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第7話 和平の崩壊、迫る影
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ルシフェルと手を握り合った夜から数日が経ち、魔王城にはいつもの日常が戻ったかのように見えた。
子どもたちの無邪気な声、厨房に立つメイドさんたちの笑い声、廊下を行き交う兵士たちの真剣な足音。
でも、私はどこか落ち着かない気持ちで一日を過ごしていた。
「何か」が近づいている気がしてならなかった。
誰にも説明できないけど、胸の奥に小さな不安の塊ができて、じわじわと広がっていく。
その日の午後、私は久しぶりにルシフェルと一緒に城の外へ出た。
「そろそろ和平調印式の準備が本格化する。お前も聖女として参列することになるだろう」
彼は歩きながら淡々と言った。
「うん、やっとここまで来たんだよね」
「……だが、楽観はできない」
ルシフェルの表情はいつにも増して険しかった。
私も頷く。
「和平を嫌う勢力が、また動き出すかもしれない……?」
「そうだ。お前が襲われたのも、それと無関係ではないはずだ」
そのときだった。
魔王城の城門近くで、小さな騒ぎが起きているのが見えた。
「どうしたの?」
ルシフェルと一緒に足を速めると、そこにはレオナルトさんが険しい顔で兵士たちと何か話している。
「……何かあったの?」
私が声をかけると、レオナルトさんはハッとして振り向いた。
「神楽様、陛下。実は――調印式の会場近くで、不審な人影が複数確認されたとの報告がありました」
「やっぱり……」
「城の守りを強化しますか?」
「当然だ」
ルシフェルが即答する。
「ただ、和平式典の延期はできん。ここで引けば、『魔王が和平に腰が引けた』という口実を敵に与えるだけだ」
「……わかった」
私も覚悟を決める。
「もし、私に何かできることがあったら、何でも言ってください」
ルシフェルは私をじっと見つめ、短く頷いた。
「……絶対に、無茶はするな」
「うん。約束する」
◇
調印式の準備は、思った以上に緊張感に満ちていた。
城の中では、魔族と人間の使節団が打ち合わせを重ねている。
私は聖女として式典の象徴となる立場なので、ドレスの採寸や作法の確認など、慣れないことばかりに振り回された。
どこか、空気が張りつめていた。
「神楽様、どうぞこちらへ。控室で少しお待ちください」
人間側の使者に案内されて、私は小さな部屋で一人きりになる。
その時だった。
ドアの外に、誰かの気配がした。
「……失礼、神楽様」
そっと入ってきたのは、人間側の王子・カイルだった。
金髪に青い瞳。端正な顔立ち。
「カイル様……」
彼はゆっくりと私の前に立ち、真剣なまなざしを向けてきた。
「神楽いちかさん。――どうか、この調印式には出ないでほしい」
「え?」
突然のことに、私は言葉を失った。
「あなたが聖女として調印式に現れれば、かえって敵対勢力を刺激してしまう。……最悪の場合、あなたの命が狙われる」
「でも、それでも……逃げるわけにはいかない。だって、私が逃げたら、それこそ和平が……」
「分かっています。でも僕は――」
カイル王子は、ぐっと拳を握った。
「……あなたに、何も起こってほしくない」
その言葉の奥に、彼の個人的な想いがあることを、私は感じ取ってしまった。
でも、今は迷っていられない。
「ありがとう、カイル様。でも私は、この世界で生きていくと決めました。ルシフェルと――この国と、みんなと一緒に前に進みたいんです」
カイルは、悲しそうに微笑んだ。
「……あなたは、やっぱり強い人だ。――気をつけて。どうか、無茶はしないでください」
「うん、約束する」
彼は別れ際、もう一度だけ私を振り返った。何かを言おうとして口を開きかけたが、すぐにくるりと身をひるがえして去って行った。
◇
式典当日、私は緊張で手のひらが汗ばんでいた。
魔王城の広間には、たくさんの人間と魔族の代表者が集まっている。
ルシフェルはいつも通り静かな威圧感をまとい、私の隣に立ってくれていた。
そのときだった。
突然、広間の奥で「ギャアア!」という叫び声が響く。
「何!?」
兵士たちがざわめく。
私はルシフェルと目を合わせた。
「来たか……!」
広間の扉が蹴り開けられ、黒衣の魔族がなだれ込んでくる。
「和平など偽りだ! この女こそ、災いのもと!」
「――いちか!」
ルシフェルが私を強く抱き寄せる。
「絶対に離れるな!」
襲撃者の一人が、私に向かって魔術を放った。
「くっ!」
思わず両手をかざす。
体の奥が熱くなる。
また、あのときのように光が走り――。
――バン!
まばゆい閃光が広間を包み、襲撃者たちが次々とはじき飛ばされた。
「大丈夫か!」
「……うん、大丈夫!」
私ははっきりと答えた。
怖くない、と言ったら嘘になる。だけど、もう逃げない。
ルシフェルが私を守るために手を伸ばし、私はその手を握り返した。
これが、私の選んだ居場所だから。
子どもたちの無邪気な声、厨房に立つメイドさんたちの笑い声、廊下を行き交う兵士たちの真剣な足音。
でも、私はどこか落ち着かない気持ちで一日を過ごしていた。
「何か」が近づいている気がしてならなかった。
誰にも説明できないけど、胸の奥に小さな不安の塊ができて、じわじわと広がっていく。
その日の午後、私は久しぶりにルシフェルと一緒に城の外へ出た。
「そろそろ和平調印式の準備が本格化する。お前も聖女として参列することになるだろう」
彼は歩きながら淡々と言った。
「うん、やっとここまで来たんだよね」
「……だが、楽観はできない」
ルシフェルの表情はいつにも増して険しかった。
私も頷く。
「和平を嫌う勢力が、また動き出すかもしれない……?」
「そうだ。お前が襲われたのも、それと無関係ではないはずだ」
そのときだった。
魔王城の城門近くで、小さな騒ぎが起きているのが見えた。
「どうしたの?」
ルシフェルと一緒に足を速めると、そこにはレオナルトさんが険しい顔で兵士たちと何か話している。
「……何かあったの?」
私が声をかけると、レオナルトさんはハッとして振り向いた。
「神楽様、陛下。実は――調印式の会場近くで、不審な人影が複数確認されたとの報告がありました」
「やっぱり……」
「城の守りを強化しますか?」
「当然だ」
ルシフェルが即答する。
「ただ、和平式典の延期はできん。ここで引けば、『魔王が和平に腰が引けた』という口実を敵に与えるだけだ」
「……わかった」
私も覚悟を決める。
「もし、私に何かできることがあったら、何でも言ってください」
ルシフェルは私をじっと見つめ、短く頷いた。
「……絶対に、無茶はするな」
「うん。約束する」
◇
調印式の準備は、思った以上に緊張感に満ちていた。
城の中では、魔族と人間の使節団が打ち合わせを重ねている。
私は聖女として式典の象徴となる立場なので、ドレスの採寸や作法の確認など、慣れないことばかりに振り回された。
どこか、空気が張りつめていた。
「神楽様、どうぞこちらへ。控室で少しお待ちください」
人間側の使者に案内されて、私は小さな部屋で一人きりになる。
その時だった。
ドアの外に、誰かの気配がした。
「……失礼、神楽様」
そっと入ってきたのは、人間側の王子・カイルだった。
金髪に青い瞳。端正な顔立ち。
「カイル様……」
彼はゆっくりと私の前に立ち、真剣なまなざしを向けてきた。
「神楽いちかさん。――どうか、この調印式には出ないでほしい」
「え?」
突然のことに、私は言葉を失った。
「あなたが聖女として調印式に現れれば、かえって敵対勢力を刺激してしまう。……最悪の場合、あなたの命が狙われる」
「でも、それでも……逃げるわけにはいかない。だって、私が逃げたら、それこそ和平が……」
「分かっています。でも僕は――」
カイル王子は、ぐっと拳を握った。
「……あなたに、何も起こってほしくない」
その言葉の奥に、彼の個人的な想いがあることを、私は感じ取ってしまった。
でも、今は迷っていられない。
「ありがとう、カイル様。でも私は、この世界で生きていくと決めました。ルシフェルと――この国と、みんなと一緒に前に進みたいんです」
カイルは、悲しそうに微笑んだ。
「……あなたは、やっぱり強い人だ。――気をつけて。どうか、無茶はしないでください」
「うん、約束する」
彼は別れ際、もう一度だけ私を振り返った。何かを言おうとして口を開きかけたが、すぐにくるりと身をひるがえして去って行った。
◇
式典当日、私は緊張で手のひらが汗ばんでいた。
魔王城の広間には、たくさんの人間と魔族の代表者が集まっている。
ルシフェルはいつも通り静かな威圧感をまとい、私の隣に立ってくれていた。
そのときだった。
突然、広間の奥で「ギャアア!」という叫び声が響く。
「何!?」
兵士たちがざわめく。
私はルシフェルと目を合わせた。
「来たか……!」
広間の扉が蹴り開けられ、黒衣の魔族がなだれ込んでくる。
「和平など偽りだ! この女こそ、災いのもと!」
「――いちか!」
ルシフェルが私を強く抱き寄せる。
「絶対に離れるな!」
襲撃者の一人が、私に向かって魔術を放った。
「くっ!」
思わず両手をかざす。
体の奥が熱くなる。
また、あのときのように光が走り――。
――バン!
まばゆい閃光が広間を包み、襲撃者たちが次々とはじき飛ばされた。
「大丈夫か!」
「……うん、大丈夫!」
私ははっきりと答えた。
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