プロクラトル

たくち

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森の世界

最後の敵

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 アルファスとの対戦が終わり2日後にシーナは目を覚ました。
 既に体の傷は治りきっており、戦闘も可能な状態だ。

「決勝はメリィさんになりましたか」

 シーナの眠っている間にもう1つの試合は行われており、シン達の予想通りメリィが勝ち上がった。
 決勝は3日後に決まり競技内容は決勝開始時に伝えられる。

「戦いづらいか?」

 メリィの表情は冴えない、メリィと長く付き合いのあるシーナは戦う事に抵抗が少なからずあるのだろう。

「はい、ですがここまで来たのですから負けるつもりはありません」

 シーナはすぐに気持ちの切り替えをする。
 メリィとの戦いがある事は前から考えていた事、それが実現しただけだ。

「メリィの仲間も結構な実力者だったよ」

 メリィの戦いを観戦しに行ったエルリックはシン達に見て来た事を説明をした。

 メリィの仲間は4人おり全てこの世界の住人だった。
 皆が使命を果たし自在に獣の力を扱える。

 ガイゴと言う男はこの世界のアギリスゴングの力を使う。
 その怪力はユナと同じように闘技場のステージを破壊するほどだ。
 大木をそのまま振り回すように巨大な棍棒での戦闘をする。

 リーミアと言う女性はガラと言う大型の蛇を相棒としている。
 体の関節がなくなったかのように自在に体を曲げ、予測の出来ない攻撃と締め技を繰り出してくる。

 スズーと言う男はチーアゲハと言う蝶の能力である神経毒を含んだ鱗粉を撒き散らす。
 麻痺毒により動けなくなった敵にメリィの炎で攻撃する場面が多かった。

 ターラスと言う男は跳猿と言う自在に森を飛び回る魔獣の力で身体能力が向上し、メリィの狙いと違う敵を攻撃してくる。

「スズーって奴の毒は当然敵にしか効果ないか」

 メリィ達は味方が毒を使う以上、何かしらの対策を取っているはずだが、シン達に毒に対する知識もあるがない。

「チーアゲハの使う毒なら、解毒薬は街に売っているはずです」

 この森の世界の生物であるチーアゲハの解毒薬が街に売っているとシーナは答えた。
 だがその考えはリリアナも思い付いていたようだった。

「残念ですがこの街にチーアゲハの解毒薬は売っていませんでした。商人の話では獣王選定の前に大量に買い込んだ人物がいるそうです。先に手は打たれていたのでしょう」

 メリィは解毒薬を全て買い込んでいた。
 解毒薬の元となる材料の入手は今からでは時間が足りない。

「チーアゲハの毒が回るまで時間がかかります。抵抗のないおにぃさん達でしたら5分といったところですかね」  

「その5分の間に倒せれば良いんだがな」

 決勝の競技内容次第では苦戦は免れない。
 一対一での戦いなら毒の回る前に決着を付けられる可能性が高いが全員と同時に戦うとなるとメリィ達はスズーを守りに入るだろう。

「それと気になる点があるのです」

「なんだ?」

「エルリックにも確認したのですが、どうもメリィさん達と対戦した相手は手を抜いているように見えたのです。戦闘に疎いわたくしにもメリィさん達の戦いは違和感がありました」

 どこか違和感を感じていたリリアナは共に観戦していたエルリックにも確認をした。
 エルリックもリリアナと同様に違和感を感じていたようだ。

「ああ、それとなく戦いはしているが本気の勝負には見えなかった。事前にメリィさん達の勝ちが決まっていたと考えるのが正しいだろう」

「そんな…」

 メリィに疑いを持っていたシン達と違いシーナは動揺を隠せない。
 森の世界の王を決める争いで不正をするなど考えなれないと言った表情だ。

 だがエルリック達の目にはどうにも真剣勝負をしているように見えなかった。
 恐らく敵に対してメリィが獣王になった後の待遇を条件に負けさせたのだろう。

「なら今までのメリィ達の戦いが実力の全てではないな、想定よりも上の実力があると考えるぞ」

 シン達は話し合いを終え、シーナの体調を確認する為世界樹の外に出て軽く運動をする。
 シーナの確認が終わるとシン達を待ち構えるようにメリィが現れた。

「シーナちゃん、決勝は負けてくれないかな?」

「何を言い出すんです?」

 シン達の正面に立ちメリィはシーナにわざと負けろと言う。
 だがシーナにそんな事をするつもりはない。

「他の候補者にも同じ事を言ってたのですか?」

「急によそよそしくなったね、シーナちゃん。私が獣王になったらシーナちゃんの集落もちゃんと良くしてあげるわよ?」

 これまでの候補者にも同じ事を言っていたのだろう。
 シーナがこの話に乗ると確信を持っているようだ。

「必要ありません。私が獣王になればそんなルールは無くしてしまいますから」

 シン達に視線で合図を送りシーナはメリィから離れていく。
 同じ世界の住人に差別をさせるようなルールを取り消す為にシーナは獣王を目指しているのだからメリィの言っている事など聞く必要はない。
 メリィは自分にわざと敗北した者達を優遇し他は虐げると言っているのだから。

「ほんと、混じり者のくせに気持ち悪いわね」

 メリィの横を通り過ぎるシーナに小さなメリィの言葉が聞こえた。
 思わずシーナは足を止めてしまう。
 今までシーナや他の混じり者にも分け隔てなく接していたメリィとは思えないような冷たい声にシーナの体から自由を奪う。

「あんたみたいな半端者が獣王になんてなれると思ってるの?」

「なれます」

 メリィからの冷たい視線にシーナは動揺しながらも答える。
 メリィの今までの自分への態度が偽物だったと気付いた。

「強いお仲間を見つけちゃって忘れてるのかな?あんたみたいな混じり者にこのユグンに入られるだけでこっちは気分悪くて仕方ないんだよ。混じり者は私達の為に外で死にもの狂いで働いてれば良いのよ」

「間違った考えは私が変える」

「出来ない夢は見ないでね、大人しく最初から負ければ良かったのよ」

「どういう意味ですか?」

「ほんとお仲間さんには迷惑しちゃう、まさかシーナちゃんの疫病が治るなんてね。それにユギリオスなんか絶対見つけられないし倒せないと思ったのに。ロイズにも勝っちゃうし、アルファスもまさか負けるとはね。混じり者のあんたにはもったいないわ、私に頂戴」

 メリィは一次予選でシーナに少年をぶつけ獣王責任者に働きかけ、シーナだけ異常に難易度の高い課題を押し付けた。
 それでも乗り越えたシーナに事前にシーナと同じく陥れようとしていたロイズをシーナと潰し合うように仕組み、最後は序列10位のアルファスとも当たるように決勝の組み合わせを操作していた。

「メリィだったな、お前の物になった覚えはないからな」

 シンはシーナの手を引きメリィから離れる。
 離れていくシーナにメリィはさらに言葉をかける。

「男に腰振る前に、使命を果たしたらいいのにね。あっそうかその男にそうするのがシーナちゃんの使命だっけね」

 メリィへの返答は言葉ではなく真紅の刀だった。
 首筋に当てられた刀にもメリィは動じない。

「死にたいの?」

「あなたが私を殺せばシーナちゃんは獣王になれないからね、それも良いかも」

「そんなにシーナが獣王になるのが嫌なの?」

 自分が殺されてもシーナが獣王にならないのなら良いと言うメリィにユナは背中が冷たくなるような感じがした。

「さあね、あなた達にはわからないよ」

 ユナ達他の世界の者にこの森の世界の事はわからないとメリィはこれ以上話をする事はしなかった。
 刀をしまいユナはシンたちの下へと戻る。
 森の世界の王、獣王選定は最後の戦いに突入する。
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