ファンタジック・アイロニー[6月5日更新再開!]

なぎコミュニティー

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第二幕

[ヒマリside]丁々発止・前編(宵蜜糺)

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 朝を迎えたダイヤシティの中心地。他より一際大きな建物の前で、ヒマリとハートはフリップを待っていた。
 そこにいれば向こうの方から出てくるでしょう、とヒマリを連れたハートの言った通り、駐屯地に着いて少しも経たない内にフリップは出てきた。昨日、逃げたばかりの女性二人の姿を見たフリップは目を丸くしていたが、ダイヤの騎士に会いたいと言ったハートの言葉を聞いて、許可を取ってくると戻っていったのであった。

「ハート、どうして面倒くさいって言っていたのに会いに来たの?」
「……ダイヤの騎士に協力してもらうなら、会って話をしないといけないでしょう。それに、昨日の街の様子も少し気になるわ。別にフリップを訪ねた訳じゃないのよ」
「そうだったんだ」

 そう話していると、フリップが銀色の板を持って走り寄ってくる。板に適当な穴を開けられたようにも見えるそれは、入場証らしい。
 フリップに付いていき潜った門の先は、真っ白で武骨な雰囲気を漂わせる、ダイヤの騎士たちが住み暮らし、騎士の書類業務もしているという屋敷だった。
 こういった屋敷は公共の場と言う扱いであり、一階は申請と身体チェックを済ませれば誰でも入場可能。二階は騎士が出入りし、三階からが居住階である。フリップと同じような制服を着た若い者達は珍しそうな顔でヒマリ達を見てくるのだが、ハートの素性を知っているらしい連中はただ黙して目線を下げるだけであった。

「雰囲気が前に来た時と随分違うわね」

 日本では見慣れない異国の大きなお屋敷に圧倒されていたヒマリは、ハートの言葉で我に返る。

「そうなの?」
「ええ、どこか……そうね、ピリピリしている……かしら……」
「良く分かりましたね」

 あっさりと頷いて、フリップは歩きながら説明する。

「現在ダイヤの騎士の間では二つの勢力が対立していまして、そのためいつもこのような感じなんですよ」
「え、そうなんですか」
「はい。ただ、とても仲が悪いとか……そういう訳では無いのですが。対立している筈のダイヤの騎士同士で食事をしていたりもしますからね」

 ――どういう事だろう。勢力争いをしている様にはとても見えない。
 思わず足を止めてしまったヒマリは、そこで周りの騎士よりも幾らか装飾の多い制服を着た二人が談笑しているのを見つけた。
 それは特に違和感のあるものでもないのに、どうしてか気になり、じっと凝視してしまう。

 何か、変な感じがした。
 いや、うまく言い表す事ができるような程のものではない。どちらかというと二人ではなく、二人の近くにいる騎士たちの雰囲気が気になる。

「……えっと、あの人達は偉い人ですか?」
「どれですか? ……あぁ! そうですね、ご紹介します。付いてきてください!」
「えっ、あっはい!」

 意気揚々に方向転換したフリップは早足に二人へ近づいて行くので、付いて行くのがやっとである。いや、足の長さの違いを考えてほしいと切実に思う。

「お疲れ様です! エフタ隊長、アハト隊長」

 フリップの声で気付いた二人は振り返ってヒマリ達を視認した。
 その姿にヒマリは驚く。
 ――本当に何から何までが一緒だ。見分けがつかない。

「今、少々お時間宜しいでしょうか?」
「あぁ」
「可愛い子を連れているね? ……おや、ハート様」
「お久しぶりですわ、アハト」

 そういうと、アハトと呼ばれた女性は目を細め、面白がるような視線でヒマリとハートを見比べた。

 アハトの視線は決して気持ちの良いものではない。不快さを感じさせるほどのものではないが、不気味だった。
 何を考えているのか分からない瞳は、崩れない柔和な微笑みと相まって尚近づきがたく思えたが、その視線に晒されていた時間は短くにっこりとアハトは微笑みを深める。
 困惑するヒマリと訝しむハートに気付くと「あぁ、ごめん」と謝るのだった。

 アハトの目が細められると一転、探るような声色でさて……と呟き、ヒマリ達の前に立ちふさがる。頭二つ分程高い彼女の背は、それだけで二人に威圧を与えた。

「ハート様はダイヤシティに亡命ですか?」
「なっ……」
「ダイヤの騎士たる私にハートアイランドの重要な情報が入らない訳ないじゃないですか。どうしましょうか、ハートアイランドへ秘密裏に……」

 アハトの言葉にハートの頬が引き攣り、フリップの驚愕した声が上がった。しかし、次を続ける前にエフタが止める。

「やめろアハト、悪趣味だぞ。……悪かったな、実はスノウ様から連絡を受けている。姉に協力してほしいと。これはダイヤの騎士全員が知っている事だ」
「スノウが?」

 途端にハートは眉が跳ね上げる。

「あぁ、詳しいことは聞いていないが」

 あからさまに難しく考え始めた様な顔をしているが、ハートにしたらこれは良い傾向の筈である。既に話が通っているのなら早いことは無いし、間違っている情報だったりしているのなら別だが、今回、伝えられているのは姉《ハート》がダイヤシティに行くという事と、協力してほしいという事だけらしい。難しい顔をする必要は無いはずだった。

「なら、話はわかっているわね」
「あぁ、だが問題がある」

 その願いは叶えてやることが出来ない、と、エフタは申し訳なさそうに言った。

「どうして」
「この状況を見て何もわからないのか」

 顎で見ろ、と。
 そう広場の方を指すと、エフタが指した先には二人と似たコートを着た別の“隊長”と思われる二人が相対していた。
 一瞬、訳が分からなかったヒマリだったが、両者の険しい表情を見た瞬間、悟った。

「喧嘩、している?」
「そんな生易しいものだったら良かったんだがな」

 実際は派閥争いだったのである。さっきエフタの言っていた問題とはこのことであり、それはダイヤシティの根元を揺るがすような事態だったのだ。フリップの言っていたふたつの勢力とはこの事なのだろう。

「右側はクイーン。私たち12人で構成されたダイヤの騎士リーダーであり「折れぬ純潔デイジー・デイジー」の筆頭。左はトゥエルブ。「微睡む睡蓮の芳香ドゥオズ・リリィ」の筆頭だ」
「それってなんですか?」
「そうだな、……ダイヤシティは戦争の被害が比較的少なかった。だが少ないとはいえ私たちの力が削がれてしまっては、今までのようにシティを力で統治することが出来なくなってしまったんだ。だが、クイーンは昔通りの“ダイヤの騎士が法である”事を変えまいとする。対してトゥエルブは限界を感じ政治の改革を諮った。それぞれの有力商人と協力した治世を試みているんだ。――というわけでだ。今、ダイヤの騎士内部は割れてしまっている。正直、亡命の女王様のなんとやらに協力している暇はない」
「……そう」

 ハートは、睨み合った両者を一瞥すると、自嘲したような笑みを浮かべた。

「――難しいものよね。でもこの状態は如何なものなのかしら。私は二人の話を聞きたいわ」
「近付けば聞こえるんじゃない? 行こうか」

 アハトはそう言ったが早く、コートを翻して先を歩いて行ってしまった。

「おい待てアハト!」
「遅い」
「は、はぁっ!? くっ、三人とも付いて来い!」


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