魔王に花嫁として召喚されたけど、即効で破棄されました。……なのに今さら惚れられても遅いんですけど!?

もちもちのごはん

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第9話 魔王の本心、ふたりの約束

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 城の地下での襲撃事件のあと、魔王城は静かな熱に包まれていた。
 あれほど張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだのは、私の「聖女の力」が皆の傷を癒したからなのだろう。

 でも、まだすべてが解決したわけじゃない。
 和平に反対する者たちは、完全に納得したわけじゃないし、なにより――。

 私とルシフェル、二人の間にも、まだ言葉にできていない思いが残っていた。



 その夜、私はなかなか眠れなかった。

 窓の外には異世界の星空。
 魔王城の静かな廊下を歩きながら、私は胸の中のもやもやを抱えていた。

「いちか」

 突然、背後から静かな声。
 振り向くと、そこにルシフェルがいた。
 普段よりも、ほんの少しだけ柔らかい表情で私を見ている。

「眠れないのか?」

「うん……ちょっと、考えごとをしてて」

「……俺もだ」

 彼は私の隣に立つと、ゆっくり歩きはじめた。
 夜の魔王城は昼とは違う顔を見せる。大理石の床に、ランプの光が細長く揺れている。
 無言の時間がしばらく続いた。

 やがてルシフェルがぽつりと言った。

「俺は、ずっと恐れていた」

「……何を?」

「お前のような存在を、隣に置くことを。誰かを大切にするたび、いつかその人を失う恐怖が強くなっていく。魔王として、多くの部下や家族を失ってきた。……だから、最初からお前を拒んだ」

 私は思わず立ち止まる。

「それでも、今は――」

 ルシフェルが私に向き直る。
 赤い瞳が、真っ直ぐ私を見つめていた。

「……いちか。お前が傷つくことが、俺には何よりも怖い。だが、お前は、この国で生きる覚悟を見せてくれた。だから……これからは、俺と並んで戦ってほしい」

 私は胸が熱くなるのを感じた。

「うん……私も、もう守られるだけじゃいたくない。私もあなたの隣で、同じ未来を見ていきたい」

 気づくと、涙が頬を伝っていた。
 だけど、それは悲しい涙じゃなかった。

「私も、あなたに出会って変わった。この世界に来て、たくさんの人と出会って、守りたいものができて。……もう、逃げたくないって思えた」

 ルシフェルは、私の肩を優しく抱き寄せた。

「お前がここにいてくれて、本当によかった」

 私はそっと目を閉じる。

「ありがとう、ルシフェル。私、あなたのことが――」

 そのとき、遠くからけたたましい鐘の音が響いた。

「……なに?」

 ルシフェルが私をかばうように前に出る。

「敵襲か……!」

 レオナルトさんが廊下を走ってきた。

「陛下、神楽様! 和平反対派の残党が、城の門を破りました!」

「また……!」

 ルシフェルは私の手を握り、走り出す。

「もう、お前を一人にはしない。俺と一緒に――」

「うん!」

 私は彼の手を握り返した。



 夜の城は騒然としていた。
 廊下や広間に緊張した空気が走る。

 敵は、最後の賭けに出てきたのだ。

「神楽様、陛下! あちらです!」

 レオナルトさんの案内で、大広間へと駆け込む。

 そこには、黒いローブの襲撃者たちと、見覚えのある和平反対派の指導者がいた。

「……最後まで愚かな選択をするか」

 ルシフェルが静かに前へ進み出る。

「魔王も、聖女も消えてしまえ! この世界は魔族と人間で二分されるべきだ!」

 反対派の魔法が一斉に放たれる。

 私は、もう迷わなかった。

「ルシフェル、手を貸して!」

 彼の手を取る。
 二人で手を組んだ瞬間、体の奥から光があふれ出す。

 ――ドォン!

 まばゆい光が広間を包み、襲撃者たちの攻撃をすべてかき消した。

 ルシフェルも、私の背にそっと腕を回しながら、自身の魔力で広間を守る。

「これが、俺たちの力だ」

「みんなを、守ろう!」

 二人の声が重なる。

 広間にいた人間と魔族が、私たちを見つめている。

「争うのは、もうやめよう! この手で、未来をつくりたい!」

 私は大声で叫んだ。

 ルシフェルもまた、堂々とした声で告げる。

「和平は、誰かの犠牲の上に成り立つものではない。俺たちが証明してみせる。この『聖女』と『魔王』がともに歩む世界の希望を!」

 静まり返った広間。
 襲撃者の一部が武器を落とし、床に膝をついた。

「もう、戦う理由がない……」

 私は、ルシフェルと顔を見合わせて微笑んだ。

「大丈夫、きっとこの世界は変われる。私たちが、その一歩を踏み出せるなら――」

 そう、私はもう一人じゃない。
 この手を、決して離さない。

 夜明け前の魔王城。
 静かに、未来への扉が開き始めていた。

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