53 / 67
二章
五十二話
しおりを挟む
「初めまして。じゃないよね? 前にも会ったよね?」
開口一番、彼女はそう言った。
病室の前ですれ違っただけだが、俺はよく覚えていた。彼女も覚えてくれていたと知り、少し嬉しくなる。
「ああ……」
「こちら柿市翼なのだ。身どもと同じく高い志を有し、美術部で日々夢に向かって邁進しておる」
頼んでもないのに岸本が紹介を始めた。鼻の下を伸ばしきっている。だらしのないヤツだ。
雪村さんは口元に手を当て、鈴のような笑い声を立てた。病室で出会った時と、印象は変わらない。人形のような愛らしさがありながらも、そこには確固たる生気が存在している。
「雪村凜奈と言います。板垣さんの中学での同級生」
「そうなんだ。だからお見舞いに来ていたんだね」
板垣から聞いた、とは言えずに満面の笑みで相槌を打つ。
(お節介な子。来なくていいって言ってるのに)
彼女の言葉を反芻する。そういえば、板垣と雪村さんは仲がいいのだろうか? おそらくある程度は仲がいいのだろう。
「急に来てごめんなさい。驚かせてしまったでしょう」
雪村さんは申し訳なさそうだった。
「いや、謝る必要はないけれど。ただ」
どんな目的だろうか? 決して疑っている訳ではないが、今一つ彼女の目的が読めなかった。
雪村さんが口を開きかけたのに、また岸本が口を挟んでくる。
「一緒にお見舞いに行かないかという提案があったのだ」
岸本はやけに嬉しそうだった。俺からの返事を待たずして、言葉を紡いでいく。
「実はこの前一人で行った時に、たまたま雪村さんと会ってな」
「ああ」
思い出した。土偶もどきが置いてあった日のことか。なるほど、その時には雪村さんもいたのか。それで俺と入れ違いになったということか。
何故か不快感に襲われる。見舞いに行くのはいいことであるはずなのに。
しかし、結果的に雪村さんとの接点ができた。
俺は難なく笑顔を作り、頷いてみせた。
開口一番、彼女はそう言った。
病室の前ですれ違っただけだが、俺はよく覚えていた。彼女も覚えてくれていたと知り、少し嬉しくなる。
「ああ……」
「こちら柿市翼なのだ。身どもと同じく高い志を有し、美術部で日々夢に向かって邁進しておる」
頼んでもないのに岸本が紹介を始めた。鼻の下を伸ばしきっている。だらしのないヤツだ。
雪村さんは口元に手を当て、鈴のような笑い声を立てた。病室で出会った時と、印象は変わらない。人形のような愛らしさがありながらも、そこには確固たる生気が存在している。
「雪村凜奈と言います。板垣さんの中学での同級生」
「そうなんだ。だからお見舞いに来ていたんだね」
板垣から聞いた、とは言えずに満面の笑みで相槌を打つ。
(お節介な子。来なくていいって言ってるのに)
彼女の言葉を反芻する。そういえば、板垣と雪村さんは仲がいいのだろうか? おそらくある程度は仲がいいのだろう。
「急に来てごめんなさい。驚かせてしまったでしょう」
雪村さんは申し訳なさそうだった。
「いや、謝る必要はないけれど。ただ」
どんな目的だろうか? 決して疑っている訳ではないが、今一つ彼女の目的が読めなかった。
雪村さんが口を開きかけたのに、また岸本が口を挟んでくる。
「一緒にお見舞いに行かないかという提案があったのだ」
岸本はやけに嬉しそうだった。俺からの返事を待たずして、言葉を紡いでいく。
「実はこの前一人で行った時に、たまたま雪村さんと会ってな」
「ああ」
思い出した。土偶もどきが置いてあった日のことか。なるほど、その時には雪村さんもいたのか。それで俺と入れ違いになったということか。
何故か不快感に襲われる。見舞いに行くのはいいことであるはずなのに。
しかし、結果的に雪村さんとの接点ができた。
俺は難なく笑顔を作り、頷いてみせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる