3 / 92
《┈第一部┈》プロローグ
《佳代子》
しおりを挟む
人々が、路地の迷宮を彷徨う。
そんな光景でわたしは目を覚ました。
今までは暗闇に居たようで、明るい光に目が眩む。
気付けば見覚えのない、ビルの狭間にわたしは立っていた。焦りを感じ、走り出す。靴底と地面の当たる足音が水をける音に変わる。ヒタヒタヒタ足音が怪しく響いた。膝が痛み、息が切れ始める。ぐっしょりと体が濡れ、咳が出た。体力の限界を感じ、立ち止まる。
わたしは迷路に一人閉じ込められたような感覚におちいり、焦りが心をこがす。
そこは、十字路だった。山神十字路、その文字にわたしは安堵する。わたしの知っている、山神十字路ではない。そこはビルが立ち並ぶ都市だった。それでも、わたしの知る、山神十字路と近い場所であろう。しかし、足は限界だった。しばらく、座ることにした。電柱に寄りかかる。
通りかかる人に、声をかけることにした。
「ここはどこですか?」
そう、声をかけても、人々の視線が、わたしに向けられることはない。
いくら声をかけたとしても、人は足早に通り過ぎていくだけだ。
わたしの存在は彼らにはみえていないのだろうか。
それとも、わたしを無視しているのだろうか。
刻々と、時間がすぎる中、わたしは1人、彷徨い続ける。
────もう疲れた。
わたしは道に座り込む。
そんな中、一人の女性が、こちらに来る。
彼女はわたしをじっと見つめた。
「どうしたの?」
上から突然、声が降り注いだ。
え……?
女性にはわたしが見えているように感じて、戸惑いが隠せない。
たすけを求めて、彼女に触れようとする。
その刹那、すっと指先がすり抜け、宙を切った。
そして彼女は消えた。
跡形もない。女性のいた場所にも、何も痕跡がない。
まるで、初めから彼女がいなかったかのように。
夢の中にいるような、現実離れした感覚だった。
わたしは再び歩き始める。どこへ向かっているのか、自分でも分からないままだが、自然と足が進む。
道中、人々の声がわたしに降り注ぐ。
「美湖ちゃん、久しぶりだね!」
「美湖さん、お元気ですか?」
彼女たちはわたしを「美湖」と呼んでいた。
わたしは美湖では無い。
人違い?そう思っても納得がいかない。
一人や二人ではなく、何人もが、わたしを美湖と読んでいた。
そして、わたしは一件家に辿り着いた。何の変哲もない、新築のような家だ。
自分の家では無い。そう思いながらも、何かに操られるように、鍵を開け、中に入ると、一人の女性がわたしを迎えた。
「美湖、遅かったね」
疑問が、確信に変わった。
わたしは一瞬にして、小説の中で読んだ物語を思い出した。主人公は、ある日突然、別人になってしまう。そして、元の自分に戻るために奮闘する。
「……まさか」
わたしは自分の身に起こっていることを完全に理解した。しかし、心は追いつかない。
わたしは死んで魂になり、美湖に、憑依したのだ。
美湖として生きていかないといけない。そう思い、落胆した。まるで、崖から、突き落とされたような絶望がわたしを襲った。
耳に突如飛び込んできた声に、わたしはハッとする。
「美湖。御夕飯の時間よ」
美湖の母親に呼ばれて、わたしは食卓に向かう。
会談を下る足取りが、重く、わたしの心も沈ませた。
とりあえず、美湖のふりをしよう。そう思い、返事をした。
それでも、わたしの言動には戸惑いが滲んでいた。
声が震えている。
ブルルと空気をふるわせるように、声が、響き渡った。
そんな光景でわたしは目を覚ました。
今までは暗闇に居たようで、明るい光に目が眩む。
気付けば見覚えのない、ビルの狭間にわたしは立っていた。焦りを感じ、走り出す。靴底と地面の当たる足音が水をける音に変わる。ヒタヒタヒタ足音が怪しく響いた。膝が痛み、息が切れ始める。ぐっしょりと体が濡れ、咳が出た。体力の限界を感じ、立ち止まる。
わたしは迷路に一人閉じ込められたような感覚におちいり、焦りが心をこがす。
そこは、十字路だった。山神十字路、その文字にわたしは安堵する。わたしの知っている、山神十字路ではない。そこはビルが立ち並ぶ都市だった。それでも、わたしの知る、山神十字路と近い場所であろう。しかし、足は限界だった。しばらく、座ることにした。電柱に寄りかかる。
通りかかる人に、声をかけることにした。
「ここはどこですか?」
そう、声をかけても、人々の視線が、わたしに向けられることはない。
いくら声をかけたとしても、人は足早に通り過ぎていくだけだ。
わたしの存在は彼らにはみえていないのだろうか。
それとも、わたしを無視しているのだろうか。
刻々と、時間がすぎる中、わたしは1人、彷徨い続ける。
────もう疲れた。
わたしは道に座り込む。
そんな中、一人の女性が、こちらに来る。
彼女はわたしをじっと見つめた。
「どうしたの?」
上から突然、声が降り注いだ。
え……?
女性にはわたしが見えているように感じて、戸惑いが隠せない。
たすけを求めて、彼女に触れようとする。
その刹那、すっと指先がすり抜け、宙を切った。
そして彼女は消えた。
跡形もない。女性のいた場所にも、何も痕跡がない。
まるで、初めから彼女がいなかったかのように。
夢の中にいるような、現実離れした感覚だった。
わたしは再び歩き始める。どこへ向かっているのか、自分でも分からないままだが、自然と足が進む。
道中、人々の声がわたしに降り注ぐ。
「美湖ちゃん、久しぶりだね!」
「美湖さん、お元気ですか?」
彼女たちはわたしを「美湖」と呼んでいた。
わたしは美湖では無い。
人違い?そう思っても納得がいかない。
一人や二人ではなく、何人もが、わたしを美湖と読んでいた。
そして、わたしは一件家に辿り着いた。何の変哲もない、新築のような家だ。
自分の家では無い。そう思いながらも、何かに操られるように、鍵を開け、中に入ると、一人の女性がわたしを迎えた。
「美湖、遅かったね」
疑問が、確信に変わった。
わたしは一瞬にして、小説の中で読んだ物語を思い出した。主人公は、ある日突然、別人になってしまう。そして、元の自分に戻るために奮闘する。
「……まさか」
わたしは自分の身に起こっていることを完全に理解した。しかし、心は追いつかない。
わたしは死んで魂になり、美湖に、憑依したのだ。
美湖として生きていかないといけない。そう思い、落胆した。まるで、崖から、突き落とされたような絶望がわたしを襲った。
耳に突如飛び込んできた声に、わたしはハッとする。
「美湖。御夕飯の時間よ」
美湖の母親に呼ばれて、わたしは食卓に向かう。
会談を下る足取りが、重く、わたしの心も沈ませた。
とりあえず、美湖のふりをしよう。そう思い、返事をした。
それでも、わたしの言動には戸惑いが滲んでいた。
声が震えている。
ブルルと空気をふるわせるように、声が、響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる