浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

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《┈第一部┈》第一章

《美湖》

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カチ、カチ、カチ、
時計の針だけが刻々と時間を刻み、その音が不気味に響く。
どこまで続くのか、どこから始まるのかすら分からない暗闇の中にわたしはひとり閉じ込められている。
孤独がわたしの心を埋め尽くす。
ここに来た日からどれぐらい経ったのだろう。
そう考えていると頭の中が真っ白になった。
ふわーっと意識が遠のいた。

─────荒々しい岩肌が自然の厳しさを物語っている。
枯れた木々の聳える村に、建つ古い家に、少女は両親と住んでいた。
庭の草木は、ポッキリと折れ、セピア色に沈んでいた。窓も所々割れ、廃墟のようだ。その家に、少女が住んでいた。少女は没落貴族だった。家は貧しかったが、両親は少女を愛していた。
生まれつき病弱だった彼女は、度々病に伏せっていた 。本を読むことが少女の唯一の楽しみだった。
本を読んでいれば、現実から目を背けられ、楽しい世界に入れる、少女はそう思った。
時折、家からは苦悶の叫びが響く。
わたしはその声に、恐ろしさを覚えた。
叫び声の度、彼女は衰弱して言った。
ふと、場面が切り替わる。
少女の最後の記憶は、病院の白い壁だった。
冷たい明かりが、部屋を照らしている。
少女の両親は泣きわめき、医師と看護師は何やら会話をしていた。
彼女の心は、冷えきっていた。
少しづつ、体が、冷えてゆく。
少女は、痛みにおおわれているように顔を歪めている。寝具より、真っ白な肌には血色がかんじられない。少女の息が弱々しくなっていく。
そして、視界が闇に染った。

気づけば、また暗闇で立っていた。夢だったのだろうか。
そう気づき、思い返す。
わたしでは無い少女の記憶だった。映画のように、客観的にわたしは夢を見ていた。
現実に引き戻され、再び、絶望感におおわれる。
孤独感に襲われ、逃げ場のない恐怖に心が締め付けられる。
視界が遮られ、五感が研ぎ澄まされる。
カチコチカチコチ
僅かな時計の音すら大きく響き、心臓が鼓動を早める。
息を潜めて耳を澄ます。しかし、聞こえるのは自分の脈拍の音だけだ。
視界が何も捉えないため、空間が無限に広がっているような途方もない感覚に蝕まれる。
孤独感に襲われ、泣き叫びたくなる。
暗闇は、想像力を掻き立て、恐怖を増幅させる。子供の頃に聞いた怖い話や、見た悪夢が頭をよぎり、体中に鳥肌が立つ。抜け出せない恐怖に、体は震え、呼吸が浅くなる。
目を瞑り、再び目覚めれば、元に戻っているのではないか。そんな淡い期待を抱き、わたしは眠りへと落ちた。
意識が覚め、絶望に染る。
辺りには相変わらずの暗闇が拡がっていた。
無数の影が蠢いているように感じて、周囲を見渡す。
ここに来たのはいつだろうか。
数年前、いや本当は数ヶ月前かもしれない。
何も見えないここでは時間感覚などはない。
時計の音も、まるで参考にならない。
恐怖と絶望に打ちひしがれ、ただただ暗闇の中をさまよい続けている。
この暗闇が部屋の中なのか、それとも屋外なのかさえも分からない。
たまに、深淵に落ちていくような、そんな感覚に襲われる。心が闇に解けてゆく。
暗闇の中で、わたしはただ一人、孤独と恐怖に打ちひしがれている。
いったい、いつまでこの暗闇から抜け出せないのだろう。
希望など、とうの昔に失ってしまった。
ただただこの暗闇の中で、永遠にさまよい続けるのだろう。
心すら、もう死んでしまいそうだ。

わたしは、もう諦めた。
一生ここにいるのだろう。あるいは存在自体が消えてしまうのだろう。
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