魔王に花嫁として召喚されたけど、即効で破棄されました。……なのに今さら惚れられても遅いんですけど!?

もちもちのごはん

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第7話 和平の崩壊、迫る影

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 ルシフェルと手を握り合った夜から数日が経ち、魔王城にはいつもの日常が戻ったかのように見えた。

 子どもたちの無邪気な声、厨房に立つメイドさんたちの笑い声、廊下を行き交う兵士たちの真剣な足音。
 でも、私はどこか落ち着かない気持ちで一日を過ごしていた。

 「何か」が近づいている気がしてならなかった。
 誰にも説明できないけど、胸の奥に小さな不安の塊ができて、じわじわと広がっていく。

 その日の午後、私は久しぶりにルシフェルと一緒に城の外へ出た。

「そろそろ和平調印式の準備が本格化する。お前も聖女として参列することになるだろう」

 彼は歩きながら淡々と言った。

「うん、やっとここまで来たんだよね」

「……だが、楽観はできない」

 ルシフェルの表情はいつにも増して険しかった。
 私も頷く。

「和平を嫌う勢力が、また動き出すかもしれない……?」

「そうだ。お前が襲われたのも、それと無関係ではないはずだ」

 そのときだった。
 魔王城の城門近くで、小さな騒ぎが起きているのが見えた。

「どうしたの?」

 ルシフェルと一緒に足を速めると、そこにはレオナルトさんが険しい顔で兵士たちと何か話している。

「……何かあったの?」

 私が声をかけると、レオナルトさんはハッとして振り向いた。

「神楽様、陛下。実は――調印式の会場近くで、不審な人影が複数確認されたとの報告がありました」

「やっぱり……」

「城の守りを強化しますか?」

「当然だ」

 ルシフェルが即答する。

「ただ、和平式典の延期はできん。ここで引けば、『魔王が和平に腰が引けた』という口実を敵に与えるだけだ」

「……わかった」

 私も覚悟を決める。

「もし、私に何かできることがあったら、何でも言ってください」

 ルシフェルは私をじっと見つめ、短く頷いた。

「……絶対に、無茶はするな」

「うん。約束する」



 調印式の準備は、思った以上に緊張感に満ちていた。

 城の中では、魔族と人間の使節団が打ち合わせを重ねている。
 私は聖女として式典の象徴となる立場なので、ドレスの採寸や作法の確認など、慣れないことばかりに振り回された。

 どこか、空気が張りつめていた。

「神楽様、どうぞこちらへ。控室で少しお待ちください」

 人間側の使者に案内されて、私は小さな部屋で一人きりになる。

 その時だった。
 ドアの外に、誰かの気配がした。

「……失礼、神楽様」

 そっと入ってきたのは、人間側の王子・カイルだった。
 金髪に青い瞳。端正な顔立ち。

「カイル様……」

 彼はゆっくりと私の前に立ち、真剣なまなざしを向けてきた。

「神楽いちかさん。――どうか、この調印式には出ないでほしい」

「え?」

 突然のことに、私は言葉を失った。

「あなたが聖女として調印式に現れれば、かえって敵対勢力を刺激してしまう。……最悪の場合、あなたの命が狙われる」

「でも、それでも……逃げるわけにはいかない。だって、私が逃げたら、それこそ和平が……」

「分かっています。でも僕は――」

 カイル王子は、ぐっと拳を握った。

「……あなたに、何も起こってほしくない」

 その言葉の奥に、彼の個人的な想いがあることを、私は感じ取ってしまった。
 でも、今は迷っていられない。

「ありがとう、カイル様。でも私は、この世界で生きていくと決めました。ルシフェルと――この国と、みんなと一緒に前に進みたいんです」

 カイルは、悲しそうに微笑んだ。

「……あなたは、やっぱり強い人だ。――気をつけて。どうか、無茶はしないでください」

「うん、約束する」

 彼は別れ際、もう一度だけ私を振り返った。何かを言おうとして口を開きかけたが、すぐにくるりと身をひるがえして去って行った。



 式典当日、私は緊張で手のひらが汗ばんでいた。

 魔王城の広間には、たくさんの人間と魔族の代表者が集まっている。
 ルシフェルはいつも通り静かな威圧感をまとい、私の隣に立ってくれていた。

 そのときだった。
 突然、広間の奥で「ギャアア!」という叫び声が響く。

「何!?」

 兵士たちがざわめく。
 私はルシフェルと目を合わせた。

「来たか……!」

 広間の扉が蹴り開けられ、黒衣の魔族がなだれ込んでくる。

「和平など偽りだ! この女こそ、災いのもと!」

「――いちか!」

 ルシフェルが私を強く抱き寄せる。

「絶対に離れるな!」

 襲撃者の一人が、私に向かって魔術を放った。

「くっ!」

 思わず両手をかざす。
 体の奥が熱くなる。
 また、あのときのように光が走り――。

 ――バン!

 まばゆい閃光が広間を包み、襲撃者たちが次々とはじき飛ばされた。

「大丈夫か!」

「……うん、大丈夫!」

 私ははっきりと答えた。
 怖くない、と言ったら嘘になる。だけど、もう逃げない。

 ルシフェルが私を守るために手を伸ばし、私はその手を握り返した。

 これが、私の選んだ居場所だから。
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