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第9話 魔王の本心、ふたりの約束
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城の地下での襲撃事件のあと、魔王城は静かな熱に包まれていた。
あれほど張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだのは、私の「聖女の力」が皆の傷を癒したからなのだろう。
でも、まだすべてが解決したわけじゃない。
和平に反対する者たちは、完全に納得したわけじゃないし、なにより――。
私とルシフェル、二人の間にも、まだ言葉にできていない思いが残っていた。
◇
その夜、私はなかなか眠れなかった。
窓の外には異世界の星空。
魔王城の静かな廊下を歩きながら、私は胸の中のもやもやを抱えていた。
「いちか」
突然、背後から静かな声。
振り向くと、そこにルシフェルがいた。
普段よりも、ほんの少しだけ柔らかい表情で私を見ている。
「眠れないのか?」
「うん……ちょっと、考えごとをしてて」
「……俺もだ」
彼は私の隣に立つと、ゆっくり歩きはじめた。
夜の魔王城は昼とは違う顔を見せる。大理石の床に、ランプの光が細長く揺れている。
無言の時間がしばらく続いた。
やがてルシフェルがぽつりと言った。
「俺は、ずっと恐れていた」
「……何を?」
「お前のような存在を、隣に置くことを。誰かを大切にするたび、いつかその人を失う恐怖が強くなっていく。魔王として、多くの部下や家族を失ってきた。……だから、最初からお前を拒んだ」
私は思わず立ち止まる。
「それでも、今は――」
ルシフェルが私に向き直る。
赤い瞳が、真っ直ぐ私を見つめていた。
「……いちか。お前が傷つくことが、俺には何よりも怖い。だが、お前は、この国で生きる覚悟を見せてくれた。だから……これからは、俺と並んで戦ってほしい」
私は胸が熱くなるのを感じた。
「うん……私も、もう守られるだけじゃいたくない。私もあなたの隣で、同じ未来を見ていきたい」
気づくと、涙が頬を伝っていた。
だけど、それは悲しい涙じゃなかった。
「私も、あなたに出会って変わった。この世界に来て、たくさんの人と出会って、守りたいものができて。……もう、逃げたくないって思えた」
ルシフェルは、私の肩を優しく抱き寄せた。
「お前がここにいてくれて、本当によかった」
私はそっと目を閉じる。
「ありがとう、ルシフェル。私、あなたのことが――」
そのとき、遠くからけたたましい鐘の音が響いた。
「……なに?」
ルシフェルが私をかばうように前に出る。
「敵襲か……!」
レオナルトさんが廊下を走ってきた。
「陛下、神楽様! 和平反対派の残党が、城の門を破りました!」
「また……!」
ルシフェルは私の手を握り、走り出す。
「もう、お前を一人にはしない。俺と一緒に――」
「うん!」
私は彼の手を握り返した。
◇
夜の城は騒然としていた。
廊下や広間に緊張した空気が走る。
敵は、最後の賭けに出てきたのだ。
「神楽様、陛下! あちらです!」
レオナルトさんの案内で、大広間へと駆け込む。
そこには、黒いローブの襲撃者たちと、見覚えのある和平反対派の指導者がいた。
「……最後まで愚かな選択をするか」
ルシフェルが静かに前へ進み出る。
「魔王も、聖女も消えてしまえ! この世界は魔族と人間で二分されるべきだ!」
反対派の魔法が一斉に放たれる。
私は、もう迷わなかった。
「ルシフェル、手を貸して!」
彼の手を取る。
二人で手を組んだ瞬間、体の奥から光があふれ出す。
――ドォン!
まばゆい光が広間を包み、襲撃者たちの攻撃をすべてかき消した。
ルシフェルも、私の背にそっと腕を回しながら、自身の魔力で広間を守る。
「これが、俺たちの力だ」
「みんなを、守ろう!」
二人の声が重なる。
広間にいた人間と魔族が、私たちを見つめている。
「争うのは、もうやめよう! この手で、未来をつくりたい!」
私は大声で叫んだ。
ルシフェルもまた、堂々とした声で告げる。
「和平は、誰かの犠牲の上に成り立つものではない。俺たちが証明してみせる。この『聖女』と『魔王』がともに歩む世界の希望を!」
静まり返った広間。
襲撃者の一部が武器を落とし、床に膝をついた。
「もう、戦う理由がない……」
私は、ルシフェルと顔を見合わせて微笑んだ。
「大丈夫、きっとこの世界は変われる。私たちが、その一歩を踏み出せるなら――」
そう、私はもう一人じゃない。
この手を、決して離さない。
夜明け前の魔王城。
静かに、未来への扉が開き始めていた。
あれほど張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだのは、私の「聖女の力」が皆の傷を癒したからなのだろう。
でも、まだすべてが解決したわけじゃない。
和平に反対する者たちは、完全に納得したわけじゃないし、なにより――。
私とルシフェル、二人の間にも、まだ言葉にできていない思いが残っていた。
◇
その夜、私はなかなか眠れなかった。
窓の外には異世界の星空。
魔王城の静かな廊下を歩きながら、私は胸の中のもやもやを抱えていた。
「いちか」
突然、背後から静かな声。
振り向くと、そこにルシフェルがいた。
普段よりも、ほんの少しだけ柔らかい表情で私を見ている。
「眠れないのか?」
「うん……ちょっと、考えごとをしてて」
「……俺もだ」
彼は私の隣に立つと、ゆっくり歩きはじめた。
夜の魔王城は昼とは違う顔を見せる。大理石の床に、ランプの光が細長く揺れている。
無言の時間がしばらく続いた。
やがてルシフェルがぽつりと言った。
「俺は、ずっと恐れていた」
「……何を?」
「お前のような存在を、隣に置くことを。誰かを大切にするたび、いつかその人を失う恐怖が強くなっていく。魔王として、多くの部下や家族を失ってきた。……だから、最初からお前を拒んだ」
私は思わず立ち止まる。
「それでも、今は――」
ルシフェルが私に向き直る。
赤い瞳が、真っ直ぐ私を見つめていた。
「……いちか。お前が傷つくことが、俺には何よりも怖い。だが、お前は、この国で生きる覚悟を見せてくれた。だから……これからは、俺と並んで戦ってほしい」
私は胸が熱くなるのを感じた。
「うん……私も、もう守られるだけじゃいたくない。私もあなたの隣で、同じ未来を見ていきたい」
気づくと、涙が頬を伝っていた。
だけど、それは悲しい涙じゃなかった。
「私も、あなたに出会って変わった。この世界に来て、たくさんの人と出会って、守りたいものができて。……もう、逃げたくないって思えた」
ルシフェルは、私の肩を優しく抱き寄せた。
「お前がここにいてくれて、本当によかった」
私はそっと目を閉じる。
「ありがとう、ルシフェル。私、あなたのことが――」
そのとき、遠くからけたたましい鐘の音が響いた。
「……なに?」
ルシフェルが私をかばうように前に出る。
「敵襲か……!」
レオナルトさんが廊下を走ってきた。
「陛下、神楽様! 和平反対派の残党が、城の門を破りました!」
「また……!」
ルシフェルは私の手を握り、走り出す。
「もう、お前を一人にはしない。俺と一緒に――」
「うん!」
私は彼の手を握り返した。
◇
夜の城は騒然としていた。
廊下や広間に緊張した空気が走る。
敵は、最後の賭けに出てきたのだ。
「神楽様、陛下! あちらです!」
レオナルトさんの案内で、大広間へと駆け込む。
そこには、黒いローブの襲撃者たちと、見覚えのある和平反対派の指導者がいた。
「……最後まで愚かな選択をするか」
ルシフェルが静かに前へ進み出る。
「魔王も、聖女も消えてしまえ! この世界は魔族と人間で二分されるべきだ!」
反対派の魔法が一斉に放たれる。
私は、もう迷わなかった。
「ルシフェル、手を貸して!」
彼の手を取る。
二人で手を組んだ瞬間、体の奥から光があふれ出す。
――ドォン!
まばゆい光が広間を包み、襲撃者たちの攻撃をすべてかき消した。
ルシフェルも、私の背にそっと腕を回しながら、自身の魔力で広間を守る。
「これが、俺たちの力だ」
「みんなを、守ろう!」
二人の声が重なる。
広間にいた人間と魔族が、私たちを見つめている。
「争うのは、もうやめよう! この手で、未来をつくりたい!」
私は大声で叫んだ。
ルシフェルもまた、堂々とした声で告げる。
「和平は、誰かの犠牲の上に成り立つものではない。俺たちが証明してみせる。この『聖女』と『魔王』がともに歩む世界の希望を!」
静まり返った広間。
襲撃者の一部が武器を落とし、床に膝をついた。
「もう、戦う理由がない……」
私は、ルシフェルと顔を見合わせて微笑んだ。
「大丈夫、きっとこの世界は変われる。私たちが、その一歩を踏み出せるなら――」
そう、私はもう一人じゃない。
この手を、決して離さない。
夜明け前の魔王城。
静かに、未来への扉が開き始めていた。
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