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第17話 今度の任務はオバケ退治
第17話・2 俺のことを笑うな
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そして翌朝。
龍調査機関の正面エントランス。
柔らかな陽射しの中、揃って姿を現したのは6人。
セセラとシエリ、そして任務班の4人。
まず目を引いたのは、レイラとラショウ。
ふたりは貸与された濃紺のセーラー服に身を包んでいた。
レイラはスカートの裾を何度も引っ張って落ち着かない様子。
「……スカート……照れるな……」
冷静な表情を保とうとしているが、赤い耳が全てを物語っていた。
一方のラショウは柔らかな笑顔で。
「とても似合ってるよ、レイラちゃん!」
と、素直にレイラを褒めてくれている。
清楚なセーラー服姿がまるでモデルのようで、思わず職員たちが振り返るほど。
リルとアシュラはシンプルに白ワイシャツに黒スラックス。
アシュラは文句無しに学園の王子様系。
どこを切り取っても完璧。シュッとしていて非常に見目好い。
リルは……その体躯ゆえにややギリギリ学生に見える感がある。
顔立ちの若さと無言の圧で無理矢理通ってしまう感じだった。
ただし、顔色は相変わらず悪い。
一方のシエリは、いつもの黒ワンピースではなく高い位置で髪を束ね、白衣姿。保健室の先生スタイル。
隣には、髪を軽く横に撫でるように整えたセセラ。
白衣に紺色のタートルネックという定番スタイルながら、髪が無造作で無い分普段よりかはシャキッとして見える。
セセラは手に端末を持ちながら、皆を見渡して声を出した。
「よし。全員揃ったな」
軽く咳払いしつつ、真面目な声で続ける。
「学校に到着したら、まず保健室に行くぞ。あんま6人でウロウロすると不審だしな。そっから先は各自、探索に入って構わない。……ただし、目立ちすぎんなよ」
全員が静かに頷く。
その中でもリルだけ、若干震えていた。
そんなリルには構わずにセセラは続ける。
「あと、一応だが。『龍を最も多く見かけた』っていう生徒が、状況を説明しに来てくれるらしい。そいつの話は、お前らもちゃんと聞いとけな」
レイラは真剣な顔で「了解」と答えると、ラショウもアシュラも頷いた。
そして、セセラは急に目を伏せながら──。
「……あと、これだけ言っとく」
全員がセセラへと視線を向ける。
「……俺のこと、笑うなよ」
よくわからず「?」と目を見合わせる4人。
その意味を問う間も無く、シエリはくるりと背を向けて──。
「さあ、オバケ退治といくぞ~」
あまりにも軽やかな一言で、すたすたと輸送車へ向けて歩き出した。
その後ろで、リルの小さな声が風に乗って聞こえてくる。
「……オバケ……」
リルの表情は、今日も絶望の色に染まっていた。
そして、レイラたち6人は最も不穏で、最も奇妙な任務へと足を踏み出していく。
◇
某学校に到着する。
時刻は既に登校時間後。通常通り校内では授業時間が始まり、外に生徒はいない。
それでも生徒の目に映りすぎないように、極力目立たないように……と努める一行。
桜の葉が風に揺れる校庭の前で、まるでアイドルのように手を振る男がひとり。
「おお! 皆さん! おはようございます! 本日はよろしくお願いいたしますぞ~!」
満面の笑顔で迎えてくれたのは、丸くて福々しい姿がどこかキュートな校長先生。
その言葉に、先陣を切るシエリが軽く頷く。
「校長先生。少し騒がしくなるかもしれませんが、何卒」
いつも通り、端的かつ威厳ある挨拶。
──そして、その隣。
「…………」
意を決したような表情のセセラが、ふぅ~っと小さく息を吐いた。
移動中に吸っていた煙草の残り香を身に纏わせながら、目を細める。
次の瞬間──。
スイッチ、ON。
「校長せんせぇ~~っ! 本日はよろしくお願いしますう~~っ!」
「「!?!?」」
……豹変。
口調、声音、目線、語尾。全てが違う。
保健室のせんせぇモード、全開。
それを見た4人──レイラ、リル、アシュラ、ラショウ全員が一斉に慄いた。
明らかに「誰!?」状態。
シエリは「……フッ」と口元だけで笑い、そのまま颯爽と先へ。
「では、私は先に保健室に」
それに猫撫で声で応えるセセラ。
「はぁ~いシエリせんせぇ~、準備の方よろしくお願いしま~す!」
マスコット校長と、完全に別人モードのセセラを残されたレイラたち4人。
その異質なペアに、レイラたちの表情が一様に強張る。
((笑っちゃ……いけない……ッ!!))
まるで地獄のような我慢大会が始まっていた。
校長はニコニコとレイラたちを見やり、感嘆の声を上げる。
「おお! そちらの方々が、例の4名様ですな!」
「はいっそ~ですよぉ~! 失礼のないように気をつけますねえっ」
猫撫で声フルスロットルのセセラ。
そのあまりの面白さに、レイラたちは全員──。
(頼むから今は自分たちに注目するな)
と、切に願った。
──だが、運命は非情。
「いやはや、美男美女揃いで華がありますな! 薊野先生、差し支えなければ、ご紹介いただけますでしょうか!」
校長、目がキラッキラ。
セセラ、内心(マジかよ……)と思いながらも営業スマイルを崩さない。
「はいっ! いいですよぉ~!」
──紹介タイム、開幕。
まずはセーラー服姿のレイラから。
「え~まずこの子は、『紫苑レイラ』って言いますぅ。眼帯をしてますが、気にしないであげてください~っ。この中ではいっちばん若いですねぇ、ちょうどそちらの学生さんたちと同年代ですよぉ~~っ♡」
完全に口調がアイドル運営スタッフ。
レイラ、その口調が笑いのツボに入る。
「……ぷくくくっ……っ!」
何とか下を向いて誤魔化すが、耳まで真っ赤。
続いて、白銀が眩しい美形兄妹。
「そしてこちらの白髪ツートップ、いやっ、はくはツートップ! なんちゃって♡ ふたりは兄妹です~! お兄さんが『西城アシュラ』くん! かっこいぃ♡」
「で、隣の妹さんが『西城ラショウ』ちゃんですねぇ~! いやあ、とても優しくて、爽やかで、も~大変優秀なおふたりなんですよぉ~~~っ♡」
「…………!!」
アシュラ、表情を保つのに全神経を集中。
しかしその口元には若干の無理があった。
ラショウはペコリと丁寧にお辞儀しながら、顔を絶妙な角度で伏せて笑顔を隠し、笑いを殺すテクニックを見せる。
最後はリル。
「そして最後はぁ~♡ この子。『紅崎リル』って言います。生意気な子です。以上」
なぜかリルだけ一際雑に紹介し終え、レイラたちの腹筋に追撃を与える。
「………………!!!」
リルも顔を伏せ、肩を震わせていた。
もはや羞恥心と戦う余裕すら無い。
もちもちマスコット校長は大きく手を叩きながら楽しそうに笑う。
もはやその動作も今のレイラたちには笑いの起爆剤となりかねない。
「おお~バッチリ覚えましたぞ! 我が校で、お友達でもできるといいですな!」
セセラも校長に向かって満面の笑顔で。
「お友達できるといいですねえ~~」
そして急に、顔だけをバッと振り向く。
「ね~~~~♡」
セセラの背後にいたレイラたちへとんでもない圧と共に投げかけた。
突然振り向かれレイラたちはビクッ!!とする。
そしてそのセセラの顔は校長からは見えない角度で、『俺に合わせろ』の形相だった。
レイラたちは慌てて。
「ね、ねえ~~っ……」
「……そうだねえ……」
「……とも、だち……」
「……クククッ……無理……オレ無理だって……うくく……っ……」
ぎこちなく、空気と互いの顔を読み合いながらなんとかやりきったのだった。
“オバケ”の気配に迫る学園調査、ついに本格始動。
◇
白いカーテンに囲まれた保健室内には、軽い消毒液の香りと、抑えきれない笑いの残り香が漂っていた。
ソファに寝転がりながら腹を抱えて涙を流しているのは、なんとリル。
「ぁはははははッ……あー腹いてえ……クククッ……っ、あははははははッ!」
普段の冷めた印象とはまるで違う。
誰よりもツボに入って笑っている。
普段のセセラを知っている分だけ、笑いが倍増しているのだ。
セセラはうんざりとした顔でぼそり。
「うるせえな、笑うなっつったろうが……」
しかしリルは呼吸が追いつかないほど。
「無理……っ、無理だってオレああいうの……笑っちまうって……っ……ぷはっ……!! あっははははは……!!」
肩を震わせて涙を拭うリルの姿に、レイラたちもつられて笑いが漏れる。
「……ちょっと、反則だったよね」
「ふふ……まさかあそこまで振り切るとは……」
「リルくんがこんなに笑うの、初めて見た……」
そんな和やかな空気の中。
──コンコンッ……
控えめなノックが聞こえてくる。
セセラはすぐに切り替えて「は~い♡」と軽く返すと、ひとりの男子生徒が扉からひょこりと顔を覗かせた。
セミロングくらいの黒髪、まっすぐな髪質。
線が細く、どこかおどおどした雰囲気の男子。
整った顔立ちだが、地味な印象。
まさに『目立たない生徒』といった風貌だった。
「失礼します……」
入室してきた生徒に声をかけるセセラ。
「あっ、こんにちはぁ~! 君が、龍をよく見かけたっていう子だねえ~?」
男子生徒は軽く頭を下げて名乗る。
「あ、ハイ……そうです。ボク、駿河キイといいます……」
セセラは手元のタブレットに名前を入力しながら答えた。
「は~い、駿河くんね~」
──しかし、セセラはふと気づく。
「…………?」
駿河キイの視線が、じっと自分の顔に向いている。
「……ん? 大丈夫~? 緊張してるぅ?」
キイはハッとして、慌てて言葉を繋いだ。
「あ! ……いや、セセラせんせぇって……ほんとに、カッコイイな……って。つい見てしまいました」
「……へ?」
「あの、クラスの女子たち、皆カッコイイって言うので……ボク、ちょっと気になっちゃってたもので……すみませんっ」
セセラ、意外な返答に一瞬ポカン──。
そして内心でニヤリと笑う。
(……ほう……ガキのくせに見る目があんじゃねえか)
すかさずタブレットの非表示メモ欄を開くと──。
【第一印象:良】
【備考:よくわかってる】
【評価:○……いや◎】
と、“セセラ基準”の余計な謎チェックをしっかり入れる。
その中で、レイラはそっとキイを観察していた。
「…………」
派手さは無いが、丁寧な言葉遣いと、礼儀正しさ。
でも、なぜか“どこかズレた”感覚があるようにも見えた。
(……不思議な子……)
そう思いながら、レイラは言葉をかける。
「……キイくん。話をしに来てくれてありがとう。私、紫苑レイラっていいます。同い年くらい……かも」
「あの、無理はしなくていいから……落ち着いて話してね」
その柔らかな声に、キイが少しだけ目を丸くした。
そして小さく──でも嬉しそうに微笑む。
「……はい。紫苑さんこそ、なんか……優しいですね」
一息ついたキイは、カーテンの隙間から射し込む光をちらりと見てから、手元を落ち着かない様子で撫でた。
セセラはやや表情を和らげて声をかける。
「大丈夫だよ、駿河くん。何でもいいから、見たこと感じたこと、教えてくれないかなぁ~?」
「…………」
キイは一度だけ深く息を吐き、口を開いた。
「……えと、いつだったか、正確には覚えてないんですけど……確か、夕方……だったと思います」
その口調は穏やかだが、どこか語ってはいけないものに触れるような緊張が漂っている。
「……図書室で本を読んでいたら……廊下の方から、誰かの話し声みたいなのが聞こえてきて……、でも、誰の声かはわからない。男でも女でもなくて……ただ、話してるような音だけが、こう……」
「……!」
リルの肩がビクッと揺れた。
──誰よりも早く察知していたのだ。
「……そしたら、急に本棚の隙間から、何かがスッと横切って……目を向けた瞬間には、もういなかったんです」
キイの声が一段階低くなる。
「でも、その瞬間……風が吹いたんです。……冷たい風が、急に、背中を通り抜けるような……。泣き声みたいなのも聞こえて……。図書室、窓も閉まってたんですよ?」
「…………」
誰もが息を呑んだ。
まるで真夏に冷気だけが吹き込むような、不自然な現象。
「それから、放課後に教室に忘れ物を取りに行った時とか……廊下の突き当たりで、白い何かが揺れてて……でも、また目を逸らしたらいなくなって……で、また違う場所を見たら、今度は怖いくらい歪んだ顔が目の前に立ってて…………」
そっと唇を結ぶラショウ。
アシュラも僅かに眉をひそめる。
そして──リル。
スカートの端を握っていたレイラの手に、隣に座っているリルのその手がしがみついていた。
「………………………………」
リルの顔色は見るも無残なほど真っ青。
目が泳ぎ、今にも立ち上がって逃げ出しそうな雰囲気だった。
レイラはそっと肘でリルをつつき、小声で。
「……リル、大丈夫……?」
返ってくるのは、か細い声。
「…………いや、これ……絶対オバケだろ……」
その震え方はもはやギャグではなく本気。
キイはそんなリルの様子を見て、少し申し訳なさそうに目を伏せた。
「……すみません。なんか……不安にさせること言っちゃって……」
レイラは首を横に振り、優しく答える。
「……大丈夫。キイくんがちゃんと話してくれたおかげで、私たちも心構えができるよ」
「…………」
はにかんだように笑うキイ。
「……よかった。紫苑さん、ほんとに優しいなあ」
その声色は柔らかく、穏やかだった。
だが、セセラの目は──。
「…………」
キイの柔らかい声の奥にある、別の色を僅かに見ていた。
(……なんか……違和感ねえか……?)
龍調査機関の正面エントランス。
柔らかな陽射しの中、揃って姿を現したのは6人。
セセラとシエリ、そして任務班の4人。
まず目を引いたのは、レイラとラショウ。
ふたりは貸与された濃紺のセーラー服に身を包んでいた。
レイラはスカートの裾を何度も引っ張って落ち着かない様子。
「……スカート……照れるな……」
冷静な表情を保とうとしているが、赤い耳が全てを物語っていた。
一方のラショウは柔らかな笑顔で。
「とても似合ってるよ、レイラちゃん!」
と、素直にレイラを褒めてくれている。
清楚なセーラー服姿がまるでモデルのようで、思わず職員たちが振り返るほど。
リルとアシュラはシンプルに白ワイシャツに黒スラックス。
アシュラは文句無しに学園の王子様系。
どこを切り取っても完璧。シュッとしていて非常に見目好い。
リルは……その体躯ゆえにややギリギリ学生に見える感がある。
顔立ちの若さと無言の圧で無理矢理通ってしまう感じだった。
ただし、顔色は相変わらず悪い。
一方のシエリは、いつもの黒ワンピースではなく高い位置で髪を束ね、白衣姿。保健室の先生スタイル。
隣には、髪を軽く横に撫でるように整えたセセラ。
白衣に紺色のタートルネックという定番スタイルながら、髪が無造作で無い分普段よりかはシャキッとして見える。
セセラは手に端末を持ちながら、皆を見渡して声を出した。
「よし。全員揃ったな」
軽く咳払いしつつ、真面目な声で続ける。
「学校に到着したら、まず保健室に行くぞ。あんま6人でウロウロすると不審だしな。そっから先は各自、探索に入って構わない。……ただし、目立ちすぎんなよ」
全員が静かに頷く。
その中でもリルだけ、若干震えていた。
そんなリルには構わずにセセラは続ける。
「あと、一応だが。『龍を最も多く見かけた』っていう生徒が、状況を説明しに来てくれるらしい。そいつの話は、お前らもちゃんと聞いとけな」
レイラは真剣な顔で「了解」と答えると、ラショウもアシュラも頷いた。
そして、セセラは急に目を伏せながら──。
「……あと、これだけ言っとく」
全員がセセラへと視線を向ける。
「……俺のこと、笑うなよ」
よくわからず「?」と目を見合わせる4人。
その意味を問う間も無く、シエリはくるりと背を向けて──。
「さあ、オバケ退治といくぞ~」
あまりにも軽やかな一言で、すたすたと輸送車へ向けて歩き出した。
その後ろで、リルの小さな声が風に乗って聞こえてくる。
「……オバケ……」
リルの表情は、今日も絶望の色に染まっていた。
そして、レイラたち6人は最も不穏で、最も奇妙な任務へと足を踏み出していく。
◇
某学校に到着する。
時刻は既に登校時間後。通常通り校内では授業時間が始まり、外に生徒はいない。
それでも生徒の目に映りすぎないように、極力目立たないように……と努める一行。
桜の葉が風に揺れる校庭の前で、まるでアイドルのように手を振る男がひとり。
「おお! 皆さん! おはようございます! 本日はよろしくお願いいたしますぞ~!」
満面の笑顔で迎えてくれたのは、丸くて福々しい姿がどこかキュートな校長先生。
その言葉に、先陣を切るシエリが軽く頷く。
「校長先生。少し騒がしくなるかもしれませんが、何卒」
いつも通り、端的かつ威厳ある挨拶。
──そして、その隣。
「…………」
意を決したような表情のセセラが、ふぅ~っと小さく息を吐いた。
移動中に吸っていた煙草の残り香を身に纏わせながら、目を細める。
次の瞬間──。
スイッチ、ON。
「校長せんせぇ~~っ! 本日はよろしくお願いしますう~~っ!」
「「!?!?」」
……豹変。
口調、声音、目線、語尾。全てが違う。
保健室のせんせぇモード、全開。
それを見た4人──レイラ、リル、アシュラ、ラショウ全員が一斉に慄いた。
明らかに「誰!?」状態。
シエリは「……フッ」と口元だけで笑い、そのまま颯爽と先へ。
「では、私は先に保健室に」
それに猫撫で声で応えるセセラ。
「はぁ~いシエリせんせぇ~、準備の方よろしくお願いしま~す!」
マスコット校長と、完全に別人モードのセセラを残されたレイラたち4人。
その異質なペアに、レイラたちの表情が一様に強張る。
((笑っちゃ……いけない……ッ!!))
まるで地獄のような我慢大会が始まっていた。
校長はニコニコとレイラたちを見やり、感嘆の声を上げる。
「おお! そちらの方々が、例の4名様ですな!」
「はいっそ~ですよぉ~! 失礼のないように気をつけますねえっ」
猫撫で声フルスロットルのセセラ。
そのあまりの面白さに、レイラたちは全員──。
(頼むから今は自分たちに注目するな)
と、切に願った。
──だが、運命は非情。
「いやはや、美男美女揃いで華がありますな! 薊野先生、差し支えなければ、ご紹介いただけますでしょうか!」
校長、目がキラッキラ。
セセラ、内心(マジかよ……)と思いながらも営業スマイルを崩さない。
「はいっ! いいですよぉ~!」
──紹介タイム、開幕。
まずはセーラー服姿のレイラから。
「え~まずこの子は、『紫苑レイラ』って言いますぅ。眼帯をしてますが、気にしないであげてください~っ。この中ではいっちばん若いですねぇ、ちょうどそちらの学生さんたちと同年代ですよぉ~~っ♡」
完全に口調がアイドル運営スタッフ。
レイラ、その口調が笑いのツボに入る。
「……ぷくくくっ……っ!」
何とか下を向いて誤魔化すが、耳まで真っ赤。
続いて、白銀が眩しい美形兄妹。
「そしてこちらの白髪ツートップ、いやっ、はくはツートップ! なんちゃって♡ ふたりは兄妹です~! お兄さんが『西城アシュラ』くん! かっこいぃ♡」
「で、隣の妹さんが『西城ラショウ』ちゃんですねぇ~! いやあ、とても優しくて、爽やかで、も~大変優秀なおふたりなんですよぉ~~~っ♡」
「…………!!」
アシュラ、表情を保つのに全神経を集中。
しかしその口元には若干の無理があった。
ラショウはペコリと丁寧にお辞儀しながら、顔を絶妙な角度で伏せて笑顔を隠し、笑いを殺すテクニックを見せる。
最後はリル。
「そして最後はぁ~♡ この子。『紅崎リル』って言います。生意気な子です。以上」
なぜかリルだけ一際雑に紹介し終え、レイラたちの腹筋に追撃を与える。
「………………!!!」
リルも顔を伏せ、肩を震わせていた。
もはや羞恥心と戦う余裕すら無い。
もちもちマスコット校長は大きく手を叩きながら楽しそうに笑う。
もはやその動作も今のレイラたちには笑いの起爆剤となりかねない。
「おお~バッチリ覚えましたぞ! 我が校で、お友達でもできるといいですな!」
セセラも校長に向かって満面の笑顔で。
「お友達できるといいですねえ~~」
そして急に、顔だけをバッと振り向く。
「ね~~~~♡」
セセラの背後にいたレイラたちへとんでもない圧と共に投げかけた。
突然振り向かれレイラたちはビクッ!!とする。
そしてそのセセラの顔は校長からは見えない角度で、『俺に合わせろ』の形相だった。
レイラたちは慌てて。
「ね、ねえ~~っ……」
「……そうだねえ……」
「……とも、だち……」
「……クククッ……無理……オレ無理だって……うくく……っ……」
ぎこちなく、空気と互いの顔を読み合いながらなんとかやりきったのだった。
“オバケ”の気配に迫る学園調査、ついに本格始動。
◇
白いカーテンに囲まれた保健室内には、軽い消毒液の香りと、抑えきれない笑いの残り香が漂っていた。
ソファに寝転がりながら腹を抱えて涙を流しているのは、なんとリル。
「ぁはははははッ……あー腹いてえ……クククッ……っ、あははははははッ!」
普段の冷めた印象とはまるで違う。
誰よりもツボに入って笑っている。
普段のセセラを知っている分だけ、笑いが倍増しているのだ。
セセラはうんざりとした顔でぼそり。
「うるせえな、笑うなっつったろうが……」
しかしリルは呼吸が追いつかないほど。
「無理……っ、無理だってオレああいうの……笑っちまうって……っ……ぷはっ……!! あっははははは……!!」
肩を震わせて涙を拭うリルの姿に、レイラたちもつられて笑いが漏れる。
「……ちょっと、反則だったよね」
「ふふ……まさかあそこまで振り切るとは……」
「リルくんがこんなに笑うの、初めて見た……」
そんな和やかな空気の中。
──コンコンッ……
控えめなノックが聞こえてくる。
セセラはすぐに切り替えて「は~い♡」と軽く返すと、ひとりの男子生徒が扉からひょこりと顔を覗かせた。
セミロングくらいの黒髪、まっすぐな髪質。
線が細く、どこかおどおどした雰囲気の男子。
整った顔立ちだが、地味な印象。
まさに『目立たない生徒』といった風貌だった。
「失礼します……」
入室してきた生徒に声をかけるセセラ。
「あっ、こんにちはぁ~! 君が、龍をよく見かけたっていう子だねえ~?」
男子生徒は軽く頭を下げて名乗る。
「あ、ハイ……そうです。ボク、駿河キイといいます……」
セセラは手元のタブレットに名前を入力しながら答えた。
「は~い、駿河くんね~」
──しかし、セセラはふと気づく。
「…………?」
駿河キイの視線が、じっと自分の顔に向いている。
「……ん? 大丈夫~? 緊張してるぅ?」
キイはハッとして、慌てて言葉を繋いだ。
「あ! ……いや、セセラせんせぇって……ほんとに、カッコイイな……って。つい見てしまいました」
「……へ?」
「あの、クラスの女子たち、皆カッコイイって言うので……ボク、ちょっと気になっちゃってたもので……すみませんっ」
セセラ、意外な返答に一瞬ポカン──。
そして内心でニヤリと笑う。
(……ほう……ガキのくせに見る目があんじゃねえか)
すかさずタブレットの非表示メモ欄を開くと──。
【第一印象:良】
【備考:よくわかってる】
【評価:○……いや◎】
と、“セセラ基準”の余計な謎チェックをしっかり入れる。
その中で、レイラはそっとキイを観察していた。
「…………」
派手さは無いが、丁寧な言葉遣いと、礼儀正しさ。
でも、なぜか“どこかズレた”感覚があるようにも見えた。
(……不思議な子……)
そう思いながら、レイラは言葉をかける。
「……キイくん。話をしに来てくれてありがとう。私、紫苑レイラっていいます。同い年くらい……かも」
「あの、無理はしなくていいから……落ち着いて話してね」
その柔らかな声に、キイが少しだけ目を丸くした。
そして小さく──でも嬉しそうに微笑む。
「……はい。紫苑さんこそ、なんか……優しいですね」
一息ついたキイは、カーテンの隙間から射し込む光をちらりと見てから、手元を落ち着かない様子で撫でた。
セセラはやや表情を和らげて声をかける。
「大丈夫だよ、駿河くん。何でもいいから、見たこと感じたこと、教えてくれないかなぁ~?」
「…………」
キイは一度だけ深く息を吐き、口を開いた。
「……えと、いつだったか、正確には覚えてないんですけど……確か、夕方……だったと思います」
その口調は穏やかだが、どこか語ってはいけないものに触れるような緊張が漂っている。
「……図書室で本を読んでいたら……廊下の方から、誰かの話し声みたいなのが聞こえてきて……、でも、誰の声かはわからない。男でも女でもなくて……ただ、話してるような音だけが、こう……」
「……!」
リルの肩がビクッと揺れた。
──誰よりも早く察知していたのだ。
「……そしたら、急に本棚の隙間から、何かがスッと横切って……目を向けた瞬間には、もういなかったんです」
キイの声が一段階低くなる。
「でも、その瞬間……風が吹いたんです。……冷たい風が、急に、背中を通り抜けるような……。泣き声みたいなのも聞こえて……。図書室、窓も閉まってたんですよ?」
「…………」
誰もが息を呑んだ。
まるで真夏に冷気だけが吹き込むような、不自然な現象。
「それから、放課後に教室に忘れ物を取りに行った時とか……廊下の突き当たりで、白い何かが揺れてて……でも、また目を逸らしたらいなくなって……で、また違う場所を見たら、今度は怖いくらい歪んだ顔が目の前に立ってて…………」
そっと唇を結ぶラショウ。
アシュラも僅かに眉をひそめる。
そして──リル。
スカートの端を握っていたレイラの手に、隣に座っているリルのその手がしがみついていた。
「………………………………」
リルの顔色は見るも無残なほど真っ青。
目が泳ぎ、今にも立ち上がって逃げ出しそうな雰囲気だった。
レイラはそっと肘でリルをつつき、小声で。
「……リル、大丈夫……?」
返ってくるのは、か細い声。
「…………いや、これ……絶対オバケだろ……」
その震え方はもはやギャグではなく本気。
キイはそんなリルの様子を見て、少し申し訳なさそうに目を伏せた。
「……すみません。なんか……不安にさせること言っちゃって……」
レイラは首を横に振り、優しく答える。
「……大丈夫。キイくんがちゃんと話してくれたおかげで、私たちも心構えができるよ」
「…………」
はにかんだように笑うキイ。
「……よかった。紫苑さん、ほんとに優しいなあ」
その声色は柔らかく、穏やかだった。
だが、セセラの目は──。
「…………」
キイの柔らかい声の奥にある、別の色を僅かに見ていた。
(……なんか……違和感ねえか……?)
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断罪はエンタメへ。
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