浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

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《┈第三部┈》第三章

《霧島》

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体の奥底から湧き上がるような、耐え難い痛みが全身を支配する。
終わらない。痛みは終わることを知らず、私を襲い続ける。
それは、熱い鉄を押し当てられたかのような、鋭く、容赦のない痛みであった。
先程から解放を求む私に救いはなく、何時間も痛みが襲い続けた。
喉の奥から、何度目かも分からぬ叫び声が漏れ出す。
痛みに耐えかね、体は痙攣し、震える。意識が遠のき、目の前が真っ暗になる。
先程より痛みが進行した。これはもうすぐ終わる証拠なのだろうか。そうであれば良い。私はそう思った。

声帯が悲鳴を上げ、喉が引き裂けるような痛みが走る。それでも、私は叫び続ける。痛みに抗うように、痛みを吐き出すように、声を上げ続けた。
耳にはキーンとした痛みが走るため、それが叫びを捉えてのものなのかも分からない。

叫び声は、やがて静寂の中に消え、私の意識も、闇の中に溶けていく。私が感じだのは、生への執着ではなかった。
絶望が終わるという喜びであった。
私の体の中に残された痛みは、まるで生き物のように、神経を弄び続ける。
終わりのない苦しみ。そんな言葉が頭によぎる。
喉から、最後の叫びが、這い出た。力ないが、痛みを凝縮したような呻きが、病室に響き渡った。
視界を埋め尽くす暗闇。光を一切遮断されたような、濃密な黒。
その暗闇を凝視するうちに、心の奥底に封じ込めていた記憶が蘇ってくる。
さ────っと血の気が引いてゆくのを感じた。
胸を締め付けるような圧迫感が襲う。
過去の恐怖が再び訪れる予感がした。
冷や汗が背中を伝い、全身が震え始める。
カチッ、カチッ、カチッ
時計の音が、鳴り響く。記憶の中の音と重なり合い、絶望を産む。
嫌な予感が、確信へと変わってゆく。
私は再び、あの忌まわしい記憶の中に引きずり込まれようとしていた。私は、呆然として、歩き出す。
時計の音が、小さくなり、足音が聞こえてきた。
大きい────。私が前にこの暗闇にいた時は、もう少しこの音は小さかった。しかし、今鳴り響く足音は、明らかに人数をましている。
しかし、静寂が崩れることは無かった。正反対のふたつの要素が混在する。
私は、この状況が過去の出来事をフラッシュバックした悪夢であることを願った。
目を閉じ、意識を手放す。
すぐに意識は戻ってきた。母が、家系図を記している。
あの血に汚れた家系図と、同じもののようだ。
しかし、ちは着いていなく、消えていた名前も、しっかりと記されていた。
霧島家最初の当主、禅朗の名前以外も、記されていた。
何だか不思議な光景だ。
ふと場面が切り替わる。母は、病院にいた。
髪を振り乱し、何かを一心不乱に探している。何を探しているのだろうか。
だが、そんな光景も、直ぐに崩れさってゆく。
母がベッドの上で寝ている。口を開け、顔はゆがめられていた。さっきの私の姿と重なる。苦しんでいるのだと、瞬時にわかった。
叫びが、私の耳をつんざく。
叫び声の中、私の意識は、闇に溶け込んで言った。
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