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二章
五十七話
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四人で話しているうちに時間も遅くなってきたので、俺はそろそろ撤退することにした。母の見舞いにも行きたいと考えていたからだ。
「じゃ、そろそろ行くよ」
腰を上げると、雪村さんも時計を見、こちらを見上げた。
「じゃあ、私も」
雪村さんも立ち上がった。
二人で病室を出ると、気まずい空気がその場を支配した。四人で喋る分には問題ないが、いざ一対一となると話しにくい。廊下を歩く音だけが響く。
「そういえば、柿一くんってさ」
雪村さんが話しかけてきた。得体の知れぬ緊張感が走る。
「美術部に入ってるんだよね」
ごく普通の話題。
「ああ。まあな」
「凄いね。私、創造性がある人に憧れてるんだ。普通は見られない世界を見せてくれるから」
そんなことはないよ。謙遜しようとしたが、言葉が出なかった。もちろん悪い気はしない。声が上ずるのを自覚しながら、かろうじてベタな台詞を吐き出す。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。凄い作品は、人の心を動かす力を持ってるもんな」
同意を示すかのように、雪村さんは豊かな笑みを見せた。
ちょうど母の病室に着いたので、名残惜しさを感じながらも雪村さんに別れを告げた。
「じゃ、そろそろ行くよ」
腰を上げると、雪村さんも時計を見、こちらを見上げた。
「じゃあ、私も」
雪村さんも立ち上がった。
二人で病室を出ると、気まずい空気がその場を支配した。四人で喋る分には問題ないが、いざ一対一となると話しにくい。廊下を歩く音だけが響く。
「そういえば、柿一くんってさ」
雪村さんが話しかけてきた。得体の知れぬ緊張感が走る。
「美術部に入ってるんだよね」
ごく普通の話題。
「ああ。まあな」
「凄いね。私、創造性がある人に憧れてるんだ。普通は見られない世界を見せてくれるから」
そんなことはないよ。謙遜しようとしたが、言葉が出なかった。もちろん悪い気はしない。声が上ずるのを自覚しながら、かろうじてベタな台詞を吐き出す。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。凄い作品は、人の心を動かす力を持ってるもんな」
同意を示すかのように、雪村さんは豊かな笑みを見せた。
ちょうど母の病室に着いたので、名残惜しさを感じながらも雪村さんに別れを告げた。
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