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一章 再会の時

一章 再会の時 17

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「それが……その、リュートも知ってる二人が人間に好意的な魔族を集めて、反旗を翻したらしいの…。これは、私達も聞いた話だから詳細は分からないんだけど」

「ほら、アイツらリュートにはすげー好意的だっただろ?なんかわかんねーけど、人間のことに興味持ったみたいで、お前がいなくなった後に、ちょいちょいあいつらが俺のところにも遊びに来たりしてたんだよ」

もう何を言えばいいのか分からない。というか、言葉が見つからない。

まさか、アイツらが人間に興味を持つなんて…嘘だろ。
それに、アイツら意外にも人間に好意的な奴らなんてほとんどいないだろ。なのになんで危険を冒してまで、謀反みたいなこと起こしてるんだ…?


もう意味が解らない…。ユウキのことでも頭が痛い現状なのに、魔族のゴタゴタにまで手に負えないぞ。

痛む頭を押さえながら、サランとアランを「本当に?」と交互に見れば、苦笑いを浮かべながらコクリと頷かれた。

あいつ…説明さぼりすぎだろ。俺は勇者を助けろとしか言われないぞ。
絶対知ってて黙ってだろ…。俺に全部丸投げしやがって…会ったら絶対ボコボコにしてやる。



「リュートは本当に何も知らないみたいね…。でも、今は魔族よりもユウキのことなんだけど……」

サランはアランに視線を投げかけ、どう説明するか迷っているかのように口をモゴモゴさせたが…結局言葉は出てこなかった。
サランのその様子に気づいたアランが、頭を掻きながらため息を吐いてから口を開いた。


「今、俺とサランは王国に身を寄せてる。理由は――――」


「―――アラン!」

アランが口を開いた瞬間、後ろからアランを呼ぶ声が響いた。
言わずもがな、現勇者であるユウキだ。

どうやら我慢できずに探しに来たようだ。

アランの姿を見つけたユウキは嬉しそうに駆け寄りそのままの勢いでギュっと抱き着いていた。
うわぁ…と思いながら見ていたら、アランが苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべたが、すぐに無表情に戻った。

上手く表情を隠そうとしているが、俺から見たら嫌悪感丸出しだ。
どうやら、優しく接してはいるが…ユウキのことを嫌っているらしい。
まぁ、同性にあんなにべったりされたら、誰だっていやだろう。しかも、ユウキの仕草がいちいち女っぽくて、見ていて気分が悪くなるくらいだ。

俺が男で可愛いと思うのは、今のところルゥくらいだな。
何て言ったって、俺の弟分だし?当然のことだが。


「ユウキ…まだ話してる途中だぞ」


「ずっと待ってたのに戻ってこないんだもん!待ちくたびれちゃったよ…」

アランが蔑むような目でユウキを見下ろし、そっと腕に絡みついているユウキを自然な形で引き離す。
ユウキは引き離されても、すぐにアランに引っ付こうとしたが…それは副隊長がユウキを抱きしめるという形で阻止された。

「ユウキ…っ、急にいなくならないでください」

どうやらユウキは副団長、ナイトとベレイを置いて勝手にここまで来たらしい。
ユウキを追って走ってきたのか副団長は少し息が切れている。ナイトとベレイは全くそんなそぶりは見せず、シレッとした表情を浮かべて、俺の近くに寄ってきた。


「……アラルフィルさんたちと何を話してたんだ?」

「あー…村に起きた出来事を詳しく説明してた。もっと詳しく知りたいって言うから」

ナイトがコソコソと俺に耳打ちし、聞いてくるが…バカ正直に応えられるわけもなく、適当に誤魔化す形になってしまった。
まだ信用していいかの判断が出来ていないから、仕方ないよな…と自分に言い聞かせる。
あまり疑いたくはないが、ナイトたちが副団長に喋った瞬間――俺は間違いなく殺されるだろう。
なにせ、国王は俺のことを嫌っていたし、邪魔な存在だったっぽいしな。
国王に報告されては、堪った物じゃない。


「そうか…。俺達が気づいていれば助けられた命もあったよな…」

「領民を守るのが騎士団の在り方なのに…これじゃ、騎士失格だね……」

ナイトとベレイが悔しそうに顔を歪め、握った拳が震えていた。
これは慰めた方が良いのか…?まだ会って数時間の俺に慰められても仕方ない気がするのだが…ここで何も声を掛けないのは、それはそれで薄情だよな。

「その、なんだ…。騎士だから領民を守らないといけないって背負い込む必要はないと思う。まずは、自分たちが守れる者だけを守らなきゃ、全部失うことになるぞ。全ての人を助けるなんて、神でもない限り無理なんだからさ」

「タツ……ありがとな。そりゃぁ、俺達が守れるモノなんてほとんどない…。だから、まずは守れるモノを守るよ」

「まさか会ったばっかのタツに励まされるとはね…。俺達もまだまだってことかな」

俺の言葉にナイトたちはキョトンとした顔をしたが、すぐに励まされてることに気付いたのか嬉しそうに笑みを浮かべた。
何だか、この二人を見ていると新しく弟が出来たみたいな感覚に陥る。
子供っぽいとかじゃなくて、何だか可愛らしく見えてくるのだ。俺より一個上だけど。
ナイトとベレイは19歳と俺より一つ上なのだ。この情報はさっき二人と話しているときに聞いた話だ。

「なんつーかさぁ、タツの言葉って重みがあるよな。俺たちの一個下とは思えないんだけど」

「……俺ってそんな老けて見えるか?」

「ぷっ!ばぁーか、そういう意味じゃねーって!」

「ナイトが言いたいのは、タツは大人びてるってことだよ」

ナイトの言葉にショックを受け、小声でナイトとベレイを見たら、二人に爆笑された。
ナイトなんて腹抱えて笑ってるしな…。


「リュ……タツ、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

アランが俺の名前を間違えそうになり、慌てて言い換える姿にジト目で視線を送る。
小さく口パクで「ばか」ともアランにしか見えない様に言うのも忘れずに。

「ナイトたちとはちょっと話が合ってさ」

「タツって…アラルフィルさんと知り合いなのか…?」

俺がいつものように話しかけたら、ナイトが恐る恐る声を掛けてきた。
しかも、目が飛び出しそうな勢いでマジマジと俺を見つめながら。
ここで他人のふりをするわけもいかず、ナイトの言葉に一つ頷いた。

「ああ、昔からの知り合いだ。まさか、こんなところで会えるとは思わなくて驚いたよ」

「ま、まじか…。アラルフィルさんって、こう…元勇者のリュート様とその当時の仲間としか話さない人なのに……」

「タツって実は有名人とか…?」

ナイトとベレイの信じられない者を見たかのような反応に、今度は俺がどうすればいいのかわかなくなってしまう。
二人のこの反応は一体なんだ…?アランは、元騎士団に所属してたんだし、騎士団の二人には、普通に話しかけたりしそうなんだが…。
取っ付き難いヤツだが、話せば良い奴なのはすぐに解るだろうし。

はて?と首を傾げる俺に、アランはムスゥっとした表情を浮かべ、サランは面白そうにクスクスと笑うだけで何も言わない。
てか、今すごいナチュラルに言われて、聞き流しそうになったんだが…リュート様・・・・・ってなんだ!?
俺こいつらに会ったことないぞ…?なのになんで、様付け…?
俺自身、勇者であることを公言したことなんてない。ただ、仲間になってくれた奴らには、勇者であることを教えただけだ。
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