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一章
三話
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頭がよじれそうだ。痛くて仕方がない。
肺が圧迫されて、ひどく息苦しい。身体を冷たいアスファルトに置いていたからだ。
地面での寝覚めは最悪だった。アルバイトが終わった後、そのまま居眠りしてしまったのだ。おれ、柿市翼はゆっくりと身体を起こした。
みんなの笑い声が聞こえる。クソ、馬鹿にしているのか。
「なんだよ、見せ物じゃねぇんだぞ」
大きな声で言うと、周囲は異様なほどしんと静まり返った。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。後悔していると、肩をポンポンと叩かれた。
一人の少女が、おれを見て笑っている。
雪村凛奈。
みんなの無思慮な笑いと違い、凛奈の笑顔は慈悲深い。救われた気分になった。
「ちょっと歩こっか」
彼女の唇には、チェリーピンクのルージュがひかれている。
吸い込まれるようにして、おれはうなずいた。
二人でそこら辺を歩くことにした。
一面土が敷かれているため、風が吹けば当然土埃が舞い踊る。幸いにも、今日は風もなく、穏やかな日柄だった。
二人で他愛ない話をした。
くだらない話をするなかで、ふと互いの進路についての話題が出てきた。
「そういえば、翼は卒業後の進路は決まっているの?美大?」
「ああ、そうだな……」
曖昧模糊な答えでお茶を濁す。
そろそろ考えないといけない時期だ。
でも、やりたいことがない。ビジョンがひどくぼやけていて……なにもできそうにない。焦燥感だけがおれを覆っていく。
「お前は?」
結局、聞き返さざるを得なかった。
凛奈は頭もいいし、臨機応変だし、何にでもなれるはずだ。おれとは違って。
「うーん……」
凛奈は頬に人差し指を当てて考え込む。可愛いことこの上ない。
しばらくして彼女は、溌剌として言ったのだった。
「私は、翼とずっと一緒にいられればそれでいいかな」
「お前なぁ」
思わず苦笑いを浮かべていた。
凛奈を引き寄せ、そのまま抱き締める。
「でも、付け加えるとさ」
凛奈が腕の中で呟く。先ほどとはうってかわり、囁くような、それでいてしっかりした声だった。
「翼は視野が広いから迷っちゃうんだと思うよ。優しいから、色々なものが目に入っちゃうんだよ」
予想だにしなかった彼女の言葉に内心戸惑った。何が言いたいんだろう。
聞き返するのもためらわれ、言葉選びに迷った挙げ句、「ありがとう」と陳腐な礼を述べるに至った。
「だって、翼は自分を蔑んでいるように見えたから。 自分が進む道なんて早急に決める必要はないんだよ。ゆっくりでいいの、ゆっくりで」
彼女の言葉は、砂糖が溶けるように甘美な響きを伴い、おれに浸透した。
自分自身を蔑んでいるかどうかはよく分からなかったが、気が楽になった。
焦燥感を抱いていたのがアホらしくなってくる。
凛奈は立ち上がり、スカートを払った。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
「おう」
背を向ける彼女の耳は、ほんのりと赤かった。もしかして、恥ずかしさからトイレという口実をつけてこの場を去ったのだろうか?
「いちゃいちゃしていたようだな。羨ましいのう」
砂利を踏む音がした後、目の前に岸本陸が立っていた。
肺が圧迫されて、ひどく息苦しい。身体を冷たいアスファルトに置いていたからだ。
地面での寝覚めは最悪だった。アルバイトが終わった後、そのまま居眠りしてしまったのだ。おれ、柿市翼はゆっくりと身体を起こした。
みんなの笑い声が聞こえる。クソ、馬鹿にしているのか。
「なんだよ、見せ物じゃねぇんだぞ」
大きな声で言うと、周囲は異様なほどしんと静まり返った。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。後悔していると、肩をポンポンと叩かれた。
一人の少女が、おれを見て笑っている。
雪村凛奈。
みんなの無思慮な笑いと違い、凛奈の笑顔は慈悲深い。救われた気分になった。
「ちょっと歩こっか」
彼女の唇には、チェリーピンクのルージュがひかれている。
吸い込まれるようにして、おれはうなずいた。
二人でそこら辺を歩くことにした。
一面土が敷かれているため、風が吹けば当然土埃が舞い踊る。幸いにも、今日は風もなく、穏やかな日柄だった。
二人で他愛ない話をした。
くだらない話をするなかで、ふと互いの進路についての話題が出てきた。
「そういえば、翼は卒業後の進路は決まっているの?美大?」
「ああ、そうだな……」
曖昧模糊な答えでお茶を濁す。
そろそろ考えないといけない時期だ。
でも、やりたいことがない。ビジョンがひどくぼやけていて……なにもできそうにない。焦燥感だけがおれを覆っていく。
「お前は?」
結局、聞き返さざるを得なかった。
凛奈は頭もいいし、臨機応変だし、何にでもなれるはずだ。おれとは違って。
「うーん……」
凛奈は頬に人差し指を当てて考え込む。可愛いことこの上ない。
しばらくして彼女は、溌剌として言ったのだった。
「私は、翼とずっと一緒にいられればそれでいいかな」
「お前なぁ」
思わず苦笑いを浮かべていた。
凛奈を引き寄せ、そのまま抱き締める。
「でも、付け加えるとさ」
凛奈が腕の中で呟く。先ほどとはうってかわり、囁くような、それでいてしっかりした声だった。
「翼は視野が広いから迷っちゃうんだと思うよ。優しいから、色々なものが目に入っちゃうんだよ」
予想だにしなかった彼女の言葉に内心戸惑った。何が言いたいんだろう。
聞き返するのもためらわれ、言葉選びに迷った挙げ句、「ありがとう」と陳腐な礼を述べるに至った。
「だって、翼は自分を蔑んでいるように見えたから。 自分が進む道なんて早急に決める必要はないんだよ。ゆっくりでいいの、ゆっくりで」
彼女の言葉は、砂糖が溶けるように甘美な響きを伴い、おれに浸透した。
自分自身を蔑んでいるかどうかはよく分からなかったが、気が楽になった。
焦燥感を抱いていたのがアホらしくなってくる。
凛奈は立ち上がり、スカートを払った。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
「おう」
背を向ける彼女の耳は、ほんのりと赤かった。もしかして、恥ずかしさからトイレという口実をつけてこの場を去ったのだろうか?
「いちゃいちゃしていたようだな。羨ましいのう」
砂利を踏む音がした後、目の前に岸本陸が立っていた。
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