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第8話 聖女の覚醒
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魔王城の広間は、ひどく静まりかえっていた。
先日の襲撃からまだ一日も経っていない。和平調印式を壊そうとした反対派の一団は捕らえられたけれど、空気は重苦しいままだ。
人間と魔族、両方の陣営の代表者たちも、私の顔を見るたびに警戒と苛立ちの入り混じった視線を投げてくる。
そんな中、私はルシフェルと控室にいた。
彼はじっと窓の外を見ている。昼間よりも一層静かな横顔。
あの襲撃のあとも、私はまだ手のひらの震えが止まらないでいた。
「大丈夫か?」
ルシフェルの低い声が響く。
「うん……でも、やっぱり怖い。だけど、もう逃げないって決めたから」
私はできるだけ明るく答えたけれど、心の底では緊張と不安が渦巻いていた。
今ここで、何か間違った選択をすれば、この世界の未来が変わってしまうかもしれない。
「いちか。今夜、お前を狙う者はまだ残っている」
ルシフェルは私の手をそっと握る。あたたかい。
「お前の命が脅かされるくらいなら、俺は……和平も、全部――」
「ダメだよ」
私は首を振った。
「もし私がここで逃げ出したら、それこそ全部終わっちゃう。
この世界に来て、私は聖女として期待されたけど、でも今は、それ以上に私自身としてここにいたい。みんなのために、あなたのために、ここで生きていたいの」
ルシフェルはしばらく黙って、真っ直ぐに私を見つめる。
「お前は、本当に強いな」
「強くなんてないよ。ただ、守りたい人がいるだけ」
彼がふっと微笑む。
「お前のそばに、これからも俺はいる」
その言葉だけで、私は勇気がわいてきた。
◇
夜が更ける。
そのときだった。
「神楽様、至急こちらへ――!」
レオナルトさんの切羽詰まった声。
私は廊下に駆け出した。
「どうしたんですか?」
「城の地下から、何者かが魔力障壁を破って侵入したとの報告です!」
「……また襲撃!?」
「いえ、今回の動きは以前よりも組織的です。和平反対派の本隊と考えて間違いありません!」
ルシフェルもすぐに追いついてくる。
「いちか、俺から離れるな」
「うん!」
私はルシフェル、レオナルトさん、そして数人の護衛とともに急ぎ足で地下へ向かった。
地下は冷たく、暗い。石造りの通路を駆け抜ける。
やがて、奥の広い部屋にたどり着くと――そこには、黒いローブをまとった魔族たちと、その中心に一人の人間の男がいた。
「お前が、聖女か」
その男は冷たい声で私を見据える。
「和平など偽りだ。魔王も、貴様も、世界を誤った未来に導く元凶だ。今ここで排除する!」
襲撃者たちが、一斉に魔法を放ってくる。
私は思わず身を縮める。
だけど、ルシフェルが私を庇い、炎の魔法を打ち消した。
「くっ……!」
ルシフェルも傷を負いながら、私の前から一歩も退かない。
――その姿を見たとき、私の中で何かがはじけた。
「もう、誰も傷つけたくない!」
私は大声で叫んだ。
心臓が激しく鳴る。
胸の奥が熱くなる。
そのときだった。
私の体が、柔らかな光に包まれた。
「なに……?」
敵も味方も、一瞬動きを止める。
体の奥からこみあげる温かさ。それは、私の“願い”そのものだった。
――誰も、憎しみ合わないで。
――争いじゃなくて、理解し合ってほしい。
私は両手を前に伸ばした。
「どうか、みんなの傷が癒えますように――!」
その瞬間、私の周りにまぶしい光が広がった。
敵も、味方も、その光に包まれ――傷ついた者の傷が瞬く間に癒えていく。
痛みが消え、倒れていた兵士が目を開ける。
襲撃者たちは、ぽかんと私を見つめていた。
「これが……聖女の、奇跡……?」
「私は、誰も傷つけたくない。魔族も、人間も、敵も味方も。みんな、もう一度話し合ってほしい。もし私にできることがあるなら、全部使うから!」
私は涙がこぼれそうになりながら訴えた。
しばし、沈黙が流れる。
だが、襲撃者たちの中から一人がふらりと膝をついた。
「……俺の傷も……治った……?」
「なぜだ……敵のはずの我々も癒すなど……」
「敵じゃない。私は、世界を守りたいだけ。憎しみや復讐の連鎖を、ここで終わらせたい!」
それでも、襲撃者たちの中には納得しない者もいた。
だが、その多くがその場に膝をつき、武器を落とし始めていく。
「……戦う意味が、わからなくなった……」
その言葉が、地下の空間にぽつりと響く。
私は肩で息をしながら、ルシフェルを振り返る。
彼は驚きと、深い感情が入り混じった目で私を見つめていた。
「いちか……お前は、奇跡を起こした」
「ルシフェル……私は、あなたと……この世界で生きていきたい。もう逃げないって、約束したから」
ルシフェルは私の肩をしっかりと抱きしめた。
「ありがとう、いちか。お前がいてくれる限り、俺は何度でも立ち上がれる」
私は涙をこらえながら、彼の背中に手を回した。
私の決意は、もう揺るがない。
この手で――。
必ず、平和を掴んでみせる。
先日の襲撃からまだ一日も経っていない。和平調印式を壊そうとした反対派の一団は捕らえられたけれど、空気は重苦しいままだ。
人間と魔族、両方の陣営の代表者たちも、私の顔を見るたびに警戒と苛立ちの入り混じった視線を投げてくる。
そんな中、私はルシフェルと控室にいた。
彼はじっと窓の外を見ている。昼間よりも一層静かな横顔。
あの襲撃のあとも、私はまだ手のひらの震えが止まらないでいた。
「大丈夫か?」
ルシフェルの低い声が響く。
「うん……でも、やっぱり怖い。だけど、もう逃げないって決めたから」
私はできるだけ明るく答えたけれど、心の底では緊張と不安が渦巻いていた。
今ここで、何か間違った選択をすれば、この世界の未来が変わってしまうかもしれない。
「いちか。今夜、お前を狙う者はまだ残っている」
ルシフェルは私の手をそっと握る。あたたかい。
「お前の命が脅かされるくらいなら、俺は……和平も、全部――」
「ダメだよ」
私は首を振った。
「もし私がここで逃げ出したら、それこそ全部終わっちゃう。
この世界に来て、私は聖女として期待されたけど、でも今は、それ以上に私自身としてここにいたい。みんなのために、あなたのために、ここで生きていたいの」
ルシフェルはしばらく黙って、真っ直ぐに私を見つめる。
「お前は、本当に強いな」
「強くなんてないよ。ただ、守りたい人がいるだけ」
彼がふっと微笑む。
「お前のそばに、これからも俺はいる」
その言葉だけで、私は勇気がわいてきた。
◇
夜が更ける。
そのときだった。
「神楽様、至急こちらへ――!」
レオナルトさんの切羽詰まった声。
私は廊下に駆け出した。
「どうしたんですか?」
「城の地下から、何者かが魔力障壁を破って侵入したとの報告です!」
「……また襲撃!?」
「いえ、今回の動きは以前よりも組織的です。和平反対派の本隊と考えて間違いありません!」
ルシフェルもすぐに追いついてくる。
「いちか、俺から離れるな」
「うん!」
私はルシフェル、レオナルトさん、そして数人の護衛とともに急ぎ足で地下へ向かった。
地下は冷たく、暗い。石造りの通路を駆け抜ける。
やがて、奥の広い部屋にたどり着くと――そこには、黒いローブをまとった魔族たちと、その中心に一人の人間の男がいた。
「お前が、聖女か」
その男は冷たい声で私を見据える。
「和平など偽りだ。魔王も、貴様も、世界を誤った未来に導く元凶だ。今ここで排除する!」
襲撃者たちが、一斉に魔法を放ってくる。
私は思わず身を縮める。
だけど、ルシフェルが私を庇い、炎の魔法を打ち消した。
「くっ……!」
ルシフェルも傷を負いながら、私の前から一歩も退かない。
――その姿を見たとき、私の中で何かがはじけた。
「もう、誰も傷つけたくない!」
私は大声で叫んだ。
心臓が激しく鳴る。
胸の奥が熱くなる。
そのときだった。
私の体が、柔らかな光に包まれた。
「なに……?」
敵も味方も、一瞬動きを止める。
体の奥からこみあげる温かさ。それは、私の“願い”そのものだった。
――誰も、憎しみ合わないで。
――争いじゃなくて、理解し合ってほしい。
私は両手を前に伸ばした。
「どうか、みんなの傷が癒えますように――!」
その瞬間、私の周りにまぶしい光が広がった。
敵も、味方も、その光に包まれ――傷ついた者の傷が瞬く間に癒えていく。
痛みが消え、倒れていた兵士が目を開ける。
襲撃者たちは、ぽかんと私を見つめていた。
「これが……聖女の、奇跡……?」
「私は、誰も傷つけたくない。魔族も、人間も、敵も味方も。みんな、もう一度話し合ってほしい。もし私にできることがあるなら、全部使うから!」
私は涙がこぼれそうになりながら訴えた。
しばし、沈黙が流れる。
だが、襲撃者たちの中から一人がふらりと膝をついた。
「……俺の傷も……治った……?」
「なぜだ……敵のはずの我々も癒すなど……」
「敵じゃない。私は、世界を守りたいだけ。憎しみや復讐の連鎖を、ここで終わらせたい!」
それでも、襲撃者たちの中には納得しない者もいた。
だが、その多くがその場に膝をつき、武器を落とし始めていく。
「……戦う意味が、わからなくなった……」
その言葉が、地下の空間にぽつりと響く。
私は肩で息をしながら、ルシフェルを振り返る。
彼は驚きと、深い感情が入り混じった目で私を見つめていた。
「いちか……お前は、奇跡を起こした」
「ルシフェル……私は、あなたと……この世界で生きていきたい。もう逃げないって、約束したから」
ルシフェルは私の肩をしっかりと抱きしめた。
「ありがとう、いちか。お前がいてくれる限り、俺は何度でも立ち上がれる」
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