上 下
7 / 23
一章 再会の時

一章 再会の時 06

しおりを挟む


「これからどうしましょう…」

一頻ひとしきり泣いたサランだったが、冷静を取り戻したのか、ポツリと呟いた。

「………」

誰も口を開こうとはしない。いや、開けないのだ。
まだ今の現実を受け止めきれないのだから仕方がないだろう。

だが、突然―アランは涙を乱暴に拭って立ち上がった。
今さっきまで泣いていたせいで瞳は少し赤くなっていたが、どこかスッキリとした顔でニィっと笑って見せた。

「とりあえず、リュートが拾った奴らを迎えに行く」

「…!そうですね。リュートが終わったら迎えに行くって言ってたものね」

アランの言葉と表情にサランは驚いていたが、ニコリと微笑んで頷いた。

「フフ…アランらしいですね。では、迎えに行きましょうか」

いつの間にかアランの隣にいたフィルも柔らかい笑みを浮かべて、同意した。

この後、こんな笑みを浮かべていられなくなる事が待ち受けていることなどこの時は、誰も知る由もなかった。







「なぁ、リュートはなんで消えたんだと思う?」

無言で歩みを進めていく中、唐突にアランが口を開いた。

「……何故そんなことを聞くの?」

サランはアランの問いにクエッションマークを浮かべながら首を傾げて、隣を歩いているアランを見上げる。

「普通なら死体は消えたりしないだろ?リュートはこの世界の人間じゃないから消えたんじゃないか?」

「そう言えば…リュートは異世界人でしたね。この世界に馴染み過ぎてて忘れてました」

異世界人という事実を今さら思い出して、苦笑いを浮かべる。
ずっと一緒にいたからか、異世界人なんてことすっかり忘れていた。
って…!!

「それってつまり…リュートは生きてるってこと?」

「いや、流石にそこまではわかんねーけど。でも、リュートは元の世界に戻ったんだと思う」

アランは首を横に振って否定するが、アラン自身も元の世界に戻ったことによって生き返ったりしないだろうかと期待している。
もう一度…あいつに、リュートに会えるんじゃないか、と。

「アランはリュートのことになると頭の回転が速いですよね。野生の感ってやつですかね?」

クスリとフィルがからかい交じりに言えば、アランは「うるせぇ…」と頭をポリポリと掻きながらそっぽを向いたのだった。

(私も負けてられませんね…)

アランに対して、フィルが対抗心を燃やしているなんてこと、アランは知る由もない。


「徒歩で街まで行くのは少し大変ですね…野生の騎獣でも捕まえますか」

いつも移動手段はリュートの契約している聖獣に乗せてもらうことが多かったため、今現在の移動手段が徒歩しかないのだ。
他にも今フィルが言った野生で良く見かける騎獣という生き物に乗る人も多い。
馬みたいな見た目で二本の小さい角が頭に生えており、黒い毛に覆われている。

野生の騎獣は気性が荒く、乗りこなすのが大変なのだが…徒歩だと街にいつ着くのか分からないから、この手段を取るしかないわけだ。

「他に手段はねぇしな…あーだりぃ」

アランはフィルの提案を受け入れたが、どこかやる気が無さそうに見える。
それも仕方ないだろう…アランは動物が苦手なのだ。

「リュートのためにも、頑張りましょう、ね?」

そんなアランの言動に、サランは可笑しそうに笑いながらアランの方をポンポンと叩いて励ました。

動物や精霊、聖獣に何故かすぐに懐かれていたのがリュートだった為、動物たちの相手は全てリュートに任せていた。つまり、騎獣を捕まえるのも全てリュートの担当だったというわけで…アランたちは手助けはしていても、捕獲はしたことがないのだ。
それに、アランは動物の扱いが苦手なのだ。動物以外にも積極的な女性も苦手だったりするんだが。
もちろんサランはアランのことは仲間としか見ていないので、普通に接することができている。

「この近くに騎獣いるといいんですけど…」

サランは周囲を見渡してみるが、騎獣どころか生き物がいるのかも怪しいくらいに静かだ。
なにせ魔王の城があった場所なのだから、普通の生き物がこんな場所にいるはずがない。

「あ、あれって」

フィルもサランに見習って周囲を見ていたが、フッと一つの影が目に留まった。
フィルの声につられるように、アランたちもそちらに視線を向ける。するとそこには、大きな影が目に飛び込んできた。

「あれは、ドラゴンですね」

フィルはまさかこの場所にドラゴンがいることに驚きつつ、ナイスタイミングとばかりにニコリと笑みを浮かべた。

「そんなの見ればわかるだろ。そんなことよりも、何でこんな場所にドラゴンがいるんだ?」

「さあ?それよりもあのドラゴンがどこかにいなくなる前に捕獲して、街まで乗せてもらいましょう」

アランは怪しんでいたが、フィルも少し警戒しながらもドラゴンの方へ向けて歩き出した。
サランもアランを説得して、フィルの後に続いて歩き出す。


ドラゴンの目の前に行くと伏せていた首を持ち上げて、アランたちを見下ろした。

「ほう…。本当に人が来るとは驚いたな」

「え?」

ドラゴンは驚嘆したように…人間で言うなら目を丸くしていそうだ。
その口振りから、まるでアランたちがここに来るのを分かっていたかのような言い方で…思わずアランはドラゴンを睨みつけていた。

「てめぇ、なんで俺たちがここに来ること知ってるんだ?」

静かに怒気を含ませた口調で問えば、ドラゴンは目を細めてアランを見下ろす。

「お前たちが来ることなんて知らんな。ただ、友人リュートにココで仲間が来るから待っていてほしいと頼まれたからな」

「リュート!?貴方はリュートを知っているの!?」

サランが事の成り行きを見守っていたが、リュートの名前に真っ先に反応し、身を乗り出した。
そんなサランに落ち着かせるように、フィルが肩を叩いた。

「サラン、女性が大声を上げるのは見っとも無いですよ」

「あ……すみません」

フィルに窘められて、サランはシュンと落ち込んでしまう。が、すぎに落ち着いた声でもう一度、ドラゴンに問いかける。

「あの、ドラゴンさんはリュートの知り合いですか?」

「否、リュートは我も契約者である」

「え?でも、ここにずっといたんですよね?」

「リュートとの契約で、人を傷つけなければ、自分の意思でこの世界に来られるのだ。リュートに何かあれば契約をしている我ら聖獣達にも分かるからな」

「そう…。つまり、リュートは自分に何かあった時のために貴方が私たちを迎えに来られるようにしていたわけね」

サランはすぐにドラゴンの言いたいことを理解したが、リュートがまさかこんな先のことまで読んでいたかのような行動にポロリと瞳から涙が零れ落ちた。

「でも、俺ら…お前のこと初めて見たぞ」

「それもそうだろう。契約してからリュートに呼ばれることがなかったからな。きっと我の存在を知られたくなかったんだろう」

「それって、誰に知られたくなかったんだ?」

アランの言葉にドラゴンは深く頷いてみせたが、ドラゴンの意味ありげなセリフにアランは訝しげな表情を浮かべる。

知られたくないとは、一体誰にだ?こうして、ドラゴンに迎えをこさせるってことは、俺らではないと思うが…。

「それはリュートに釘を刺されておるため言えぬ。だが、お前たち…リュートの仲間ではないことは確かだ」

「さて、ここで話していても仕方ないですから、そろそろ街まで行きましょうか?」

まだドラゴンに質問をしようとしていたアランを止めて、フィルはまだ泣いているサランの腕を引っ張ってドラゴンのすぐ真横に近寄っていく。
アランもフィルの有無を言わせぬ笑みに顔を引きつらせながら、ドラゴンの足下に歩いて行った。

ドラゴンも何も言わずに、フィルたちが乗りやすいように翼をたたみ、その場で伏せる。

「では、行くとするか」

ドラゴンは三人がちゃんと乗ったことを確認すると、バサリと大きな翼を羽ばたかせたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】総受け主人公のはずの推しに外堀を埋められた!?

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,244

蓮の30歳恋人が、突然子供化した後、大人になる

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:103

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,250pt お気に入り:34

異世界で記憶喪失になったら溺愛された

BL / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:3,325

超絶美形な俺がBLゲームに転生した件

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,313

田舎物語

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:22

だから王子は静かに暮らしたい。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,038

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,130pt お気に入り:847

異世界ではじめて奪われました

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,839

可愛い子にはお仕置きを

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:281

処理中です...