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《┈第一部┈》第三章
《靖史》
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────みこがたおれていました────
その置き手紙をみつけ、僕は信じられず、考えをめぐらせる。
急ぎ、財布を掴み、支度をする。
プルルルル
携帯電話が振動する。
ばくりばくりとなっていた心臓が飛び跳ねる。
震える足を無理やり動かし、携帯電話の置かれるテーブルへと歩を進める。
画面をのぞき込むと、そこには「洋子」と、名前が映し出されていた─────。
震える指は押させまいとするも、僕はそれを振り切り、通話ボタンを押した。
「パパ?!」
いきなり、携帯電話から響いた大きな声に、肩を震わせ、反射的に耳から話す。
走り書きのようなメモの文字と、焦ったような大きな声が重なり、恐ろしく、脳裏で反響する。
再び耳に近づけると、今度は少しだけ落ち着いた、洋子の声が聞こえた。
「美湖が衰弱で、あと数時間しか持たないって……!」
その言葉に驚き、考える。
けさ、美湖は会社に行っていた。
そして今、衰弱であと数時間しかないと言う。
普通ならありえないだろう。
考えを巡らせれば、あることが脳裏に浮かぶ。
────一年前からおかしかった美湖の様子……それが関係しているのだろうか。
気づけば、僕は車を走らせていた。
ひたすらアクセルを踏み込み、いそぐ。
車をしばらく走らせ、大通りを出れば、目の前に大きな建物――病院が現れた。
車を停めると、携帯電話を取りだし、電話をひらく。
プルルル────しばらくの沈黙の後、僕が切り出した。
「病院に着いたよ。どこに行けばいい?」
重苦しい沈黙の後、洋子が口を開いた。
「205号室に来て。」
先程の焦りの滲んだ声とは対称的な疲れきった声だ。
「わかった」
そうとだけ言うと、僕は車を出て、走り出す。
佰神台病院入り口────そう書かれた自動ドア。
開くまでの短い時間がやけに長く感じられた。
中に入ると、病院独特の消毒液の匂いが鼻をつく。
受付へと急ぎ、手続きをする。
手続きが終わると職員に案内され病室へと向かう。
エレベーターを上がれば、美湖の病室が見えた。
ガラ───ッ
重い開閉音を立て、扉は開く。
そこに広がる後継に絶句する。美湖は生きているか不安になるほど、身動きひとつせず、青白い顔をし、そこに横たわっていた。
ピピ、ピピ
心電図の機械音だけが、無機質な病室に響く。
洋子は俯き、疲弊しきった姿だ。
グルっと彼女の首がこちらに向けられる。
「来てくれたの…」
そう言うと、再び、力なく、項垂れた。
その刹那────
ビーッビーッビーッ
けたたましい警報音が病室に響き渡る。
バクリ、バクリ、バクリ
鼓動が、早く、大きくなる。
緊迫感が横たわる病室にさらなる音が響いた。
ガラーッ――!
勢いよく扉が開け放たれ、医師が駆け込む。
急に現実感がなくなり、映画のシーンのように、医師が美湖に心臓マッサージをする姿が目に飛び込む。
ピ─────ッ
心臓の停止を知らせる音が叫びのように響くと、僕の心は現実にひきもどされた。
医師の死を告げる言葉が虚しく響くと、時はコマ送りのようになった。
美湖は霊安室に運ばれ、ベッドは空白だ。
それは虚しく、悲しく、僕の心を蝕む。
絶望に支配された病室に、悲痛な叫びが響き渡る。
心は闇に落とされ、希望を抱けない。
現実は残酷だ。小説や、ドラマで見るような、感動的な死などないと思った。
葬儀業者が到着し、美湖は霊柩車に乗った。
傍らでは洋子が美湖の友人に電話をかける。
バタバタと、美湖の葬儀が過ぎ、僕の心には穴が開き、絶望が増大した。
その置き手紙をみつけ、僕は信じられず、考えをめぐらせる。
急ぎ、財布を掴み、支度をする。
プルルルル
携帯電話が振動する。
ばくりばくりとなっていた心臓が飛び跳ねる。
震える足を無理やり動かし、携帯電話の置かれるテーブルへと歩を進める。
画面をのぞき込むと、そこには「洋子」と、名前が映し出されていた─────。
震える指は押させまいとするも、僕はそれを振り切り、通話ボタンを押した。
「パパ?!」
いきなり、携帯電話から響いた大きな声に、肩を震わせ、反射的に耳から話す。
走り書きのようなメモの文字と、焦ったような大きな声が重なり、恐ろしく、脳裏で反響する。
再び耳に近づけると、今度は少しだけ落ち着いた、洋子の声が聞こえた。
「美湖が衰弱で、あと数時間しか持たないって……!」
その言葉に驚き、考える。
けさ、美湖は会社に行っていた。
そして今、衰弱であと数時間しかないと言う。
普通ならありえないだろう。
考えを巡らせれば、あることが脳裏に浮かぶ。
────一年前からおかしかった美湖の様子……それが関係しているのだろうか。
気づけば、僕は車を走らせていた。
ひたすらアクセルを踏み込み、いそぐ。
車をしばらく走らせ、大通りを出れば、目の前に大きな建物――病院が現れた。
車を停めると、携帯電話を取りだし、電話をひらく。
プルルル────しばらくの沈黙の後、僕が切り出した。
「病院に着いたよ。どこに行けばいい?」
重苦しい沈黙の後、洋子が口を開いた。
「205号室に来て。」
先程の焦りの滲んだ声とは対称的な疲れきった声だ。
「わかった」
そうとだけ言うと、僕は車を出て、走り出す。
佰神台病院入り口────そう書かれた自動ドア。
開くまでの短い時間がやけに長く感じられた。
中に入ると、病院独特の消毒液の匂いが鼻をつく。
受付へと急ぎ、手続きをする。
手続きが終わると職員に案内され病室へと向かう。
エレベーターを上がれば、美湖の病室が見えた。
ガラ───ッ
重い開閉音を立て、扉は開く。
そこに広がる後継に絶句する。美湖は生きているか不安になるほど、身動きひとつせず、青白い顔をし、そこに横たわっていた。
ピピ、ピピ
心電図の機械音だけが、無機質な病室に響く。
洋子は俯き、疲弊しきった姿だ。
グルっと彼女の首がこちらに向けられる。
「来てくれたの…」
そう言うと、再び、力なく、項垂れた。
その刹那────
ビーッビーッビーッ
けたたましい警報音が病室に響き渡る。
バクリ、バクリ、バクリ
鼓動が、早く、大きくなる。
緊迫感が横たわる病室にさらなる音が響いた。
ガラーッ――!
勢いよく扉が開け放たれ、医師が駆け込む。
急に現実感がなくなり、映画のシーンのように、医師が美湖に心臓マッサージをする姿が目に飛び込む。
ピ─────ッ
心臓の停止を知らせる音が叫びのように響くと、僕の心は現実にひきもどされた。
医師の死を告げる言葉が虚しく響くと、時はコマ送りのようになった。
美湖は霊安室に運ばれ、ベッドは空白だ。
それは虚しく、悲しく、僕の心を蝕む。
絶望に支配された病室に、悲痛な叫びが響き渡る。
心は闇に落とされ、希望を抱けない。
現実は残酷だ。小説や、ドラマで見るような、感動的な死などないと思った。
葬儀業者が到着し、美湖は霊柩車に乗った。
傍らでは洋子が美湖の友人に電話をかける。
バタバタと、美湖の葬儀が過ぎ、僕の心には穴が開き、絶望が増大した。
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