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1章-責任のある仕事
08話-濡れ鼠です
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「それでその状態で二人で運んできたの?」
「はっ、陛下への手紙があるということでしたので」
「ぐすっ……ぐすっ……ふぇぇぇ……ごめっ、ごめんなさい……申し訳……ありませ……んっ……ぐすっ」
泣き止まない私をそのままにできるはずもなく、衛兵さん二人に両脇を抱えられ私はお城へと、王女陛下の前へと連行されました。
真っ赤な、きれいな絨毯が私のせいでベチョベチョと汚れが広がっていきます。
謝ろうにも次々と流れ出る涙が止まってくれません。
「リエさん……ほら、おいで?」
ふわっと薔薇の香りがしたと思った瞬間でした。
私を――ずぶ濡れ鼠の私を王女陛下が抱きしめていました。
真っ白なきれいなドレスを着ているのにーーそんなこと全く気にならないといった様子で抱きしめられました。
「ほら、いいこいいこ。泣かないで? ね? ナザックからのお手紙はこれね?」
「ふぇ……はぃ……こ……こちらで……す」
手でしっかりと、シワが付いてぐちゃぐちゃになってしまうほどギュッと握ってしまった封筒を陛下に渡します。
陛下はその封筒を受け取ると中を開き、すでにインクも染みて読めなくなっているであろう手紙に目を通しています。
「ふふっ……ナザックらしいわね」
そういって陛下はにっこりと笑うと、もう一度私を抱きしめました。
一生働いても弁償し切れないような綺麗なドレスもびしょ濡れでした。
「この手紙がどんな形になっていても、きちんと届いたら褒めてあげてくださいって書いてあったわ」
それはどういう意味でしょうか。
大事な書類ではなかったのでしょうか。
「だから、よく頑張りました。ほら、お風呂入って着替えてらっしゃい。顔も洗って綺麗にしておいで」
そう言って陛下は私の頬を両手でむにゅむにゅと押さえ、頭の耳をふにふにと触ってから満足したようにメイドさんに声をかけました。
「シンシア、この子お風呂に入れてあげて。服もお願いね」
「畏まりました。さぁこちらへいらっしゃい」
衛兵さんに連行されてきた私は、今度はメイドさんに連行されていきました。
――――――――――――――――――――
体中から石鹸の香りがします。
まるで自分の身体ではないような気がします。
お風呂の隅でなるべくタイルを濡らさないように身体を洗い、出されていたタオルの端っこで身体を綺麗に拭きます。
――コンコン
「失礼いたします」
まだ服も着ていないのに先程のメイドさんがずかずかと脱衣所に入ってきました。
私は慌ててタオルで身体を隠します。
少し膨らんできた胸。お尻も最近ふっくらしてきた気がします。
まだ自分のことを子供だと思っているのですが、お風呂に入ると自分は女なんだとはっきりと意識してしまいます。
「こちらでサイズが合うと思うのですが、袖を通していただけますか?」
「……はい」
メイドのシンシアさんがありえないものを手にしていました。
メイド服でした。
いえ、よく見ると少し違いました。
生地はメイドさんが着ている服と同じようでしたが、広げてみると紺色のワンピースでした。
このような綺麗な服は大事にタンスに仕舞っておいてほしいです。
私はこの上等なバスタオルを巻かせていただけるだけで十分です。
ですが、用意頂いたものを断る勇気は私にはありませんでした。
「下着はこちらで……えっと上は……少々よろしいでしょうか?」
「ひぅっ!?」
突然メイドさんにバスタオルを取り上げられてしまいました。
死にたいです。
「えっと……マーガレット、桃色の肌着を」
「はい、こちらを」
シンシアさんだけかと思っていたら背後にもう一人いました。
マーガレットさんという人が絹でできたような肌着をいくつか手にしていました。
その中からピンク色のものを手渡してきます。
おっかなびっくり指で摘んで持ち上げると上下おそろいの下着でした。
ブラというより、カップ入りのキャミソールのようなものとショーツ。
これをどうすればいいのでしょうか?
「……お着替えお手伝いいたしましょうか?」
「ひっ、だっ、だっ、大丈夫……ですっ!」
孤児院では同じ年の子供の中でも一番最初に一人で着替えができるようになりました。
それなのに15歳にもなって人に手伝ってもらうなんてこと出来ません。
私は意を決してショーツを履いてシャツを着ます。
そして紺色のワンピースに袖を通すと、背中のチャックをマーガレットさんが閉めてくれました。
尻尾も腰にある穴から外へ出してくれました。
最後に審議官証のバッジを胸元へ付けてもらえました。
「えっと……ちょっと裾を直しますね」
シンシアさんがしゃがみ込むと少し長かったスカートの裾がみるみるうちに直されてぴったりサイズになりました。
まるで魔法のようでした。
壁にかけられた鏡を見ると、見たこともない女の子が映っていました。
「……髪……あれ?」
黒灰色の髪と、灰色の体毛に覆われた頭の耳。
それが何故か銀色のような色になっていました。
ドス黒く細い尻尾も何故かピンク色になっていました。
何が起こったのでしょうか。
「どうされました?」
「あの……髪の色が……」
「あぁ、綺麗になりましたね」
私の灰色の髪とドス黒い尻尾は汚れていただけだというのです。
衝撃でした。毎日毎日、朝と夕方、丁寧に井戸で体を隅々まで洗っていたのですが、色が変わって見えるほど汚れていたということでしょうか。
石鹸が無いからでしょうか。
……ですが、それだけのためにロイさんに石鹸を買ってほしいなんてワガママ言えるはずがありません。
でもこの事実に気づいてしまったので、帰って貯金で石鹸を買うことにします。
ゴミ掃除人だからこそ身体と心は綺麗にしておくというのが私の信条なのです。
(一週間分は痛いですが、仕方有りません)
「さぁ陛下がお待ちです。こちらへ」
「へっ?」
「どうぞ」
これで服が乾けばもう一度着替えて、帰れると思っていました。
ですが、現実は無情でした……。
「はっ、陛下への手紙があるということでしたので」
「ぐすっ……ぐすっ……ふぇぇぇ……ごめっ、ごめんなさい……申し訳……ありませ……んっ……ぐすっ」
泣き止まない私をそのままにできるはずもなく、衛兵さん二人に両脇を抱えられ私はお城へと、王女陛下の前へと連行されました。
真っ赤な、きれいな絨毯が私のせいでベチョベチョと汚れが広がっていきます。
謝ろうにも次々と流れ出る涙が止まってくれません。
「リエさん……ほら、おいで?」
ふわっと薔薇の香りがしたと思った瞬間でした。
私を――ずぶ濡れ鼠の私を王女陛下が抱きしめていました。
真っ白なきれいなドレスを着ているのにーーそんなこと全く気にならないといった様子で抱きしめられました。
「ほら、いいこいいこ。泣かないで? ね? ナザックからのお手紙はこれね?」
「ふぇ……はぃ……こ……こちらで……す」
手でしっかりと、シワが付いてぐちゃぐちゃになってしまうほどギュッと握ってしまった封筒を陛下に渡します。
陛下はその封筒を受け取ると中を開き、すでにインクも染みて読めなくなっているであろう手紙に目を通しています。
「ふふっ……ナザックらしいわね」
そういって陛下はにっこりと笑うと、もう一度私を抱きしめました。
一生働いても弁償し切れないような綺麗なドレスもびしょ濡れでした。
「この手紙がどんな形になっていても、きちんと届いたら褒めてあげてくださいって書いてあったわ」
それはどういう意味でしょうか。
大事な書類ではなかったのでしょうか。
「だから、よく頑張りました。ほら、お風呂入って着替えてらっしゃい。顔も洗って綺麗にしておいで」
そう言って陛下は私の頬を両手でむにゅむにゅと押さえ、頭の耳をふにふにと触ってから満足したようにメイドさんに声をかけました。
「シンシア、この子お風呂に入れてあげて。服もお願いね」
「畏まりました。さぁこちらへいらっしゃい」
衛兵さんに連行されてきた私は、今度はメイドさんに連行されていきました。
――――――――――――――――――――
体中から石鹸の香りがします。
まるで自分の身体ではないような気がします。
お風呂の隅でなるべくタイルを濡らさないように身体を洗い、出されていたタオルの端っこで身体を綺麗に拭きます。
――コンコン
「失礼いたします」
まだ服も着ていないのに先程のメイドさんがずかずかと脱衣所に入ってきました。
私は慌ててタオルで身体を隠します。
少し膨らんできた胸。お尻も最近ふっくらしてきた気がします。
まだ自分のことを子供だと思っているのですが、お風呂に入ると自分は女なんだとはっきりと意識してしまいます。
「こちらでサイズが合うと思うのですが、袖を通していただけますか?」
「……はい」
メイドのシンシアさんがありえないものを手にしていました。
メイド服でした。
いえ、よく見ると少し違いました。
生地はメイドさんが着ている服と同じようでしたが、広げてみると紺色のワンピースでした。
このような綺麗な服は大事にタンスに仕舞っておいてほしいです。
私はこの上等なバスタオルを巻かせていただけるだけで十分です。
ですが、用意頂いたものを断る勇気は私にはありませんでした。
「下着はこちらで……えっと上は……少々よろしいでしょうか?」
「ひぅっ!?」
突然メイドさんにバスタオルを取り上げられてしまいました。
死にたいです。
「えっと……マーガレット、桃色の肌着を」
「はい、こちらを」
シンシアさんだけかと思っていたら背後にもう一人いました。
マーガレットさんという人が絹でできたような肌着をいくつか手にしていました。
その中からピンク色のものを手渡してきます。
おっかなびっくり指で摘んで持ち上げると上下おそろいの下着でした。
ブラというより、カップ入りのキャミソールのようなものとショーツ。
これをどうすればいいのでしょうか?
「……お着替えお手伝いいたしましょうか?」
「ひっ、だっ、だっ、大丈夫……ですっ!」
孤児院では同じ年の子供の中でも一番最初に一人で着替えができるようになりました。
それなのに15歳にもなって人に手伝ってもらうなんてこと出来ません。
私は意を決してショーツを履いてシャツを着ます。
そして紺色のワンピースに袖を通すと、背中のチャックをマーガレットさんが閉めてくれました。
尻尾も腰にある穴から外へ出してくれました。
最後に審議官証のバッジを胸元へ付けてもらえました。
「えっと……ちょっと裾を直しますね」
シンシアさんがしゃがみ込むと少し長かったスカートの裾がみるみるうちに直されてぴったりサイズになりました。
まるで魔法のようでした。
壁にかけられた鏡を見ると、見たこともない女の子が映っていました。
「……髪……あれ?」
黒灰色の髪と、灰色の体毛に覆われた頭の耳。
それが何故か銀色のような色になっていました。
ドス黒く細い尻尾も何故かピンク色になっていました。
何が起こったのでしょうか。
「どうされました?」
「あの……髪の色が……」
「あぁ、綺麗になりましたね」
私の灰色の髪とドス黒い尻尾は汚れていただけだというのです。
衝撃でした。毎日毎日、朝と夕方、丁寧に井戸で体を隅々まで洗っていたのですが、色が変わって見えるほど汚れていたということでしょうか。
石鹸が無いからでしょうか。
……ですが、それだけのためにロイさんに石鹸を買ってほしいなんてワガママ言えるはずがありません。
でもこの事実に気づいてしまったので、帰って貯金で石鹸を買うことにします。
ゴミ掃除人だからこそ身体と心は綺麗にしておくというのが私の信条なのです。
(一週間分は痛いですが、仕方有りません)
「さぁ陛下がお待ちです。こちらへ」
「へっ?」
「どうぞ」
これで服が乾けばもう一度着替えて、帰れると思っていました。
ですが、現実は無情でした……。
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