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第17話 今度の任務はオバケ退治
第17話・1 マジで最悪だ
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──ある日、昼下がりの龍調査機関。
解析班フロアでは、端末のアラートが淡く点滅していた。
その前で額を押さえるように立っているのは、解析班所属の若い男性職員。
そして、そこへやってきたのはセセラ。
缶コーヒーを片手に、いつも通りの白衣の前を開けたスタイル。
「はいはい、新しいお仕事ね。さっさと片付けて、今夜は風呂でもゆっくり……」
「薊野さん!」
男性職員が背筋を伸ばして呼び止める。
が、その声にはどこか言いにくそうな色があった。
セセラはピクッと片眉を上げる。
「あ? なんだよその『ちょっと報告しにくいっス』みたいな顔」
職員は苦笑しつつ、慎重に切り出した。
「その……新たに確認された龍の生体反応についてなのですが……」
「うん」
「発生地点が、ですね……ええと……その……近所と言いますか……その……」
なかなか言い切らない職員に──。
「…………」
セセラの目がじわじわと細くなっていく。
「…… 言 え 」
「……ヒッ……、あっ、あの、つまり……所長と薊野さんが養護教諭(偽)として時々赴いている、あの学校です」
──沈黙。
缶コーヒーを持っていたセセラの手が止まった。
「………………ぁ゙?」
1秒、2秒。
そして脳が全てを理解した瞬間。
「めんどくせえ~~~~~~~!!!」
広いフロアに薊野セセラという大人の駄々が響いた。
資料の束が吹き飛び、窓は揺れ、職員たちは(きたきた……)と心の中で思う。
(……だから伝えにくかったんだよ……)
と、男性職員は内心で頭を抱える。
セセラは既に片手で壁にもたれ、顔を伏せながら嘆いていた。
「いやだ……いやだ……学校ってことは……煙草……、しかも調査となると昼だけじゃなくて夜もずっと待機……煙草……吸えないィ……ッ」
徐々に白目を剥き始めるセセラ。
視線が宙を彷徨い、缶コーヒーも手から落ちそうになっている。
職員は恐る恐る続けた。
「し、しかし、危険度はそれほど高くないと推定されます。ただ、人口密度が高いですし……校舎も広大。龍の行動パターン次第では……紫苑さんたち4人を動員することが推奨されています」
セセラ、カクッと項垂れる。
「で、そこに俺も行くんだろ……?」
「その方が……建前上も、保護者感も出てスムーズかと思われます。あと、お煙草に関しては……校長先生とご相談なされてください……」
そこに別の男性職員が、そっと付け加えた。
「……校長先生、異変についても薊野さんと話したいそうなので……」
絶望のグラデーションを描いていくセセラの顔。
「……マジで最悪……」
ため息をつくと、白衣のポケットから通信端末を取り出しスケジュールメモアプリを起動させた。
「チッ……わかったよ……」
舌打ちしながらしぶしぶ書類を受け取り、職員たちを振り返る。
「俺が行かなかったら、アレだろ? 現場にシエリ先生とガキ共しかいないって状況になるんだろ? ……それはそれで、いろいろ不安だろうが……」
職員たちは苦笑を浮かべながら頷いた。
こうしてセセラは、煙草禁止空間×未発見龍×仕事の鬼×校長室──の地獄セットに向かうため、不貞腐れながら学校に向かう準備を始めるのだった。
◇
件の学校の校長室。
扉がノックされる。
「薊野セセラ、参りましたぁ~」
ガラッと扉が開き、ゆるくウェーブがかかった黒髪をふわりと揺らして入ってくるのは──。
保健室の先生モード、ONのセセラ。
いつもより高めの作られた声。
若干引き攣った硬い笑顔。
そして全身から漂う胡散臭さ。
「こ、校長先生ぇ……ご無沙汰しておりますぅ。何やら大変みたいですねえ……」
そう言いながら、セセラはぎこちない営業スマイルで校長の握手に応じる。
このとき、既に。
薊野セセラ(28歳)
職業:カウンセラー兼保健室のせんせぇ(仮)
アラサーがあざとさと貼り付けた笑顔と愛嬌に全振りする、もうひとつの顔が発動中。
「いやはや……薊野先生、お忙しい中ご足労いただき……申し訳がございませんな」
そう答えるのは、ぽてっとしたフォルムの校長。
年齢の割にモチッとしていて、だが不思議とだらしなさは無い。
その丸さはむしろマスコット系。
JKたちからは「カワイイ」と評判だそうだ。
JKとは何でもカワイイと言う生き物である。
セセラは内心(これで煙草さえ吸えたらこの案件、許す)と思いながらも、ニコニコ顔のまま着席した。
「で、そのぉ……龍が出たぁっていうのは……ほんとなんですかぁ?」
頷きつつ、少し困ったように答える校長。
「ふむ……何だかよくわからないモノを“龍”と呼ぶのであれば……そうなんでしょうな」
校長は懐から手帳を取り出すと──。
「私も実際に見たわけではないのですが、複数の生徒が『得体の知れないものを見た』と言っておりまして……」
そう言って更に手帳を捲りながら続ける。
「変なものがいた! と思ったら次の瞬間には消えていた……とか、消えた瞬間ヒューッと風が吹いた……とか、よくわからないんですな」
セセラは指先を顎に当て、少し考え込むようにして──。
「……得体の知れない、ねぇ……」
校長がまたも困ったように。
「見たという生徒はいるにはいるのですが、皆ハッキリとした感じではないようで……私としても何とも言い難く……」
フッと口角を上げて苦笑するセセラ。
「……なんだか、龍っていうよりオバケみたいですねえ」
軽いつもりで言ったその一言に、校長が若干青ざめる。
「か、勘弁してほしいものですな! オバケなんて出られたら、変な噂が立って、学校の評価にも影響してしまいますぞ!」
セセラはそりゃそうだとばかりに肩をすくめた。
「龍も大概ですよ……しかしまあ、調査はさせていただきますぅ」
ホッとしたように手を合わせる校長。
「おお……薊野先生! ありがとうございます! 龍調査機関とはなんと頼もしいことか……!」
……が、その言葉をセセラは──。
「ただし」
と、ピシャリと止めた。
今までの猫撫で声が一変。
セセラの表情は貼り付け笑顔を脱ぎ捨て、素の無表情に戻る。
「ひとつご相談があります」
校長が一瞬キョトンとする中、セセラは静かに告げた。
「じつは僕、喫煙者なのです」
「…………は?」
「それも、結構なヘビースモーカーでして」
「えっ」
「校内に張り込むとなると、昼も夜も缶詰です。でも、ニコチンが切れると……僕、おかしくなってしまいます」
校長、完全に面食らって口が半開き。
「おかしく……なっちゃうんですよ」
セセラは真剣な表情のまま2回言った。
空気が一瞬、止まる。
やがて校長が、「うーん……」と唸りながら、腕を組んで考え始めた。
数秒後──。
「……かしこまりました。お煙草、許可しましょう」
「……えっ」
セセラの表情がパッと緩む。
(やっっっっったああぁあああああ~~~~!!!)
ド派手にガッツポーズを決めたい気持ちを必死に堪えながら、セセラはにこやかに会釈した。
「ありがとうございますぅ! 校長先生ぇ♡」
パアッと笑顔を見せたセセラに──。
「ただし」
今度は校長がピシャリと告げる。
ピタッとセセラの笑顔が凍った。
「生徒のいる時間帯は禁止です。夜間であれば特別に許可いたしますが、必ず屋外で、携帯灰皿をご持参ください」
──セセラ、石像化。
(夜……しかも……いちいち外……!?)
内心、静かに崩れ落ちる。
なんという糠喜び。
「こちらとしても心苦しいですが……、原則、敷地内全域禁煙でございますからな」
校長は満面の善意笑顔で、非情な言葉を重ねていく。
セセラはぎこちなく笑いながら──。
「は、はは……そうですよねえ……っ、……承知しましたあ……」
喫煙権を夜間に追いやられた男、薊野セセラ。
だが今更引くに引けず、無念の了承。
──そして、気を取り直して。
「では校長先生、日程を調整させてください~。こちらからは、自分とシエリ先生、それから他に4人を派遣しますぅ」
校長は手帳を開きつつ。
「この4名が、オバケを追う役なのですな?」
もうオバケになってしまっている。
「……そうですねえ、龍かオバケかはさておき」
セセラは若干呆れつつも笑って続けた。
「自分とシエリ先生は、その4人の動向を見ながら指示を出す形になりますぅ。校内、所々に監視カメラがありますね?」
「もちろんでございますぞ!」
校長が胸を張ると、セセラは微笑みながらメモを取る。
「それは助かります~。カメラの死角も予め洗い出しておきますねえ」
すると校長が、ふと思い出したように尋ねた。
「ちなみに、その4名様には10代の方はおられますかな?」
セセラは「ん?」と少しだけ首を傾げる。
「……ええ、ふたり……ですねえ。どちらも女子ですが」
その言葉に校長の目がキラリと輝いた。
「おお、それでは……! 我が校の制服をお貸ししましょう!」
「……はぇ?」
「お昼も校内におられるわけですからな。制服を着ていれば、生徒たちからも変に思われませんし、自然に馴染めるでしょう!」
セセラは目をぱちくりさせたが、すぐに納得したように頷く。
「……なるほど。ありがたいご配慮ですう。……制服、ですねえ……」
頭の中でレイラとラショウの姿を想像し、(……絶対似合うな……ムフフ……)と思いながら、内心で「ちょっと楽しみ」と心のメモに記録。
「野郎共は……適当にワイシャツとスラックスでも着させときますわ……」
制服メモ:
女子2名→制服貸与
男子2名→地味でいいや。
こうして、作戦の準備は着々と……そしてなぜか着こなしから始まろうとしていた。
◇
翌日、龍調査機関内会議室。
部屋に集められたのは、レイラ、アシュラ、ラショウ、そしてだいぶ回復したリル。
皆の前にいたセセラが立ち上がり、タブレットを片手に説明を始める。
「さて、今回の任務だが──」
その瞬間、リルがピクッと反応した。
久々の出撃、しかも4人全員招集。
全員の胸に(4人……まさか、また高難度の龍か……?)と一瞬の緊張が走る。
しかしセセラは、やや気の抜けた調子で続けた。
「龍の危険度は低い。だけど発生場所が学校……。昼はあの人口密度、そして夜は広大なフィールドと化すある意味で特殊環境だ」
「だから、4人で分散して監視しつつ即応するってわけ。効率重視、ってことな」
説明を聞いたレイラたちは少し安堵する。
「そっか……じゃあ、大規模戦闘とかじゃなさそうなんだ」
「場所が場所だからこそ、注意深く動かなきゃな」
「安心したあ……」
リル以外は。
「……っ……」
ただひとり、顔面蒼白で固まるリル。
「リル、大丈夫? 具合悪い?」
「リル……まだ体調善くないのか?」
「リルくんどうしたの!? 大丈夫?」
即座に飛んでくるレイラと西城兄妹の心配の声。
その中で、リルは震えながらようやく口を開く。
「……怖い」
静かに、でも確実に震える声。
誰もが(……あぁ、そうだよな。この前あんな目にあったばかりだし……)と思いを寄せた。
しかし──。
リルの次の言葉が、空気を吹き飛ばす。
「……それ、龍じゃねえ、オバケだろ……」
その言葉に全員、「は?」と、素で固まった。
「…………」
セセラはフリーズして、暫しの沈黙ののち──。
「ぎゃははははははは!!!」
思いっきり腹を抱えて大爆笑。
「夜の校舎! オバケ!! おい! リル! 確かにそれは怖ぇわ!! でもお前そんなタマじゃねえだろ!!」
「あーーっはははははははッ!! 可愛いね~!! 校長と同じこと言ってら!!」
炸裂したように笑いが止まらないセセラに、つられてレイラたちも微笑む。
「……確かに、そう言われると怪談みたいだね」
「ふふっ……夜の学校って、ちょっと不気味かも」
しかし、その間にもリルの様子は明らかにおかしかった。
「………………」
顔色は完全に死んでいる。
「……な、なあ……オレは今回、待機でいいだろ……? な、ほら、体もまだ万全じゃねえかもしれねえし……」
声も震えている。
セセラは爆笑しながら涙を拭き、リルの肩をポンと叩いて意地悪な笑顔で告げた。
「いーーーーや、お前も行くんだよ! もうそう決まってんの!!」
「ヤダ!! 無理!! 無理ッ! 絶対無理!!!」
ついにリル、駄々をこね始める。
普段のクールなリルはそこにはいない。
「ホントにムリ!! オバケとかマジ無理!! やめろよもう!! なんでオバケとか言うんだよッ!! 龍の方がまだわかり合える!!(?)」
子どもみたいに身を縮めて、顔を手で覆うリル。
セセラはひたすら爆笑。
レイラたちもリルのその豹変ぶりにやや呆然。
そして──静かにアシュラが呟く。
「……そうだ。思い出した」
リル以外の3人が揃ってアシュラを見た。
「忘れてた……。リルは……オバケの類がめちゃくちゃ苦手なんだ……!!」
「絶対行きたくない!! 行かねえ!! 無理!! 本当にッ! 無理ッ!!」
その顔を手で覆いながら真っ青なリルは……ある意味で人生最大級の絶望に、今、呑まれていた。
解析班フロアでは、端末のアラートが淡く点滅していた。
その前で額を押さえるように立っているのは、解析班所属の若い男性職員。
そして、そこへやってきたのはセセラ。
缶コーヒーを片手に、いつも通りの白衣の前を開けたスタイル。
「はいはい、新しいお仕事ね。さっさと片付けて、今夜は風呂でもゆっくり……」
「薊野さん!」
男性職員が背筋を伸ばして呼び止める。
が、その声にはどこか言いにくそうな色があった。
セセラはピクッと片眉を上げる。
「あ? なんだよその『ちょっと報告しにくいっス』みたいな顔」
職員は苦笑しつつ、慎重に切り出した。
「その……新たに確認された龍の生体反応についてなのですが……」
「うん」
「発生地点が、ですね……ええと……その……近所と言いますか……その……」
なかなか言い切らない職員に──。
「…………」
セセラの目がじわじわと細くなっていく。
「…… 言 え 」
「……ヒッ……、あっ、あの、つまり……所長と薊野さんが養護教諭(偽)として時々赴いている、あの学校です」
──沈黙。
缶コーヒーを持っていたセセラの手が止まった。
「………………ぁ゙?」
1秒、2秒。
そして脳が全てを理解した瞬間。
「めんどくせえ~~~~~~~!!!」
広いフロアに薊野セセラという大人の駄々が響いた。
資料の束が吹き飛び、窓は揺れ、職員たちは(きたきた……)と心の中で思う。
(……だから伝えにくかったんだよ……)
と、男性職員は内心で頭を抱える。
セセラは既に片手で壁にもたれ、顔を伏せながら嘆いていた。
「いやだ……いやだ……学校ってことは……煙草……、しかも調査となると昼だけじゃなくて夜もずっと待機……煙草……吸えないィ……ッ」
徐々に白目を剥き始めるセセラ。
視線が宙を彷徨い、缶コーヒーも手から落ちそうになっている。
職員は恐る恐る続けた。
「し、しかし、危険度はそれほど高くないと推定されます。ただ、人口密度が高いですし……校舎も広大。龍の行動パターン次第では……紫苑さんたち4人を動員することが推奨されています」
セセラ、カクッと項垂れる。
「で、そこに俺も行くんだろ……?」
「その方が……建前上も、保護者感も出てスムーズかと思われます。あと、お煙草に関しては……校長先生とご相談なされてください……」
そこに別の男性職員が、そっと付け加えた。
「……校長先生、異変についても薊野さんと話したいそうなので……」
絶望のグラデーションを描いていくセセラの顔。
「……マジで最悪……」
ため息をつくと、白衣のポケットから通信端末を取り出しスケジュールメモアプリを起動させた。
「チッ……わかったよ……」
舌打ちしながらしぶしぶ書類を受け取り、職員たちを振り返る。
「俺が行かなかったら、アレだろ? 現場にシエリ先生とガキ共しかいないって状況になるんだろ? ……それはそれで、いろいろ不安だろうが……」
職員たちは苦笑を浮かべながら頷いた。
こうしてセセラは、煙草禁止空間×未発見龍×仕事の鬼×校長室──の地獄セットに向かうため、不貞腐れながら学校に向かう準備を始めるのだった。
◇
件の学校の校長室。
扉がノックされる。
「薊野セセラ、参りましたぁ~」
ガラッと扉が開き、ゆるくウェーブがかかった黒髪をふわりと揺らして入ってくるのは──。
保健室の先生モード、ONのセセラ。
いつもより高めの作られた声。
若干引き攣った硬い笑顔。
そして全身から漂う胡散臭さ。
「こ、校長先生ぇ……ご無沙汰しておりますぅ。何やら大変みたいですねえ……」
そう言いながら、セセラはぎこちない営業スマイルで校長の握手に応じる。
このとき、既に。
薊野セセラ(28歳)
職業:カウンセラー兼保健室のせんせぇ(仮)
アラサーがあざとさと貼り付けた笑顔と愛嬌に全振りする、もうひとつの顔が発動中。
「いやはや……薊野先生、お忙しい中ご足労いただき……申し訳がございませんな」
そう答えるのは、ぽてっとしたフォルムの校長。
年齢の割にモチッとしていて、だが不思議とだらしなさは無い。
その丸さはむしろマスコット系。
JKたちからは「カワイイ」と評判だそうだ。
JKとは何でもカワイイと言う生き物である。
セセラは内心(これで煙草さえ吸えたらこの案件、許す)と思いながらも、ニコニコ顔のまま着席した。
「で、そのぉ……龍が出たぁっていうのは……ほんとなんですかぁ?」
頷きつつ、少し困ったように答える校長。
「ふむ……何だかよくわからないモノを“龍”と呼ぶのであれば……そうなんでしょうな」
校長は懐から手帳を取り出すと──。
「私も実際に見たわけではないのですが、複数の生徒が『得体の知れないものを見た』と言っておりまして……」
そう言って更に手帳を捲りながら続ける。
「変なものがいた! と思ったら次の瞬間には消えていた……とか、消えた瞬間ヒューッと風が吹いた……とか、よくわからないんですな」
セセラは指先を顎に当て、少し考え込むようにして──。
「……得体の知れない、ねぇ……」
校長がまたも困ったように。
「見たという生徒はいるにはいるのですが、皆ハッキリとした感じではないようで……私としても何とも言い難く……」
フッと口角を上げて苦笑するセセラ。
「……なんだか、龍っていうよりオバケみたいですねえ」
軽いつもりで言ったその一言に、校長が若干青ざめる。
「か、勘弁してほしいものですな! オバケなんて出られたら、変な噂が立って、学校の評価にも影響してしまいますぞ!」
セセラはそりゃそうだとばかりに肩をすくめた。
「龍も大概ですよ……しかしまあ、調査はさせていただきますぅ」
ホッとしたように手を合わせる校長。
「おお……薊野先生! ありがとうございます! 龍調査機関とはなんと頼もしいことか……!」
……が、その言葉をセセラは──。
「ただし」
と、ピシャリと止めた。
今までの猫撫で声が一変。
セセラの表情は貼り付け笑顔を脱ぎ捨て、素の無表情に戻る。
「ひとつご相談があります」
校長が一瞬キョトンとする中、セセラは静かに告げた。
「じつは僕、喫煙者なのです」
「…………は?」
「それも、結構なヘビースモーカーでして」
「えっ」
「校内に張り込むとなると、昼も夜も缶詰です。でも、ニコチンが切れると……僕、おかしくなってしまいます」
校長、完全に面食らって口が半開き。
「おかしく……なっちゃうんですよ」
セセラは真剣な表情のまま2回言った。
空気が一瞬、止まる。
やがて校長が、「うーん……」と唸りながら、腕を組んで考え始めた。
数秒後──。
「……かしこまりました。お煙草、許可しましょう」
「……えっ」
セセラの表情がパッと緩む。
(やっっっっったああぁあああああ~~~~!!!)
ド派手にガッツポーズを決めたい気持ちを必死に堪えながら、セセラはにこやかに会釈した。
「ありがとうございますぅ! 校長先生ぇ♡」
パアッと笑顔を見せたセセラに──。
「ただし」
今度は校長がピシャリと告げる。
ピタッとセセラの笑顔が凍った。
「生徒のいる時間帯は禁止です。夜間であれば特別に許可いたしますが、必ず屋外で、携帯灰皿をご持参ください」
──セセラ、石像化。
(夜……しかも……いちいち外……!?)
内心、静かに崩れ落ちる。
なんという糠喜び。
「こちらとしても心苦しいですが……、原則、敷地内全域禁煙でございますからな」
校長は満面の善意笑顔で、非情な言葉を重ねていく。
セセラはぎこちなく笑いながら──。
「は、はは……そうですよねえ……っ、……承知しましたあ……」
喫煙権を夜間に追いやられた男、薊野セセラ。
だが今更引くに引けず、無念の了承。
──そして、気を取り直して。
「では校長先生、日程を調整させてください~。こちらからは、自分とシエリ先生、それから他に4人を派遣しますぅ」
校長は手帳を開きつつ。
「この4名が、オバケを追う役なのですな?」
もうオバケになってしまっている。
「……そうですねえ、龍かオバケかはさておき」
セセラは若干呆れつつも笑って続けた。
「自分とシエリ先生は、その4人の動向を見ながら指示を出す形になりますぅ。校内、所々に監視カメラがありますね?」
「もちろんでございますぞ!」
校長が胸を張ると、セセラは微笑みながらメモを取る。
「それは助かります~。カメラの死角も予め洗い出しておきますねえ」
すると校長が、ふと思い出したように尋ねた。
「ちなみに、その4名様には10代の方はおられますかな?」
セセラは「ん?」と少しだけ首を傾げる。
「……ええ、ふたり……ですねえ。どちらも女子ですが」
その言葉に校長の目がキラリと輝いた。
「おお、それでは……! 我が校の制服をお貸ししましょう!」
「……はぇ?」
「お昼も校内におられるわけですからな。制服を着ていれば、生徒たちからも変に思われませんし、自然に馴染めるでしょう!」
セセラは目をぱちくりさせたが、すぐに納得したように頷く。
「……なるほど。ありがたいご配慮ですう。……制服、ですねえ……」
頭の中でレイラとラショウの姿を想像し、(……絶対似合うな……ムフフ……)と思いながら、内心で「ちょっと楽しみ」と心のメモに記録。
「野郎共は……適当にワイシャツとスラックスでも着させときますわ……」
制服メモ:
女子2名→制服貸与
男子2名→地味でいいや。
こうして、作戦の準備は着々と……そしてなぜか着こなしから始まろうとしていた。
◇
翌日、龍調査機関内会議室。
部屋に集められたのは、レイラ、アシュラ、ラショウ、そしてだいぶ回復したリル。
皆の前にいたセセラが立ち上がり、タブレットを片手に説明を始める。
「さて、今回の任務だが──」
その瞬間、リルがピクッと反応した。
久々の出撃、しかも4人全員招集。
全員の胸に(4人……まさか、また高難度の龍か……?)と一瞬の緊張が走る。
しかしセセラは、やや気の抜けた調子で続けた。
「龍の危険度は低い。だけど発生場所が学校……。昼はあの人口密度、そして夜は広大なフィールドと化すある意味で特殊環境だ」
「だから、4人で分散して監視しつつ即応するってわけ。効率重視、ってことな」
説明を聞いたレイラたちは少し安堵する。
「そっか……じゃあ、大規模戦闘とかじゃなさそうなんだ」
「場所が場所だからこそ、注意深く動かなきゃな」
「安心したあ……」
リル以外は。
「……っ……」
ただひとり、顔面蒼白で固まるリル。
「リル、大丈夫? 具合悪い?」
「リル……まだ体調善くないのか?」
「リルくんどうしたの!? 大丈夫?」
即座に飛んでくるレイラと西城兄妹の心配の声。
その中で、リルは震えながらようやく口を開く。
「……怖い」
静かに、でも確実に震える声。
誰もが(……あぁ、そうだよな。この前あんな目にあったばかりだし……)と思いを寄せた。
しかし──。
リルの次の言葉が、空気を吹き飛ばす。
「……それ、龍じゃねえ、オバケだろ……」
その言葉に全員、「は?」と、素で固まった。
「…………」
セセラはフリーズして、暫しの沈黙ののち──。
「ぎゃははははははは!!!」
思いっきり腹を抱えて大爆笑。
「夜の校舎! オバケ!! おい! リル! 確かにそれは怖ぇわ!! でもお前そんなタマじゃねえだろ!!」
「あーーっはははははははッ!! 可愛いね~!! 校長と同じこと言ってら!!」
炸裂したように笑いが止まらないセセラに、つられてレイラたちも微笑む。
「……確かに、そう言われると怪談みたいだね」
「ふふっ……夜の学校って、ちょっと不気味かも」
しかし、その間にもリルの様子は明らかにおかしかった。
「………………」
顔色は完全に死んでいる。
「……な、なあ……オレは今回、待機でいいだろ……? な、ほら、体もまだ万全じゃねえかもしれねえし……」
声も震えている。
セセラは爆笑しながら涙を拭き、リルの肩をポンと叩いて意地悪な笑顔で告げた。
「いーーーーや、お前も行くんだよ! もうそう決まってんの!!」
「ヤダ!! 無理!! 無理ッ! 絶対無理!!!」
ついにリル、駄々をこね始める。
普段のクールなリルはそこにはいない。
「ホントにムリ!! オバケとかマジ無理!! やめろよもう!! なんでオバケとか言うんだよッ!! 龍の方がまだわかり合える!!(?)」
子どもみたいに身を縮めて、顔を手で覆うリル。
セセラはひたすら爆笑。
レイラたちもリルのその豹変ぶりにやや呆然。
そして──静かにアシュラが呟く。
「……そうだ。思い出した」
リル以外の3人が揃ってアシュラを見た。
「忘れてた……。リルは……オバケの類がめちゃくちゃ苦手なんだ……!!」
「絶対行きたくない!! 行かねえ!! 無理!! 本当にッ! 無理ッ!!」
その顔を手で覆いながら真っ青なリルは……ある意味で人生最大級の絶望に、今、呑まれていた。
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「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
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