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第二幕

[ヒマリside]丁々発止・後編(宵蜜糺)

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 エフタの後をついていくヒマリとハートとフリップ。険悪な気配の中心に近づくほど、トゥエルブからの力強い語り口が聞こえてくる。

「まったく、腐ったおつむをお持ちのようだねえクイーン。何度も言わせるんじゃないよ。このままでは限界が来る――お前は今の騎士たちの現状を知らないのかい? 取り締まるはずが返り討ちに合っているんだよ? そんな状態で市民の安全を守ろうなんて出来やしないよ」
「まぁ、貴女はそう思うのですね、トゥエルブ? ですが見てみなさい、市民の姿を。ひったくりが起きても、誰も何も動きませんわ。騎士が動いてくれる、騎士が何とかしてくれる、騎士が――と、わたくしたち騎士に依存しきっているのです。それを見ても尚、この体制を変えようと思いましょうか? いいえ。多少無茶をしてでも、わたくしは彼らを守りたいのです。――えぇ、出来ないことはないでしょう。今更、改革など必要ありませんわ」

 クイーンの言葉にヒマリは、ふと昨日の事を思い出していた。
 そうだ、そういえば、昨日そんなことがあった。ひったくりが起きても、誰一人助けに動くことなく通り過ぎていたその中で、騎士のフリップだけが声のした方へ向かっていた。

「……いぞん」

 依存しきっている。確かにそう言い表すのなら、その通りだろう。だが、トゥエルブの言い分も間違ってはいないのではないか。ヒマリはダイヤシティの事を良く知らないので正しい判断は出せないが、何となくそう感じていた。

「現にそうでしょう? 貴女が勝手に始めなさった政策はどうです? 慣れないことに手を出し、良い結果は出たのですか?」

 勝手に始めた政策とはさっきエフタの言っていた政治の改革の事だろう。トゥエルブは苦虫を噛み潰したように顔を顰めると、苦々しげに吐いた。

「それはまだ、始めたばかりだから分からないさ」
「そうですか? わたくしには汚い金が横行している様にしか見えないのですが」
「っ……」
「では、クイーン」

 言葉に詰まっていたトゥエルブより1歩、前に騎士が出てきた。

「貴女はこの現状を打破できると言うのですか。具体的な策がありますか。何年もかかるようでは遅すぎるのですよ。今すぐ、最短で、民を守る策を提示できますか。私たち微睡む睡蓮の芳香ドゥオズ・リリィへ属する全員が納得するような策を打ち出せますか。出せないでしょう」
「……」

 クイーンは微笑む。まさかトゥエルブではない、後ろへ控えていた騎士にここで反発されるとは思っていなかったのだろう。一瞬虚を突かれたような顔をしたクイーンは、しかし美しく微笑んだ。

「成程。テン、貴女の言う事はもっともです」
「でしょう」
「残念ですが、生憎とまだそれを出来る程の手札が揃っていません。貴女の言う通りですね。ここは、わたくしが引きましょう」

 クイーンの隣に控えていた騎士は納得のいっていない様子でクイーン、と引き留めたがクイーンはそれを無視して踵を返した。

「このダイヤシティを守るのがわたくし達の使命。それくらいの常識は、お互い痛いほど理解し得ていると分かっております。だからこそ、安易に折れることは出来ないのです」

 決意の滲んだ声色で言い残し、その場を立ち去るクイーンが向かってくるのはこちら側である。これは予期していなかったのか、慌てるエフタはアハトに、早く離れろ、といっているかのように、その背をぐいぐい押した。

「やめてくれないかな、エフタ」
「良いから隠れるなりしてくれ……!」
「何故?」
「見つかる!」
「別に良いじゃないか」
「良くないだろうがぁぁ」
「……何をしているのです、エフタ」

 てんやわんやしている間に、クイーンは既にここまで来ていた。呆れたような表情で立ち止まったクイーンは二人を見て相変わらずですね、と付け加える。

「こ、これはっ」
「いいえ。別にわたくしとて微睡む睡蓮の芳香ドゥオズ・リリィと軋轢を生みたい訳ではありませんもの、仲良くしてはいけないとは言いませんわ」

 叱られた子犬のようにしおらしくなったエフタの横を通り過ぎようとして、クイーンはハートとヒマリを目に止める。
 そして、少しだけ目を眇めると、しおらしいエフタに、二人を連れて来なさい、と告げて立ち去った。


 クイーンが立ち去って、姿が見えなくなるとエフタはアハトから離れる。

「もしかして、エフタさんとアハトさんは……敵? 同士、なんですか?」
「敵ではないが、まぁ、そうなる」
「まあ細かいことは気にしなくて良いんだよ。トゥエルブも特に何も言わないし」
「お前は気にしなさすぎるんだ……!」
「それより、良いのかな。二人を連れてくるように言われたんじゃないの」

 くやしそうな顔をしたエフタは振り向き、ヒマリ達にこっちだと案内を始める。また後でね、と見送るアハトを無視して、すぐ傍に続いていた螺旋階段を昇り始めた。


 クイーンの執務部屋に向かっているみたいだった。階段には頭上のステンドグラスが受ける太陽の光で煌めいた色が揺蕩っている、綺麗だけれど、揺らめくそれぞれの色はまるで仲違いをしているようにバラバラなところで輝いていた。



 階段を登り切った先にあった扉を叩き、部屋に入ると、そこにはクイーンとさっき後ろにいたらしき騎士ともう一人の騎士がいた。二人はエフタに促され、クイーンの前に出る。

「よく来ましたね、ハート。それと……」

 視線を寄越されて、首を微かに傾げて促される。

「ひ、ヒマリです」
「そうですか。ヒマリ、ハート。先ほどはお見苦しいところを見せてしまいましたね」
「構わないわ。お陰様で今ここで起きていることがようやくわかったもの。感謝したいくらいよ」
「それは重畳です」

 微かに笑ったクイーンは、それきり何も言わず、執務室には無言が満ちた。しかも、クイーンはじっと観察するように二人を見つめる。居心地の悪さを感じながらもハートが何も言わないのでヒマリも視線に耐えた。アハトの探るような視線とは比べ物にならなかった。この視線地獄はいつになったら終わるのだろうか。

「それで」

 我に返ると、クイーンは椅子に深く腰掛け、着席を促していた。

「何か、聞きたいことなどがあるのでしょう?」

 促された先のソファに二人が身を沈めたのを見ながら、クイーンは言う。脈絡のない会話の始まりに困惑するヒマリだったが、ハートはそうではなかったらしく身を乗り出して返事をした。

「何故、貴女は今の状態を維持しようとするのかしら」

 クイーンは、面白いですわ、と呟くと机に肘をつく。どこかで見た事のある姿勢だとヒマリは上手く働かない頭で考えていた。

「何故と仰いますか」
「ええ。だってそうでしょう、トゥエルブ達の言う事が本当なら、それも考えても良い筈よ」

 ヒマリも抱いていた疑問は、同じようにハートも考えていたらしい。確かにと頷けば、溜息と共に首を振られる。

「分かっていませんね」

 再び深く椅子に座りながら、クイーンはどこから話しましょうか……と呟いた。


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