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足田洋平は、自分のことを運が良いと思っていた。
小学生のころ、母が大事にしていたイヤリングを失くして落ち込んでいるのを見て、喜ばせたい一心で「学校からの帰りに、クリーニング屋の前にイヤリングが落ちているのを見た」と嘘をついた。神様に祈りながら、母と現場に行ってみると、本当に母のイヤリングが落ちていた。
中学生のころ、同級生の井藤宥子と好奇心から深い関係になった。妊娠したのかもしれないと、宥子から告げられたとき、双方の親たちに殺されると思った。どうしようか考えているうちに、宥子は自殺した。また、普通に生活できるようになった。
大人になって、懐かしさのあまり、一緒に柔道をしていた四人で会うことにした。榛名の了解をとったあと、平埜の都合が悪く、日程を八月十七日に変更した。榛名はおそらく暇だから、後から変更を連絡すればよいと思っていたが、そのまま忘れていた。
八月九日に、偶々都合が合ったので、平埜と二人で、池ノ端で会った。池ノ端は、柔道で朝練をしていた思い出の場所だった。そこで、平埜が昔、俺と宥子が仲良くしていたのを、宥子から聞いていたことを初めて知った。
「お前、あのときの真相を何か知らないのか?」と聞かれた。知らないと答えると「今度、榛名と山内にも聞いてみるか」と言った。そんなことをされては困る。あの時のことは闇に葬りたいのだ。気が付くと、護身用で持っていたナイフを平埜の背中の胸の辺りに刺し、その勢いで、池の中に突き落とした。
急いで、逃げ帰った。平埜がまだ生きていて、俺を犯人と言うかもしれない。帰るところを誰かに見られていて、すぐに警察が来るかも知れない。ビクビクしていると、大学時代の友人から電話があった。そいつは警察で鑑識をしていた。
「少し愚痴りたくてさ」
そんな気分じゃなかったが、話を聞いた。
「まだ内緒なんだが、池ノ端で死体が上がってな。死亡推定時刻がはっきりとしないんだ。必要な条件が足りていないんだ。それなのに、刑事の連中は、それを理解せず、すぐに正確な時刻を出せと言ってくる。出来ないとお前の評価は下げるように言っておくと言うんだ。どうしようもないだろ?」
「そうか、本当はダメだと思うが、一番確率の高い時間帯を伝えとけば、一番丸く収まるんじゃないのか? お前が悩むこともなくなるし、評価を下げられることもない」
その言葉が効いたのか分からないが、死亡推定時刻は、実際の殺害時より、一日後に設定されたようだ。翌日のデートでは、念のため、記念撮影を依頼して、映画館にいたことを印象付けていたため、アリバイができた。
警察から電話があったときは、覚悟した。しかし、来たのは若い女性刑事が一人で、どうも自分が疑われている雰囲気ではなかった。あの刑事は、気が強かった。何とか自分のものにしたいと妄想したが、警察を相手にするのは危ないから、気持ちを抑えるように努力した。しかし、二、三か月経っても、あの飴田という刑事の女が気になって仕方がなかった。
勇気を持って、電話して、結婚までこぎ着けた。
本当に、自分はツイていて、運が良いと思った。
榛名には悪いが、自分はそういう星に生まれついているのだから、仕方ないだろうと思った。
小学生のころ、母が大事にしていたイヤリングを失くして落ち込んでいるのを見て、喜ばせたい一心で「学校からの帰りに、クリーニング屋の前にイヤリングが落ちているのを見た」と嘘をついた。神様に祈りながら、母と現場に行ってみると、本当に母のイヤリングが落ちていた。
中学生のころ、同級生の井藤宥子と好奇心から深い関係になった。妊娠したのかもしれないと、宥子から告げられたとき、双方の親たちに殺されると思った。どうしようか考えているうちに、宥子は自殺した。また、普通に生活できるようになった。
大人になって、懐かしさのあまり、一緒に柔道をしていた四人で会うことにした。榛名の了解をとったあと、平埜の都合が悪く、日程を八月十七日に変更した。榛名はおそらく暇だから、後から変更を連絡すればよいと思っていたが、そのまま忘れていた。
八月九日に、偶々都合が合ったので、平埜と二人で、池ノ端で会った。池ノ端は、柔道で朝練をしていた思い出の場所だった。そこで、平埜が昔、俺と宥子が仲良くしていたのを、宥子から聞いていたことを初めて知った。
「お前、あのときの真相を何か知らないのか?」と聞かれた。知らないと答えると「今度、榛名と山内にも聞いてみるか」と言った。そんなことをされては困る。あの時のことは闇に葬りたいのだ。気が付くと、護身用で持っていたナイフを平埜の背中の胸の辺りに刺し、その勢いで、池の中に突き落とした。
急いで、逃げ帰った。平埜がまだ生きていて、俺を犯人と言うかもしれない。帰るところを誰かに見られていて、すぐに警察が来るかも知れない。ビクビクしていると、大学時代の友人から電話があった。そいつは警察で鑑識をしていた。
「少し愚痴りたくてさ」
そんな気分じゃなかったが、話を聞いた。
「まだ内緒なんだが、池ノ端で死体が上がってな。死亡推定時刻がはっきりとしないんだ。必要な条件が足りていないんだ。それなのに、刑事の連中は、それを理解せず、すぐに正確な時刻を出せと言ってくる。出来ないとお前の評価は下げるように言っておくと言うんだ。どうしようもないだろ?」
「そうか、本当はダメだと思うが、一番確率の高い時間帯を伝えとけば、一番丸く収まるんじゃないのか? お前が悩むこともなくなるし、評価を下げられることもない」
その言葉が効いたのか分からないが、死亡推定時刻は、実際の殺害時より、一日後に設定されたようだ。翌日のデートでは、念のため、記念撮影を依頼して、映画館にいたことを印象付けていたため、アリバイができた。
警察から電話があったときは、覚悟した。しかし、来たのは若い女性刑事が一人で、どうも自分が疑われている雰囲気ではなかった。あの刑事は、気が強かった。何とか自分のものにしたいと妄想したが、警察を相手にするのは危ないから、気持ちを抑えるように努力した。しかし、二、三か月経っても、あの飴田という刑事の女が気になって仕方がなかった。
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