93 / 175
第二幕
[ヒマリside]丁々発止・前編(宵蜜糺)
しおりを挟む朝を迎えたダイヤシティの中心地。他より一際大きな建物の前で、ヒマリとハートはフリップを待っていた。
そこにいれば向こうの方から出てくるでしょう、とヒマリを連れたハートの言った通り、駐屯地に着いて少しも経たない内にフリップは出てきた。昨日、逃げたばかりの女性二人の姿を見たフリップは目を丸くしていたが、ダイヤの騎士に会いたいと言ったハートの言葉を聞いて、許可を取ってくると戻っていったのであった。
「ハート、どうして面倒くさいって言っていたのに会いに来たの?」
「……ダイヤの騎士に協力してもらうなら、会って話をしないといけないでしょう。それに、昨日の街の様子も少し気になるわ。別にフリップを訪ねた訳じゃないのよ」
「そうだったんだ」
そう話していると、フリップが銀色の板を持って走り寄ってくる。板に適当な穴を開けられたようにも見えるそれは、入場証らしい。
フリップに付いていき潜った門の先は、真っ白で武骨な雰囲気を漂わせる、ダイヤの騎士たちが住み暮らし、騎士の書類業務もしているという屋敷だった。
こういった屋敷は公共の場と言う扱いであり、一階は申請と身体チェックを済ませれば誰でも入場可能。二階は騎士が出入りし、三階からが居住階である。フリップと同じような制服を着た若い者達は珍しそうな顔でヒマリ達を見てくるのだが、ハートの素性を知っているらしい連中はただ黙して目線を下げるだけであった。
「雰囲気が前に来た時と随分違うわね」
日本では見慣れない異国の大きなお屋敷に圧倒されていたヒマリは、ハートの言葉で我に返る。
「そうなの?」
「ええ、どこか……そうね、ピリピリしている……かしら……」
「良く分かりましたね」
あっさりと頷いて、フリップは歩きながら説明する。
「現在ダイヤの騎士の間では二つの勢力が対立していまして、そのためいつもこのような感じなんですよ」
「え、そうなんですか」
「はい。ただ、とても仲が悪いとか……そういう訳では無いのですが。対立している筈のダイヤの騎士同士で食事をしていたりもしますからね」
――どういう事だろう。勢力争いをしている様にはとても見えない。
思わず足を止めてしまったヒマリは、そこで周りの騎士よりも幾らか装飾の多い制服を着た二人が談笑しているのを見つけた。
それは特に違和感のあるものでもないのに、どうしてか気になり、じっと凝視してしまう。
何か、変な感じがした。
いや、うまく言い表す事ができるような程のものではない。どちらかというと二人ではなく、二人の近くにいる騎士たちの雰囲気が気になる。
「……えっと、あの人達は偉い人ですか?」
「どれですか? ……あぁ! そうですね、ご紹介します。付いてきてください!」
「えっ、あっはい!」
意気揚々に方向転換したフリップは早足に二人へ近づいて行くので、付いて行くのがやっとである。いや、足の長さの違いを考えてほしいと切実に思う。
「お疲れ様です! エフタ隊長、アハト隊長」
フリップの声で気付いた二人は振り返ってヒマリ達を視認した。
その姿にヒマリは驚く。
――本当に何から何までが一緒だ。見分けがつかない。
「今、少々お時間宜しいでしょうか?」
「あぁ」
「可愛い子を連れているね? ……おや、ハート様」
「お久しぶりですわ、アハト」
そういうと、アハトと呼ばれた女性は目を細め、面白がるような視線でヒマリとハートを見比べた。
アハトの視線は決して気持ちの良いものではない。不快さを感じさせるほどのものではないが、不気味だった。
何を考えているのか分からない瞳は、崩れない柔和な微笑みと相まって尚近づきがたく思えたが、その視線に晒されていた時間は短くにっこりとアハトは微笑みを深める。
困惑するヒマリと訝しむハートに気付くと「あぁ、ごめん」と謝るのだった。
アハトの目が細められると一転、探るような声色でさて……と呟き、ヒマリ達の前に立ちふさがる。頭二つ分程高い彼女の背は、それだけで二人に威圧を与えた。
「ハート様はダイヤシティに亡命ですか?」
「なっ……」
「ダイヤの騎士たる私にハートアイランドの重要な情報が入らない訳ないじゃないですか。どうしましょうか、ハートアイランドへ秘密裏に……」
アハトの言葉にハートの頬が引き攣り、フリップの驚愕した声が上がった。しかし、次を続ける前にエフタが止める。
「やめろアハト、悪趣味だぞ。……悪かったな、実はスノウ様から連絡を受けている。姉に協力してほしいと。これはダイヤの騎士全員が知っている事だ」
「スノウが?」
途端にハートは眉が跳ね上げる。
「あぁ、詳しいことは聞いていないが」
あからさまに難しく考え始めた様な顔をしているが、ハートにしたらこれは良い傾向の筈である。既に話が通っているのなら早いことは無いし、間違っている情報だったりしているのなら別だが、今回、伝えられているのは姉《ハート》がダイヤシティに行くという事と、協力してほしいという事だけらしい。難しい顔をする必要は無いはずだった。
「なら、話はわかっているわね」
「あぁ、だが問題がある」
その願いは叶えてやることが出来ない、と、エフタは申し訳なさそうに言った。
「どうして」
「この状況を見て何もわからないのか」
顎で見ろ、と。
そう広場の方を指すと、エフタが指した先には二人と似たコートを着た別の“隊長”と思われる二人が相対していた。
一瞬、訳が分からなかったヒマリだったが、両者の険しい表情を見た瞬間、悟った。
「喧嘩、している?」
「そんな生易しいものだったら良かったんだがな」
実際は派閥争いだったのである。さっきエフタの言っていた問題とはこのことであり、それはダイヤシティの根元を揺るがすような事態だったのだ。フリップの言っていたふたつの勢力とはこの事なのだろう。
「右側はクイーン。私たち12人で構成されたダイヤの騎士リーダーであり「折れぬ純潔」の筆頭。左はトゥエルブ。「微睡む睡蓮の芳香」の筆頭だ」
「それってなんですか?」
「そうだな、……ダイヤシティは戦争の被害が比較的少なかった。だが少ないとはいえ私たちの力が削がれてしまっては、今までのようにシティを力で統治することが出来なくなってしまったんだ。だが、クイーンは昔通りの“ダイヤの騎士が法である”事を変えまいとする。対してトゥエルブは限界を感じ政治の改革を諮った。それぞれの有力商人と協力した治世を試みているんだ。――というわけでだ。今、ダイヤの騎士内部は割れてしまっている。正直、亡命の女王様のなんとやらに協力している暇はない」
「……そう」
ハートは、睨み合った両者を一瞥すると、自嘲したような笑みを浮かべた。
「――難しいものよね。でもこの状態は如何なものなのかしら。私は二人の話を聞きたいわ」
「近付けば聞こえるんじゃない? 行こうか」
アハトはそう言ったが早く、コートを翻して先を歩いて行ってしまった。
「おい待てアハト!」
「遅い」
「は、はぁっ!? くっ、三人とも付いて来い!」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる