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第一幕
[ヒマリside]開戦と誤解・後編(美島郷志)
しおりを挟む雪崩れ込んだのは若い男達だった。それぞれ思い思いの武器を手にして、一目散に女王へと猛突してくる。
「ヒマリちゃん危ない!!」
声がしたのも束の間、私は南方さんに腕を引っ張られ柱の陰に引っ込まされた。
「えっ、なになに!? どうなってるの!?」
「しっ! 見ちゃダメ!」
私は南方さんの手に目を覆い隠され、事態が呑み込めないままその場にうずくまった。
「やはり情報通りか!! スノウ! 貴様女王の妹君でありながら!!」
セブンが迷うことなく懐の細剣を抜き、スノウの首目がけて一目散に飛び込んだ。
しかしその剣尖は届かない。間に入ったチェシャが剣を抜き、セブンの剣をいなして体当たりする。突き飛ばされたセブンは無造作に転がり、すかさずチェシャが追い打ちをかけようとする。
「おやめなさいチェシャ!! それよりも……。」
スノウは仰天していた。彼らが自分の名前を叫びながら、何をしているのかがわからないのだ。だが彼らの持っているそれが、明確な殺意の下であるものだというのは瞬時に理解できる。
そして、それが誰に向けられているものなのかも。
「【露よ、その身を凝らせ、その身を晒し、荒れ狂うもの共を鎮めよ!!】」
両腕を広げたスノウは大気中から白くなった水蒸気を集め、それを瞬く間に白い雪へと変質させていく。やがてそれは山一つほどの量へ膨れ上がった。
「【アイシクル・プロミネンス】!!」
掛け声と共に振りかぶられた腕の先を這うように、白雪から生み出された竜が牙をむき出しにして青年たちに襲い掛かる。竜の体に触れた者達はことごとく雪に覆われ、その動きを封じられていく。
『スノウ様!? どうして!!』
「なにかは知りませんが……お姉さまに刃を向けるのなら容赦はしません!!」
動揺する青年たちに、スノウは凛として言い放った。それを見ていたセブンは困惑し、剣を握る手の力を緩める。
「なぜだ……これはどういうことだ?」
「それはこちらのセリフだ、セブン。これは何だ? なぜスノウ様がハート様を殺すなど……。」
「何? スノウ様はハート様に、クーデターを企てているのではなかったのか?」
「クーデター? ふざけるな! スノウ様とハート様の仲はお前も知っているだろう!? なぜスノウ様がハート様を殺さねばならない!?」
「バカな……ではなぜ彼らは……。」
チェシャとセブンは、互いの言い分に耳を疑っていた。セブンは、スノウが現れたのはハートを殺すためで、ヒマリはその言い分に過ぎないと考えていた。故にヒマリを餌におびき出し、返り討ちにしてやろうと画策していたのだ。対してチェシャも、ヒマリを無断で区の中に入れたスノウを心配してついて来たのだが、まさかそんなことになっているとは夢にも思わない。
共に傍に使える二人が葛藤していた、その時だった。
『……違う、あいつはスノウ様じゃない! スノウ様の偽物だ! アイツらはグルだ! 構わず殺せ!』
一人がそう叫び、スノウに向かって武器を投げつける。
「【スノウ・ドーム】!! ……一体何を言うのです!? 私は本物です!」
「おのれぇ!! ……誰だ! スノウ様を愚弄する奴はこの私が許さん!!」
困惑を深めるスノウと激怒するチェシャ、青年たちは更に勢いづき、城の間は混沌を深めていく。
そんな収拾のつかなくなってきている事態に、一人、溜め息を吐くものがいた。
彼女は、コツンとその足を鳴らす。
「……くだらない、やってる事が野犬だわ。革命だかクーデターだか知らないけれど、もう少し頭を使いなさいな。猿でももう少しまともにやるわよ?」
コツン、コツンと鳴る足音は、ゆっくりと階段の端へ近づいていく。それを一段一段ゆっくりと降りていくと、ついにスノウのすぐ傍まで辿り着いた。
「――ただ、人の命を狙うのなら、自分も覚悟はできているのよねぇ!!?」
明らかに激昂しているその声に、スノウははっと我に返って振り返った。
女王が、深く息を吸いこむ――。
「……いけませんお姉さま!!」
始まりは、その間に響き渡る麗らかな高い声。ゆっくりと旋律をなぞっていく音の波は、心臓の鼓動を加速させ、体中の血を湧き上らせる。叫び、呪い、穿つ。脳の髄までその歌声が響いた時、脳天からぐるりと回った眼球が、行き場を失って頭蓋の中を転げまわるような快楽。やがて身体の奥から込み上げてくる物に耐えきれず、吐き出せばどろどろとした世界が瞬く間に真紅に染め上がっていく。
一人、また一人とそのリサイタルに耐えきれず、最期の旋律が城の間を反響すると、無慈悲な静寂が余韻を嘆き、静まり返る。
「……【罪と踊る狂想曲パナンス・トゥ・カプリチオ】。」
女王は息を切らしながら、静かにその瞳を閉じた。
「お姉さま……そんな……そんな……。」
スノウはただの肉塊になり果てた青年たちの夢の後を見つめ、その涙を覆い隠した。
「んぅ……なんか……凄く気持ち悪い。」
南方さんの手が離れて、目に飛び込んでいたのはスノウ様が顔を覆い隠して泣いている姿だった。それだけじゃない、その先にはぐちょぐちょになった何かと、明らかに絨毯の色ではない赤色が散らばっている。
「な……なにこれ……一体なにがどうなって……。」
さっきとは全く違う景色に、私は何が起こったのか飲み込めないままでいると、ドサッと、何かが倒れるような音がした。
音のした方向で、女王様が倒れているのが見えた。
「女王様!?」
私はおぼろげな足取りで女王様に駆け寄り、その体を抱き上げた。遠目で見ていた時よりもはるかに小柄で、身体の線が細く今にも崩れ落ちてしまいそうなぐらいだ。だがそんな華奢な体に似合わない高温の熱が、彼女の全身を包み込んでいる。
「すごい熱……早く病院へいかないと……。」
息も荒く、このまま死んでしまったらどうしようと、恐怖が私に囁いてくる。
「女王様を早く医務室へ!! 急げ!!」
するとセブンが、叫び声を上げながら誰かを呼びつけ、私の腕の中から女王様を乱暴に奪い取り、どこかへ走っていく。私はただそれを呆然と見つめながら途方に暮れていた。
「お姉さま……どうして……どうして……。」
スノウ様の悲しい声に引き寄せられ、私はその肩に身を寄せた。スノウ様はとても動揺しているみたいで、城の間に流れる無言の空気は、とても居心地のいいものでは無くなっていた。
スノウ様が落ち着いて、その後私が彼女の目の前に広がるものが何かを悟った時、猛烈な吐き気が私を襲ったのは言うまでもない。
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