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第一幕
[ヒマリside]悲劇の女王・前編(美島郷志)
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事態は最悪と言ってよかった。既に民衆はクーデターに気づき、セブンが事が大きくならないように取り計らっているものの、女王が倒れたという噂はたちまち広がって、城の前には多くの民が集まってしまっている。こういう時、本来なら妹君であるスノウ様が出て行くべきなのだろうけど、クーデターの首謀者であるとされているスノウ様が出て行けば、どうなるか知れたものじゃない。
それに、スノウ様も民衆の前に出て行けるような状態ではない。女王様がスノウ様を庇って倒れたのだ。
「お姉さま……どうして「贈り物」を使ったのですか? あなたにはもう、そんな力は残っていないはずなのに……。」
目を覚まさない女王様の隣で、スノウ様は延々と泣き続けている。スノウ様が泣き続けて、もう外は陽が沈みかけている。
何か事情があるようだけど、誰もそれについて教えてくれようとはしない。みんな口を揃えて、「知らないままの方が良い」と言うのだ。でもこれだけの大事になって、もう知らないままではいられない。
「……ヒマリちゃん、どうしてか知りたい?」
隣で一緒に女王様を見つめる南方さんが、私の心を察したかのように尋ねてくれた。
私はそれに、力強く頷いた。
「あのね、昔この世界を、一人の英雄さんがまとめて回ってたんだって。丁度この国ができるぐらいの頃だって、女王様は言ってた。でね、他の三つの国にも掛け合って、別の世界との橋を繋ごうとしたんだって。でもその時に、協力してたはずの向こうの王様にその人が殺されちゃって……怒った四つの国の主は、英雄さんの仇を取ろうとしたんだけど……その時に力を奪われちゃったんだって。」
南方さんは女王様の冷たい手を握りながら、祈るように手を握りながら擦って温める。
「女王様の贈り物は【旋律を歌う者】、女王様はずっと、歌で国民を励まし続けていた。でも歌えなくなってからはずっと、今みたいな調子なんだって。そして、今日みたいに無理して歌うと……歌うと、死んじゃうかもしれないって。」
私は、あまりに驚いて目が飛び出そうだった。じゃああれは、あの死体たちは、全部女王様がやったってことなの? それも命がけで、あの場にいた人たちを守るために?
私が驚愕を顔に浮かべていると、泣きはらした後で真っ赤になっているスノウ様が顔を上げていた。
「それだけじゃないわ。この国にとって、お姉さまの歌は国の歩みそのものなのよ。元々貧しかったこの国は、お姉さまの歌があったからここまで頑張ってこれた。お姉さまの歌と、ジョーカー様の支えがあったからこそ、四つの国のなかで唯一の王国となれたの。」
スノウ様の言葉を聞いて、あの突き飛ばされたおじいさんの言葉が脳裏に浮かんだ。そうか、おじいさんが女王様を庇ったのは、おじいさんたちは女王様の歌と一緒に、この国を作って来たからなんだ。一緒に苦労してきたから、その苦しみがわかるんだ。
「でもあの日、向こうの世界の王はお姉さまからすべてを奪った! 平和も、ジョーカー様も! そして……お姉さまの大事な歌声さえも!! 更にお姉さまの心までも奪おうと!! お姉さまは病んでしまわれた! それでこんな……あんなに優しかったお姉さまが、こんなむごたらしい事まで!」
もうそれは、私の知っているスノウ様ではなかった。ただ純粋に、傷ついた姉を思い、傷付けた人に復讐したいと妬み続ける妹そのものだった。
私の知らないなにかが、ずっとこの国の人たちを苦しめ続けている。スノウ様の優しさも、女王様の凛とした美しさも、全てこの憎しみの裏返しなのだと、彼らの思いを聞けば聞くほど胸の奥に突き刺さってくる。
「……スノウ、あまり大きな声を出すものじゃないわ。はしたない。」
「お姉さま……お姉さま!!?」
その場にいる全員が振り返った。女王様が目を覚ましたのだ。
「お姉さま……お体は?」
「最悪よ。カプリチオなんていつ以来かしら? ……あぁ、そういえばそんな事もあったわね。長生きはするものじゃないわ。」
「すぐにお水を持って参ります!」
スノウ様が立ち上がろうとしたその時、女王様がスノウ様の去ろうとする手を握った。
「いらないわ。それよりも……チェシャ、一つ頼まれてくれるかしら?」
「はっ、何か?」
チェシャが女王様の前に跪くと、胸元から金があしらわれたハートマークのコインを取り出し、それをチェシャの頭の上に置いた。
「それをセブンに渡して、「いつものを。」と伝えて頂戴。それで全て片が付くわ。」
「……かしこまりました。」
チェシャは女王様から預かったコインを大事そうに抱えると、窓から飛び降りてセブンの下へと向かった。月明かりだけが頼りの真っ暗な外は、猫目のチェシャでなければ歩けないだろう。
それに、スノウ様も民衆の前に出て行けるような状態ではない。女王様がスノウ様を庇って倒れたのだ。
「お姉さま……どうして「贈り物」を使ったのですか? あなたにはもう、そんな力は残っていないはずなのに……。」
目を覚まさない女王様の隣で、スノウ様は延々と泣き続けている。スノウ様が泣き続けて、もう外は陽が沈みかけている。
何か事情があるようだけど、誰もそれについて教えてくれようとはしない。みんな口を揃えて、「知らないままの方が良い」と言うのだ。でもこれだけの大事になって、もう知らないままではいられない。
「……ヒマリちゃん、どうしてか知りたい?」
隣で一緒に女王様を見つめる南方さんが、私の心を察したかのように尋ねてくれた。
私はそれに、力強く頷いた。
「あのね、昔この世界を、一人の英雄さんがまとめて回ってたんだって。丁度この国ができるぐらいの頃だって、女王様は言ってた。でね、他の三つの国にも掛け合って、別の世界との橋を繋ごうとしたんだって。でもその時に、協力してたはずの向こうの王様にその人が殺されちゃって……怒った四つの国の主は、英雄さんの仇を取ろうとしたんだけど……その時に力を奪われちゃったんだって。」
南方さんは女王様の冷たい手を握りながら、祈るように手を握りながら擦って温める。
「女王様の贈り物は【旋律を歌う者】、女王様はずっと、歌で国民を励まし続けていた。でも歌えなくなってからはずっと、今みたいな調子なんだって。そして、今日みたいに無理して歌うと……歌うと、死んじゃうかもしれないって。」
私は、あまりに驚いて目が飛び出そうだった。じゃああれは、あの死体たちは、全部女王様がやったってことなの? それも命がけで、あの場にいた人たちを守るために?
私が驚愕を顔に浮かべていると、泣きはらした後で真っ赤になっているスノウ様が顔を上げていた。
「それだけじゃないわ。この国にとって、お姉さまの歌は国の歩みそのものなのよ。元々貧しかったこの国は、お姉さまの歌があったからここまで頑張ってこれた。お姉さまの歌と、ジョーカー様の支えがあったからこそ、四つの国のなかで唯一の王国となれたの。」
スノウ様の言葉を聞いて、あの突き飛ばされたおじいさんの言葉が脳裏に浮かんだ。そうか、おじいさんが女王様を庇ったのは、おじいさんたちは女王様の歌と一緒に、この国を作って来たからなんだ。一緒に苦労してきたから、その苦しみがわかるんだ。
「でもあの日、向こうの世界の王はお姉さまからすべてを奪った! 平和も、ジョーカー様も! そして……お姉さまの大事な歌声さえも!! 更にお姉さまの心までも奪おうと!! お姉さまは病んでしまわれた! それでこんな……あんなに優しかったお姉さまが、こんなむごたらしい事まで!」
もうそれは、私の知っているスノウ様ではなかった。ただ純粋に、傷ついた姉を思い、傷付けた人に復讐したいと妬み続ける妹そのものだった。
私の知らないなにかが、ずっとこの国の人たちを苦しめ続けている。スノウ様の優しさも、女王様の凛とした美しさも、全てこの憎しみの裏返しなのだと、彼らの思いを聞けば聞くほど胸の奥に突き刺さってくる。
「……スノウ、あまり大きな声を出すものじゃないわ。はしたない。」
「お姉さま……お姉さま!!?」
その場にいる全員が振り返った。女王様が目を覚ましたのだ。
「お姉さま……お体は?」
「最悪よ。カプリチオなんていつ以来かしら? ……あぁ、そういえばそんな事もあったわね。長生きはするものじゃないわ。」
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「いらないわ。それよりも……チェシャ、一つ頼まれてくれるかしら?」
「はっ、何か?」
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「それをセブンに渡して、「いつものを。」と伝えて頂戴。それで全て片が付くわ。」
「……かしこまりました。」
チェシャは女王様から預かったコインを大事そうに抱えると、窓から飛び降りてセブンの下へと向かった。月明かりだけが頼りの真っ暗な外は、猫目のチェシャでなければ歩けないだろう。
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