浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

文字の大きさ
31 / 92
《┈第二部┈》第二章

《千枝子》

しおりを挟む
後悔が、脳裏を駆け巡る。目の前には、今朝同様青ざめた顔の汐梨が立ち尽くしていた。心臓はドクンドクンと鼓動する。しおりが、ハッとした表情になり、肩をふるわせた。
そっと頭を下げると、彼女は走り出した。今朝も、聞こうとしたら逃げられた。わたしの心の中で、疑問は確信に変わりつつあった。ドアを締め、わたしは歩き出した。会社のビルを出ると、雨の匂いが鼻をつく。雨上がりのどんよりとした空気は、まるでわたしの心を映し出しているようだった。
じっとりと水を孕んだ空気がわたしに纏わりつき、心を暗く染める。いっそ、時が朝彼女と出逢う前に戻れれば良いと、叶うはずの無い願いが脳裏を巡る。しかし、わたしは気になっていた。彼女が憑依されているのかを。汐梨の前には美湖、その前にも沢山の人の様子がおかしくなった。汐梨の様子と、過去の人々の様子は、あまりに似ている。汐梨が憑依されたのだとすれば、もしかすると美湖達もそうなのかもしれない。
何故なのだろうか。「憑依」かもと思っていたが、現実で憑依などあるのだろうか。わたしは信じられない。しかし、あの様子を見ると、自然と「憑依」という言葉が浮かんでしまう。わたしはいつから、「憑依」だなんて考えるようになったのだろう。ふと記憶が、脳裏に浮かんだ。
二年前───。わたしは浦町ニュータウンに転勤になった。ここは半年前にできたニュータウンだと言う。

目の前に、新築と思われるビルが聳え立つ。わたしは、緊張と希望を胸に、自動ドアに手をかざした。
目の前には明るいエントランスが広がり、わたしは息を飲む。エレベーターに乗り込み、指定された階へ向かう。軽快な音とともに、エレベーターの扉は開き、オフィスの扉の前に降り立った。
ガラ────ッ
扉を開け、オフィスに、足を踏み入れる。そこに広がるのは、近代的で快適そうな、美しいオフィスだった。課長だという男性が、わたしを席に案内し、仕事を説明した。わたしは、新しい環境に安堵し、仕事を始めるのだった。
昼休みになり、社員の半数が、昼食をとりに、オフィスを後にした。わたしは、持ってきていた弁当を開き、食事を始めた。食事の時間が終わると、わたしは仕事に戻った。分からないところがある。先程の課長に聞こうと、彼の席に向かい、声をかけた。振り向いた彼の顔には、困惑の色が浮かべられていた。
忙しかったですか?とわたしがとうが、課長は俯くだけだった。迷ったが、聞けそうな人は彼しかいない。わたしは勇気を出し、質問した。
「わたしは、やった事ないので分かりません……。」
予想外の言葉が、彼から発せられた。話し方も、先程の彼とは、違っていた。わたしは困惑しながらも、席に戻るのだった。
課長がおかしくなり、一年が経つと彼はこの世を去った。衰弱死だったという。彼の死から数日後、わたしは噂を聞いた。彼は、苦悶に満ちた顔をうかべ、息絶えたのだと言う。それからも、変死は相次いだ。
数回目の変死で、わたしは憑依を疑うようになった。

ふと我に返る。そしてわたしは重い足取りで、帰路に着くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...