気がする。
気のせいではないもっと強くなれるそういう確信が持てた。

「やった」

 つい喜びの言葉が発せられる、行き止まりに感じられていたユナの道がどんどんと広がっていった。

 いつの間にか動き出した世界で何もわからないシンに微笑みを浮かべ、遺跡を抜ける為2人で歩き出す、その手に新たな自分の分身となる真紅の刀を握り締め。


*******

 シン達が遺跡から脱出した後、最後の部屋に”契”は残っていた。ユナに殴られた傷はすでに無くなっている。

『ここともお別れじゃな』

 封じられて忌々しい場所だが何百年もいた為さすがに愛着が湧いていた。

「久しぶりだね、どうだい?久々の外世界は」

 あまりにも異質な存在、何ものにも染まらない真っ白な髪を持ち、無邪気な子供にも落ち着いた大人のようにも見える女性がいつの間にか現れていた。

『ノアか、出てきおったのか』

 いきなり現れたノアに驚きもせず答える。

「ああ、さっきシンが一緒にいただろう?彼のおかげさ」

『あの男か、冗談のつもりじゃったが殺しておくべきだったか?』

「やらせると思うかい?」

 殺す、契がそう言った瞬間からノアから神にふさわしい押し潰されるような威圧が発せられる。

『かっかっか、そう構えるな。冗談じゃて』

 その威圧に臆せず契は笑う、この瞬間に笑える存在はほとんどいない。

『喧嘩っ早いのは変わらんな、煽られるのに慣れておいた方が良いぞ?』

 やはり昔から知り合いなのだろう、契の顔は懐かしさを感じているようだ。

「本気じゃないさ、ボクも久々に知り合いに会えて嬉しいのさ」

 何事もなかったように会話が続く。

(それにワシの持ち主はその男を気に入っておるようだからの。そんな事をしたらワシが持ち主に殺されるじゃろ」

 かっかっか、と笑いながら契は話す、ユナの態度がわかりやすかったのでシンへの気持ちを察していた。

「君と戦うのはボクも嫌だからね、どうだい?新しい持ち主は?」

 ユナについて尋ねるノア、なかなか人を認めない契がユナをどう評価するか気になるのだ。

『面白いの、あれ程の力がありながらまだ上を目指しておる、退屈せんですみそうじゃ』

 面白い、契にそう評される者はほとんどいない。

『また、何かするつもりか?』

 また、そう契はノアに問いかける。

「大切にしてくれよ、あれは器を持っている」

『ほう?通りで人の身でありながら強力な力が宿るはずじゃ』

「ああ、本当に大切にしてくれよ、いずれボクの物になるかもしれないからね」

 薄く笑いながら神は消える、この会話の内容がわかる者は創世より存在する者だけだった。

『簡単にいくと思うなよ?人は決して弱くない』

 今度は契の姿が消える、新たな持ち主へ降りかかる神の手を打ち払う事を誓って。

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