浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

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《┈第一部┈》プロローグ

《佳代子》

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人々が、路地の迷宮を彷徨う。
そんな光景でわたしは目を覚ました。
今までは暗闇に居たようで、明るい光に目が眩む。
気付けば見覚えのない、ビルの狭間にわたしは立っていた。焦りを感じ、走り出す。靴底と地面の当たる足音が水をける音に変わる。ヒタヒタヒタ足音が怪しく響いた。膝が痛み、息が切れ始める。ぐっしょりと体が濡れ、咳が出た。体力の限界を感じ、立ち止まる。
わたしは迷路に一人閉じ込められたような感覚におちいり、焦りが心をこがす。
そこは、十字路だった。山神十字路、その文字にわたしは安堵する。わたしの知っている、山神十字路ではない。そこはビルが立ち並ぶ都市だった。それでも、わたしの知る、山神十字路と近い場所であろう。しかし、足は限界だった。しばらく、座ることにした。電柱に寄りかかる。
通りかかる人に、声をかけることにした。
「ここはどこですか?」
そう、声をかけても、人々の視線が、わたしに向けられることはない。
いくら声をかけたとしても、人は足早に通り過ぎていくだけだ。
わたしの存在は彼らにはみえていないのだろうか。
それとも、わたしを無視しているのだろうか。
刻々と、時間がすぎる中、わたしは1人、彷徨い続ける。
────もう疲れた。
わたしは道に座り込む。
そんな中、一人の女性が、こちらに来る。
彼女はわたしをじっと見つめた。
「どうしたの?」
上から突然、声が降り注いだ。
え……?
女性にはわたしが見えているように感じて、戸惑いが隠せない。
たすけを求めて、彼女に触れようとする。
その刹那、すっと指先がすり抜け、宙を切った。
そして彼女は消えた。
跡形もない。女性のいた場所にも、何も痕跡がない。
まるで、初めから彼女がいなかったかのように。
夢の中にいるような、現実離れした感覚だった。

わたしは再び歩き始める。どこへ向かっているのか、自分でも分からないままだが、自然と足が進む。
道中、人々の声がわたしに降り注ぐ。
「美湖ちゃん、久しぶりだね!」
「美湖さん、お元気ですか?」
彼女たちはわたしを「美湖」と呼んでいた。
わたしは美湖では無い。
人違い?そう思っても納得がいかない。
一人や二人ではなく、何人もが、わたしを美湖と読んでいた。
そして、わたしは一件家に辿り着いた。何の変哲もない、新築のような家だ。
自分の家では無い。そう思いながらも、何かに操られるように、鍵を開け、中に入ると、一人の女性がわたしを迎えた。
「美湖、遅かったね」
疑問が、確信に変わった。
わたしは一瞬にして、小説の中で読んだ物語を思い出した。主人公は、ある日突然、別人になってしまう。そして、元の自分に戻るために奮闘する。
「……まさか」
わたしは自分の身に起こっていることを完全に理解した。しかし、心は追いつかない。

わたしは死んで魂になり、美湖に、憑依したのだ。
美湖として生きていかないといけない。そう思い、落胆した。まるで、崖から、突き落とされたような絶望がわたしを襲った。
耳に突如飛び込んできた声に、わたしはハッとする。
「美湖。御夕飯の時間よ」
美湖の母親に呼ばれて、わたしは食卓に向かう。
会談を下る足取りが、重く、わたしの心も沈ませた。
とりあえず、美湖のふりをしよう。そう思い、返事をした。
それでも、わたしの言動には戸惑いが滲んでいた。
声が震えている。
ブルルと空気をふるわせるように、声が、響き渡った。
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