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第01話-まさかの監獄スタート
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「なんてこったい」
私は目を覚まし、石で出来た天井を眺めながら呟いた。
おかしい、自分は昨日学校から帰ってスマホアプリをしながら寝たはずだ。
それなのにここはどこ?
眠っていたベッド横の壁に鏡のようなものがとりつけられている。
曇っていてよく見えなかったが、黒髪黒眼のはずなのにどこかで見たことのある金髪紅眼の女の子になっている。
昨夜のことを思い出そうとすると、誰のものかわからない記憶がある。
いや解りたくないだけで、ちゃんと解っている。
クリス・フォン・ガメイ 十五歳。ガメイ伯爵家の長女。
「確かバッドエンドになって、そのままアプリ起動したまま寝落ちした気がする」
そう、寝る前にやっていたゲームの登場人物だ。
昨日は寝落ちする時、ヒロインの王女が意中の彼と心中するという、バッドエンドルートのフラグ回収をしていたはずだった。
「普通こういう物語って、フラグ回避できるところからスタートするんじゃないのっ!?」
あろうことか、私は悪役として登場していた令嬢クリスになっていた。
そして、今、王女を殺した犯人として国家反逆罪で投獄されている。
「これじゃあ、悪役令嬢じゃなくて犯罪令嬢じゃない!」
私は混乱しそうになる頭を落ち着けながら、クリスとしての記憶を思い出す。
◇◇◇
去年、王都の学園に入って初めて好きな人ができた。
その子は誰もが振り返るほどの美形の男の子だった。
淡い金髪にライトブルーの瞳をもつ公爵家の長男で、周りから将来を期待されている男の子。
クリスは伯爵家の権力を最大限に利用して、その男の子に群がる女どもを蹴落としていたのだ。
悪評を流し、イジメをし、賄賂も利用して、ありとあらゆる手段を使った。
何度かお父様に謹慎を言い渡されることもあったが、一年がかりでライバルたちを全員蹴落とした。
しかし翌年、新入生として入学してきたのは、この国の第二王女。
第二王女が入学してから、クリスは友達の顔で近づき、相談に乗るフリをして彼の悪評を流したり、私物を隠したり、色々と意地悪をしてきた。
しかしクリスが彼のことを去年から狙っていたことは、学園生だけでなく教師や親たちも当然のように知っていた。
そして先週、その男の子と第二王女は謎の死を遂げた。
学園の堀に浮いているところを発見された。
――クリスは問答無用で女王殺しの犯人として投獄されたのだ。
◇◇◇
「……おかしくない? どうして私がバッドエンドで処刑される直前の悪役令嬢なの? これは夢?」
確かにあのエンディングでは、クリスが逮捕されて処刑されるという誰も幸せにならないシナリオだった。
散々ヒロインの邪魔をしてた報いだ! ザマァ! と思いながらプレイしていた記憶が蘇る。
「やばい、このままだと処刑される……私なにもやっていないのに!」
私はクリスじゃない、中身が違うと言っても信じてもらえる訳がない。
それにあの二人が死んだのは心中だ。誰かに殺されたわけじゃない。
けれど、それも私が言ったところで誰も信じてもらえないだろう。
「詰んだ……どうしよう……私の人生ってこんな終わり方なの?」
部屋を見回すと、天井も床も四方も分厚そうな石の壁で囲まれた独房のような場所だった。
天井付近の明り取りの窓には太い格子がはめられており、入り口であろう木の扉も鉄の板で補強されている。
トイレなのか、部屋の隅にツボが一つ置かれており、悪臭を放っていた。
「……脱獄しよう」
いつ処刑されるかは分からない。
それでもこのままでは確実に殺されてしまう。
「この処刑ルートだけは回避しなきゃ!」
そうやって私は、この王城地下にある監獄から脱獄をする決意をするのだった。
――――――――――――――――――――
「だめだー……」
数分後。私は早々に木の寝台に大の字に寝転んだ。
周りの壁は地下のため掘れない。というか素手では無理だ。
明かり取りの窓にはそもそも手が届かない。
扉は言うまでもなく、びくともしない。
「はぁ……」
私は腕を顔の上に乗せ、夢なら戻って欲しいと念じながら目を閉じた。
――――ドンッ!ドンッ!
「出ろ! 取り調べだ!」
「……っ」
――いやだ、怖い。
扉の外から聞こえる野太い声に一瞬で身体が強ばった。
鍵を開けるような音がして、ガチャっと扉を開いて入ってきたのは筋肉質の兵士と女性の兵士。
「ほら、立って両手を出しなさい」
女性の兵士が縄を手に命令してくるが、身体が麻痺したように動かない。
「立ちなさい!」
「――っ! ふっ……えぐっ……」
「……何泣いてるの……具合でも悪い?」
同性だからだろうか、少しやさしい口調になった兵士が顔を覗きこんでくる。
しかし涙はとめどなく溢れてくる。
自分が一体何をしたというのか。
どうすればいいのかわからない。
数分前に「脱獄してやろう」と息巻いていた自分がすでに別人のように思えた。
私は恐る恐る両手を差し出すと、女性兵士が少し心配そうな顔をしながら私の両手に縄をくくった。
◇◇◇◇
牢獄より狭い取調室。
木の机と椅子が二脚あるだけの石室。
壁の石には所々赤黒いシミがランタンの光に照らされている。
季節は夏のはずだが妙に寒く感じた。
(だめだ、ちゃんと……しっかり観察しなきゃ……)
私は恐怖を噛み殺すように、椅子に座る。
そしてなるべく顔を動かさないように周りを観察する。
しかしこの部屋も地下にあるためか、窓もなく逃げられるような隙きが見当たらなかった。
「さて、昨日の続きだけれど、そろそろ正直に言ってくれる気になった?」
「――!? 私じゃありません! あの二人は自殺なんです!」
「それじゃぁ昨日と言っていることが同じよ」
そんな事を言われても、それが真実なのだからそれ以外に伝えようが無い。
「私がやりました」などといえばこのまま死刑台に直行コースだろう。
「それに二人とも背中にナイフが刺さっていたのよ」
「そんな……」
それは既に私が知っている内容とは違っていた。
そうだ、これはゲームじゃない。
これはこういう現実なんだと思い知らされ意識が遠のきかける。
「どちらにせよ貴方は極刑になるのよ。民衆の前で惨たらしい最後を迎えるか、家族の前で尊厳のある死を迎えるかの違いだけれど」
その言葉に私は目の前が真っ暗になる。
そしてそれから数時間、「やったんだろう」「やっていない」の繰り返しだった。
◇◇◇◇
私は牢獄に戻され、寝台に寝転ぶ。
真っ暗な室内で、粗末な寝台が私の体を受け止め軋みを上げる。
「ぅぅっ……誰か助けてよぉ……」
止めどなく溢れてくる涙を拭うこともせず、ボソリと零した呟きに答えてくれるものは誰もいなかった。
私は目を覚まし、石で出来た天井を眺めながら呟いた。
おかしい、自分は昨日学校から帰ってスマホアプリをしながら寝たはずだ。
それなのにここはどこ?
眠っていたベッド横の壁に鏡のようなものがとりつけられている。
曇っていてよく見えなかったが、黒髪黒眼のはずなのにどこかで見たことのある金髪紅眼の女の子になっている。
昨夜のことを思い出そうとすると、誰のものかわからない記憶がある。
いや解りたくないだけで、ちゃんと解っている。
クリス・フォン・ガメイ 十五歳。ガメイ伯爵家の長女。
「確かバッドエンドになって、そのままアプリ起動したまま寝落ちした気がする」
そう、寝る前にやっていたゲームの登場人物だ。
昨日は寝落ちする時、ヒロインの王女が意中の彼と心中するという、バッドエンドルートのフラグ回収をしていたはずだった。
「普通こういう物語って、フラグ回避できるところからスタートするんじゃないのっ!?」
あろうことか、私は悪役として登場していた令嬢クリスになっていた。
そして、今、王女を殺した犯人として国家反逆罪で投獄されている。
「これじゃあ、悪役令嬢じゃなくて犯罪令嬢じゃない!」
私は混乱しそうになる頭を落ち着けながら、クリスとしての記憶を思い出す。
◇◇◇
去年、王都の学園に入って初めて好きな人ができた。
その子は誰もが振り返るほどの美形の男の子だった。
淡い金髪にライトブルーの瞳をもつ公爵家の長男で、周りから将来を期待されている男の子。
クリスは伯爵家の権力を最大限に利用して、その男の子に群がる女どもを蹴落としていたのだ。
悪評を流し、イジメをし、賄賂も利用して、ありとあらゆる手段を使った。
何度かお父様に謹慎を言い渡されることもあったが、一年がかりでライバルたちを全員蹴落とした。
しかし翌年、新入生として入学してきたのは、この国の第二王女。
第二王女が入学してから、クリスは友達の顔で近づき、相談に乗るフリをして彼の悪評を流したり、私物を隠したり、色々と意地悪をしてきた。
しかしクリスが彼のことを去年から狙っていたことは、学園生だけでなく教師や親たちも当然のように知っていた。
そして先週、その男の子と第二王女は謎の死を遂げた。
学園の堀に浮いているところを発見された。
――クリスは問答無用で女王殺しの犯人として投獄されたのだ。
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「……おかしくない? どうして私がバッドエンドで処刑される直前の悪役令嬢なの? これは夢?」
確かにあのエンディングでは、クリスが逮捕されて処刑されるという誰も幸せにならないシナリオだった。
散々ヒロインの邪魔をしてた報いだ! ザマァ! と思いながらプレイしていた記憶が蘇る。
「やばい、このままだと処刑される……私なにもやっていないのに!」
私はクリスじゃない、中身が違うと言っても信じてもらえる訳がない。
それにあの二人が死んだのは心中だ。誰かに殺されたわけじゃない。
けれど、それも私が言ったところで誰も信じてもらえないだろう。
「詰んだ……どうしよう……私の人生ってこんな終わり方なの?」
部屋を見回すと、天井も床も四方も分厚そうな石の壁で囲まれた独房のような場所だった。
天井付近の明り取りの窓には太い格子がはめられており、入り口であろう木の扉も鉄の板で補強されている。
トイレなのか、部屋の隅にツボが一つ置かれており、悪臭を放っていた。
「……脱獄しよう」
いつ処刑されるかは分からない。
それでもこのままでは確実に殺されてしまう。
「この処刑ルートだけは回避しなきゃ!」
そうやって私は、この王城地下にある監獄から脱獄をする決意をするのだった。
――――――――――――――――――――
「だめだー……」
数分後。私は早々に木の寝台に大の字に寝転んだ。
周りの壁は地下のため掘れない。というか素手では無理だ。
明かり取りの窓にはそもそも手が届かない。
扉は言うまでもなく、びくともしない。
「はぁ……」
私は腕を顔の上に乗せ、夢なら戻って欲しいと念じながら目を閉じた。
――――ドンッ!ドンッ!
「出ろ! 取り調べだ!」
「……っ」
――いやだ、怖い。
扉の外から聞こえる野太い声に一瞬で身体が強ばった。
鍵を開けるような音がして、ガチャっと扉を開いて入ってきたのは筋肉質の兵士と女性の兵士。
「ほら、立って両手を出しなさい」
女性の兵士が縄を手に命令してくるが、身体が麻痺したように動かない。
「立ちなさい!」
「――っ! ふっ……えぐっ……」
「……何泣いてるの……具合でも悪い?」
同性だからだろうか、少しやさしい口調になった兵士が顔を覗きこんでくる。
しかし涙はとめどなく溢れてくる。
自分が一体何をしたというのか。
どうすればいいのかわからない。
数分前に「脱獄してやろう」と息巻いていた自分がすでに別人のように思えた。
私は恐る恐る両手を差し出すと、女性兵士が少し心配そうな顔をしながら私の両手に縄をくくった。
◇◇◇◇
牢獄より狭い取調室。
木の机と椅子が二脚あるだけの石室。
壁の石には所々赤黒いシミがランタンの光に照らされている。
季節は夏のはずだが妙に寒く感じた。
(だめだ、ちゃんと……しっかり観察しなきゃ……)
私は恐怖を噛み殺すように、椅子に座る。
そしてなるべく顔を動かさないように周りを観察する。
しかしこの部屋も地下にあるためか、窓もなく逃げられるような隙きが見当たらなかった。
「さて、昨日の続きだけれど、そろそろ正直に言ってくれる気になった?」
「――!? 私じゃありません! あの二人は自殺なんです!」
「それじゃぁ昨日と言っていることが同じよ」
そんな事を言われても、それが真実なのだからそれ以外に伝えようが無い。
「私がやりました」などといえばこのまま死刑台に直行コースだろう。
「それに二人とも背中にナイフが刺さっていたのよ」
「そんな……」
それは既に私が知っている内容とは違っていた。
そうだ、これはゲームじゃない。
これはこういう現実なんだと思い知らされ意識が遠のきかける。
「どちらにせよ貴方は極刑になるのよ。民衆の前で惨たらしい最後を迎えるか、家族の前で尊厳のある死を迎えるかの違いだけれど」
その言葉に私は目の前が真っ暗になる。
そしてそれから数時間、「やったんだろう」「やっていない」の繰り返しだった。
◇◇◇◇
私は牢獄に戻され、寝台に寝転ぶ。
真っ暗な室内で、粗末な寝台が私の体を受け止め軋みを上げる。
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