プロクラトル

たくち

文字の大きさ
56 / 174
森の世界

世界樹の試練

しおりを挟む
 第1の試練を乗り越えたシン達はそのまま次の試練へと向かっていた。
 転移により意識だけが取り残される感覚のあとシン達が目にしたのは先ほどと同じ巨大な両開きの扉だった。

「また同じような試練なのか?」

 第1の試練にはシン達は嫌な記憶を植え付けられた。
 また似たような試練だと思うと足が進まないのだ。

「止まってても仕方ないじゃない。行くわよ」

 そんな中でもユナとナナは堂々と扉を開ける。
 その後ろ姿に頼もしさを感じつつシン達は部屋の中へと入り込んだ。

「何よ、これ?」

 先ほどと同じような円形の部屋でシン達とは反対側に巨大な木で作られた4本腕の人形が案山子のように動かずに立っていた。

『汝らの力を示せ』

 部屋に入り込んだシン達に試練を知らせる声が響き渡る。
 直後巨大な木製の人形が動き出す。
 力を示せという事はあの人形と戦うと言うことだろう。
 リリアナを後ろに下がらせエルリックとシンは武器を取り出す。

『よかろう、汝らの力は証明された』

「へっ?」

 戦闘を始めようとしていたシン達に試練に合格したとまたもや声が響き渡る。

「何よ、弱いじゃない」  

 戸惑うシン達の前には真紅の刀を鞘に戻し歩いて戻ってくるユナの姿だ。
 彼女の後ろにある巨大な人形はユナがこちらに向き直り歩き出したと同時に綺麗に真っ二つにその体を割き轟音を立て崩れだした。

「すごい」

 初めて目にしたユナの本気の一撃にシーナは驚きの声を出した。
 瞬殺と言った言葉が相応しいユナの攻撃にシン達はその場から動く事なく試練が終わりを告げた。

「これで1対1ね、リリアナ」

 未だ硬直したリリアナにユナは宣言した。
 先手をリリアナに許してしまったユナは力を示せとの言葉に木製の人形が動き出した事から試練の内容を瞬時に把握し誰よりも速く人形を破壊したのだ。

「さっ早く次行きましょう」

 第1の試練で溜まった鬱憤を晴らしたユナは早々と転移魔法陣へと移動する。
 ユナ以外の者達は試練が終わったと実感の持てぬまま次の試練へと向かって行った。

 **

『汝らの数への力を示せ』

 次の試練へと向かったシン達を待ち受けていたのは、100体ほどの木製の人形の群れだった。
 形は同じだが大きさは人間大に小さくなっており部屋を埋め尽くしていた。

『よかろう、数への力は示された』

 またしても一瞬で試練は終わりを告げた。
 部屋を埋め尽くしていた木製の人形は斬られ押し潰されバラバラになっている。
 人形の代わりに部屋を埋め尽くしているのは無数の剣や斧などの武器である。

 終わらせたのは”国滅”と呼ばれるナナだった。
 たった1人で小国を壊滅させるほと対多数の戦闘を得意としているナナにとっては100体程度の人形では相手にならないのだ。

 試練を告げる声が響いた直後部屋の天井や壁から無数の武器が人形へと射出され轟音と共に人形達は破壊された。

「これで、私も1回」

 ユナとリリアナに向けナナは指を立て言葉を出す。
 その意味をユナとリリアナはすぐさま理解し強敵が現れた事を喜ぶように次は負けないと話している。

 **

『汝らの精確な一撃を示せ』

 次の試練べ待ち受けていたのは腕が8本に増えた木製の人形だ。
 人間の心臓の位置にあたる所に赤く的のような塊が張り付いている。

「僕に任せてくれ」

 人形へと向かったのはエルリックだ。
 純白と漆黒の槍を1つの長槍へと変化させ、うねうねと動き的を隠す腕の隙を見逃さずエルリックは幾度となく繰り返し洗練させた突きを放ち見事に一撃で赤い的を破壊する。

『よかろう、汝らの精確さは示された』

 またも試練は直ぐに合格となり次の試練へと足を進める。

 次の試練は巨大な人形1体と小さな人形50体の群れだった。
 ユナが同じように巨大な人形を一撃で葬り小さな人形はナナの攻撃により1体も残らず破壊される。

 赤姫の団長と副長は何度も一緒に戦った事があるのだろう。
 ナナの無差別に繰り出された武器達をユナは掠りもせず巨大な人形を倒していた。

「手応えがないわね」

 すぐに終わる試練にユナはそう感じていた。
 だがこの人形はこんなに容易く倒せる存在ではない。
 事実この試練を乗り越えられる挑戦者は少ない。
 人形以前にユナとナナが強すぎるのだ。

 次の試練では巨大な人形が2体待ち受けていた。
 だがそれもユナは一撃で葬り試練は突破される。

「これはわたくしにおまかせ下さい」

 9階の試練では部屋の中央には、対角に穴の空いた大きめな台座があった。
 その台座の上には小さな四角い石板が幾つもバラバラに転がっており、その石板の表面には直線や直角に折れ曲がっり曲線が描かれていた。

 意味のわかっていないシン達をよそにリリアナは素早く石板を並べ替えていく。

「出来ましたわ」

 石板を並べ替えたリリアナはシン達に向き直る。
 台座を覗くと対角にある穴が石板に刻まれた模様によって繋がっていた。

 試練の終わりを告げる声が響きシン達は部屋を後にする。

「今日はもう遅いですしこれで終わりにしましょう」

 リリアナの言葉にシン達は同意し転移魔法陣で1階であるユグンに戻る。

「今の所は私が勝ってるわね」

 ここまで8個の試練を終わらせユナは3つの試練を、リリアナは2つ、ナナは2つの試練を攻略した。
 途中ユナとナナが共闘したので両方の功績にしたのだ。

「いえ、まだまだ先はあるのです。せいぜい僅かな優位を喜んでいて下さいね」

 自信ありげに言うユナにリリアナはまだまだと対抗する。
 こうして言い争いをするのもシン達は見慣れた物だ。

「この人達、めちゃくちゃだ」

 最初の試練以外あっさりと攻略するシン達にシーナは驚いてばかりだ。
 戦闘になった途端敵を一瞬で葬り試練を乗り越えるユナとナナ。
 悩むそぶりも見せず問題を解くリリアナ。
 的を狙わせないように動く8本の腕を物ともせず一撃で的を精確に射抜くエルリック。

 世界樹の試練を乗り越える挑戦者が少ない事を知っているシーナからすればこの仲間達の実力に驚くと共に頼もしさを感じている。
 この人達がシーナの獣王選定に力を貸してくれる事が嬉しいのだ。

「おにぃさん」

「何だ?」

「おにぃさんを待ってて良かった」

「そりゃどうも」

 シンはシーナの頭を撫でる。
 虐げられながらも自分を待っていたシーナに待ってて良かったと言われるのはシンにも嬉しいのだ。
 普段感情を表に出さないシーナが笑顔を見せた事もだ。

「けどおにぃさん」

「何だね」

「おにぃさん、何もしてなくない?」

 偉そうに何だねと答えてしまったシンにシーナは言ってはいけない事を言ってしまう。
 シン自身も思っていたのだ、そして何とか隠そうとしていた。
 今日の世界樹の攻略で自分が何もしていない事を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...