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氷の世界
決闘
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「これが竜車か、こういうのに乗るのは初めてだな」
決闘当日、セレス達が用意した竜車にシン達は乗り込んだ。
2匹の地竜により引かれ、ゆっくりと進み出す竜車は不思議な事に揺れはほとんどない。
竜車には振動軽減の魔術が常に発動されており、乗り込んだ者達の負担を軽減する仕組みになっている。
竜車はそれを引く地竜により、短距離型と長距離型に分かれるが、今回セレス達が用意したのは短距離型の地竜であり、ルノー雪原まで平均で2時間ほどの所を30分ほと短縮出来る。
「セレス達は先に行ってるみたいね」
竜車を用意したと連絡を貰ったのだが、竜車乗り場にセレス達の姿はなく、竜車の運転を任された業者の者から先に向かったと報告を受けた。
「何か仕掛けてるかもしれないな」
戦闘力が高いだけではSランク冒険者まで上り詰める事は出来ない。
時には待ち伏せや罠の使用などあらゆる物を利用する。
決闘場所を決めたのもセレス達である、先に向かい何かを仕掛けてる可能性が高い。
「ルノー雪原に着きました。ここからは徒歩で向かって下さい、真っ直ぐ行けば双蒼の烈刃の方々がいますので」
竜車から降りたシン達は、運転手に指示された場所に向かい徒歩で向かう。
雪の積もる平原は晴天の為、所々雪が解け白と緑の大地が入り乱れている。
10分ほど歩き続けると、凹凸の少ない平原に少数の人影が現れる。
屋敷で対面した時と違い、武装を整えた”双蒼の烈刃”はその場に居るだけで他者を威圧する。
「よく逃げずに来たね、自分がどうなるかわからないの?」
ユナ達から離れ、1人で”双蒼の烈刃”の前に立つシンに向け、ルルは挑発するように言葉をかける。
白いローブにつばの長い帽子を被り、木製の杖を持つ姿はまさしく魔術師といった雰囲気を醸し出している。
全体的に白い姿をするルルとは対照的に黒いローブを纏い、魔獣の骨を削り作られた杖を持つララは普段の明るい雰囲気でなく、落ち着き静かにシンを見つめている。
ララとルルの前面で盾になるように位置取るのは荒々しい雰囲気を醸し出すガレイだ。
盛り上がった筋肉を覆う防具は厚手の魔獣の皮を使っており、機動力と防御力を兼ね備え、その腕にはゴツゴツとした籠手が装着されている。
格闘技の威力を高める為に鋭い棘が突き出る籠手は一撃で大岩をも破壊するだろう。
「師よ、我が見届け人となります。勝敗はどう判断すれば良いのですか?」
シンが位置についたと判断したアイナが勝敗条件を決めるべく話題を振る。
パーティーリーダーであるアイナが戦闘に参加しない為、代表としてセレスがシンとアイナに近寄る。
セレスはドレスを防具として作っているらしく、広がるような長いスカートは動きやすくする為に切り込みが入っており、歩く度に時折美しい脚が顔を覗かせている。
腰に差している鞘は細く、細剣である事が伺える。
「決着はどちらかが死ぬか降参を言うまでで良いな?」
シンの出した条件に”双蒼の烈刃”から非難の声が上がる。
自分達の勝利を疑わない彼女達は、ただでさえ1人で戦うというシンに苛立っていた上にさらにプライドを刺激されたのだ。
「シンさん、それではあなたの命はありませんよ?」
シンの言葉にはさすがにセレスも腹に据えかねていた。
普段はおしとやかな彼女だが、今は冒険者としてこの場に立っている。
彼女も自分の実力には絶対の自信がある。
「お前達は自分の心配をしろよ、Sランクってのは相手の実力も見抜けないのか?」
シン自身は敵の実力を見抜く事を苦手としているが、それを置いて相手の挑発を挑発で返す。
それをルルの目尻が小さく動き、挑発が成功した事をシンは感じ取った。
「では、この金貨が地面に落ちたら開始にする」
シンから離れ、ガレイと共に並びだったセレスはその細剣を抜きシンに真っ直ぐ突き立てるように構える。
もう1人のメンバーであるミアの姿が見えないが、彼女は戦闘が得意でないと情報を得ている為、シンは敵戦力から除外していた。
「オラぁ!」
アイナの投げた金貨が地面に落ちると同時にガレイが巨体を揺らし、シンに突撃する。
「おっと、スピードはないんだな」
ガレイの突撃はその盛り上がった筋肉により速さが殺されていた。
易々と躱すシンだが、ガレイの狙いはシンに攻撃する事ではなかった。
「どらぁ!」
雄叫びを放つガレイの拳が雪原に突き刺さる。
焦げ茶色の籠手が光を放ち、地面が爆発したように弾けとぶ。
ガレイの籠手は魔力を込める事で接着した物質を爆発する性質を持つ。
破壊力のある拳に爆発の性質を持つ籠手が加わる事で、一撃の破壊力が格段に増幅される。
ガレイの籠手によりシンのいた周囲に雪と土がが散乱し、周囲一体を覆い隠す。
「流れろ、散時雨」
ガレイの爆発させた大地から逃れるように跳躍をするシンの頭上から、細剣を持つセレスの声が聞こえる。
直後、雪と土煙により覆われたルノー雪原に細い刀身が雨のように爆散した大地を通り過ぎる。
セレスの持つ細剣は刀身を無数に分身させ、セレスが細剣を突き出す度に残像が現実の物となり、無数の刀身がシンの逃げ場を無くしていく。
「豪炎、双龍頭」
「破砕光虎」
セレスに続き、後方のララから炎の龍、ルルからは光り輝く虎が魔術により放たれる。
細剣の雨によりさらに舞い上がった土煙を全て飲み込むほど大きな口を開けた炎の龍と光の虎は、シンを挟み込むようにぶつかり合い、またもルノー雪原に大爆発が起こる。
暴風と轟音に離れていたユナ達も耳を塞ぎ、飛ばされぬようにロイズの吸引闇虫が多いかぶる。
”双蒼の烈刃”の連携技はルノー雪原の地形を破壊し、舞い上がる煙により視界が覆われる。
その煙は遠く離れたスーリアの街からも確認出来るほど高く舞い上がり、街の住人達は遅れて響く爆発音に警戒態勢を整えていた。
「アイナ、残念だけどあの人はもう形も残らないよ」
未だに晴れぬ視界の中、見届け人のアイナに向けルルは勝利を宣言する。
各々の放った攻撃は全てが会心の一撃だった。
幾千もの魔獣達を屠って来た彼女達にもこの攻撃は自画自賛したくなるほどの一撃であったのだ。
「まだ、終わっていないぞ?」
「えっ?」
だがアイナからの返事は”双蒼の烈刃”の勝利を宣言する言葉ではなかった。
アイナの返事の直後、視界を多い尽くしていた煙が、一瞬のうちに消え去った。
突然の事態に理解の追い付かないルルは思わず声を出す。
消え去った煙の後に残ったのは、左腕を斬り飛ばされたガレイの首を掴み、その腕を乱暴に突き出したシンの姿だった。
自慢の肉体でシンから逃れようと必死に足掻くガレイだが、片腕を失った事実に錯乱しているようにしか見えない。
「Sランクもこの程度か、こいつも偉そうな事を言っといて、ただの筋肉馬鹿だしな」
ガレイを掲げるシンからは普段のやる気のない声と違い、背筋が凍えるほど冷たい声が発せられる。
「あなたは…」
決闘の開始前までのシンとの違いにセレスは目を見開き、信じられないと言った表情をする。
シンの変貌に脳が事態の把握を拒否しているのだ。
「こいつはもう要らないな」
シンは乱暴に掴んでいたガレイを投げ飛ばす。
世界樹の試練で、偽の存在とはいえ人を殺し続けたシンは今更敵となった者に手加減などしない。
自慢の鍛え上げた左腕を斬り飛ばされたガレイは腕からの出血により、既に意識を手放している。
「ガレイ!なんで、なんで治らないの⁉︎」
パーティーの回復役であるルルが投げ飛ばされたガレイに治癒魔術を施すが、効果が全く現れない。
世界でも有数の治癒魔術の使い手である彼女は、欠損した部位を復元する事も可能だった。
だがガレイの失くした左腕はルルの魔術でも治る事はない。
「そいつの腕はもう戻らないぞ?そいつに腕があった事実自体を消滅させたからな」
漆黒の大鎌を取り出したシンは、必死に治癒魔術をかけ続けるルルに無駄だと言う。
砂の証を手にし、その力を増幅させたシンの虚無の大鎌は物体だけでなく、斬りつけた物の歴史すら消滅させる事が可能になっていた。
シンに消されたガレイの左腕は、ガレイに左腕があったと言う事自体を消滅させられていた。
「お前、こんな事をして許されると思ってるのか?」
ガレイの腕の傷口を焼いて無理矢理止血したルルは、シンを睨みつける。
だがその視線にシンは臆する事はない。
「こんな事?腕を消しただけだろ、逆に聞くけどお前らの俺に対する攻撃は腕1つで済むか?」
シンの言葉にルルは反論しようとするが、先制で放ったルル達の攻撃は確実にシンを肉片すら残さず殺す攻撃だった。
現に見届け人のアイナにシンの死体すら残らないと言ってしまっている。
「生きていられるだけ、感謝するんだな」
屋敷にてガレイからかけられた言葉を今度はシンが言う。
最初の”双蒼の烈刃”の攻撃を見たシンは手加減する事をやめ、確実に痛めつけると決めたのだ。
「お前は最後だ」
ルルを最後と宣言したシンはゆっくりとセレスに向かう。
魔術はシンに効果がない。
先に近接戦闘員であるセレスを倒し、1番頭にきているルルを最後の標的にした。
「残念ね、お兄さん」
セレスに向かうシンに新たな声が聞こえてきた。
声の聞こえた上空に翼を広げ空に浮かぶミアの姿が見えた。
今まで戦闘に参加していなかったミアは上空で観察を続けていたのだ。
ミアの声に反応するようにシンの足元から光が溢れる。
直後にひび割れた大地から鉄製の網がシンを捕らえるように召喚される。
ルノー雪原に罠を張り巡らせていたミアは魔術の攻撃は無効と判断し、シンの動きを捕らえる罠を発動させたのだ。
鉄製の網から跳躍で逃れようとするシンの足元に粘着性の液体が巻かれ、足を地面から話す事が出来ない。
「めんどくさいな」
直接的な攻撃でないミアの罠はシンにとって経験した事のない攻撃だ。
迫り来る鉄製の網を虚無の大鎌を振り消滅させようとするが、いつの間にか絡みついている蜘蛛の糸により腕を満足に動かす事が出来ない。
「調子に乗らないでよね」
シンの動きが止まった事を確認したルルはララと共に魔術を放つ。
1点に力を集約された炎と光の光線はシンの両腕を貫き、シンに対しダメージを与える。
「あの大鎌になって注意して!」
先制攻撃を防いだのが大鎌による物だと判断したセレスは注意を呼びかけ、鉄製の網に捕らわれたシンに接近する。
「ちっ」
粘着性の液体に蜘蛛の糸、鉄製の網に捕らわれたシンは舌打ちをして虚無の大鎌を腕輪に戻す。
身動きの取れない体を見て腕輪の形態を変化させる。
シンのもとにセレスが辿り着くと同時に、シンの体を漆黒の鎧が包み込んだ。
セレスの突き出した細剣は漆黒の鎧に弾かれ、セレスは衝撃に後退をする。
「先端が、なくなってる?」
シンの鎧に触れたセレスの細剣は先端部分が削り取られたように消滅していた。
漆黒の鎧に身を包んだシンの周りには先ほどまで絡みついていた物が全て消滅している。
「さすがに疲れるな、それに武器がなくなる」
ため息を吐きながら漆黒の鎧を虚無の大鎌に作り変える。
虚無の大鎌と同じく消滅させる効果を持つ鎧により、ミアの罠から強制的に脱出した。
「邪魔だから退いてろ」
「ミア!危ない!」
足元の石を拾い、上空のミアの翼を撃墜する。
魔導具により再現されたミアの翼は破壊されると2度と復元出来ない。
落下するミアを受け止めたセレスはシンのいた所を振り返るがそこには誰もいない。
「後ろだよ、お前は良い奴だからな、手加減はしてやる」
セレスに対して悪い印象のないシンは慌てて振り返るセレスの首を締める。
シンの腕により呼吸の出来なくなったセレスは呻き声を上げ意識を手放す。
セレスが倒れ込むと同時にミアの腹部を蹴り、戦場から離脱させる。
「次はお前達だ、どうする?」
残ったララとルルにシンは問いかける。
決闘の勝利条件は敵の死か降参の言葉だ。
「参ったよ、兄さんには勝てなそうだ」
「ララ!本気で言ってるの⁉︎」
敗北を認めるララにルルは咎めるように叫ぶ。
だがララは見届け人であるアイナに負けを認める。
「私は、まだやるから」
アイナがシンの勝利を認めてもルルはシンに対し攻撃をしようとする。
だがそんなルルを止める者がいた。
「ルル、これ以上戦闘をするなら我が相手となるぞ」
決闘に対し、言葉を話さなかったアイナは諦めの悪いルルの前に立ち、双剣を抜く。
ルルはアイナに太刀打ちが出来ない事を知っている。
ルルは唇を噛み、怒りに震えながらシンの事を睨みつける。
「ミアの罠が破られた時点でお前達に勝ち目はない。師の実力を見抜けないとはお前達は今まで何をして来たのだ?」
完璧な連携による攻撃を防がれ、パーティーの盾であるガレイを失い、ミアの罠も破られたルル達にもう勝ち目はない。
油断をしていた訳ではないが、Sランクのおごりにより敵の実力を把握していなかった彼女達にアイナは呆れていた。
「師よ、これからよろしくお願いします」
勝利したシンにアイナが深々と頭を下げる。
決闘によりアイナはシン達への同行が決まった。
表向きはシンへの弟子入りだが、アイナには獣王についての情報と世界樹の攻略に力を貸してもらわなくてはならない。
スーリアから森の世界まで、またネルに戻らなくてはならない。
「ああ、こちらこそよろしくな」
決闘当日、セレス達が用意した竜車にシン達は乗り込んだ。
2匹の地竜により引かれ、ゆっくりと進み出す竜車は不思議な事に揺れはほとんどない。
竜車には振動軽減の魔術が常に発動されており、乗り込んだ者達の負担を軽減する仕組みになっている。
竜車はそれを引く地竜により、短距離型と長距離型に分かれるが、今回セレス達が用意したのは短距離型の地竜であり、ルノー雪原まで平均で2時間ほどの所を30分ほと短縮出来る。
「セレス達は先に行ってるみたいね」
竜車を用意したと連絡を貰ったのだが、竜車乗り場にセレス達の姿はなく、竜車の運転を任された業者の者から先に向かったと報告を受けた。
「何か仕掛けてるかもしれないな」
戦闘力が高いだけではSランク冒険者まで上り詰める事は出来ない。
時には待ち伏せや罠の使用などあらゆる物を利用する。
決闘場所を決めたのもセレス達である、先に向かい何かを仕掛けてる可能性が高い。
「ルノー雪原に着きました。ここからは徒歩で向かって下さい、真っ直ぐ行けば双蒼の烈刃の方々がいますので」
竜車から降りたシン達は、運転手に指示された場所に向かい徒歩で向かう。
雪の積もる平原は晴天の為、所々雪が解け白と緑の大地が入り乱れている。
10分ほど歩き続けると、凹凸の少ない平原に少数の人影が現れる。
屋敷で対面した時と違い、武装を整えた”双蒼の烈刃”はその場に居るだけで他者を威圧する。
「よく逃げずに来たね、自分がどうなるかわからないの?」
ユナ達から離れ、1人で”双蒼の烈刃”の前に立つシンに向け、ルルは挑発するように言葉をかける。
白いローブにつばの長い帽子を被り、木製の杖を持つ姿はまさしく魔術師といった雰囲気を醸し出している。
全体的に白い姿をするルルとは対照的に黒いローブを纏い、魔獣の骨を削り作られた杖を持つララは普段の明るい雰囲気でなく、落ち着き静かにシンを見つめている。
ララとルルの前面で盾になるように位置取るのは荒々しい雰囲気を醸し出すガレイだ。
盛り上がった筋肉を覆う防具は厚手の魔獣の皮を使っており、機動力と防御力を兼ね備え、その腕にはゴツゴツとした籠手が装着されている。
格闘技の威力を高める為に鋭い棘が突き出る籠手は一撃で大岩をも破壊するだろう。
「師よ、我が見届け人となります。勝敗はどう判断すれば良いのですか?」
シンが位置についたと判断したアイナが勝敗条件を決めるべく話題を振る。
パーティーリーダーであるアイナが戦闘に参加しない為、代表としてセレスがシンとアイナに近寄る。
セレスはドレスを防具として作っているらしく、広がるような長いスカートは動きやすくする為に切り込みが入っており、歩く度に時折美しい脚が顔を覗かせている。
腰に差している鞘は細く、細剣である事が伺える。
「決着はどちらかが死ぬか降参を言うまでで良いな?」
シンの出した条件に”双蒼の烈刃”から非難の声が上がる。
自分達の勝利を疑わない彼女達は、ただでさえ1人で戦うというシンに苛立っていた上にさらにプライドを刺激されたのだ。
「シンさん、それではあなたの命はありませんよ?」
シンの言葉にはさすがにセレスも腹に据えかねていた。
普段はおしとやかな彼女だが、今は冒険者としてこの場に立っている。
彼女も自分の実力には絶対の自信がある。
「お前達は自分の心配をしろよ、Sランクってのは相手の実力も見抜けないのか?」
シン自身は敵の実力を見抜く事を苦手としているが、それを置いて相手の挑発を挑発で返す。
それをルルの目尻が小さく動き、挑発が成功した事をシンは感じ取った。
「では、この金貨が地面に落ちたら開始にする」
シンから離れ、ガレイと共に並びだったセレスはその細剣を抜きシンに真っ直ぐ突き立てるように構える。
もう1人のメンバーであるミアの姿が見えないが、彼女は戦闘が得意でないと情報を得ている為、シンは敵戦力から除外していた。
「オラぁ!」
アイナの投げた金貨が地面に落ちると同時にガレイが巨体を揺らし、シンに突撃する。
「おっと、スピードはないんだな」
ガレイの突撃はその盛り上がった筋肉により速さが殺されていた。
易々と躱すシンだが、ガレイの狙いはシンに攻撃する事ではなかった。
「どらぁ!」
雄叫びを放つガレイの拳が雪原に突き刺さる。
焦げ茶色の籠手が光を放ち、地面が爆発したように弾けとぶ。
ガレイの籠手は魔力を込める事で接着した物質を爆発する性質を持つ。
破壊力のある拳に爆発の性質を持つ籠手が加わる事で、一撃の破壊力が格段に増幅される。
ガレイの籠手によりシンのいた周囲に雪と土がが散乱し、周囲一体を覆い隠す。
「流れろ、散時雨」
ガレイの爆発させた大地から逃れるように跳躍をするシンの頭上から、細剣を持つセレスの声が聞こえる。
直後、雪と土煙により覆われたルノー雪原に細い刀身が雨のように爆散した大地を通り過ぎる。
セレスの持つ細剣は刀身を無数に分身させ、セレスが細剣を突き出す度に残像が現実の物となり、無数の刀身がシンの逃げ場を無くしていく。
「豪炎、双龍頭」
「破砕光虎」
セレスに続き、後方のララから炎の龍、ルルからは光り輝く虎が魔術により放たれる。
細剣の雨によりさらに舞い上がった土煙を全て飲み込むほど大きな口を開けた炎の龍と光の虎は、シンを挟み込むようにぶつかり合い、またもルノー雪原に大爆発が起こる。
暴風と轟音に離れていたユナ達も耳を塞ぎ、飛ばされぬようにロイズの吸引闇虫が多いかぶる。
”双蒼の烈刃”の連携技はルノー雪原の地形を破壊し、舞い上がる煙により視界が覆われる。
その煙は遠く離れたスーリアの街からも確認出来るほど高く舞い上がり、街の住人達は遅れて響く爆発音に警戒態勢を整えていた。
「アイナ、残念だけどあの人はもう形も残らないよ」
未だに晴れぬ視界の中、見届け人のアイナに向けルルは勝利を宣言する。
各々の放った攻撃は全てが会心の一撃だった。
幾千もの魔獣達を屠って来た彼女達にもこの攻撃は自画自賛したくなるほどの一撃であったのだ。
「まだ、終わっていないぞ?」
「えっ?」
だがアイナからの返事は”双蒼の烈刃”の勝利を宣言する言葉ではなかった。
アイナの返事の直後、視界を多い尽くしていた煙が、一瞬のうちに消え去った。
突然の事態に理解の追い付かないルルは思わず声を出す。
消え去った煙の後に残ったのは、左腕を斬り飛ばされたガレイの首を掴み、その腕を乱暴に突き出したシンの姿だった。
自慢の肉体でシンから逃れようと必死に足掻くガレイだが、片腕を失った事実に錯乱しているようにしか見えない。
「Sランクもこの程度か、こいつも偉そうな事を言っといて、ただの筋肉馬鹿だしな」
ガレイを掲げるシンからは普段のやる気のない声と違い、背筋が凍えるほど冷たい声が発せられる。
「あなたは…」
決闘の開始前までのシンとの違いにセレスは目を見開き、信じられないと言った表情をする。
シンの変貌に脳が事態の把握を拒否しているのだ。
「こいつはもう要らないな」
シンは乱暴に掴んでいたガレイを投げ飛ばす。
世界樹の試練で、偽の存在とはいえ人を殺し続けたシンは今更敵となった者に手加減などしない。
自慢の鍛え上げた左腕を斬り飛ばされたガレイは腕からの出血により、既に意識を手放している。
「ガレイ!なんで、なんで治らないの⁉︎」
パーティーの回復役であるルルが投げ飛ばされたガレイに治癒魔術を施すが、効果が全く現れない。
世界でも有数の治癒魔術の使い手である彼女は、欠損した部位を復元する事も可能だった。
だがガレイの失くした左腕はルルの魔術でも治る事はない。
「そいつの腕はもう戻らないぞ?そいつに腕があった事実自体を消滅させたからな」
漆黒の大鎌を取り出したシンは、必死に治癒魔術をかけ続けるルルに無駄だと言う。
砂の証を手にし、その力を増幅させたシンの虚無の大鎌は物体だけでなく、斬りつけた物の歴史すら消滅させる事が可能になっていた。
シンに消されたガレイの左腕は、ガレイに左腕があったと言う事自体を消滅させられていた。
「お前、こんな事をして許されると思ってるのか?」
ガレイの腕の傷口を焼いて無理矢理止血したルルは、シンを睨みつける。
だがその視線にシンは臆する事はない。
「こんな事?腕を消しただけだろ、逆に聞くけどお前らの俺に対する攻撃は腕1つで済むか?」
シンの言葉にルルは反論しようとするが、先制で放ったルル達の攻撃は確実にシンを肉片すら残さず殺す攻撃だった。
現に見届け人のアイナにシンの死体すら残らないと言ってしまっている。
「生きていられるだけ、感謝するんだな」
屋敷にてガレイからかけられた言葉を今度はシンが言う。
最初の”双蒼の烈刃”の攻撃を見たシンは手加減する事をやめ、確実に痛めつけると決めたのだ。
「お前は最後だ」
ルルを最後と宣言したシンはゆっくりとセレスに向かう。
魔術はシンに効果がない。
先に近接戦闘員であるセレスを倒し、1番頭にきているルルを最後の標的にした。
「残念ね、お兄さん」
セレスに向かうシンに新たな声が聞こえてきた。
声の聞こえた上空に翼を広げ空に浮かぶミアの姿が見えた。
今まで戦闘に参加していなかったミアは上空で観察を続けていたのだ。
ミアの声に反応するようにシンの足元から光が溢れる。
直後にひび割れた大地から鉄製の網がシンを捕らえるように召喚される。
ルノー雪原に罠を張り巡らせていたミアは魔術の攻撃は無効と判断し、シンの動きを捕らえる罠を発動させたのだ。
鉄製の網から跳躍で逃れようとするシンの足元に粘着性の液体が巻かれ、足を地面から話す事が出来ない。
「めんどくさいな」
直接的な攻撃でないミアの罠はシンにとって経験した事のない攻撃だ。
迫り来る鉄製の網を虚無の大鎌を振り消滅させようとするが、いつの間にか絡みついている蜘蛛の糸により腕を満足に動かす事が出来ない。
「調子に乗らないでよね」
シンの動きが止まった事を確認したルルはララと共に魔術を放つ。
1点に力を集約された炎と光の光線はシンの両腕を貫き、シンに対しダメージを与える。
「あの大鎌になって注意して!」
先制攻撃を防いだのが大鎌による物だと判断したセレスは注意を呼びかけ、鉄製の網に捕らわれたシンに接近する。
「ちっ」
粘着性の液体に蜘蛛の糸、鉄製の網に捕らわれたシンは舌打ちをして虚無の大鎌を腕輪に戻す。
身動きの取れない体を見て腕輪の形態を変化させる。
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セレスの突き出した細剣は漆黒の鎧に弾かれ、セレスは衝撃に後退をする。
「先端が、なくなってる?」
シンの鎧に触れたセレスの細剣は先端部分が削り取られたように消滅していた。
漆黒の鎧に身を包んだシンの周りには先ほどまで絡みついていた物が全て消滅している。
「さすがに疲れるな、それに武器がなくなる」
ため息を吐きながら漆黒の鎧を虚無の大鎌に作り変える。
虚無の大鎌と同じく消滅させる効果を持つ鎧により、ミアの罠から強制的に脱出した。
「邪魔だから退いてろ」
「ミア!危ない!」
足元の石を拾い、上空のミアの翼を撃墜する。
魔導具により再現されたミアの翼は破壊されると2度と復元出来ない。
落下するミアを受け止めたセレスはシンのいた所を振り返るがそこには誰もいない。
「後ろだよ、お前は良い奴だからな、手加減はしてやる」
セレスに対して悪い印象のないシンは慌てて振り返るセレスの首を締める。
シンの腕により呼吸の出来なくなったセレスは呻き声を上げ意識を手放す。
セレスが倒れ込むと同時にミアの腹部を蹴り、戦場から離脱させる。
「次はお前達だ、どうする?」
残ったララとルルにシンは問いかける。
決闘の勝利条件は敵の死か降参の言葉だ。
「参ったよ、兄さんには勝てなそうだ」
「ララ!本気で言ってるの⁉︎」
敗北を認めるララにルルは咎めるように叫ぶ。
だがララは見届け人であるアイナに負けを認める。
「私は、まだやるから」
アイナがシンの勝利を認めてもルルはシンに対し攻撃をしようとする。
だがそんなルルを止める者がいた。
「ルル、これ以上戦闘をするなら我が相手となるぞ」
決闘に対し、言葉を話さなかったアイナは諦めの悪いルルの前に立ち、双剣を抜く。
ルルはアイナに太刀打ちが出来ない事を知っている。
ルルは唇を噛み、怒りに震えながらシンの事を睨みつける。
「ミアの罠が破られた時点でお前達に勝ち目はない。師の実力を見抜けないとはお前達は今まで何をして来たのだ?」
完璧な連携による攻撃を防がれ、パーティーの盾であるガレイを失い、ミアの罠も破られたルル達にもう勝ち目はない。
油断をしていた訳ではないが、Sランクのおごりにより敵の実力を把握していなかった彼女達にアイナは呆れていた。
「師よ、これからよろしくお願いします」
勝利したシンにアイナが深々と頭を下げる。
決闘によりアイナはシン達への同行が決まった。
表向きはシンへの弟子入りだが、アイナには獣王についての情報と世界樹の攻略に力を貸してもらわなくてはならない。
スーリアから森の世界まで、またネルに戻らなくてはならない。
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これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
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しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
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